パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #10 トリップ編 その7 DAY52~DAY59 by Zoey(class of 2022)

文・写真:Zoey 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート。
全8回でレポートするトリップ編のその7。今回は、PNTスルーハイキングのDAY52からDAY59での旅の内容をレポートする。
今年のLONG DISTANCE HIKERS DAY (LDHD)でも、ZoeyによるPNTの発表があるので、そちらもぜひチェックしてみてください(LDHD 2025の詳細はコチラ)。
※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。
パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trail。
TRAILSのアンバサダーであり、PNTの管理団体のディレクターであるジェフは、次のように言っている。「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている。またPNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ。」
3大トレイルを3回も歩いた「トリプル」トリプルクラウンと出会う。(DAY52〜DAY53)
気づけばいつの間にか海のそば。
エディソンという街の、トレイルエンジェルの家を目指して進んでいる。昨夜は夜通し車の音が聞こえるところ(一応トレイル上)で眠ったので、あまり眠れず。
朝、街に向かう途中で同じPNTハイカーの2人と出会った。今晩は街のトレイルエンジェル宅に泊まるらしい。連絡先を教えてもらい、早速僕も連絡した。
今日は何も考えず眠りたい。寝る場所の心配が無くなると途端に体も軽くなった気がする。
トレイルを抜けるとすぐに街の郊外といった様相。このまましばらくは海沿いの舗装路・道路を辿る。
街に到着しトレイルエンジェルの方に連絡する。自宅の近くにある冷房、シャワー、冷蔵庫付きの建物に案内してもらった。ビールを頂きまったりしていると、午前中に出会った2人のハイカーもやってきた。2人のトレイルネームはback30とsteady。話を聞いていると2人ともトリプルクラウナーだった。
back30は3回もトリプルクラウンをしている、「トリプル」トリプルクラウンらしい。響きが強烈すぎて思考停止する。
しかもPNTは2回目だという。back30がこんな事を言っていた。
「zoey、僕は働くのが嫌いなんだよ。」
すごく説得力があり沁みた。でも一体どうやってロングトレイル漬けの生活を続けているんだろう。たしかにこの生活の自由さを知ってしまうと、戻れなくなる気持ちもわかる気がする。
トリプル」トリプルクラウンのback30 (写真中央) とsteady (写真左)。
ひたすら道路を歩き続ける。歩道があるところは天国だ。歩道なくならないで‥。いつも願っている。
道幅が狭くなり、やがてわずかなスペースと白線のみが残される。車にも迷惑をかけたくないし、とても神経を使う。
予定通り翌日にはアナコルテスという街に到着した。レストランも多い。
数ある飲食店の中でタイ料理と迷ったが、中華料理にした。食欲が止まらない。久しぶりのチャーハンの米が美味しい。ビールとともに数々の品を胃の中に流し込んだ。
結局もう食べれない‥というところまで食べてしまった。贅沢だ。幸せ。
その後有料にてテント泊が出来るというキャップサンタマリーナという施設に辿りつく。バックパックを降ろし風景をぼんやり眺めた。たくさんのボートが停泊しており、カモメがゆったりと飛び回っていた。
たまにゆっくりとした時間を過ごすと、自分がアメリカにいる事をふと不思議に思う瞬間がある。
アナコルテスの街にて。
海沿いを歩くセクションに入り、半島や島を渡っていく。(DAY54)
自然が癒し。
アナコルテスを出た後もトレイルを挟みながらロードウォークは続く。
ここはフィダルゴ半島というらしい。島というだけあって歩いていると度々海や湾が見えた。
大げさかもしれないが山の中で過ごす時とはまた違う安らぎを感じる。たまに聞こえる波の音が心地良い。砂浜を歩くシチュエーションもあり新鮮で楽しかった。
半島から島へ渡り歩く。ディセプション・パス・ブリッジという橋を渡った。下を見るとボートが気持ちよさそうに湾内を進んでいる。
ふと明石海峡大橋を思いだした。
島を経由しオリンピック半島を目指す。
back30とsteadyに度々出会った。示し合わせている訳でもないけど。
歩く速度が近い。単純なことだけど、そこが一緒だと会話をしていても心地良い気がする。
2人は毎日寝る場所を心配している僕に、トレイルエンジェルの情報を教えてくれた。ある夜2人に教えてもらったトレイルエンジェル宅の庭で彼らと一緒に過ごした。彼らは翌日ゼロデイを取るらしい。
連日、度々出会えていたが、もしかしたら2人とも今後会えないかも…と頭によぎって寂しい気持ちになった。
トレイルエンジェル宅にて見た夕日。
翌日コープビルフェリーターミナルから出ているフェリーにのり海を渡り、オリンピック半島にあるポートタウンセンドの街に降り立った。
トレイルエンジェルのアンネが迎えに来てくれていた。最近は連日トレイルエンジェルの家にお世話になっている。ありがたいと思う。毎日落ち着いて寝れる。彼女の連絡先も2人が教えてくれたものだった。
ワクワクしながらフェリーに乗り込みオリンピック半島へ。
空気感が素敵で、また訪れたいポートタウンセンドの街。 (DAY55〜DAY56)
メロウな時間が流れる港街。
今後のハイキングの準備のためゼロデイを取ることにした。
ポートタウンセンドは港街で、上品な印象。トレイルエンジェルのアンネに食料補給も含め街中をドライブで案内してもらった。
この街はビクトリア調の建物が多いらしい。海が見える公園でミュージシャンが演奏していたり、ゆったりとした空気感の街でとても居心地が良かった。
この街にはハイキングが終わってもまた観光で訪れたいと思う。連れて行ってもらったスーパーはおしゃれで、見たことのないようなものばかり並んでおり、とても楽しい。
お世話になったアンネの息子さんは、たまたま同い年で、過去にPCTを歩いた経験のあるハイカーだった。彼がPCTを歩いた際にお世話になったトレイルエンジェルの話を聞き、自分たちもハイカーを受け入れてくれているそうだ。
同い年のPCTハイカーのツーショット。
アンネたちはとても優しく、あまりに居心地が良かったので、もう少しいたかったが国立公園はもう目の前にきている。
ここまで無事に来られたし、せっかくならこのハイキングをちゃんと終わらせたいと思う。ともあれ、のんびりしたので明日には出発する。
いよいよPNT最後のセクションに入っていく。 (DAY57〜DAY59)
ポートタウンセンドのハイキングコース上で見た船のメンテナンス風景。
午前中に郵便局により、港へドロップしてもらった。トレイルエンジェルのアンネ夫婦と別れて、ふたたび歩き始める。
しばらくはフラットで気持ちのいいロードウォーク。海を横目に淡々と歩けるコースが気持ちよかった。
コンビニがあったのでコーラを買う。PNTを歩き始める前と今で変化したことと言えば、コンビニを見ると、気持ちが自然と盛り上がってつい立ち寄ってしまう癖がついたことだろうか。都市生活をしている日本では、コンビニを見ても当たり前すぎて何も感じない。
フラットなハイキングコース歩き。
今晩はトレイルエンジェルが提供してくれているという小屋で寝る予定だった。
小屋の場所がわからずウロウロしているとback30が現れて案内してくれた。小屋にはsteadyもいた。
また2人に会えたのが嬉しい。この小屋も2人が教えてくれたものだ。この「2人に教えててもらった」っていうフレーズ何度目?教えてもらってばかりだ。本当にありがたい。
先に出発した2人がいなくなった小屋で、1人でのそのそと起き上がり、出発した。オリンピック国立公園にはすでに片足を突っ込んでいる。
もぬけの殻の小屋を出発する。
舗装路から徐々にトレイルに入り込む。見晴らしの良い場所でのんびり過ごしすぎた。
早く予約したテントサイトに辿りつかなくては。
小走りで薄暗くなってきたトレイルを小走りで駆ける。時間が押しており、焦る。ようやく辿りついたサイトにはすでに1張のテントが。
少し距離を取って設営しテントに飛び込む。へとへとなのでシュラフに潜りこみ泥のように眠る。
オリンピック国立公園のハイキングがいよいよ本格的に始まる。
コンスタンスパスからのワイルドな眺め。
TAGS: