ジェフ・キッシュのHIKER LIFE with PNT | #05 パシフィック・ノースウエスト・トレイルのスルーハイキング (その1)
(English follows after this page.)
文・写真:ジェフ・キッシュ 訳・構成:TRAILS
What’s HIKER LIFE with PNT? | パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT ※)は、アメリカでもっとも新しいNational Scenic Trail(※)。いまだ手つかずのウィルダネスが現存する稀有なトレイルだ。そこにはハイキングの自由があり、「ロング・ディスタンス・ハイキングの良いレガシーが今も残るトレイルだ」とジェフは言う。この連載では、ジェフを通して、日本では希少なPNTにまつわるトレイル情報やカルチャーをお届けしていく。
* * *
このジェフの連載では、今回から全7回にわたり、ジェフ自身のPNTのスルーハイキング・レポートをお届けしていく。他のメディアでは読めない、日本語による貴重なPNTのレポートだ。
ジェフはこれまで、ディレクターという立場からPNTの魅力を伝えてきてくれたが、今回はハイカー・ジェフとして旅のエピソードを綴ってもらった。
今はコロナの影響でなかなか旅に出づらいけれど、やっぱりビッグ・トリップのレポートは読むだけで旅欲が刺激されてワクワクしてくるものだ。
出発地はモンタナ州。モンタナの空気感を想像しながら、ハイカー・ジェフによる、PNTのスルーハイキング・レポートをお楽しみください。
グレイシャー国立公園内のPNTで最もよく知られているのは、このような荒涼とした風景。
※ パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT):正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trailである。
※ National Scenic Trail(ナショナル・シーニック・トレイル):自然を保護し、楽しみ、感謝することを目的に、1968年に制定されたNational Trails System Act(国立トレイル法)によって指定されたトレイル。他にも、National Historic TrailやNational Geologic Trailなど複数のカテゴリーがあるが、中でもNational Scenic Trailは、壮大な自然の美しさを感じ、健康的なアウトドアレクリエーションを楽しむためのトレイルである。一番最初に選ばれたのは、ATとPCT。現在全米にある11のトレイルが、National Scenic Trailとして認定されている。
ジェフの人生を変えたパシフィック・ノースウエスト・トレイルの旅
ハイ、ジェフです。今回から6回にわたって、PNTのスルーハイキングのトリップ・レポートをお届けするよ。PNTA (PNTの運営組織) のオフィスより。
2014年、僕は人生を永遠に変えてしまうような旅にでた。今回の話は、その旅の最初の百数十mileについて書いた物語だ。
ほとんどのスルーハイカーにとって、PNTの旅は最初の一歩を踏み出す前から始まる。多くの人は、モンタナ州のグレイシャー国立公園に行くために、荒野を走る列車に乗ることになるんだ。
2014年、僕はオレゴン州ポートランドに住んでいた。そこは長距離列車エンパイア・ビルダーの最西端だった。
7月中旬の暑く晴れた日、僕はその列車に乗り込み、その季節に初めて北西部を横断し、トレジャー・ステイト (モンタナ州のこと) を目指して出発したんだ。秋の寒さが訪れる頃には、太平洋岸まで歩いて帰るつもりでね。
翌朝早く、モンタナ州西部の荒涼とした風景の中に、日の出の光が差し込んできた。そして列車はグレイシャー国立公園に入り、「次の駅はイースト・グレイシャーです」という車内アナンウンスが流れてきた。
グレイシャー国立公園にあるPNT沿いの橋。このような建造物は、冬の雪で倒壊しないように秋に撤去される。雪解けの後にスルーハイクのシーズンが始まり、通常6月下旬か7月上旬にこれらの橋の再設置が行なわれる。
国立公園の南西端に位置するイースト・グレイシャーは、小さなリゾートタウンだ。町の中心にグレート・ノーザン鉄道が1913年に建設した「グレイシャー・パーク・ロッジ」という丸太造りのロッジがある。
その建物はポートランドのフォレストリー・ビルディングをモデルにしている、西部のデザイン様式の建物だ。
ただ、モンタナではこれほど大きく育つ木はめったになく、建設に使われた巨大なダグラス・ファー (アメリカ松) とウエスタン・レッドシダーの柱は、カスケード山脈から東に運ばれてきたものなんだ。
イースト・グレーシャーの町は、観光ビジネスによっていろんなスタイルが混在しているんだ。奥がホステルになっているメキシカンレストランとか、上がホステルになっているパン屋とかがある。僕は、これから始まるハイキングの準備をするために、そのパン屋併設のホステルにチェックインしたんだ。
スタートの町グレーシャーで、スルーハイクの出発の準備。
ほとんどのスルーハイカーは、1日に限られた枚数だけ発行される先着順の当日パーミット (許可証) を手に入れる。そのパーミットを手に入れるために、国立公園の近くにある小さなレンジャーステーションに行くんだ。
残念ながらイースト・グレイシャーの町には、パーミットを発行する施設はない。でも国立公園のシャトルサービスを利用すれば、簡単にトゥーメディシンのレンジャーステーションまで行けるようになっている。
PNTのスタート地点は、グレイシャー国立公園からカナダに北上するベリー川沿いにある。公園の中心部に向かって川をさかのぼっていくと、このような美しい湖が現れる。
ハイカーがグレイシャー国立公園内のバックカントリーエリア内でキャンプをするには、PNT沿いにある指定キャンプ場のパーミットを取得しなければならず、指定地外でのキャンプは禁止されている。
僕はレンジャーに見てもらいながら、自分のペースに合った行程表を作り、そして熊対策のビデオも見た。その後、また夜はイースト・グレイシャーの町に戻った。
宿泊したホステルは、旅を始めるのに最高の場所だった。いろんな国の若い旅人がたくさんいた。僕はみんなとお互いの旅の話をしながら、リラックスした夜を過ごしたよ。それぞれが行った場所や、これから行こうと思っている場所の話をしたりしてね。そして翌日、ついに僕の旅が始まることになる。
インディアン居留地を通り、モンタナ州にあるPNTの東端から、ついにスタート。
PNTは、モンタナ州、アイダホ州、ワシントン州の3州をまたぐ1,200mile(1,930km)のロングトレイル。今回の記事は、スタート地点の「ベリー・リバー・トレイルヘッド」から「ユーレカ」までの約150mile (240km) のレポートだ。
PNTの東端まで行くには、ちょっとした工夫が必要だ。シャトルバスが出ている年もあるけど、その運行はまばら。しかも最近、トレイルヘッドは運行の対象外になり、ハイカーは親切な地元の人や、旅行者のクルマに便乗するしかなくなってしまったんだ。
イースト・グレイシャーとPNTのスタート地点の間には、ブラックフィード・インディアン居留地がある。そこを車で横切っていた時、僕がこれから旅するこの土地で、昔から暮らしてきた人々の歴史に思いを馳せた。
スルーハイクを始めるにも、終えるにも、グレイシャーほど適した場所はない。とにかく景色が最高に素晴らしい。
僕はこの国立公園のなかを、2日半かけて歩いていった。雪に覆われた険しい峰々の息をのむような景色、ベアグラス (ユッカ・フラキダ) など野生の草花が生い茂る高山の牧草地、雪に覆われたストーニー・インディアン・パスの気持ちのいい下り道、コンチネンタル・ディバイド・トレイルと重なるルートを歩けるトレイル。このように、この国立公園にはハイライトもたくさんある。
キャンプ地は、高山の湖の近くにあることが多かった。湖には、標高の高いところにある雪原から流れ落ちてくる滝もあった。国立公園内には野生動物もたくさんいて、グリズリーベアの足跡や毛も見たけど、熊自体を見ることはなかったね。
ポールブリッジという山の町で、ピザとビールを楽しむ。
グレイシャー国立公園での最終日。僕はかなりの距離をハイキングして、公園の西端にある山の中の小さな町ポールブリッジに到着した。この町の主要な商売は、バー、商店、ホステルの3つで、ハイカーや観光客に人気がある場所なんだ。
僕が到着したのは夜で、この町にある自家発電のみのオフグリッドの生活をしているコミュニティにたどり着いた。そうしたら、バーの前の芝生でライブ演奏していて、僕はそこのバーで、できたてのピザと冷えたビールを楽しんだよ。
モンタナ州ポールブリッジにて。ノーザンライツ・サルーンの芝生の上でのライブ演奏。
ポールブリッジから次の補給地点であるユーレカまで、PNTはフラットヘッド国有林を横断し、隣のクーテナイ国有林へと続いていく。このセクションでは、ハイカーは国立公園の混雑とは無縁の、信じられないほど美しい景色を楽しむことができる。
トレイルはよりワイルドな感じで、トレイルが少し荒れているところもある。起伏のある高所の稜線で、狭いトレイルを歩くこともあるけれど、だいたいこれらのトレイルは、古い林業用道路につながっていることが多いんだ。
こういったシチュエーションはPNT特有のものではないけど、トレイルが開発されて間もないため、一部のエリアでは多く見られるね。
このセクションのハイライトは、フラットヘッド国有林のホワイトフィッシュ・ディバイド。
稜線をたどりながら、森を抜けていくつもの山のピークをつないで歩いていくんだ。フラットヘッド国有林の管理計画が最近改訂されて、PNTの周辺1mileのエリアが保護対象になり (70平方kmの保護)、北側に見えるエリアを原生地域に指定しようとしているんだ。
最初の主要な補給地、モンタナ州ユーレカの町に到着。
クーテナイ国有林の中に入っていくと、トレイルは展望台のあるワム山を通る。この展望台は、1931年に周辺の森林の山火事を見張るために建てられたんだ。
その先には、テン・レイクス・シーニック・エリアにあるブルーバード・ベイスンのトラバースなどのハイライトもあるんだ。
ストーニー・インディアン・パスの登りでは、この景色を楽しみながら自分がどこから歩いて来たのかを振り返った。PNTは、この谷を通りトレイルの東端に流れ出る川に沿って走っている。
高地エリアを抜けた後は、モンタナ州ユーレカの町に下りてく。僕にとってここが最初の主要な補給地点となった。
僕はクサンカ・モーテルに泊まることにした。料金は安いんだけど、町の北端にあって周辺の商業施設からは離れてしまっている宿なんだ。今ではPNTハイカーは、食事やお酒が飲めるお店が近くにあるコミュニティパークでキャンプできるようになっているよ。
僕はユーレカで2日間休んで、この先の険しいセクションに備えて町の食料品店で補給をした。次の週には、PNTのなかでも辺境のエリアをいくつか横断し、2つ目の州であるアイダホ州に入っていく予定だ。
PNTの最初の大きな身体的チャレンジは、ストーニー・インディアン・パスの北面をいかに安全に下ることができるか。なぜならここは、スルーハイクのシーズンになると、雪が積もることが多いため。
ジェフのPNTスルーハイク・レポートの第1回は、「旅立ち編」ともいうべき、まさにこれから旅が始まるざわつきが感じられるレポートだった。
今回のレポートでジェフが歩いた区間は、PNTの東端のスタート地点〜ユーレカという町までの、約150mileのセクションだ。
最初の州のモンタナ州を歩き終えたジェフは、次回はアイダホ州へ向かう。どんな景色と旅を綴ってくれるのか、僕たち自身も楽しみです。
TRAILS AMBASSADOR / ジェフ・キッシュ
ジェフ・キッシュは、アメリカのロング・ディスタンス・ハイキングのコミュニティにもっとも強くコミットしているハイカーのひとりであり、最前線のトレイルカルチャーを体感し、体現している人物。ハイカーとしてPCTとPNTをスルーハイクしていることはもちろん、代表的なハイカーコミュニティであるALDHA-Westの理事を2年間務め、さらに現在はパシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)の運営組織にジョインし、トレイルづくりに尽力している。これほどまでに全方位的にトレイルに深く関わっている人は、アメリカのハイキングシーンにおいても非常に稀である。そんなハイカージェフの、トレイルとともに生きるハイカーライフをシェアしてもらうことは、僕たちにとって刺激的で学びがあるはず。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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