アルバニア・ヴョサ川 ヨーロッパ最後の原生河川、パタゴニアの映画『Blue Heart』の川を旅する(前編) | パックラフト・アディクト #62
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文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、今回レポートしてくれるヴョサ川。この川は、ヨーロッパ最後の原生河川と言われ、パタゴニアも映画『Blue Heart』 (2018年) でこの川をテーマに描いていることで知られている。
ヴョサ川は、ヨーロッパで最後のダムのない大河川であり、それゆえヨーロッパ最後の原生河川と呼ばれている。コンスタンティンは、パタゴニアの映画を観て、「いつかこの地を訪れ、この川を漕いでみたい」と強く触発されたそうだ。
そして今回はこのダムのない大河を、源流域から海まで7日間かけてパックラフトで旅することにした。
これまで日本ではほとんど紹介されていない、ギリシャ、アルバニアのヴョサ川でのパックラフティング・トリップ。その貴重なレポートをお楽しみください。
ヨーロッパで最後の原生河川と言われるヴョサ川。
私が初めてヴョサ川のことを知ったのは、2018年、European Packrafting Meet-upでパタゴニアの映画『Blue Heart』を鑑賞したときのことでした。
この映画は、バルカン地域にあるヨーロッパ最後の野生の川と、3,400以上のダム建設計画や、それが景観、生物多様性、地域社会に意味するすべての不可逆的で破壊的な結果に対して、それらを守るために戦う人々の物語。その中で、ロシアを除くヨーロッパで最後の真の野生河川といわれるヴョサ川について語られていました。
ギリシャ北西部のピンドス山脈を源流とし、アドリア海まで272km、そのうち192kmはアルバニアを流れています。この川は、アルバニアの主要河川でもあります。でも、7つの大規模なダム建設計画によって、このユニークでいまだ未知の自然環境の存続が、脅かされているのです。
この映画では、素晴らしい山々を背景に、広い氾濫原と蛇行するヴィヨサ川がいくつもの水路に分かれている風景が映し出されていました。そして、私はいつかこの地を訪れ、この川を漕いでみたいと思うようになったのです。
そこで今年、夏の大旅行を計画する際に、オランダ人のパックラフト仲間のディディエに連絡を取り、一緒に行かないかと誘いました。
「どの川を考えているんだ」と彼は私に尋ねました。
「ヴョサ川だよ」と私は提案しました。
ディディエは「よし、行こう!」と即答しました。
彼もまた、長らくこの川を漕いでみたいと考えていたのです。こうして、私たちはヴョサ川のパックラフティング・トリップに行くことになりました。
アルバニア政府がパタゴニアと連携して、ヴョサ国立公園を開発中。
今がヴョサ川を漕ぐ絶好のチャンスである、という理由が少なくとも2つありました。
まず1つ目は、今年の夏はヨーロッパが非常に乾燥していて、冬に降った雪が少なく、多くの川で水量が不足していました。大きな川でもほとんど涸れているところが多かったのです。でも、ヴョサ川には十分な水量がありました。その理由については、また後ほど説明します。
2つ目は、この川がまだあまり混まないうちに漕ぎ出せたことです。この数年、パドラーたちの間でこの川への関心が高まっているのを私は知っていました。しかもこの旅の数週間前、ヴョサ川とそのストーリーが国際的なニュースになったので、今後はさらに人気がでる可能性がある状況でした。
アルバニア政府は世界的企業であるパタゴニアと覚書を交わし、ヨーロッパ初の野生の河川公園となるヴョサ国立公園を開発することになりました。
2020年からすでに「管理自然保護区」になっていますが、国立公園になることで保護のステータスが上がり、川に悪影響を与えるような経済活動も禁止されるでしょう。
また、この川を利用したツアーも増えています。たとえば、この覚書が結ばれたのと同じ頃、ドイツのあるパックラフトツアー会社がアルバニアへの旅を企画し、ヴョサ川のおすすめポイント (主に上流部、ギリシャとの国境付近) を漕ぐようになりました。
私たちは、彼らとは異なり、川の一部分だけを漕ぐのではなく、全体を漕ぎたいと思っていました。ギリシャからアドリア海まで、水源から海までの旅です。そして、それはほとんど実現することができました。
旅の準備をしているとき、計画を立てたり情報を探したりするのがとても得意なディディエは、とある記事を見つけました。それは、2019年5月にインフレータブルカヌーによる友人2人の旅を記したドイツのブログ記事でした。
彼らがやったことは、ギリシャのできるだけ上流部 (コニツァ) からスタートして、8日間かけて漕いで下るという、私たちがやりたかったこととまったく同じだったのです。
19世紀に架けられた歩道橋からスタート。
コニツァから出発したのは本当に良い考えでした。というのも、コニツァの上流でヴョサ川は狭い峡谷を通り、その下の方、パナギア・ストミウの修道院までしかアクセスできないからです。
この渓谷は水量が多いときだけ下れますが、瀬の難易度がクラスIII-Vで、私たちのレベルよりはるかに上でした。でも、コニツァの下流では、川は大きく開き、かなり緩やかになります。
峡谷への入り口は、19世紀に架けられた狭い歩道橋が目印です。その細い一本のアーチは、川から20m近い高さにあります。そして、そこがまさに翌日 (2022年7月27日水曜日) の旅の出発点でした。
最初は緩やかな流れで、ゆっくりと進んでいきます。山を抜け、砂利を敷き詰めた氾濫原を自由に流れる川は、幾重にも枝分かれして再び合流します。水量が多いときには、この川はかなりの流れになることは間違いないでしょう。しかし、このときは水位がとても低く、私たちはパドリングよりもパックラフトを引っ張って川を歩くことが多かったです。
私はすぐに、靴底の柔らかいシートゥサミットのパドリングシューズを履いてきたのは間違いだったと気づきました。ディディエの固い靴底のハイキングシューズのほうが断然良かったです。
興味深かったのは、エジプトハゲワシを何羽も見たことです。エジプトハゲワシは、比較的小型の淡い色の鳥で、翼に黒い羽があります。昔はよく見られたそうですが、近年その数は激減しているとのこと。私は初めて見ました。旧コニツァ橋の横にある案内板と町の壁画がなければ、それが何なのかさえ分からなかったと思います。
アルバニアとギリシャの国境近くでキャンプ。
10kmほど下ると、透明度の高いヴォイドマティス川がヴョサ川に合流しました。大変だった歩きが終わり、そこからはずっと漕ぎ続けることができました。
でも、突然どこからともなく現れるハエを叩かなければなりませんでした。私は「川に拍手! (Clap for the river!)」と言いながら、必死でハエを退治しました。それでも漕ぐことができたのですから、それは嬉しいことでした。
天気予報で雨の予報でしたが、結局、日中は雨には降られませんでした。少なくとも僕らのいるところでは。しかし時折、遠くから雷鳴が聞こえ、それがだんだん近づいてきました。
川幅は狭くなり、川岸は高くなりました。初めのうちはキャンプ地を見つけるのは簡単でしたが、今ではほとんど見当たりません。そんなわけで、いざ夜のキャンプ地を探そうとすると、なかなか見つかりません。
グーグルマップではテントを張るのに適しているように見えた場所が、実際にはまったく適していないことがわかりました。また、水面から数mの高さの急な石垣を登らなければならないところも多く、良い場所を見つけるのは簡単ではありませんでした。
結局、国境から1kmほど離れた、古い橋の跡の近くに良い場所を見つけることができました。雷鳴が近づいてきたので、テントを張りました。すぐに雨が降り出したので、これは正解でした。この日は、橋の下で雨宿りしながら、温かい夕食を食べました。
いよいよ翌日から、アルバニアでの冒険が始まります。
この前編では、今回の旅のきっかけから、ギリシャからのスタート、そしてアルバニアに入る直前までのストーリーをレポートしてくれた。
次の中編では、ヴョサ川沿いの村々を立ち寄りながら、豊かな自然だけではなくアルバニアの独特のカルチャーも紹介してくれる。コンスタンティンらしい、エピソード満載のトリップ・レポートにご期待ください。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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