TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #35 オランダのラウテン・アー川でバイクラフティング

2020.08.12
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:トロニー 構成:TRAILS

今回のコンスタンティンのレポートは、パックラフトと自転車を組み合わせたバイクラフティングの旅。

2人用のパックラフトの前部に (通常は前に漕ぐ人が座るところ)、自転車とキャンプ道具を積み込んで、オランダの景色豊かな川を漕ぐ旅に出ました。

自転車の陸での機動力を活かして、川のスタートポイントまでの移動や、キャンプ地のまわりの探索など、すべて人力で移動するスタイルにワクワクします。

では、コンスタンティンのバイクラフティングのレポートを、お楽しみください。毎度ながらの旅のハプニングもあります。

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流れの緩やかなラウテン・アー川。


引越しと新型コロナが重なり、ぜんぜん遊べなかった日々。


実は最近、家族で新しい家を買ったんです。それで3カ月以上、その手続きや引っ越しのことをやっていました。加えて、新型コロナウイルスのこともあって、春と夏の旅の計画はすべてキャンセル、もしくは変更か延期になってしまいました。

ようやく短い休みを取ることができたのが、ついこないだでした。それで住んでいるところの近くで、手軽なパドリング・トリップをすることにしました。

新しいご近所さんのティアードも誘ったら来てくれて、彼も短い時間ながらも外で遊ぶことができて本当に楽しそうにしていました。彼は舟もハイキングも大好きなのですが、パックラフトはこれまで一度もやったことがなく、とても興味を持っていたのです。

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隣人のティアード (左) と私。


折りたたみ自転車を舟に載せて、1泊2日のバイクラフティング。


彼の「処女航海」のために私が選んだ川は、ドイツとの国境からほど近い、オランダ北東部フローニンゲン州の東部を流域とするラウテン・アー川です。

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ウェッデの駐車場に車を停め、そこから自転車でラウテン・アー川のプットインポイントへ。

この川は、オランダ人の友人がオススメしてくれた川で、彼はこの春にガールフレンドと2回ほどこの川で漕いでいて、とてもよかったと言っていたのです。

その友人は川を漕いだ後にハイキングで戻ってくる、という日帰りのパックラフティングだったらしいのですが、「1泊2日の旅もできるよ」と彼は教えてくれました。そして、川で野営できるキャンプ適地もいくつかオススメしてくれました。

さらに、道路から簡単にアクセスできそうな、2つのプットインポイントとテイクアウトポイントも教えてくれました。そして「上流のスタートポイントから、下流のゴールまでだいたい6時間くらいだけど、素晴らしい旅だったよ」と言っていました。

私たちはもっと長いルートを下りたかったのですが、車は1台だけだし、コロナのこともあるので公共交通機関を使いたくありませんでした。それで私とティアードは、折りたたみ自転車を持って行くことにしたのです。そんなことで、今回はミニ・バイクラフティングの旅になったのです。


まず川のプットインポイントまで自転車で!


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手前にある私の自転車は「Brompton / P6R」(ブロンプトン / ピーシックスアール) 。後ろにあるのがティアードの「Cumberland / Hopper」(カンバーランド / ホッパー) 。大半の荷物はパニアバッグに収納。それ以外に、私はフロントにパックラフト (2人艇) とパドルを、リアにパックラフト (1人艇) を外付けし、ティアードはリアにテントを外付けしている。

夕食後に自宅のあるレーワルデン (※1) から出発した私たちは、1時間強かけてウェッデに向かいました。ここが川下りのゴール地点として、友人にオススメされたところです。

そこに小さな城があって、近くの駐車場に車を停めました (残念ながら城はクローズしてました)。そしてパックラフトやキャンプの道具を自転車に積み込み、川のプットインポイントまでは、1時間ほどのサイクリング・トリップです。

私たちが住んでいる場所からはそんなに離れていませんが、馴染みのない土地をサイクリングしていると、しっかり休みの日を楽しんでいる気分に浸れました。

そこには麦やジャガイモの畑、雑木林、小高い丘などの風景が広がっていました。私が慣れ親しんでいるフリースランド北部の、木の少ない平らな草原に水路や運河がたくさん流れているような景色とはだいぶ違っていました。

※1 レーワルデン (Leeuwarden) :オランダ北部にある都市で、フリースラント州の州都。北緯53度にあり、北海道の北端 (北緯45度) よりもかなり北に位置する。夏は極端に日が長く、冬は日が短いのが特徴。夏は午後10〜11時ごろまで明るい。現在、コンスタンティンが住んでいる町でもある。

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車から川までのサイクリングでは、さまざまな風景に触れることができて、とても楽しかった。

道中では、ラウテン・アー渓谷のサイクリング・ルートの看板を何度か見かけました。小川に沿って道が走り、近くで川が流れているのを見ることができる、本当に景色のよいルートでした。

所々で小川の土手がとても新しくきれいになっていて、草もほとんど生えていないところがあり、不思議に思いました。これには理由があって、それは後になって知ることになります。

途中で何度か小休止をしながら、1時間強かけてテル・ウォルスラーゲの近くにあるプットインポイントに到着しました。ラウテン・アー川の源流はさらに数km南の地点にあるにもかかわらず、私にはここが川の始まりのように感じられました。

道路の下の土管の中を流れていた川が、ここでまた地上に姿を現してくれていました。しかもここにはちゃんとした木製のカヤックの乗り場がありました。まさに漕ぎ始めるには最適な場所です。


2人艇に自転車2台を積んでスタート。


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プットインポイントにて。自転車を積んだ2人艇は主に私が漕いだが、時々ティアードにも貸した。

40分ほどでパックラフトの出発準備をしました。今回は2台の自転車と2人の荷物があったので、2人乗り用のアルパカラフト・オリックスと、ティアードのために妻のユーコン・ヤック (※2) を持っていきました。

どちらもカーゴフライ (※訳注:舟本体のチューブの中に、荷物を入れられる仕様) が付いていない舟なので、自転車と荷物は私が漕ぐ2人艇のオリックスに積み込みました。そしてティアードにはパックラフトを存分に体験してもらうことにしました。

ティアードは初めてのパックラフトでしたが、とても気持ち良さそうにしていました。彼の漕ぎ方を見て、パドリング経験が十分にあることがすぐにわかりました。

※2 ユーコン・ヤック (Yukon Yak) :アルパカラフト社の3サイズあるスタンダードシリーズのなかの、Mサイズの舟。

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「Alpacka raft / Oryx」(アルパカラフト / オリックス) という2人艇に2台の自転車を載せた。

最初の1kmほどは、川は蛇行しながら流れていて、川の中は水草で覆われています。その中をスイスイと漕いで進んで行きます。興味深いことに、ラウテン・アーという名前の由来は、前半が「葦 (あし)」 、後半が 「水」 を意味するゲルマン地方の方言だと言われています。

その後、川の景色が少し変わってきます。川幅は広くなり、水草は見かけなくなり、その代わりに「高い」砂の土手がでてきます。また何箇所か「人工的な瀬」を通っていきます。真ん中をカヤックが通れるようになっている、水面から10〜15cmくらい出ている木製の小さな堰堤があるのです。だいたいこれが何段か連続していて、階段を下りるような感じで下っていきます。(次の日も同じような瀬がたくさん出てきました)


目立たない森の中で、星空を眺めながらのキャンプ。


スタートして1時間ほど経って、日が沈み始めました。ティアードは私に「今日のキャンプ地まで、あとどれくらいある?」と聞いてきました。「残念ながら、まだ何kmか先だと思うな」と私は答えました。そういうわけで、そこで私たちは野営できそうな適当な場所を探しはじめることにしました。

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川から離れた森の中でのキャンプ。

民家からも道路からも距離のある、川の上の砂地の裏手にある小さな森の中に、すぐにいい場所を見つけました。テントを張る頃には、すっかり真っ暗になっていました。でもテントの前室からは大きな星空が見えました。

疲れていたし、目立ちたくなかったこともあり、ティアードと私は静寂の暗闇の中で、ソーセージとトマトが入ったインスタントのマッシュポテトを夕食にしました。テントに入ったのはもう真夜中近くだったので、明日は遅めに起きようとティアードと話し、ゆっくり寝ました。

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テント泊の翌朝、自転車であたりを散策してみた。

翌朝、キャンプの荷物をまとめる前に、自転車に乗って辺りを探索することにしました。探索していると、思っていたよりもずいぶんと広い森だということに気づきました。

森の隣には小さな荒地があり、その周りに標識のついた道がいくつかありました。その道から近いところで私たちは野営していたので、朝食を食べる前に私たちは撤収することにして、キャンプをした痕跡をすべて消しておきました。


風景が変わり続ける自然豊かな川。


川に戻るとすぐ、レンタルのカナディアンカヌーに乗った、子ども連れの家族グループと出会いました。流れは緩やかで、川の流れと反対側に向かって漕ぐこともできます。「あの木の階段 (小さな堰堤) をどうやって乗り越えていくんだろうね」とティアードは不思議がっていました。

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しばらくカナディアン・カヌーに乗った家族たちと一緒だった。

前日と同じように、この川はずっと景色が変わり続けます。開けた野原や雑木林から小さな村へ。高い砂地から平坦な沼地へ。そして小さな岩の瀬もあります。ラウテン・アー川ではずっと驚きが続きます。

その中でもびっくりしたのは、私の友人がキャンプを勧めてくれた最初の場所に到着したときのことです。そこは彼が言っていたような人が少ない場所ではなく、すぐ横には重機があり、歩道橋を作っている人が何人かいました。川底もかなり新しく作られたように見えました。友人が言っていた小さなダムは、どこにも見当たらなかったのです。

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驚くほどいろいろな景色や植生を楽しむことができた。

しかし、最大の驚きは、もう少し先にありました。現在地を把握するために、私は携帯電話でグーグルマップを使っていました。でも、ジプシンハイゼン村の隣で完全に迷ってしまいました。村のなかを流れてるはずの川が、そこにはなかったのです。その代わりに、村のまわりには新たに曲がりくねった川床が作られていて、グーグルマップではまるで畑の真ん中をパドリングしているように見えました。


現在、川の再生プロジェクトが進んでいるラウテン・アー川。


あとで読んで知ったのですが、ラウテン・アー川はもともと第二次世界大戦後に水路化された川で、その一部は排水路として使われたそうです。

しかし、排水を促進した結果、土地が干上がってしまい、自然環境に悪影響をおよぼすようになりました。そのため、20世紀末には、川をより自然な状態に戻し、蛇行を復活させる計画が立てられたのです。

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近年は川の再生が進んでいて、このように、魚が遡上できるような小さな堰が増えている。

これは川の保水能力を高めるのに役立つと考えられています。川を再生させるために、川の中にいくつも作られた小さなダムを、小型の堰に置き換える計画を立てました。これによって、魚も産卵のために川を遡上できるようになります。

この地域を再開発し、ハイキングやサイクリングにも適した道を作ることで、もっとたくさんの観光客が来てくれるだろうと期待されています。

2000年代初頭に始まったこの再建プロジェクトは、今年の春には最終ステージが終了する予定でした。しかし、当初の計画より時間がかかっているようで、私の友人が今年のはじめに漕いだ後に、新たに追加された区画もあったのです。実際、まだ地図に反映されていない、新しい区間もありました。

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川を下り終えて自転車に乗り、駐車場へと向かう。歴史的な建造物などを見ることで、この地の歴史や文化を知ることもできた。

スタートが遅れたことと、思いがけない回り道もあったため、私たちは川を漕いでウェッデまで到着することはできませんでした。時間がなくなってきたので、私たちはレネボルグ村の橋の隣に出て荷物をまとめ、自転車で車に戻りました。

この時は、城の公園のゲートが開いていたので、旅が終わる前に城を間近で見ることができました。この城もラウテン・アー同様、この地域の歴史に重要な役割を果たしたものです。


人生初のパックラフティングを経験したティアードの感想。


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水を得た魚のように楽しんでいたティアード。

旅がおわった後、ティアードにパックラフティングの印象を聞いてみたので、さいごに彼の感想を紹介します。

「必要なものをすべて持って、のんびりと川下りができるのは最高だったね。僕はハイキングも舟もやるから、すべての荷物を持って移動する感覚は、もともと好きなんだ。でも、すべての荷物をこんな軽くて小さな舟に載せられるなんて、本当にすごいね。

あと、漕いでいるあいだに舟がずっと動いているのもいいね。もう少し水の流れがあったほうがよかったとは思うけど。改めて、他の手段ではなかなか行けない新しいエリアを開拓しながら、アウトドアの冒険を楽しむことのできる最高の方法だと思ったよ」

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ラウテン・アー川は流れが緩やかなので、パックラフティング初心者でも安心して楽しむことができる。

最初はバイクラフティングのレポートと聞いて、もっとワイルドな旅を想像していたが、いい意味でその想像は裏切られた。

コンスタンティンは、緩やかな川でパックラフトと自転車を組み合わせることで、身近なフィールドを冒険的なフィールドに変えて楽めることを教えてくれた。

川下りに、自転車の陸での機動力が加われば、身近な場所でも旅の楽しみ方はもっと広がる。コンスタンティンの新しい旅のレポートが、また待ち遠しくなった。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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