TRAILS REPORT

HAMMOCKS for Hiker – After Report #2 / ハンモックの歴史と魅力

2016.06.22
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アフター・レポート第2回目は、イベントでも好評だったコンテンツ『ハンモック・トーク』の詳細をお届けする。

一見、座談会風のタイトルだがそうではない。その内容は、ハンモックの歴史と魅力を参加者に伝えることを目的としたプレゼンテーションに近いもの。

ナビゲーターにTRAILS編集長の佐井聡、スピーカーにハイカーズデポの二宮勇太郎(NINO)を迎え、ハンモックの魅惑の世界を語り尽くした1時間。これを読めば、きっとあなたもハンモックの虜になるはず!

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ハイカーにとってのハンモックと歴史




■アメリカのスルーハイカーが、マダニ対策としてハンモックを宿泊道具として利用

佐井 「NINOはアメリカのロング・ディスタンス・トレイルをスルーハイクして、ハンモックについてより詳しく知るようになったんだよね」

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ナビゲーターを務めたTRAILS編集長の佐井聡。

二宮「2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)、約4,300㎞を約5カ月間かけて歩きました。アメリカにはたくさんのロング・ディスタンス・トレイルがあるんですが、特にアパラチアン・トレイル(AT)のある東海岸は日本の気候に似ていて湿度が高い。マダニが媒介するライム病がハイカーのなかでも問題になっていました。それを避けるために蚊帳付きハンモックを使う人も多いんです」

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スピーカーとして招かれたハイカーズデポの二宮勇太郎さん。

佐井 「最近では、また日本でも注意喚起されるようになってきたけど、アメリカのハイカーにとっては、以前からダニ対策製品はどこのアウトドアショップでも購入できるほど一般的関心ごとだったよね。その手段のひとつがハンモックだと」

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アメリカのアウトドアショップであれば、どこでも見かけるダニ取りグッズ「ティック・キー」。

二宮 「ハンモックがハイキングギアとして普通に使われているんです。スピアーハンモックの創設者エド・スピアーなんて、8,000㎞以上の旅をハンモックだけで過ごしたほど。彼はその旅の模様を綴った『ハンモック・キャンピング』という本も書いています。まあ、彼の場合は半ば意地もあったと思いますが」

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エド・スピアーの著書『ハンモック・キャンピング』(ペーパーバック)。


佐井 「アメリカでハンモックは当たり前とまでは言わないけど、日本と比べると、ハイカーにとっての宿泊道具としてメジャーなアイテムであることは間違いないよね」

■ハンモック・ヒストリー:米軍放出品のジャングルハンモックがヘネシーハンモックの起源

佐井 「そもそも、ハイキングギアとしてのハンモックがどうやって進化してきたか簡単に振り返ってもらえる?」

二宮 「もともとは、アメリカ軍が東南アジアに侵攻した際に、ジャングルハンモックなるものを採用したんです。これはハンモック本体にメッシュの蚊帳が付いていて、さらに軍用ポンチョを屋根として使ったハンモックシェルター。採用した理由は、マラリアを媒介する蚊を避けるためと不安定な地面でも快適に過ごすためです。その後、ロング・ディスタンス・ハイキングをするハイカーが、軽量で安価な寝具として米軍放出品のジャングルハンモックを使用するようになりました」

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第二次世界大戦中にアメリカ製のジャングルハンモックを使っているオーストラリアの兵士。

佐井 「軍モノはシビアな条件での使用を想定して作られているから、実用性高いモノが多いしね。たしかにハイキングでも有効だったとしても不思議ではないよね」

二宮 「ちなみに、マウンテン・ローレル・デザイン(MLD)の創業者であるロン・ベルは、1970年代に軍用ポンチョとハンモックをハイキングのシェルターとして使用。ヘネシー・ハンモックの創業者であるトム・ヘネシーも、16歳のときに約320㎞の自転車旅で軍用ハンモックを使っています。軍用ハンモックをチョイスした理由は、当時軍用ハンモックがテントに比べて収納性が高く、軽量でポールやペグを使わず設営できたからです。その後、トムは軍用ハンモックをベースに自作をはじめ、1999年にヘネシー・ハンモックを発売したんです」

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OR/アウトドアリテーラーショーで取材させてもらった時のトム・ヘネシー(ヘネシー・ハンモック創業者)。


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ヘネシー・ハンモックの開発の基になった、ジャングルハンモックのタグ。ヘネシー・ハンモックのHPより


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ヘネシー・ハンモックは、タープとバグネットとハンモックの一体型という画期的なシステム



佐井 「オーバーナイト(宿泊)での使用を前提に作られたハンモックシェルターの登場だね」

二宮 「これは衝撃的でした。これを契機に、宿泊道具としてのハンモックが普及していきました。さらにハンモックのフォーラムサイトが立ち上げられて意見交換がなされたり、ハウツーやレビューを掲載するサイトもたくさん生まれました。日本では、2004年頃に900gを下回るシェルターとして話題になりました」

佐井 「日本で注目されたきっかけは、当サイトの『土屋智哉のMeet The Hikers!』のゲストでも登場していただいた川崎一さんのブログでした。そこで川崎さんがヘネシー・ハンモックの邦訳を掲載したんだよね」

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ヘネシー・ハンモックを日本にいち早く紹介した川崎さん。




ハンモックの魅力と弱点




■ハンモックは「山のソファベッド」(イスにもベッドにもなる山道具)

佐井 「ここまでハンモックの歴史を振り返ってきましたが、そろそろハンモックの魅力について整理していきましょう。色々あると思うんだけど、最大の魅力だろう!と言えるポイントを3つ4つお願いします」

二宮 「とにかく気持ちいいんです。イスとして座っていても気持ちいいし、ベッドとしてそのまま寝ることもできる。さらに寝た状態から起き上がれば食事もできてしまう。もうここだけで生活できます」

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ソファベッドであることを実演する二宮さん。

佐井 「イスとしてもベッドとしても使えると」

二宮 「だから『ソファベッド』なんです。自宅のリビングのソファベッドでくつろいでいるのと同じ。僕にとっては、快適な家具を山に持ち込んで来ている感じですね」

佐井 「最初NINOに『山のソファベッドなんですよ!』と言われたときはさっぱり分からなかったけど、前回のHAMMOCKS Meeting#1/ハンモックキャンプ for ハイカー(5/20掲載)の時に、なるほど!と理解できました(笑)個人的には、イスとしての実用性が盲点でした。まさかあそこまで機能するとは思っていなかった。これだけでも山に持っていく理由になる」

■極上の開放感、浮遊感、そして自由になれる雰囲気

二宮 「ハンモックは宙に浮いた状態を作ることで、宿泊時における従来の過ごし方を一変させました。地べたではなく地上だからこそ味わえる自由な雰囲気、浮遊感、開放感が最高なんです」

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お気に入りのハンモックとタープに寝そべる二宮さん。

佐井 「どっちがいいというよりは、また違った楽しみ方、遊び方ができるわけだよね」

二宮 「開放感はタープの特徴でもあるんですが、ハンモックの場合はそれ以上なんです。タープ単体の場合、低く張ることが多いですよね。一方で、ハンモックとタープを組み合わせる場合、ハンモックがあるので必然的にタープは高い位置になる。しかも立ち木を利用するのでいくらでも高さを調節できる。だからタープ単体より広い空間が作れるんです」

■地面の状態に依存しないから、べちょべちょ、ごろごろした場所でも設営可能

二宮 「空中に浮かんでいるので、テントであれば設営できないような斜面を選択することもできます。雪上でもまったく問題ないですしね。整地も必要ない」

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二宮さんは、ハンモックの可能性を探るべく、積雪期にさまざまな場所でハンモック泊を試みた。

佐井 「標高数千mのシビアな場所で使用する道具じゃないけど、たとえば山行中、諸事情でテント場まで辿り着けずビバークが必要になったとき、平らな所がなくてもすぐに張れるのはいいよね。むしろ安全だったりするわけで」

二宮 「限られたテント場以外でも使えるのは、とても有効だと思います」

佐井 「そういえば以前、NINOと島根県の銀山街道を歩いたとき。地元の自治会長さんの計らいで学校の校庭に泊まっていいことになって、NINOはハンモックをサッカーのゴールポストに張っていたよね」

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島根県の銀山街道沿いにあるとある廃校の校庭にて。

二宮 「2本の柱さえあればどこでも張れる。これがハンモックの自由度なんです!普段、町で歩いていても、ここ張れそうだなあって思うこともよくありますからね(笑)」

■ウッドストーブとの相性の良さ
佐井 「よくウッドストーブとセットで楽しんでいるよね。寝転びながら火遊びしてたりするし」

二宮 「ちょうどいい位置なんですよ。ウッドストーブに網をのせて、そこで焼き物をする。すぐには出来上がらないので焼けるまでちょっと寝ようかなという感じで。もちろんそばにはビールも置いておきます。そもそもテントやシェルターなどの密閉空間ではウッドストーブは使えません。開放性のあるハンモックだからこそできる贅沢なんです」

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ハンモック&ウッドストーブは、二宮さんお気に入りのスタイル。

佐井 「家の中で、ベッドのそばにテレビのリモコン、さらに飲み物も食べ物も置いて……っていうぐうたらな最高の時間ってあるじゃない。それが山の中でもできるわけだよね。ちなみに、ウッドストーブと一緒に木炭も持っていったりするんだよね?」

二宮 「そうですね。ウッドストーブって基本は木を燃料として使うんですけど、それだけじゃなんだかもったいなくて。お酒プラス美味しいものを食べたいと思ったときに、やはり炭火だろうと。焚き火台であり七輪にもなるのが僕にとってのウッドストーブなんです。しかも一人用のサイズがちょうどいい。大きい焚き火台とかグリルとかになると、いつの間にか焼き過ぎてしまったりする。でも小型のウッドストーブはそれがない。僕はこれまで一度も焼きで失敗したことはありません」

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『居酒屋ニノちゃん』の定番は、厚切りハムと笹かまぼこ。


佐井 「ハンモックの魅力を整理すると、この4つなのかな」

①山の『ソファベッド』
②極上の開放感
③地面の状態に依存しない
④ウッドストーブとの相性の良さ


■ハンモックの弱点対策:冷気にされされる背面の冷え対策

佐井 「ハンモックはいい所ばかり!という感じだけど、弱点はある?」

二宮 「弱点は背面の冷えですね。空中に浮かんでいるため、背面側が空気にさらされた状態になってしまう。おかげで夏は涼しいのですが、寒い時期はデメリットです。ですから、いかに断熱するかが大事で、そのひとつがスリーピングマットの利用です」

佐井 「以前、僕たちがここのキャンプ場で泊まったときも、スリーピングマットを敷くことで問題なく寝られたしね」

二宮 「マットを使用しない方法もあります。寝袋は潰れると保温力を発揮できません。でも背中側をハンモックの外側に回してあげると保温力が生まれるんです。マミー型だと難しいですが、フード無しの寝袋であればこの使い方ができます」

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フード無しの寝袋をうまく利用すれば寒さを防げる。

佐井 「アンダーキルトも有効だよね」

二宮 「ハンモック専用の防寒アイテムですね。ハンモックの下に取り付けられるので、自分の体重でダウンを潰す心配がない。これも有効な選択肢のひとつです」

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ハンモック専用のアンダーキルトはとても優秀で便利。



■ハンモックを始めるハイカーへのメッセージ

二宮 「今回、僕が引率したハンモック・ハイキング体験では、山中で4〜5m間隔の木を探すというテーマで歩きました。ハンモックのおかげで、これまで普通に通り過ぎていた場所が興味の対象に変わる。それが大きな発見でした。普段、テント泊では過ごさないような場所も楽しむことができました。ハンモックは、新たな視点を与えてくれる道具であり、そして山でリラックスできる家具でもあります。だからより多くの人に知ってもらえたら嬉しいです」

佐井 「宿泊前提ではなく、まずはポケットに入れて裏山に行く感じがいいんじゃないかと。それで楽しんでからその延長で寝泊まりしてもらえたらいいよね」

二宮 「口頭では良さが伝わりにくいギアなので、まずはこういうイベントとかに参加して体験してほしい。そして遊び方や魅力、可能性をカラダで感じてほしいですね」

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[MOVIE]

次回の掲載は6/27(月)。イベントに出展したハンモック&ウッドストーブ&タープの数々を紹介するので、ぜひお楽しみに!

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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