TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #45 ボレンストレーク(球根地帯)のチューリップ畑を満喫するパックラフティング

2021.07.16
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、オランダらしいチューリップ畑のなかを旅する、パックラフトのデイ・トリップ。日本でいえば、桜の景色のなかを、川旅するような感じだろうか。

オランダは、世界最大のフラワーマーケットがある、花で有名な国。なかでも、代表的な花といえばチューリップ。

多くの観光客でもにぎわうチューリップ畑ではあるものの、さすがはコンスタンティン。パックラフトを使って、人の少ない穴場的な場所を見つけ、広大なチューリップ畑を、悠々と楽しむルートを楽しんだようだ。

しかも今回の旅は、妻のマルタさんと、娘のヘレナちゃん (3歳) も連れてのファミリー・パックラフティング。

チューリップ畑の景色のなかを、パックラフトで漕ぐのは、どんな感じなのだろう。


オランダのボレンストレーク (球根地帯) に広がるチューリップ。


オランダといえば、チューリップ畑。


オランダといったら、何を思い浮かべますか? 世界的に有名なオランダ産チーズ、風車の景色、どこまでも続く運河、またはクロッグと呼ばれる伝統的な木靴などを思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、オランダの最も代表的なものいえば、チューリップです。16世紀半ばにオランダに持ち込まれたこの花は、それから何世紀もの間、芸術家にインスピレーションを与えました。またこの花で大きな財産を築く人や、あるいは反対にそれで破産する人もいました。

今でも、毎年春になると、色とりどりのチューリップ畑に、何百万人もの人々が訪れ、オランダならではの花鑑賞を楽しんでいます。


毎年春になると、チューリップを見るために何百万人もの人が訪れる。

今年は私もチューリップ畑に遊びに行くことにしました。ほとんどの人は、車や自転車、徒歩で行きます。ですが、私はパックラフトで行きました。

チューリップ畑のまわりには、大小の運河や用水路がたくさん通っています。それなら、パックラフトで行けるだろう、と考えていたのです。

チューリップ畑にはたくさんの運河や用水路があり、ここでパックラフトを漕がない理由はなかった。

実は2年前にもチャレンジしたことがあったのですが、その時はチューリップ畑のなかを通るいいルートを見つけることができなかったのです。家族と一緒に出かけるにはうってつけの、素晴らしい天気だったのですが。その時の後悔があったので、今度こそ、やりたいことをやりきるぞ、と思っていました。


世界最大のフラワーパークのある「ボレンストレーク (球根地帯)」へ。



パックラフト仲間のディディエ (右) とディンケル川にて。

今年の初め、ディンケル川を旅している時に (詳しくはコチラ)、パックラフティング仲間のディディエにこのアイデアを伝えたら、すぐに気に入ってくれました。

ディディエは、オランダの中でも、最もチューリップ畑の多い南ホラント州に住んでいます。それで、春の終わり頃に一緒にチューリップ畑を漕ぎに行こう、と誘ってくれました。「これはまちがいなく、最高のパックラフティングになるぞ」と、私たちは確信しました。

通常、チューリップのシーズンは3月下旬から5月中旬までで、一番の花の見ごろは4月中旬です。今年の春は寒さが厳しかったため、花の開花が進まず、4月中旬になってもまだほとんど花が咲いていませんでした。


チューリップの見頃は例年4月中旬だが、今年の春は寒さが厳しくなかなか咲かなかった。

「まだだねぇ」とディディエがチャットで連絡をくれました。彼の家からはチューリップ畑が見えるのです。4月の終わりになってようやく、「今度の週末がいいんじゃないかな。チューリップ畑が、きれいに咲いてきたよ」と連絡が来ました。そして、5月1日の日曜日に、リッセという町の近くで会う約束をしました。今回は、私の娘のヘレナと、妻のマルタも一緒です。

リッセは小さな町ですが、キューケンホフ公園があることで有名な町です。この公園は世界最大のフラワーパークで、毎年約700万球もの球根が植えられます。毎年春の2カ月だけ開園し (新型コロナウイルスの影響を受けた2020年春を除く)、約150万人の観光客が訪れる、オランダで最も人気のある観光スポットのひとつなのです。


人気エリアを避けて、人の少ない穴場のチューリップ畑に行くことにした。

この地域一帯は「ボレンストレーク (球根地帯)」と呼ばれていて、キューケンホフ公園に行かなくても、チューリップ畑を見ることができます。私たちはあまり混雑していないところでチューリップを楽しむために、ライツェヴァルト運河沿いにある、小さな道路脇の駐車場で待ち合わせることにしました。


娘のヘレナ (3歳) も、チューリップの川旅に大興奮。



スタート地点でディディエと合流。2人乗り艇のOryxを膨らませる。

私たちが現地に到着すると、すでにディディエはパックラフトを膨らませ終えて、私たちを待っていてくれました。ディディエはこのエリア一帯が載っている紙の地図を広げると、私たちに彼が考えたルート案を教えてくれました。地図にはチューリップ畑の場所も示されていました。

ディディエのプランは、まずステーングラフト運河に沿って北西に漕ぎ出し、南西に曲がってオーステルダインセ湖の横を進み、小さな運河を通って南東に向かい、車を停めた場所から少し離れたところにあるライツェヴァルト運河まで漕ぐというルートでした。

「短いルートだから、きっと2時間くらいで漕ぎおわっちゃうんだけど」、と申し訳なさそうにディディエは言いました。でも、私たちにとっては完璧なルートでした。3歳半になったばかりのヘレナが、2時間以上もパックラフトに乗っていたいと思うかどうかわからなかったので、ちょうどよい長さでした。

私がタンデム・パックラフトのOryx (※1) を膨らませている間、ヘレナは楽しそうに走り回り、これから始まる旅に興奮していました。

※1 Oryx (オリックス):現代のパックラフトのパイオニアブランドであるALPACKA RAFT (アルパカラフト) のタンデム艇 (2人乗り艇)。


駐車場のすぐそばからスタートし、チューリップ畑と湖のあいだのエリアでランチ休憩。6.7kmを4時間かけてのんびり楽しんだ。

この日は晴れていましたが、北風が吹いていて、ちょっと肌寒い気温でした。風があったので進むのが遅くなってしまいましたが、すぐに最初のチューリップ畑にたどり着きました。

チューリップ畑は、ずっと先まで続いています。真っ青な空に美しい積乱雲が浮かび、地面には黄色と赤のチューリップの海が広がっています。ヘレナもずっと満面の笑顔です。彼女は、運河の脇に生えているイグサの茎を摘んで、それで私たち夫婦にいたずらをして遊んでいました。


イグサの茎を摘んでちょっかいを出して楽しむ、娘のヘレナ。


面倒なポーテージも、娘にとっては走り回れる元気発散タイム。


漕ぎ始めて30分ほどすると、最初の障害物がでてきました。下をくぐれないほど、低い橋です。農場と道路をつなぐ橋で、この後もたくさんこういった橋に出くわしました。


運河には橋がいくつもかかっていて、くぐれるもの、くぐれないものがあった。

重いカヌーではなく、パッククラフトで本当によかったと思いました。この橋を越えるため、私たちはポーテージ (※2) をしました。ポーテージのために舟を降りると、ヘレナは走り回って、有り余っているエネルギーを発散することもできました。

少し進むと、大きな橋の下をくぐり、高速道路の反対側に抜けると、そこにまたチューリップ畑が広がっていました。ここで、私たちはチューリップ畑のピクニックをすることにしました。

※2 ポーテージ:舟を担ぎ上げて、陸路を歩いて障害物を越えること。


くぐれない橋が出てきたら、陸にあがってみんなでパックラフトを運んだ。


華やかなチューリップ畑のなかで、ランチ・パーティー。


そこには、いろんな種類、いろんな色のチューリップが、ずらっと細長い列になって咲いていました。私たちはこの景色を見ることができて、大満足でした。

特にヘレナは、とてもはしゃいでいました。チューリップの列の間を歩きながら、花を集めて、自分の「宝」のカゴに入れていました (ほとんどのチューリップは球根のために栽培されているので、そのプロセスにおいて花を切り落として、茎や葉だけにするのです)。


落ちている花びらを拾っては、せっせと自分のカゴに入れるヘレナ。あっという間にカゴはいっぱいに。

ピンクのパンツを着ていたヘレナは、楽しげな農家のようにせっせと花を摘んでいました。そうやってヘレナが遊んでいる間に、ディディエはなんと全員分のランチを用意してくれました。ランチにはオランダ産のチーズも使っていました。ここで私は、チューリップ畑の全景を撮影してみようと、ドローンを取り出しました。


ディディエが、みんなにランチをふるまってくれるというサプライズ。ヘレナも嬉しそう。

私たちが即席のチューリップ・パーティーを楽しんでいるところに、農家の奥さんがやってきました。私たちはパーティーを一時中断しました。どうも彼女は、私たちをいぶかしがっているようでした。というのも、ここ数年、観光客がインスタ映えする写真を撮るために、花畑を踏み荒らして問題になっていたからです。

しかし、私たちが花を傷つけていないことや、運河の脇でピクニックをしているだけであることを見て、彼女の態度は変わりました。私の質問にも答えてくれましたが、気づけば私たちがもう帰らないといけない時間になっていました。


娘のヘレナは舟の上で寝てしまうほど、はしゃいだ旅。



チューリップ畑を見ながら、のんびりパックラフティング。漕がなくても楽しめるのがいい。

ここから南西に向かって進みした。漕ぎながら、一方に湖、もう一方にチューリップ畑を眺めることができます。地図を見ていたディディエは、ここでショートカットができるかも、と言ってきました。

ショートカットをするためには、パックラフトを担いで、ポーテージする必要がありました。高速道路を越えて村のなかを通り、向こう側にある運河まで抜けるルートでした。

このとき、はしゃぎすぎて疲れたヘレナは、眠ってしまっていました。ポーテージをする地点に到着したとき、パックラフトのなかで寝ている彼女を、舟ごと持ち上げて、陸に引き上げました。


ヘレナははしゃぎすぎたようで、いつの間にかぐっすり眠っていた。

すぐ近くに、道路を渡れる場所があったので、マルタがヘレナを抱きかかえ、私はディディエの助けを借りてパクラフトを持って歩きました。反対側に着くと、ヘレナが目を覚ましてくれたので、簡単にパックラフトに乗せることができ、再び運河の上を漕ぎ始めました。


終盤の運河では、オランダらしい風景を満喫することができた。

さらに進んでいくと、いくつかの橋や小さな水門をポーテージして越えなければなりませんでした。でも、ちょうどオランダの伝統的な風車が回っているのを、見ることもできました。


パックラフトを漕ぎながら、回っている風車を眺めることもできた。

スタートしてからほぼ4時間後に、車が駐車してあるスタート地点に戻ってきました。 たった6.7kmの短い旅でしたが、まさに「最高のオランダ・パックラフティング」となりました。

クロッグ(木靴)のようなパックラフトを漕いでさまざまな運河を渡り、昼食にオランダのチーズを食べ、風車を見て、無限に広がる何百万本ものチューリップを楽しみ、少しではありますが、色彩の素晴らしさを感じることもできました。


約4時間かけてぐるっと1周してスタート地点に戻ってきてゴール。車がすぐそばに駐車してあるので、撤収もスピーディー。

今回の旅を読んで思ったのは、日本でも、桜を楽しめる最高のパックラフティング・ルートも見つけたい、ということ。

ごみごみした花見の雑踏から離れて、川の上から悠々と桜を満喫しながら、ゆるやかに川下りできるようなルートを、探してみたい。

ベタな観光のイメージもあるチューリップ畑鑑賞も、自分なりの楽しみ方をつくれば、こんなに最高の旅になるんだ、ってことをコンスタンティンは教えてくれた。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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