コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) | #05 トリップ編 その7 DAY40~DAY64 by Gazelle(class of 2022)
文・写真:Gazelle 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
今回は2022年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Gazelleによるレポート。
全4回でレポートするトリップ編のその2。今回は、CDTのスルーハイキングのDAY40からDAY64での旅の内容をレポートする。
※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。

コンチネンタル・ディバイ・トレイル (CDT:Continental Divide Trail)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
ワイオミングに入り、イエローストーン国立公園へ。(DAY38〜DAY46)

いよいよワイオミング。
単調な林道を歩いていると、「Welcome to Wyoming!」と書かれたブリキの板が石の上に置かれていた。
長く過酷だったモンタナセクションが終わり、ついにワイオミング州に入ったのだ。
この頃から、メキシコ国境から歩いてきたNOBOハイカーと多くすれ違うようになり、情報交換ができて助かった。やっかいだったヘルペスもすっかり治った。

オールドフェイスフルガイザー。
イエローストーン国立公園は、間欠泉や温泉があちこちで湧き出す世界的に有名な観光地で、多くのツーリストが集まる賑やかな場所だ。その中でも核心部にある「オールドフェイスフルガイザー」は、数万トンの熱湯を50メートルの高さまで一定周期で吹き出す。
その様子は、まさに「地球は生きている」ということを感じられるものだった。

硫黄の香りが立ち込める温泉。
残念ながら僕は会えなかったがアメリカバイソンの生息地としても知られる。
またグリズリーも数多く生息しており、2023年にはハイカーが襲われて命を落とすという痛ましい事件が起きている。
人の多いエリアを抜けてからは歌ったり叫んだりしながら、常に辺りを警戒しながら歩いた。

共にCDTの旅をスタートしたジャックと1カ月ぶりの再会。
イエローストーンを抜けたところで、稜線で休憩しているジャックを発見。久しぶりに一緒に歩き始めた。しばらく行くと前を歩くジャックが急に立ち止まり、
「ガゼル、俺たち道を間違えてる。引き返そう」
という。なんで地図も見てないのにそう思うのかと聞くと、
「さっきから何度か蜘蛛の巣にぶつかった。」
という。ハイカーの多い時間帯に蜘蛛の巣がそのまま残っているのは確かにおかしい。
経験豊富なジャックはこういうトレイルTIPSをいくつも持っている。

今日の寝床を探しつつ町を歩く。
デュボアの町に近づくと急に天気が崩れだし、サンダーストームになった。翌日も大雨の予報だったので、ゼロデイをとることにした。
ジャック、ピンクマン、スカイバードと共にスーパーで買い物をし、教会へ泊まらせてもらうことができた。キッチンでピンクマンが手際よく晩めしを作ってくれた。ペンシルベニアの牧場で自然相手に育った彼はサバイバル知識が豊富で、釣りも料理も達者。彼もまたスーパーハイカーだ。

年に一度のデュボアフライデーナイトロデオ。
ラッキーなことに、この日は町外れの広場でロデオショーが開催される日だった。腹ごしらえを済ませ、みんなでビール片手に会場へ向かった。
初めて見る生のロデオショー。僕は終始興奮しっぱなしだった。
大自然だけでなく、こうして異文化に触れられるのもロングトレイルハイキングの魅力の1つだと思う。

マスタッシュ (口ひげ) を整えるための松ヤニを溶かすピンクマン。
CDT屈指の絶景セクション、ウインドリバー・レンジ。(DAY47〜DAY55)

朝マズメ (日の出前後1時間の、薄暗い時間帯) にブラウントラウトをキャッチ。
デュボアの街を出るとトレイルは徐々に標高を上げていき山岳地帯「ウインドリバー・レンジ」に入った。PCTのシエラネバダを思わせる4,000m級の山々が連なる、CDTでも屈指の絶景セクションだ。
透き通ったアルパインレイクにはトラウトたちが泳ぎ、多くの釣り好きハイカーが足止めを食らうことになる。僕もその”被害者”の1人だ。

ウインドリバーレンジ。
見晴らしの良い稜線を歩いていると、数十メートル先の丘をものすごい速さで移動する動物の群れが見えた。
地球上で二番目に足の速い動物、「プロングホーン」だ!
彼らは僕の視界の端から端をあっという間に駆け抜け、消えていった。
時には最高時速90kmで走るというその姿は、まるで地面すれすれを滑空しているようだった。
楽な道を行くか、楽しい道を行くか。(DAY49〜DAY53)

不思議な形をした岩山が連なるサーク・オブ・ザ・タワー。
僕はこの先の難易度の高いオプションルート、「ナップサック・コル」と「サーク・オブ・ザ・タワー」をゆくか、それともイージーなオリジナルルートをゆくかを悩んでいた。
なるべく早く進まないとコロラド州のサンワン山脈で新雪に阻まれてしまうからだ。
確実にCDTを踏破したい。けれど、いつか「あそこも行くべきだったな」という後悔はしたくない。こんなアメリカの奥地には2度と来られないんだ。
ピンクマンたちは自信があるのか、何も考えていないのか、はなからオプションルートを行く気まんまんだ。
決めきれない僕は、すれ違うNOBOハイカーたちに「ナップサックコルはどうだった?」と聞きまくった。するとほぼ全員から
「アメージングだよ!」「スイートだよ!」「ゴージャスだよ!」「プリティーだよ、きみも絶対行くべきだ!」
と返ってきた。アメリカ人の褒め言葉のレパートリーは本当に面白い。
ナップサックコルへの分岐にさしかかった。僕はピンクマンたちを追うようにナップサックコルのルートへ突き進んだ。
徐々にトレースが消え、もはや“トレイル”と呼べるものではなくなっていく。折り重なった巨岩をよじ登っては飛び降りる。その繰り返しが続いた。標高は約3,700メートル。息が上がり力が入らない。すぐ前にいたはずのピンクマンたちは、もう遥か先へ行ってしまった。

ナップサックコル。
やがて、壁のように立ちはだかるガレ場の急登を必死に這い上がり、ついにコルへと登り詰めた。そして来た道を振り返る。
その美しさは言葉では到底表現できないものだった。目頭が熱くなるより先に、涙が流れていた。
グレートベイスン・デザート。(DAY55〜DAY64)

僕を降ろすと颯爽と走り去って行ったバイカー。
ランダーの町でリサプライを済ませ、トレイルに戻るためにヒッチハイクをしていると、ハーレー乗りのバイカーが止まってくれた。ヒッチでバイクに乗せてもらったのは、これが最初で最後だ。30分ほどのツーリングを満喫し、トレイルに戻った。
ここから約320km続く「グレートベイスン」というデザート (砂漠) エリアに入った。
見渡す限りの青空と一直線の地平線。日本ではまず見られない、広大な景色とアップダウンのないイージーなトレイルにテンション爆上がりだ。

果てしなく続くダートロード。
が、それも初日だけだった。すぐに単調な景色に飽き、一日中、右、左と代わる代わる前に出てくる自分の足を見ながら歩く。僕はうつむきながら淡々と地平線を目指すロボットと化した。

プープ・ウォーター。
やっとたどり着いた水場は、数十頭の牛がたむろする沼だ。水面には泡と茶色いカタマリが浮いている。かるく牛たちに挨拶し、手早く水を汲み、手ぬぐいと浄水器で濾過した。
バクテリアは取り除けても、色と臭いは取り除けなかった。しかし背に腹は変えられない。鼻をつまんでガブ飲みだ。

雨の少ないベイスンではほぼテントを張ることはなかった。
灼熱の荒野のように見えるが、実はこのエリアの標高は2,000m以上ある。日中は強烈な日差しが降り注ぐが、夜は一気に冷え込む厳しい環境だ。
7日ほどでグレートベイスンを歩ききり、エンカンプメント・サラトガの町に着き、ダブルゼロデイをとってるピンクマンたちと再会した。

天然温泉の温水プール。
ペンシルベニアから25時間も運転して応援に来たという、ピンクマンのクレイジーな彼女も合流。みんなで無料の温水プールで疲れを癒し、ブルワリーで地ビールを味わい、バーではカントリーミュージックを聴きながらゆっくり夜を楽しんだ。アメリカではどこの町でも、その土地の地ビールを醸造するブルワリーがある。
大自然だけじゃなく、こんなふうにその土地の「おいしいもの」に出会えるのも、ロング・ディスタンス・ハイキングの魅力のひとつだと思う。

地元ブルワリーのクラフトビールを飲み比べ。
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