パックラフト・アディクト | #30 ドイツ・ルーア川 2Days Trip
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:中村真奈 構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるHIKEVENTRESのコンスタンティンから、冬のトリップレポートが届きました。
今回は、ドイツ西部を流れるルーア川の2Days Trip!
昨年末のクリスマスに、彼が住んでいるオランダから近いエリアを探して見つけたのが、この川です。
ルーア川を初めて耳にする人も多いと思いますが、このエリアでは唯一とも言えるホワイトウォーターが楽しめる川とのこと。
あいにくの雨、しかもパックラフトにトラブル発生……などなどハプニングもあったようですが、それも含めてアドベンチャラスな旅を満喫したようです。
ドイツならではの自然や街並みも見どころですので、ぜひお楽しみください!
オランダのパックラフティング・コミュニティの仲間(レミ & ハロルド)と旅へ。
オランダのパックラフティング・コミュニティはまだ小規模です。でも、なかにはかなり積極的に活動している人がいて、その人たちをよく知っている私はラッキーだと思います。
そのうちの2人が、レミとハロルド。2人には、2018年にスロベニアで開催された『Packrafting Meet-up Europe2018』で出会いました。そして昨年、私はRescue3コース(※1)にハロルドを連れて行きました。レミとは一緒にモンテネグロのタラ渓谷や、オランダとベルギーをまたがるドンメル川を漕いだことがあります。
40代の3人のなかで最年長のレミ。パックラフトの経験が豊富で、舟も3つ所有している。最近、息子が生まれたばかりということもあって、川下りの時間がなかなか取れなくなった。
ハロルドは、オランダやドイツ、フランスの川も下っていて、数年前にルーア川も経験している。彼はハイカーでもあり、世界中を旅してはハイキングを楽しんでいる。
私たち3人は、住んでいる場所の近くで、一緒に漕げないかという話をしていました。それで去年、私たちはドイツの川で2日間のパドリング・トリップに行こうと決めたのですが、クリスマス直前の週末までそれを実現するチャンスがなかなかなかったのです。
※1 Rescue3:世界33カ国に支部がある世界最大のネットワークを持つ民間トレーニング組織。具体的には、スイフトウォーターレスキュー(急流救助)やテクニカルロープレスキューなどの講習を実施している。本部はアメリカ・カリフォルニア州にあり、日本にも支部(Rescue3 JAPAN)がある。
ルーア川は、ドイツ西部でホワイトウォーターが楽しめるレアな川。
DAY1は、中世の街並みが残るモンシャウからキャンプ場のあるハマーまでの約10km。DAY2は、ベルギーとドイツの国境付近にあるキュッヘルシャイトからモンシャウまでの約9km。
その川は、ベルギー東部にあるハイ・フェンズの高地エリアから始まり、川の大部分はドイツのなかを流れています。最後にオランダに入り、そこでマース川に合流します。
ルーア川が流れるエリアは、第二次世界大戦における要衝であり、1945年の初めには、ここは激しい戦地にもなりました。今でも、その時代からの多くの要塞が残っていて、ルーア渓谷周辺でそれらを見ることができます。しかし、そういった歴史がこの川を選んだ理由ではありません。
私たちがこの川を選んだ理由は、ルーア川がこの地域で唯一のホワイトウォーター(急流)であり、自分たちが住んでいるオランダに近いエリアで、おそらく最高の川であるからです。3人はみんな、ホワイトウォーターを漕げるよい場所を探していました。そこで、ハロルドが以前に漕いだことがあるこのルーア川を、私たちに強くレコメンドしてくれたのです。
私たちはオランダの別々のエリアから合流する必要があったため、ルーア川沿いのハマーというエリアにある小さな村のキャンプ場で落ち合うことにしました。インターネットで確認したところ、このキャンプ場は冬に開いている数少ない場所のひとつのようでした。
前泊するハマーのキャンプ場に着くも、スタッフ不在でチェックインができない。
午前7時頃に家を出て、途中でハロルドを迎えに行き、一緒に待ち合わせ場所に向かいました。天気予報ではルーア地方はかなり気温が低く、雨も降るだろうとのことでしたが、道中の天気は意外に良く、私たちも希望的観測をもっていました。
でも残念なことに予報は正しかったみたいで、12時45分頃にハマーに到着したときには小雨が降っていました。また、キャンプ場の人たちは長い午後の休憩をとっていたのか、チェックインの手続きをしてくれる人を見つけることができませんでした。
しかし貴重な日中の時間(その日は1年でもっとも短い日でした)を無駄にしないために、川沿いにある小石だらけの砂地のキャンプ場にテントを張りました。対岸には絵のように美しい15mほどの崖がそびえていました。
中世の街並みが残るドイツの街・モンシャウからスタート。
川の水位はかなり低いように見えましたが、パックラフトには十分で問題ないレベルでした。まさに私たちが望んでいた環境です。レミが到着したとき、私たちは彼のキャンプギアを私のクルマに素早く移してそれらをキャンプ場に残しました。そしてパックラフト用の荷物をレミのクルマに詰めて、スタート地点であるモンシャウに向かいました。
モンシャウは非常に美しい小さな町で、その歴史ある町の中心部には、石板、木組みの家屋、狭い小路など、古いものが丁寧に保存されています。それらは300年間ほとんど変わることなく残っているのです。ルーア川は印象的な中世の城の下を流れていて、この町は多くの人が訪れる人気の観光名所でもあります。
中世の建造物が今もなおいい状態で残っているモンシャウからのスタート。
私たちが訪れたとき、クリスマス・マーケット(クリスマスのイベント)もあったので観光客であふれていました。クルマ2台が通るのがギリギリなほど狭い道路は、歩行者でいっぱい。私たちが目星をつけていた駐車場は満車で、順番待ちの列がありました。ようやく見つけることができた場所が、トレーラーハウスのキャンプ場でした。
そこは道路の突き当たりにあり、にぎやかな中心部から離れ、川のすぐそばにあるキャンプ場で、駐車するのにベストな場所でした。私たちはそこにクルマを停めることにしました。
モンシャウとハマーの間のセクション(約10km)はかなり簡単で、ほとんどがクラス I または II です(※2)。いくつかの良いエディ(※3)や水上で遊べる場所もありましたが、時間がなかったので、フルに楽しむことはできませんでした。
※2 クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級など表現はまちまち)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。
※3 エディ:岩などの障害物に流れがぶつかり、その下流側に水がとどまり渦巻いている箇所。
石で造られた橋は、苔むしていて歴史を感じさせるたたずまい。スピードを落としてじっくり味わった。
パックラフトにトラブルが発生。
実はハロルドと私は、パックラフトにテクニカルなトラブルが発生していました。
ハロルドは、ホワイトウォーター・スプレー・デッキ(ホワイトウォーター用の防水カバー)のデナリ・リャマ(※4)を持っていましたが、スプレー・デッキ・コーミング(スプレー・スカートを引っかける所)を忘れてきたため、スプレー・スカートを使えずにいました。そのため急流のアップダウンをいくつか越えると、漕ぐのをやめて、舟のなかに浸水した水を出さなくてはいけませんでした。
私の場合は、パックラフトの防水ジッパー(Tジップ)からの漏れが起きていました。タイベック・テープで漏れている箇所をふさごうとしましたが、結局はハロルドと同じように、定期的にパックラフトから降りては、その対応するはめになりました。
浸水が見られたジッパー部分を、タイベック・テープで応急処置。これでなんとか乗り切れた。
セルフベイラーのナーワル(※5)に乗っていたレミだけが、問題なくパックラフトを満喫することができました。
※4 デナリ・リャマ(Denali Llama):ALPACKA RAFTのスタンダードシリーズにおける大型モデル。
※5 ナーワル(Gnarwhal):ALPACKA RAFTの製品の中でもホワイトウォーターモデルで、艇内に侵入した水を排水するセルフベイラー機能が搭載されている。
おいしいディナーも観光も楽しめないブルーな夜。
私たちは、暗くなり始めた頃にハマーのキャンプ場に到着しました。レミはすぐにテントを張り、みんなで私のクルマに乗り、レミのクルマを回収しにモンシャウに戻りました。
私たちは「そこで夕食を食べて、町を見渡せるんじゃないか?」と考えました。でもそれは実現しませんでした。なぜかというと、レミのクルマが停めていたキャンプ場のゲートは閉じてロックされていたのです。そして周りには誰も見当たりませんでした。
テンションが下がったまま、ハマーのキャンプ場でテントを設営。
見逃していたのですが、入口の横に小さく案内板があってその場所は冬の間は閉まっていることを知りました。 ショックを受けた私たちは、次に何をすべきかわからずゲートの前に突っ立っていました。
案内板に書かれている番号に電話をかけましたが、誰も応答しませんでした。目的を果たせなかった私たちはハマーのキャンプ場に戻り、あらためて翌日、運を試すことにしました。
その帰り道はとても長く感じました。運転をしている間も、みんなほとんどしゃべらずにいました。たまにイケてない冗談を誰かがぼそっと言うだけでした。その雰囲気のままテントの隣にある小さな砂地で夕食の準備をしました(テントを張る前にチェックインしなかったことについてキャンプ場のオーナーから言われましたが、オランダではよくあることです)。
一日中降りつづいていた雨はさらに激しくなりはじめたため、私たちはやむなくテントに入り、早々に寝ることになりました。
地獄から天国へ。エキサイティングなダウンリバー。
翌朝目が覚めても、まだ雨が降っていました。前日からの重い気分と悪天候もあいまって、「自分は今日、本当に漕ぎたいのかな?」という思いが頭に浮かびました。
そう考えていたのは私だけではありませんでした。レミとハロルドはどちらもかなりどんよりとして、やる気がありませんでした。次のステップについて簡単に話し合い、まずはレミのクルマを回収することが優先事項であり、パドリングが次であると判断しました。そして再びモンシャウに向かいました。
そこからは幸運の連続でした。トレーラーハウスのキャンプ場に着いたとき、そこに何人かの人がいて、クルマを取り戻すことができました。そしてその日の旅のゴール地点のすぐ前に駐車スペースを見つけました。そしてプットインの場所(ベルギーとドイツの国境付近にあるキュッヘルシャイト)に到着すると、雨はほとんどやみました。
水位も少し上がったこともあって、この上流部のセクションは気持ちよく漕ぐことができました。ライヒェンシュタインでは通常、カヤッカーはもう少し低いところからスタートします。というのも、この2.5kmの長さのセクションのほとんどはクラス I か II ですし、木々が川をふさいでいる箇所もあってポーテージも必要だからです。
でも、パックラフトの場合はポーテージは大した問題にはならないため、そのセクションも楽しむことができました。次の4kmはエキサイティングなクラス III(+)の瀬があります。このセクションのおわりには、「クノッヘン・ブレッヒャー」(ザ・ボーン・クラッシャー)という恐ろしい名前がつけられた堰があります。
ホワイトウォーターを乗りこなしているうちに、3人ともテンションが上がってきた。
言わずもがなですが、私たちはこの堰を味わいたくなかったので、パックラフトを担いで回避しました。ラスト2kmは、町の中心部を通り、ゴールである「ファーボリーテン・テーター」(キラー・オブ・フェイバリット)と呼ばれる堰にたどり着きました。
この日は長い行程でしたが、川の流れは比較的まっすぐでした。そしてラストのでっかいスプラッシュが、クリスマス前の2日間の旅の最後を飾ってくれました。
今回は、まさに山あり谷ありの旅となりました。最高に楽しいときもあれば、あまり楽しさを感じられない時間もありました。それでも私たちはいくつかのあたらしいことを発見できた旅となりました。
私はルーア川を漕ぎに、またここに戻って来たいと強く感じました。そしてまたこのエキサイティングな川をまた味わいたいと思っています。
日本にはとても情報の少ない、ヨーロッパのパックラフティング・カルチャーをレポートしてくれるコンスタンティン。
前回のオランダのアーバン・パックラフティングに続き、今回はドイツの川を紹介を紹介してくれました。この川の情報もとても貴重なものです。
TRAILS編集部メンバーのなかも、ヨーロッパのパックラフト遠征に行きたい欲求がむくむくと育っております。また次のコンスタンティンのレポートが届くのが楽しみです。
(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)
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