パックラフト・アディクト | #44 オランダ・ベルギー国境の川の上で、アイランド・キャンプ
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、オランダとベルギーの国境の川での2DAYトリップ。
今回の最大の目的は、川下りよりもアイランド・キャンプ。この川には、川の途中に島が点在する場所があり、川のなかに浮かぶ島でキャンプをしようという目論見だ。ハンモック & タープで寝る人やビビィで寝る人など、各々パックラフトにULギアを組み合わせて楽しんだ。
レミとジャッキーの夫婦は、2歳の息子センも連れてのパックラフティング。夜には、焚き火を囲みながらスコッチウイスキーをたしなむ。そんな、メロウで愉快な旅だったようだ。
ヨーロッパの中でも人口密度が高いエリアながら、比較的、豊かな自然が残っている。
オランダとベルギーの国境の川で2DAYトリップ。
今年の4月時点では国境はほとんど閉鎖されていて、新型コロナウイルスによる制限もまだ残っていました。海外旅行ができるのは、「必要」な場合だけです。その場合でも、検査を受け (複数の場合もある)、目的地に到着したら自主隔離をし、帰国したらまた検査を受ける必要があります。これでは、ほとんどの海外旅行は不可能です。
国境の川として知られるマース川。このエリアは、グレンスマースと呼ばれている。
幸いなことに、オランダでは完全なロックダウン状態ではないので、国内旅行は可能です。それで行くことにしたのです。今年の4月、私たちは国境を流れる川のひとつであるグレンスマース (マース川の一部のセクションの呼び名) で、2日間のパックラフティング&キャンプをするために、オランダの南部へと向かいました。
グレンスマースとは、「国境のマース川」(グレンスとは、オランダ語で境界、国境という意味) を意味します。この名前は、マース川が47kmにわたってオランダとベルギーの国境を形成していることに由来しています。
マース川自体はかなり大きくて広い川です。フランスを源流とし、ベルギー全域とオランダの一部を流れて北海に注ぎます (総延長は約925km)。この川の大部分は航行が可能で、大型船も利用しています。
グレンスマースには、いくつかの小さな瀬 (クラスI~I+ ※1) があり、「野生の魅力」が残っている箇所もあります (この地域は、ヨーロッパの中でも人口密度の高いところなのですが)。
※1 クラス:瀬(川の流れが速く水深が浅い場所)の難易度。クラス(グレードや級とも表現される)が I〜VI(1〜6級)まであり、数字が大きいほど難易度が高い。ちなみに、I は飛沫もなく静かな流れ、II はやや高い波があるが規則的、III は高い波が不規則にあり流れも強い。
全体的に緩やかな川だが、たまに小さな瀬も現れる。
またこの川は、ダムの放流によって水位がコントロールされており、ほぼ確実に十分な水量があるところも、良いところです。そして、ディンケル川 (※2) とは異なり、川を漕ぐためのパーミッション (許可) も必要なく、季節による制限もありません。つまり、安心して漕げる川なんです。
※2 ディンケル川:オランダとドイツの国境付近を、北に向かって流れる川。詳しくはコチラ。
お目当ては、川に浮かぶ島でのキャンプ。6人のパーティーで旅が始まる。
今回の旅では、私たちはただ川を漕ぐだけではなく、川に浮かぶ島の上で一泊しようと計画していました。
今回は、いつものメンバーであるハロルド、レミ、ディディエ、私の4人に加えて、レミのパートナーであるジャッキーと2歳の息子センが参加してくれました。ディディエ以外のメンバーはみんなグレンスマースを漕いだ経験がありましたが、ほとんどが日帰りでの旅でした。
レミ (左) とパートナーのジャッキー、息子のセン。
私たちはそれぞれ、オランダ国内の別のエリアから集まりました。北部からはハロルドと私、西部からはディディエ、そしてそして南部からはレミ、ジャッキー、セン、といった具合です。
ディディエ (左) とハロルド。
私たちは、グレーフェンビヒトのフェリー乗り場の駐車場に1台の車を置いて (フェリー自体は新型コロナウイルスの影響で営業していませんでした)、もう1台の車でマーストリヒト近くのダムのすぐ下にあるプットインポイントに向かうことにしました。到着したのは午後2時頃でしたが、そこには砂利道があり、パッククラフトを膨らませるのに最適な場所でした。
午後2時頃にプットインポイントに到着し、のんびり準備。
2歳の子どもも、メロウに川旅を楽しむ。
マーストリヒト近くのプットインポイントからスタート。DAY1は16km下ったところにある島でキャンプ。DAY2はキャンプ地から12km下ったグレーフェンビヒトまで。このセクションはオランダとベルギーの国境にもなっており、「グレンスマース」と呼ばれている。
この日は、16kmほど漕いで、メールスという町の近くまで行く計画でした。メールスの近くでは、グレンスマースの川に、いくつかの島が浮かんでいるのです。
よく晴れた天気で、比較的暖かい日でした。ほぼパーフェクトな条件でしたが、北からの向かい風があったため、漕ぐのがなかなか大変でした。それでも、私たちの進みはかなり速く、3時間ちょっとで目的地までたどり着くことができました。
DAY1は、みんなで話しをしながらメロウに漕いだ。
途中、舟を並べながら、ワクチンの予防接種や夏の旅の計画などについて話をしながら漕いでいました。
子どものセンは、パックラフトの前に座って、まわりをじーっと観察していました。川岸に草を食べている馬たちがいたので、ジャッキーが「あそこに、馬がいるわよ!」とセンに声をかけました。でも、センは相変わらず穏やかで、瞑想をしているかのようにしていました。私とハロルドは、そんなセンを見て、「センは禅の心を持っているんだね」と話をしました。
パックラフトを漕ぎながら、水上から見る馬の群れは新鮮だった。
グレンスマースは国境を流れる川ですが、私たちが目指していた島はオランダ側に位置していました。そこが、本当に素敵な場所だったんです。
ここで川はUの字の形に蛇行しており、カーブの内側にある岸がかなり浅くなっています。島は川の真ん中にあるのですが、まわりに浅瀬が連続しています。いろんな大きさの島があるのですが、それらがいつまで残っていくかはわかりません。木々に覆われている島もあれば、砂利しかない島もあります。
川がUターンするポイント。
目当ての島は、人とゴミでいっぱいだった。
私たちは、一番大きな島でキャンプをするつもりでした (この島は、私が最初の旅でキャンプをした島でもあります)。しかし、実際に行ってみると、ほとんどの場所が釣り人と、そのテントでいっぱいになっていました。彼らはモーターボートでここにやってきていたのです。島の対岸のベルギー側には、彼らの車がずらっと並んでいるのが見えました。
ゴミだらけの島を見てショックを受けた。
さらに、空いている場所には、前に泊まった人が残したゴミがたくさんありました。古くなったビンやプラスチックのパッケージ、缶などが山のように積まれています。ここは、私が今まで見たオランダのアウトドアフィールドの中で、間違いなくもっとも汚い場所でした。
この汚さに嫌気がさした私たちは、他にいい場所があるのではないかと思って、オランダ側の岸まで漕いで行ってみました。でも、そこは倒木だらけで (ビーバーのしわざです)、しかも泥だらけで、動物の足跡もたくさんありました。
ようやく、静かでキレイなキャンプ適地を見つけることができた。
岸に着くと、木の向こうからモーモーという音が聞こえてきました。どうやら、地面にあった足跡を残した動物がまだ近くにいるようでした。そんなわけで、私たちはそこから少し上流にある島に行ってみることにしました。その島は、以前に素通りした島でした。これが、本当に正しい選択だったのです。
別の島に移動し、念願だった島での焚き火キャンプ。
最初の島に比べるとだいぶ小さな島だったのですが、この島には木もたくさん生えていました (これは、ハンモックとタープを持ってきていたディディエにはとても大事なことでした)。また、乾いた流木もたくさん落ちていました。ゴミも落ちていたのですが、おそらく波で流れてきたものでしょう。
島に上陸したら、まずはテントの設営から。手間はレミファミリーのテント。
私たちはそれぞれの寝床 (テント2つ、ハンモック&タープ1つ、ビビィ1つ)を設営し、火を熾して夕食を作りました。
ディディエは、ハンモック & タープ。
ハロルドは、ビビィのみというシンプルなスタイル。
今回の旅に、1年前から持っていたものの試す機会がなかった、ロシア製の新しい薪ストーブを特別に持ってきました。これが大活躍しました。
今回、初めて実戦投入したロシア製のウッドストーブ。電動ファン内蔵で、ストーブの火力を調整できるのが特徴。重量600g。
食事の後は、素晴らしい夕日を見ながら、焚き火のそばで、みんなでおしゃべりをしました。
そして、レミとハロルドがそれぞれ持ってきてくれた2種類のスコッチウィスキーを楽しみました。偶然にも二人が持ってきてくれたウイスキーは、同じ地域で蒸留されたものでした。しかも、その地域はディディエの祖先の出身地だったのです。
しばらくして食器を洗いに川に行ったときに、2匹のビーバーがいて、人の気配にびくっとしていました。
スコッチウィスキーを飲みながら、焚き火を楽しんだ。
手作りのパンを焼く。優雅な朝から2日目がスタート。
翌朝、最初に起きたのはディディエでした。ハロルドはビビィで寝ていました。レミは焚き火をはじめて、センのためにベビチーノ (泡だてた温かいミルク) を作りました。
ジャッキーが、デンマークの伝統的な、焚き火でつくれるパンの生地を、袋に入れて持ってきてれたので、私たちはそれを棒に刺して焼きました (私は焦がしてしまいましたが)。
ジャッキーが持ってきてくれたパン生地を、木に刺して焼くセン。
のんびりとキャンプの撤収をしつつ、風のない快晴の朝を楽しみ、11時前に出発しました。漕ぐ距離が12kmしかなかったので、ゆったりとしたペースで漕ぐことができたのは良かったです。
しかも瀬も楽しむことができました。ほとんどの瀬は、島がたくさんあるこのエリアに集中していたのです。一番大きな瀬は、最初にキャンプする予定だった大きな島と、ベルギー側の岸との間にありました。ちなみにそこは、地元では有名なパドリングスポットのようで、たくさんのカヤッカーが練習をしていました。
2日目は向かい風もなく、気持ちよく楽に漕ぐことができた。
ちょっとしたハプニングから、コロナ禍のなかベルギーに「越境」。
終点まで約半分の地点で、運行中のフェリーが川を塞いでいたため、ポーテージ (※3) を余儀なくされました。フェリーは、上流側に固定されたケーブルによって左右に進む構造だったので、私たちがそこを通行するのは不可能でした。そのため、フェリーより下流の場所まで、ベルギー側に降りてパックラフトを運ばなければなりませんでした。
※3 ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。
フェリーが川を塞いでいたので、ベルギー側に上陸して回避。
つまり、私たちが望んだわけではないのですが、新型コロナウイルスの制限を破って、別の国に入らざるをえない状況になってしまったのです。まあ振り返ってみれば、これは「必要な」渡航と見なせるでしょう。私たちはランチの時間も含め、少なくとも40分くらいベルギーに滞在したわけです。
オランダとベルギーを行き来していたフェリー。
この時、フェリーは、数分ごとにハイカーやレース用自転車に乗ったサイクリストたちを運んでいました。その人たちに、「海外渡航」をする正当な理由があるようには見えませんでした。
今回の旅をスタートしてからほぼ24時間後の午後2時頃、テイクアウトポイントに到着しました。難しい技術のいらない川でしたが、キャンプという冒険がこの旅を特別なものにしてくれました。
そして、ほんのわずかな滞在ではありましたが、異国にいる感覚も味わうことができました。早く、40分よりもずっと長い時間、海外に行けるようになりたい。そう願うばかりです。
海外の川をパックラフティング・トリップできるようになるのが待ち遠しい。
お目当てだった、川に浮かぶ島でのキャンプも実現できた、コンスタンティン一行。
メロウな川は、子どもを連れてのパックラフティングにも最適だったようで、どの写真からもハッピーな旅であったことが、存分に伝わってくるレポートだった。
そして国境の川というのは、日本では体験できない興味深い旅でもある。また今後も、コンスタンティンのパックラフティング・レポートを楽しみに待ちたい。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)
- « 前へ
- 1 / 2
- 次へ »
TAGS: