TRAILS REPORT

【POP HIKE CHIBA対談】土屋智哉 × 宮内優里「ULとアンビエントミュージックが”シンプル”にたどりついた理由」

2017.12.15
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土屋智哉×ミュージシャンという異色の対談。山歩きと音楽という異なるジャンルの話が、ライトでシンプルであることの価値について思わぬ結合点にたどり着く。

今回のPOP HIKE CHIBAは、アンビエント・ミュージックをつくる宮内優里 MIYAUCHI YURIさんをゲストにむかえ、この日に山で録音した音をもとにオリジナル楽曲を制作してもらった。高橋幸宏、小山田圭吾、星野源などともコラボレーションしている宮内さんの音楽とハイキングの融合だなんて!と、ときめきっぱなしの僕たち。

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宮内優里 Miyauchi Yuri

ハイキングと音楽がこんな形で親密に結びつくとは、僕たち自身も思っていなかったほど、とても特別な1日となった。以下に掲載した対談は、この日のパーティでおこなわれたものである。

UL(ウルトラライト)ハイキングは、山の道具をシンプルにすること。アンビエント・ミュージックは、音をシンプルにすること。そこに見られた共通点は、僕たちのライフや旅において、大事にしたいものって何だろう、というヒントをあたえてくれるものだった。

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POP HIKE CHIBA | 曽我部恵一氏など多くの著名なミュージシャンがLiveしに訪れることで知られる、西千葉にあるcafeSTAND。そのcafeSTANDオーガーナイズのもと、同じく同郷千葉出身のGreat Cossy Mountain(西千葉にファクトリーを構えKING OF MELLOW HIKING GEARを提唱するギアメーカー)と、TRAILSがサポートハイカーとして参画。ゲストハイカーにHiker’s Depot(ハイカーズデポ)土屋氏をにむかえる。「HIKING × LOCAL × MUSIC」の融合をテーマとした、メロウなローカルハイキングイベント。



POP HIKE CHIBA vol. 6 ~山音の奏でる音楽~ in 館山野鳥の森



ある日のハイキングの「音」をもとに、ひとつの音楽をつくる。今回のPOP HIKE CHIBAでは、そんなことをこころみた。

ハイキングや山のなかにいつもある「音」。風の音、草木が揺れる音、水の流れる音、鳥たちの鳴き声、自分の足音や笑い声。これらの音を、山のなかでハイカーは自分たちのスマホで録音する。その音源をもとに、その日のうちにつくりあげられた、ひとつの楽曲。

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ハイカーたちはおのおののスマホで、聞こえてくる山のなかの音を録音した。

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館山野鳥の森 | 今回ハイキングにでかけた、房総半島の山。房総半島特有の山から海を眺められる低山。晴れて空気が澄んでいれば、富士山や大島も大きく見える。植生も豊かで、マテバシイやメタセコイアやモミの木の巨木も見ることができる。

そんな素敵な音楽をつくってくれたのは、ミュージシャンの宮内優里さん。宮内優里さんは、アンビエント・ミュージックと呼ばれるジャンルの音楽をつくる方で、生楽器の演奏とプログラミングを織り交ぜ、たおやかで有機的な電子音楽をつくりだす。この音楽のなかに、ハイキングや山のなかで採取した音を織り交ぜて、POP HIKE CHIBAだけの音楽ができあがった。ハイカーが採った音をその場で送り、それをリアルタイムでサンプリング作業して、たった半日で1つの曲にしてもらった。

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宮内優里 | これまでに高橋幸宏、原田知世、小山田圭吾、星野源など、国内外問わず様々なアーティストとのコラボレーション作品もつくっている。ライブは、たった一人で様々な楽器の音をその場で多重録音していくスタイルで、独特の音の空間が出現する。http://www.miyauchiyuri.com/

今回のMOVIEに収録されているのが、そのときに制作していただいた曲だ。以下の対談記事を読む前に、まずはこの音楽を聴いてみてほしい。

[MUSIC & MOVIE]

music by Miyauchi Yuri / 2017.11.25 POP HIKE CHIBA vol.6


*  *  *

それでは土屋智哉さん、宮内優里さんの対談をお楽しみください。

【対談】 土屋智哉(ウルトラライトハイキング)×宮内優里(アンビエントミュージック) at POP HIKE CHIBA after party



曲のなかの音の数という点では、実はそんなに前と変わってなかったりするんです。でも、無理に盛り上げたりする熱量みたいなものを省いていってるイメージです。(宮内)



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宮内 はじめましてですね。

土屋 そうですね。どうも、はじめまして。塚本くん(POP HIKE CHIBA主催者でありcafeSTANDオーナー)から宮内さんとの対談の話をもらったときに、最初は何を話せばよいかわからなかったんです。でも塚本くんの話を聞いてみると、ウルトラライトは道具をシンプルに、アンビエント・ミュージックは音をシンプルにすることであたらしい世界をつくっている。そこには何か似たものがある気がするし、土屋さんのウルトラライトの話と、宮内さんの音楽論にも共通のものを感じるって言ってたんです。それで塚本くんが考えていることに、なるほどなと思って。

宮内 塚本くんがそんな話をしていたんですね。

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土屋 そうなんです。で、まず僕から質問をしてみたいのですが、宮内さんが音楽をつくるときに、いらない音を省いていくっていうイメージなのか、それとも必要な音はこれだけでいいというイメージなのか、どういう感じなんですか?

宮内 今、言ってくださった「音を省いていく」ということについて言うと、僕はちょっと前までは、テンポの速い曲とか、アレンジを壮大にしたものとか、あるいは、大きいリズムの音を入れて、ベースもしっかりうねってみたいな、そういうお客さんを圧倒するような音楽というものもつくっていたんですね。でも、それにちょっと疲れちゃって(笑)。

土屋 (笑)

宮内 べつに圧倒しなくてもいいかな、と思うようになってきて。曲のなかの音の数という点では、実はそんなに前と変わってなかったりするんです。でも、無理に盛り上げたりする熱量みたいなものを省いていってるイメージです。本当に音楽に必要な盛り上がりなのかな、っていうのを考えてつくるようになってきました。

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宮内 もちろんCDの売上とか、音楽の世の中への広がり方を考えると、以前は派手な曲とかテンポの速い曲とか、インパクトを残せる曲を作りがちでした。でも僕が「今」好きな音楽は、少し違うのかもしれないと思ってきて。きちんと芯があればいい。そのためには、無理にテンポを速くするのはやめようとか、ゴージャスなストリングスは省いてとか、そういうふうになってきました。



僕のULは「いらないものを捨てる」というより「足るを知る」という視点を大事にしているんです。(土屋)



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GREAT COSSY MOUNTAIN(Gコ山)のバックパックを背負うハイカー(POP HIKER Middle Distance)。Gコ山は、ULギアメーカーのなかにおいても、とりわけシンプリシティを追求したギア作りをしているメーカー。

土屋 さっきのライブもとても気持ち良かったです。今日のお昼にもハイキングの後に話していたんだけれども、ウルトラライト・ハイキングって、道具を軽くするということの向こう側に、シンプルにするってことがあるんです。ウルトラライトの背景には、山で何かをするというより、シンプルになることで、山にいることを楽しむとか、歩くこと自体を楽しむみたいな考えがあるんですね。そういったことでいうと、今日は山の音を楽しみながら山にいるというのは、とてもよかったなあと。

宮内 僕はそのときスタジオにいましたが、みなさんから送られてくる音のファイルを聞きながら、自然の音とか、笑い声とか、いろんな音があって面白かったですね。

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土屋 自分のお店(ハイカーズデポ)でお客さんと話すときには、「いらないもの」を減らすという言い方は、僕はしないようにしているんです。なぜかというと、自分が必要だと思ったものを、他人が「いらないもの」というふうに表現したくはないんです。それって「捨てなさい」って上から目線じゃないですか。

なにかよい表現がないかなと思ったときに、「足るを知る(タルヲシル)」という言葉があって。それが自分のなかではすごくウルトラライトっぽいな、と思ったんです。それは「必要なものってなんだろう」って考え方なんですよね。これがあれば自分は満ち足りるとか、これで自分は充分っていうものをみさだめていく。この考え方だと、自分が「足る」状態になるにはこれだけでいい、っていう意識で道具を選ぼうと思えるようになるし、そういう考え方を伝えたいなって思っているんです。

宮内 なるほど、「足るを知る」という感覚ですね。

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土屋さんが使うハイキングという言葉と同じように、僕はアンビエントでなくBGMという言葉を使っています。難しくせずに、べつにBGMでいいかって(宮内)



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土屋 僕の今日の話もハイキングだし、イベントの名前もPOP HIKEですが、僕が店を出す10年くらい前は、「ハイキング」っていう言葉ってそんなに使われてなかったんですよね。

ハイキングってなんかゆるい感じがあるじゃないですか。登山とか、トレッキングっていう言葉って、どこかで自分を大きく見せたい、というニュアンスが含まれているようなところもあると思うんです。でも「ハイキングで、いいんじゃない?」って思って。誰もがやれるから、ハイキングっていいんじゃないか、って思うようになったんです。

さっき宮内さんが話していた、音楽も大きく見せなくていいっていう話とか、僕が山で足るに十分なものってこれだけでいいっていう話って、別にあきらめてそうしているわけじゃないんです。

宮内 そうそう、そうなんです。

土屋 そうなんですよね。べつに後ろ向きな気持ちでそうしているわけじゃなくって、かなり前向きな気持ちでやってるんです。

宮内 そう、かなり前向き!(笑)

会場 (笑)

宮内 こっちとしては、むしろかなり攻めてるんです。

土屋 そう、かなり攻めてる!謙虚になってるんじゃなくて、むしろけっこう攻めてるんです。

宮内 今の話、すごく面白いですね。

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土屋 ハイキングがもっている「これでいいんだ」っていう感じが、ようやく前向きに出せるようになった、っていう感じもあるんです。コッシー(GREAT COSSY MOUNTAIN主宰の大越智哉)だって、山を初めて30年とかだもんね。僕も25年くらいやっているなかで、最初はかなりイキってた時代があるわけですよ。それを通り越して、「これで、十分です」って、思えるようになったのもあります。

宮内 僕もまったく同じ話で「BGM LAB.」というユニットを去年からやっていて、僕も「べつにBGMでいいか」っていう感じだったんです。

僕がやっている音楽っていうのは「アンビエント・ミュージック」という音楽なんですが、でもそんなのわからない人も多いと思うんですよね。アンビエントとか、エレクトロニカとか、ポストクラシカルとか、難しい言葉がたくさんありますよね。僕がやりたいのは、ヘッドホンで一生懸命に聞くような音楽じゃなくって、日常でずっとかかっていても飽きない音楽みたいなのものをやりたいんです。そういう音楽をあらわす言葉で一番わかりやすいのは「BGM」だな、と。

土屋 あー、それはすごくわかります。

宮内 そうそう。いまハイキングの話をうかがっていて、ほとんど同じだなと思って。やることは深くやりたいんだけど、見え方としては浅くていいというか、ライトな感じでいいだろう、と思っているんです。

土屋 そうですよね。入り口はすごく入りやすい状態がよい。誰もがやれることが大事。深くやろうと思ったら深くいける。そして、べつに深くやらなくても十分に楽しいっていうのもよい。

ウルトラライト・ハイキングについても、最初はテント泊をしながら長く歩く人たちのためにできた方法論なんだけども、別に長く歩かなくてもいいんですよ、っていうか。あれしきゃいけない、これしなきゃいけない、というよりは、そういう幅があったほうがいいと思うし。

ハイキングとか、BGMくらい楽な感じだと、日常のとなりにあるもので、すぐ手に取れるとか、すぐ聴けるとか、すぐ行けるとかっていう感覚があるじゃないですか。そういうことを、いまは大事にしています。

自分はやらなくても、すごく難しいことをやっている方たちのことももちろんリスペクトしています。ただ自分自身はそうじゃないというだけで。

宮内 なんだか、今日の話、面白いですね(笑)。土屋さんも、僕も、おんなじことを言っているような感覚がすごいあって。

土屋 いやー、この場をアレンジしてくれた、塚本くん(café STANDのオーナー)が見抜いてたんじゃないですか(笑)

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写真右: POP HIKE CHIBAのオーガナイザーでありcafeSTANDオーナーの塚本さん

塚本 僕は、お二人にそれぞれ違うところで会っていたんですが、すごくお二人が合ってるなと思ったんです。お二人の言っていることや思っていることが、なんか似てるんじゃないかと感じてたんですよ。

土屋  似ているのはメガネだけじゃなかったですね(笑)。でも、僕は音楽をやる人とこんな話をするとは思っていなくて。

宮内 僕もね。山を歩いている人と、こんな対談をやるのは初めてです(笑)。

土屋 今日はとっても楽しかったです。ありがとうございます。


*  *  *

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ウルトラライトハイキングは、シリアスでヘビーなイメージを伴う「登山」ではなく、軽くてシンプルな道具で、山を歩くことをより気軽なものにしてくれる方法論だ。それって誰でもできることだから「ハイキング」でいいんじゃない?という土屋さん。

それに対し、僕が目指すアンビエント・ミュージックは、日常のなかに溶け込むようにずっとかかっていても飽きないような音楽。だったらそれは「BGM」と呼べばいいじゃないか、という宮内さん。まったく異なるジャンルで、日常に寄りそう軽やかさを目指して、シンプルであることにたどり着いた。

シンプルであることは、ものごとの入り口を広げてくれる。シンプルであるけれど、それはライトにもディープにも戯れることができる。それは、過剰に装飾的になったり、複雑になりすぎた僕らのライフの一部や、僕らが本当は好きだったものを、もう一度、自分たちの世界へととり戻す試みであるかのように思う。そして周りの人や山とつながる関係性を築きなおしていくのだ。

僕らがPOP HIKE CHIBAでやりたかったことについて、今回の対談のなかで、ひとつの回答をもらったような気がした。とても素敵な対談でした。土屋さん、宮内さん、ありがとうございます。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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