パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #07 トリップ編 その4 DAY23~DAY31 by Zoey(class of 2022)
文・写真:Zoey 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート。
全8回でレポートするトリップ編のその4。今回は、PNTスルーハイキングのDAY23からDAY31での旅の内容をレポートする。
神秘に満ちた未確認生物ビッグフット。(DAY23〜DAY24)
早朝にPNT沿いの町メタルライン・フォールズに到着し、ホステルへチェックインした後、ショーケースの中のあるステッカーから目が離せなくなっていた。
あの有名な未確認生物ビッグフットのステッカーだ。
小さい頃テレビにかじりついて見たUMA (Unidentified Mysterious Animals: 未確認生物) 特集の記憶。その後学生時代に友達が持ってきた未確認生物の本で盛り上がった記憶が蘇る。
我ながら冴えない思い出だが、未確認生物にはロマンを感じる。正体を知りたいけども、見つかってほしくない複雑な気持ち。
これはほとんど片思いみたいなものだろう。どうにかこのステッカーが欲しい‥。ただ眼前のステッカーの横幅は20cmくらいあり、かなり大きめだ。どうポジティブに考えようとしても、ハイキングに持ち運ぶには繊細すぎるから泣く泣く諦めた。
メタルライン・フォールズはとてもコンパクトな街で、30分も歩けば一周できる。郵便局はもちろんカフェやスーパー、図書館、昔ながらの映画館まで一通り揃っている。温かな雰囲気がとても心地いい街だ。
街で過ごすのは、実におよそ10日ぶり。
今晩お世話になるホステルのオーナーのアーリーは、お手伝いさんとホステルを切り盛りしている。家族の犬シュガーもかわいい。部屋もアーリーのとても優しい人柄が感じられる内装で、ベットに座ってボーっとしているだけでとても穏やかに過ごせる。
その晩、部屋にて久しぶりのアルコールを片手に過ごしていたところ、通路に人の気配、物音、話し声が響いた。
もしかしたらハイカーかな。そうだったら嬉しい。
そう思いながら、久しぶりにベッドで眠った。
翌日スーパーに買い出しをした時に、前のセクションで会ったZとshepherdと再会した。昨夜の物音は2人だったようだ。
前に会ったときに胃の調子を悪くしていたZも、回復したようだったので安心した。ここから次の街、ノースポートまで1日から2日。今後またどこかでまた2人に会えるような気がする。
徐々にシェイプアップされてきたバックパックを背負うと、旅慣れた気がしてきて嬉しくなった。
翌日、諸々の準備を終え、今度は2人より先に街を出て歩き始めた。
街を出てしばらくはロードウォークとダートロード。徐々に標高を上げ、アバクロンビー山山頂近くの、フラットな場所でテントを張った。
標高が高いこともあるだろうが、これまでにない寒さでテント内で持っているもの全てを着て寝た。
ノースポートの街まで、ロード脇を延々歩く。(DAY25)
今日中には次の街ノースポートまで辿り着きたい。
この日はロード (舗装路) の脇をほとんど丸一日歩く行程だった。トレイルと比べると単調だけど距離を稼げるし、無心に歩けるので嫌いではないと思う。車が真横を通るのに少し気を使うけど。
道中ガソリンスタンドを経営している夫婦に声をかけてもらい、サラダをご馳走になった。トレイル上では生野菜は持ち運ぶことはなかったので嬉しい。遠慮もほどほどにムシャムシャ頂いた。
予想外の人の優しさに触れ、とても和む。
その日夕方にはなんとかノースポートの街に辿り着いた。
その晩お世話になったトレイルエンジェル宅で、ビールをしこたま飲んで過ごした。
リパブリックの町へ。(DAY26〜DAY29)
ノースポートを出てからしばらくはダートロードを歩く。街を出てから体が重い。
歩き始めてから今までこんな気持ちになることはなかった。理由がわからない。戻る訳にも行かないのでそのまま進む。
ふと前を見ると数十メートル先に、猫のような動物のシルエットが横切った。大きい猫はこちらを一瞥し、さっさと道を横断しすぐ姿が見えなくなってしまった。後で冷静にこちらとの距離を考えてみた。猫にしては大きすぎる。あれは一体何だったんだろう。
もしかしたらあれがマウンテンライオン?
長いダートロードを終え、リパブリックの町の東側にある、ケトル・クレストに入る。
数年前に山火事があったエリアでは、焼けた木の下に生える草花に癒された。
体は変わらず重く不調だ。ロード歩きに疲れ始めていたのかもしれない。体調に引っ張られる形でマイナス思考に突入していた。
「何でたくさんの距離を毎日歩くんだろう?
このまま続けることに意味があるんだろうか?」
原因がよくわからない憂鬱だ。元も子もない言葉が頭の中で飛び交い始め収集がつかなくなりそうだった。
このままだと頭の中で深く潜りすぎてしまいそうだったので仕切り直す為、行き倒れのような形でトレイル横で昼寝することにした。
数分だけまどろむような浅い眠りだったけど、起きると少しスッキリしていた。よく考えたら唇が数日前から切れている。しかも便秘ぎみだ。単純に軽い脱水症状だったのかもしれない。
憧れのリパブリックの街とビッグフットの正体。(DAY30〜DAY31)
リパブリックに立ち寄るために、慣れないヒッチハイクをした。
手持ちの色鉛筆で街の名前を書いてかざす。完成してから気づいたが色鉛筆の色があまりにも薄い。かなり近くまで寄らないと、書いてある内容がわからない不親切なサインが仕上がった。
リパブリックは四方を山に囲まれている。PNTはリパブリックの街へ東からアクセスし、南から西へと街の周りをぐるりと回るように通っている。リパブリックの街は、東西からの車のアクセスが多い。僕がヒッチしているのは南側であまり車も通らない。
1時間ほどヒッチハイクをしていたところ、優しいネイティブアメリカンの女性にピックアップしてもらった。
簡単な自己紹介の後、頭に残っていたビッグフットのことを聞いてみた。彼女いわく、ネイティブ・アメリカンの方にとっては、どうやら現代の人を見守ってくれている先祖のような存在らしい。
その後違うタイミングで別の人に聞いてみたら、その人は全く違うことを言っていた。みんなそれぞれの中に、いろいろなビッグフットがいるんだろう。
不思議だが妙に腑に落ちた気分だった。
この連載の最初の記事でも触れたが、TRAILSに掲載されたジェフ (※2) の記事を読んだとき、リパブリックの写真から、昔ながらのアメリカの雰囲気をひしひしと感じ、ときめいた。このリパブリックでは、ジェフの記事に出てきた、憧れのモーテルに宿泊した。 (ジェフの記事はコチラ)。
リパブリックでは一日のんびり過ごす。妻に送ってもらった道具をピックアップし、スーパーで食料、お土産屋さんで切れかけていたガス缶を補給した。
街は観光の人も多くにぎやかだ。
おしゃれなカフェのバーガーを食べ充電完了。トレイル上では出来ないことを目一杯やってゆっくり過ごす。
次の街はPNTのハーフポイントであるオーロヴィル。あと数日でこのハイキングも半分の地点に到達する。
もう半分。まだ半分。実感が沸かないけれど。
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