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オランダ・ウィデン 国立公園の湖と運河をつなぐパックラフティング&キャンプ | パックラフト・アディクト #67

2023.03.24
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるのは、オランダの「ウェールリッベン・ウィデン国立公園 (※)」でのパックラフティングだ。

この国立公園は、北西ヨーロッパ最大の湿地帯であり、大きな川はないものの、湖と運河が点在している。

コンスタンティンは、「オランダのベニス」とも呼ばれるヒートホールン村を起点にして、この国立公園のウィデン側にある湖と運河をつなぐ1泊2日のパックラフティングの旅に出かけた。

ダウンリバーとはまた異なる、パックラフティングの魅力が詰まったトリップレポートをお楽しみください。

※ ウェールリッベン・ウィデン国立公園:オランダにある国立公園で、北西ヨーロッパ最大の湿地帯。ウェールリッベンとウィデンの2つのエリアで構成されている。


1日目の夕暮れ。

ヨーロッパで最も大きく、多様性に富んだ湿地帯のひとつ。


ウェールリッベン・ウィデン国立公園には、さまざまな種類の運河が存在する。

オランダ語で「gracht (グラヒト)」「sloot (スロート)」「vaart (ファールト)」は、交通や灌漑に使われることの多い、細く曲がりくねった運河のことを指します。そして「wijde (ウェイデ)」「kolk (クルク)」「belt (ベルト)」は、湖や大きな池などの開けた水域を表します。これらの言葉は、この地域の歴史と密接な関係があり、しばしば地名に使われます。

2023年3月11〜12日の2日間、私がウェールリッベン・ウィデン国立公園を旅した際に漕いだ運河の名前もそうでした。

ウェールリッベン・ウィデン国立公園は、オランダ北東部に位置するオーバーアイセル州にある広大な湿地帯です。湖、池、運河、葦原などで構成され、1万ヘクタール以上の広さを持ち、ヨーロッパで最も大きく、多様性に富んだ湿地帯のひとつです。


村を抜けると、人工物のない豊かな自然が広がり、多種多様な動植物が生息している。

公園内には、カワウソやクロアジサシ (チドリ目カモメ科に分類される鳥類の一種) などの希少な絶滅危惧種をはじめ、さまざまな動植物が生息しています。

この公園のユニークな景観は、この地域の長い人間活動の歴史、特に中世に始まり20世紀まで続いた泥炭の採掘によって生まれたものです。泥炭の採掘により、湖や沼地、運河が次々と残され、公園の生態系の重要な一部となっています。

公園は2つの部分から成り、北側のウェールリッベンはオランダ森林管理委員会、南側のウィデンは非営利団体が管理しています。

両団体の運営体制は異なりますが、自然環境を保全しながら、レクリエーション活動を含め、野生動物と人間の双方に利益をもたらす持続可能な土地利用を推進する、という目標は共通しています。

「北のベニス」とも呼ばれる、美しいヒートホールン村からスタート。


ヒートホールン村をスタートし、運河と湖をつないでキャンプ地へ。翌日は展望台にも立ち寄ってから、ヒートホールン村へと戻る。

今回のトリップでは、ヒートホールン村をスタート&ゴール地点として、ウィデンのエリアを周遊しました。

ヒートホールンは、絵のように美しい運河、180以上ある木製の橋、伝統的な茅葺き屋根の家などで知られる、オランダで最も有名な村であり、人気のある観光地です。

運河が多く、船か徒歩でしか行けない家が多いことから、「北のベニス」と呼ばれることもある村です。村の人たちは、新しい家に引っ越すときも含めて、あらゆる移動手段としてボートを使用します。

初日は10kmほど漕ぎました。ヒートホールンは私の家から車で40分ほどなので、妻のマルタと娘のヘレナが送ってくれました。


妻と娘に見送られて、ヒートホールン村を流れる運河にプットイン。

私が選んだスタート地点は、あることで特別な場所になっているところでした。そこは「デ・ファンファーレ」というレストランの隣にある小さな運河でした。レストランは、1958年にヒートホールンで撮影された有名なオランダ映画「ファンファーレ」にちなんで名づけられたもので、この映画がきっかけで、多くの人がこの村を訪れるようになった場所だったのです。

そこで何枚か写真を撮った後、家族に別れを告げて、いよいよ旅の本番です。ドープスグラハト (村の運河) と名付けられた中央の運河は、中央部がやや狭いため、一方通行になっています。

そのため目的地に行くには、ボーフェンウェイデ湖に向かう脇道に入り、開けた場所で南へ漕ぎ出し、そこからまた村に入ると両方向に漕ぐことができます。私は、ヤン・ホゼングラハトからブーケルス・ステーンウェイク運河に入り、そこからブーラーケルウェイデ湖にたどり着きました。

気温は氷点下。漕いでしかたどり着くことのできないキャンプ場へ。


舟を漕いでしかアクセスできない。

スタートが遅かったので (午後4時頃)、到着した頃には暗くなり始めていました。太陽は見えなくなり、気温も下がり始めました。遠くの薄明かりの中、何百羽もの鳥が水面すれすれで湖の反対側へ飛んでいくのが、うっすらと見えました。

幸いにも風も弱まり、ブーラーケルウェイデ湖、ベルテルウェイデ湖の一部、そしてボスウェイデ湖を越えて、狭いディルク・クラーフェルスファールトに入るのがとても楽になりました。


-3度まで下がるほど寒かったので、ウッドストーブで暖かい料理を作った。

キャンプ場に着いた頃には、ほとんど真っ暗になっていました (そしてあたりは凍っていました)。クルイテンベルグのカヌーキャンプ場は、国立公園内にある3つの公式ワイルド・キャンプ場のひとつです。

このキャンプ場は、パドラーが自由に使える一般的なキャンプ場で 、舟を漕いでしかアクセスできない場所にあります。そこには木製のデッキとベンチがあるだけです。私は過去に何度かこの場所でキャンプをしたことがあり、前回は2015年に2日間のバイクラフティングとセーリングの旅をしたときでした。

実は今回も、無風の夜に漕ぎ、静かな暗い水面に星が映っているのを見て、あの旅を思い出しました。しかし、大きな違いは、あの時は暖かな夏の夜で、3月の凍てつくような夜ではなかったということです。


温かい飲み物とお菓子。

キャンプ場に着くころには、パックラフトに小さな氷柱が出来ているのが見えました。凍えた手でテントを張るのは時間がかかりました。その夜、気温は-3度まで下がりました。

翌朝は氷雨とみぞれが降り、早起きしたにもかかわらず、暖かい寝袋から外に出るのが面倒臭くなりました。小雨も降っていましたが、氷はほとんど溶け、朝食の準備やキャンプの片付けをするのに差し支えない天気でした。

この地域の文化遺産として欠かすことのできない、葦の刈り取り。


ウィデンに広がる自然を堪能。

天気予報を確認したところ、晴れ間はないものの、風は強まりドライなコンディションになるとのことだったので、ヒートホールンまで漕いで戻ることにしました。

ラッキーだったのは、風が私が向かう方向に追い風で吹いていたことです。8年前にも同じルートを通ったことがありますが、今回は時間に余裕があったので、より景色の良いルートで行くことにしました。また、展望台があるという情報も見つけたので、写真はありませんでしたが探してみることにしました。


湿地帯には、葦がたくさん生えている。

この日、私は14km以上漕ぎました。パッキングの後、ディルク・クラーフェルスファールトからフォッセベルト湖まで行き、サンドグラハト (「砂の運河」という意味で、そこはまさに底が砂になっています) を通ってディルクスウェイデ湖まで行きました。そこからスケンケルファールト経由でマステンブルクコルク湖に向かいました。

途中、水鳥やノロジカを見かけた以外は私一人でしたが、11月から3月にかけて行なわれる葦の刈り取りの跡がたくさん残っていました。伐採後、葦は数週間乾燥させた後、品質に応じて選別されます。良質の葦は屋根の葺き替えに使われ、低質の葦は籠やマットなど他の用途に使われます。


そこかしこに、刈り取った葦がまとめられている。これも風物詩のひとつ。

葦の刈り取りは、ウィデンの文化遺産として欠かせないもので、この地域の地主の多くはこの伝統的な技術を今でも持っていますが、現在はほとんどの人が機械を使っています。

葦刈りは、この地域の多くの家族にとって重要な収入源であるだけでなく、葦が生い茂って他の植物種が窒息するのを防ぎ、湿地の生態系のバランスを維持する上で重要な役割を担っています。

絵画のような運河と伝統的な茅葺き屋根の家々が並ぶ、ベルト・スクツスロート村。


茅葺き屋根の家並みが有名な、ベルト・スクツスロート村。

マステンブルクコルクから、アレムベルゲルグラハトを横切ってトッペンコルクジェ湖まで無名の運河 (どの地図にもその名前がありませんでした) を通りました。その後、別の名もなき運河を通り、ベルト・スクツスロート村のスクツススロートまで行きました。

ベルト・スクツスロートは、ヒートホールンと同様、絵に描いたような運河と伝統的な茅葺き屋根の家々で知られ、オランダの穏やかかつ風光明媚さを求める観光客に人気のある場所です。

この村の特徴のひとつは、2つの運河を隔てる「ベルト」と呼ばれる運河があることです。このベルトは、かつて村の各所を結ぶ物資の輸送に使われていたという歴史的な意味を持っています。


しんと静まりかえっているベルテルウェイデ湖。

村の中を漕いだ後、私はスクツススロートを通り、国道で分断されているベルテルウェイデ湖に向かいました。大きな橋の下をくぐると、前日に見たのと同じオオバン (ツル目クイナ科オオバン属に分類される鳥類の一種) の群れが湖で休んでいるのが見えました。

追い風だったので、湖を簡単に渡ることができ、すぐに反対側のウェストエインデ村に着きました。そこからドワルススロートで内陸に戻り、ボーベンブールゼファールトでホースジェスグラハトに合流するまで進みました。

展望台に寄り道して絶景を眺めてから、ヒートホールン村へと戻る。


向かい風にもかかわらず、気になっていた展望台に寄り道することにした。

ここで私は、左折してヒートホールンに直行するか、右折して展望台にも行くか、決めなければならなりませんでした。

この時点で風が強くなっていたため、展望台に行くとすれば帰りは1km以上も風を切って漕がなければなりません。でも、私はチャレンジすることにしました。

このチャレンジを楽しむために、展望台までの往復でパドルを漕ぐ回数を数えてみることにしました。結果、約760ストロークで、展望台に到着をしました。

展望台は割と高さがあり、情報はありませんでしたが最近建設されたようです。


展望台に登ってみると、思った以上に高度感があった。

ここを管理する非営利団体のロゴと名前が書いてあり、上からの眺めは素晴らしかったです。今まで漕いできた水と陸のパッチワークのような景色を見ることができたのも良かったです。帰りは、スタート地点まで戻るのに850ストローク以上かかりました。

その後、前日に漕いだボーフェンウェイデ湖にすぐに戻り、そこからヒートホールンに入りました。そして中心部の「村の運河」を漕いで、村の反対側、18世紀後半の伝統的な風車の切り残しをアパートに改造した隣を、上陸ポイントにしました。


展望台の上からの眺め。

荷物を整理していると、地元の人が小さなショベルカーを載せた平台の金属船に乗ってやってきて、見事に運河の脇に駐車し、簡単に降りていきました。この国では、人が水と調和して生きていくことができるのだなあと、思いました。

ヒートホールンとウェールリッベン・ウィデン国立公園は、なんて素晴らしい場所なのでしょう。きっと、私はまたここに戻ってくることでしょう。


ユニークな船でショベルカーを運ぶ地元の人。

コンスタンティンによる、地元オランダの湖と運河をめぐるトリップレポートはいかがだっただろうか。

3月初旬のオランダはまだまだ寒そうではあったが、季節を問わずにパックラフトの旅に出るコンスタンティンのフットワークの軽さはさすがだ。

春になったら、また季節に合ったフィールドにコンスタンティンは旅にでるだろう。また次のレポートを楽しみに待ちたい。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。

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