パックラフト

パックラフト・アディクト | #40 ポーランドのウォブジョンカ川 4DAYS TRIP <前編>インスタグラムで見た憧れの川へ

2021.02.05
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

ロックダウンで移動が厳しく制限されたヨーロッパ。そんななかTRAILSアンバサダーのコンスタンティンは、たまたまインスタグラムで見つけたある川の写真に激しくインスパイアされます。

「ロックダウンが解除されたら、この川に行きたい!」という強い衝動で、インスタグラムの投稿者に連絡を取ると、それはポーランドの川だとわかります。

まったくわからないポーランド語のウェブサイトを、Google翻訳で調べまくって、川下りの情報をゲットしたコンスタンティン。情報が乏しい異国の川でも、ビビっときたらとにかくすぐに飛び込むのが、コンスタンティンらしいところです。

いざ行ってみたら、困難オンパレードで、ボロボロにされたみたいですが (笑)、旅感が溢れるトリップ・レポートになっています。この旅を、前後半に分けてお届けします。

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森と森の間を、蛇行しながら流れるウォブジョンカ川。


ステイホーム中にインスタで見た川の写真にヤラれる。


こんなにのろのろとしか進まず、こんなに疲れ果て、極度のフラストレーションがたまる川旅は、おそらく今までにありませんでした。

56kmの距離を漕ぐのに、4日間で約26時間もの時間をかけて漕ぐことになりました。この旅のあいだ、あまりに絶望して、川から離れたのが2回。少なくとも100本以上の倒木を乗り越えました。足を擦って出血もしました。パックラフトにも穴が空きました。

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序盤から倒木だらけで、幾度となくパックラフトから下りることになった。

ウォブジョンカというのが、私を打ちのめした川の名前です。ポーランドの北西部にある川です。まずは、この旅の始まりについてお話しましょう。

私がこの川に出会ったのは偶然でした。去年の春先、ヨーロッパのほとんどが新型コロナウイルスによる最初のロックダウンで、どこにも行くことができなくなりました。

何か面白いことはないかとインスタグラムを見ていたら、小さな川でカヤックをする人たちをドローンで撮影した、美しい写真が目に入ってきました。その写真は、ポートランドのフォトグラファーが撮ったものでした。

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ポートランドのフォトグラファーがインスタグラムに上げていた、ウォブジョンカ川の写真。

晩秋で色づいた草原と、落葉した黒い森に囲まれた、美しい景色のなかを流れる小さな川の写真でした。川面は、太陽の光を受けて輝いていました。インスタグラムのキャプションには、「写真やカヤックの旅に最高」と書いてありました。

「もしかしたらパックラフトで行けるかも」と私は独り言をいい、このフォトグラファーに「これはどこの川ですか」とメッセージを送ってみました。すると彼は、川の名前は覚えていないけれど、ポーランドのズウォトゥフという町の近くにある川ですよ、と返答をくれました。

その町の名前を頼りに、Googleマップで、その川を探してみることにしました。30分ほど探していたら、森に囲まれた草原の中を流れる川を見つけました。それはウォブジョンカ川という名前の川でした。ポーランド国内の県境を流れる川で、その県の1つは私の妻の生まれた場所でした。いつかチャンスがあればこの川を漕いでみようと、そのときに自分の心のメモに残しておきました。


Google翻訳を駆使して、ポーランド語の川情報をディグる。


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8月のポーランドは、カラッとした暑さで晴れわたっていた。

8月の初め頃、パンデミックは少し勢力を弱めつつありましたが、第二波が来ると言われていました。新型コロナウイルスの規制が解除され、ヨーロッパ圏内の移動はできるようになったものの、国境がまたいつ閉鎖されるかわからないという状況でした。

私たち家族は、妻の実家に帰るためにポーランドで過ごしていました。妻の母は90歳で体調も良くないため、とても気をつけて、できるだけ人との接触を少なくするようにしていました。そのようななかでしたが、時間が作れれば、パックラフティング・トリップに出かけようと考えていました。

天気は最高でした。気温は30℃くらいで、カラッとしていて気持ちがいい暑さでした。そんな気候のせいもあり、私はまた川のことを思い浮かべていました。あの春先に発見した川のことです。その川での川下りについて、もっと情報がないか探していました。ただ、私が見つけることができた情報は、ほぼすべてがポーランド語でした (Google翻訳があって良かったです)。

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カヤックで倒木をくぐりながらウォブジョンカ川を下る。(YouTubeチャンネル「Tom AniolS」より)

見つけられたのは、その川についての一般的な情報ばかりでしたが、そのなかに古いトリップ・レポートを見つけました。そのトリップ・レポートには、複数のセクションについて、詳細な情報が載っていました。またそのレポートでは、この川は倒木によってポーテージ (※) が必要な箇所が複数あるから、注意した方がよいと書かれてありました。

YouTubeの動画もいくつか見つけました。その動画でも、森の中でカヤックを引っ張っているカヤッカーが映っていました。ウィキペディアのウォブジョンカ川のページでは、カヤックのルートについて、難易度、魅力、障害物という3つの観点で紹介されていました。

※ ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。

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ウォブジョンカ川を上がり、カヤックを引きづりながら移動する。(YouTubeチャンネル「Urząd Miejski Gminy Łobżenica」より)

ちなみに障害物に関しては、ウォブジョンカ川は、6段階のうちのレベル4と表記されていました。それはつまり「やっかいである」という意味です。たとえば、川から脱出する必要があったり、障害物を越えるためにかなりの時間がかかることがある、ということです。

「でもこれはあくまでカヤックに限ったことだ」と私は自分に言い聞かせました。「パックラフトだったら、もっと簡単にいけるはずだ!」

他にも水位が充分かという心配も残っていました (私が見つけた情報のほとんどは春のカヤッキング・トリップのもので、夏のものではありませんでした)。それでも出発することにしました。妻に車で一番遠くにあるスタート地点まで送ってもらい、そして数日後に迎えに来てくれるようお願いしました。さあ、旅の始まりです。


ロックダウン明け、ふたたびリバー・トリップができた感動。


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ウォブジョンカ川は、ポーランド北西部を流れる川。今回は、べルスクの町の近くからスタートし、4日間かけて約60kmを下り、ビジスクの町でゴール。

チジズコフスキー・ムリンという場所からスタートしようと考えました。そこはウォブジョンカ川の河口から62km地点にある場所で、小さな水力発電所があるところでした (ちなみにこの水力発電所は、ウォブジョンカ川にある6つの水力発電所のうち、最初に建てられたもので、かつその中で一番小規模の施設です。水力発電所があると、水位の予測が難しくなります)。

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妻にスタート地点まで車で送ってもらい、パックラフトを膨らませる。

充分な水量がないことが多いため、ここはあまり一般的なスタート地点ではありません。実際、今回も水量はあまり多くなく、次に川にプットインできるポイントである、ベルスキ橋 (河口から58km地点) までは、歩いて15kmもの回り道をしなければなりませんでした。

あっという間に、時間は午後5時を過ぎていました。でもまだ数時間は日が沈まなそうだったので、どうにかして漕ぎはじめたいと思っていました。私の見立てでは、このベルスキ橋のすぐ上流あたりが、この春にインスタグラムの写真で見た場所だろうと見当をつけていたのです。

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いざスタート! 久しぶりのパックラフティング・トリップが始まる。

その場所は川幅が4mほどあり、流れもちゃんとありました。写真よりも水草が多かったものの、パッククラフトが通れるくらいのスペースは充分ありました。倒木もありましたが、漕ぎながら下をくぐることができるものか、そうでなくても簡単に避けることができました。

晴れた空に暖かい夕日が差し込んでいました。少し離れた草原からは、何羽かのクロヅルが鳴いているのが聞こえました。このときに、また川旅をすることができて、本当に良かったと感じることができました。

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スタート直後は、思った以上にスムーズで、気持ち良く川を下ることができた。


川を漕いでいるのか、イグサのなかを這って進んでいるのか。


素晴らしいエリアは、あっという間に通過してしまいました。さらに下っていくと、川底にイグサが生い茂ってきて、それをかきわけないと進めなくなりました。快適なパックラフティング・トリップから一転して、ハードワークな状況に突入しました。

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徐々に、イグサだらけのエリアになり、思うように進めなくなった。

植物が茂りすぎているポイントでは、手でイグサをつかみながら、数十cmずつパックラフトを前に押し進めました。もはや漕いでいるのではなく、這って進んでいるような感じです。

ウォブジョンカ川が、私を試しているかのような気がしました。「この川はずっとこんな感じなのだろうか?」と、私は疑問に思い始めました。

絶望の中、土手にあがり、イグサの中でほとんど見えなくなっていたパックラフトを引っ張り出しました。そしてパックラフトを肩に担いで、草が茂っていない場所を探して河岸を歩きました。何度か良さそうな場所を見つけては、すぐにダメだとわかり、そうしてふたたびパックラフトを担いで歩き続けました。

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イグサの中に埋もれたパックラフトを引き上げることも。

ようやく30分ほど探して、ふたたび川に戻ることができました。完璧と言える場所ではありませんでしたが、もうこれでパックラフトを担ぎ上げずに、イグサの中を進んで行くことができそうでした。しばらくすると、川幅も少し広くなって、楽しく漕げるようになりました。ウォブジョンカ川が課してきた最初のテストに、合格した気分です。

暗くなり始めた頃、キャンプするのによい場所も見つけることができました。川と小さな森の間にある丘の上です。そこでさっとテントを張って、冷たい夕食を食べ、寝袋に入りました。一晩中、そばの森の中で、大きな動物が採食をしているような音が聞こえていました。でも私は、それを気にとめることもできないくらい、すっかり疲れきっていました……。

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DAY1はヘトヘトになって、のんびりくつろぐこともなくすぐに就寝。

いきなり旅の初日から、満身創痍でボロボロにされたコンスタンティンでしたが、全身で旅をしている姿には羨ましさを禁じ得ません。こんなクソ疲れる長旅をまたしたい、と思ってしまうのです。

さて、このポーランドの川旅はどのような続きが待っているのでしょうか。後編では、DAY2〜DAY4の旅のレポートを、コンスタンティンから届けてもらいます。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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