TRIP REPORT

Bikepacking Trip 39days | ハンモックで北米のバイクパッキングルートGDMBRを旅する

2018.05.09
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話・写真:二宮勇太郎 取材・構成:TRAILS 

ハンモックは、山道具としてまだまだ未知数のアイテムだ。でも、実際に使ってみれば、一発でやみつきになる極上の気持ち良さがある。

そんなハンモックの可能性を探るべく、2016年、ハイカーズデポの二宮勇太郎氏はアメリカでの1カ月を超えるバイクパッキングの旅に出た。

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モンタナ州南部のダートロード。アメリカならではの開放感あふれる壮大な景色に、しばし見とれる。

そこで実感したのは、ハンモックは「不完全な道具」であるという事実。当然、砂漠地帯など木がないエリアでは、無力化してしまう。一方で、樹林帯の陰でひっそりと幕営できたりと、旅の幸福感を増幅してくれる道具であることも体感した。

1カ月を超えるロングトリップでハンモックを使い続けること。それはチャレンジでありストレンジでもある。この一風変わった試みをするに至った背景とは?さらに、その経験からなにを得て、そしてハンモックに対する姿勢や考え方はどう変わったのか?旅から2年を経過した二宮氏(以下、ニノ)に、その胸の内をあらためて訊いた。

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モンタナ州南部、川辺のキャンプグラウンドにて。この晩は、0度くらいまで気温が下がるも安眠。道中のハンモック泊において、ベストテン内に入るグッドロケーション。


1カ月のバイクパッキングの旅で、キャンプにハンモックを使い続けられるか試してみた。


ー 2016年、アメリカ中部を南北に貫く『グレイト・ディバイド・マウンテン・バイク・ルート(GDMBR)』(※)を走破しに行ったわけですが、PCTスルーハイカーでもあるニノがなぜまた自転車旅を。

「徒歩の良さは重々承知しているのですが、広大な土地を移動する手段としては不自由でもあるんですよね。一日に移動できる距離は30〜40kmが限度ですし、背負う荷物も重い。実際、PCTスルーハイキングにおいては、そういった制約のせいで諦めた寄り道がたくさんありました。

でも、自転車だったらもっと遠くまで速くラクに行ける。もっといろんな寄り道もできる。もともと自転車好きだったこともあって、 “自転車でトレイルを旅してみたい” と思いはじめて。それで、アメリカのみならず世界においても屈指のバイクパッキングルートである『GDMBR』へ行くことにしたのです」

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※ グレイト・ディバイド・マウンテン・バイク・ルート(GDMBR):北はカナダのアルバータ州・バンフから、南はアメリカのニューメキシコ州・アンテロープ・ウェルスまたはコロンバスまで、総延長4455.3kmの自転車用ダートツーリングルート。バイクパッキング・ムーヴメントの中心地であり、バイクパッカー憧れの地。

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ニノが自転車で走った距離はトータル3,039km。熱中症により一部の区間をクルマでスキップしたものの、アプローチも含めて3,000km超の旅路を、38泊39日で走破した。

ー 宿泊道具として選んだのが、まさかのハンモックでした。

「国内でさんざんハンモックを使っていて、ハンモックは無敵だ!と信じてやまなかったんです。なので、かかってこいアメリカ!という感じでしたね(笑)。いったいどのくらい通用するんだろうって。

ちなみに、このときのハンモックキャンプのセットは、全部で589g。バイクパッキングでも充分に使える軽さとサイズでした」

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ハンモックはまだまだ使い方が未知数のギア。山での過ごし方における新たな可能性に惹かれた。


ー そもそも、なにがきかっけでハンモックにハマったんですか?

「以前は、ハンモックを使って山に泊まろうなんて考えたことすらありませんでした。ましてや快適に過ごせるなんて想像できませんでした。でも、試してみたら座るのも寝るのも気持ちがいい。なにより一晩過ごせてしまうことに感動したんです。自分の想像というか先入観とのギャップが大きかったのも、夢中になった理由だと思います」

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以前は、ただのリラックスグッズとしか思っていなかったハンモック。しかし、ハンモック泊の魅力に触れ、その虜になる。

ー 日本でハンモックをいろいろ試してみて感じた可能性とは?

「夢中になってからは、ハンモックで泊まりたいがために山に足を運ぶようになりました。当時住んでいた広島は低山ばかりだったので、ハンモック泊には持ってこいのエリアだったことも拍車をかけました。

どれくらいの雨までなら大丈夫なのか。気温の変化にはどの程度対応できるのか。設営方法の工夫次第でもっとラクに楽しめるのでは。といったように、未知な部分が多いからこそ、工夫や想像をする楽しみがあるということも実感しました。

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TRAILSクルーと共に旅をした銀山街道。ここで、小学校の校庭にあったサッカーゴールにハンモックを張って一夜を過ごす。ハンモックの可能性を実感した瞬間でもあった。

また、2つの支点となる木や岩などがあれば、どこにでも張れてしまう。これまでキャンプが不可能だった場所にも泊まれるし、もはや眼に映るもののほとんどが寝床になるんじゃないかと。そうやってハンモック泊を重ねるごとにハマっていったんです」


バイクパッキングの旅で実感した、ハンモックは「不完全な道具」という事実。


ー 実際、1カ月のバイクパッキングの旅で使ってみて使い勝手はどうでした?

「幕営はトータルで31日だったのですが、そのうちハンモックで寝たのは16日でした。砂漠地帯はハンモックを張れるような木が一切ありませんでしたしね。またGDMBRはキャンプグラウンドを使わざるを得ないケースが多いのですが、でかいクルマで来るお客さんが多いので当然ながらサイトは木が刈り払われて整地されている。それはもうお手上げです。

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総距離3,039kmの旅路において、要した宿泊日数は38泊。その内訳がこちら。

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ワイオミング州のグレイトベイスン(高地砂漠)にて。自転車をひっくり返し、それをタープの支柱として利用した。こういう創意工夫もハンモックの魅力のひとつ。

そもそもハンモックの成り立ちを考えれば、単体で屋外で使えるものではないんです。雨風を遮る機能はないので、防ぐためには屋根となるタープが必要になる。背面は空気にさらされるので、冷え対策も必要になる。

要は、ハンモックは “不完全な道具” なんです。それをこの長旅で実感したのですが、そのぶん自分で考える必要がある、自分が介在する余地があるわけで。そういう観点からすると、逆にとても面白みのあるギアだと思いました」

ー 逆に幕営の約半分はハンモックで泊まれたわけですが、その収穫は?

「たしかにハンモックは万能ではありませんでしたが、失敗したという思いはまったくありません。むしろ、幕営の約半分をハンモックで過ごせたことに満足していますし、僕にとってはプラスアルファの幸福感のほうが大きかったですね」

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旅の生活に安らぎと彩りを与えてくれるもの。それがハンモック。


ー 荷物を徹底的に減らすならタープだけでいいですよね。でも、1つ荷物を増やしてまでハンモックを持っていく理由は?

「1カ月以上のロングトリップは、旅というよりも生活と言っていいかもしれません。いくら旅や自然が好きだからとはいえ、自然の中でひたすら移動を繰り返す生活に、息苦しさを感じることだってあります。

移動にあたっては、身体に大きな負担がかかります。しかも、それに1日の大半の時間を費やしているわけですから、ハンモックが与えてくれる心地よさ、安らぎはとても重要なんです。ハンモックに揺られながら、他に誰もいない森のなかで過ごす時間は、僕にとってかけがえのないものでした。

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カナダのキャンプグラウンドにて。ファイアーピットのあるところでは、かならずと言っていいほど焚き火をした。疲れを癒す上で、ハンモック&焚き火は最高の組み合わせ。

またハンモックを使うことは、僕にとってゲームのようなものでもあります。自然のなかでいかにうまくハンモックを張るか。ときには想像もできなかった形で僕を驚かせてくれるハンモックは、旅に彩りを添える存在でもあります。旅の生活を豊かにしてくれるアイテムとも言えます。

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どんなシチュエーションであろうとも、それに合わせて寝床を作る。時にはハンモック、時にはタープ。野営を重ねるごとに、あらたな気づきや発見が生まれる。

それにハンモックはロングトリップだけでなく、デイハイクや一泊、二泊などの身近なハイキングも、より楽しいものにしてくれます。新たな視点で僕たちに自由を与えてくれるギア。それがハンモックなのです」

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【サドルバッグ(シートバッグ) / 左】レインジャケット(OR Helium Ⅱ)、レインパンツ(Teton Bros Breath Pants)、レイン&防寒グローブ(Terra Nova Topbag)、Tシャツ(Ibex OD Heather Tee)、アンダーウェア(Smartwool,Pearl Izumi)、保温用帽子(Wool BUFF)、ソックス(Seal Skins Thin Mid,Wigwham Ironman,Darn Tough No Show L/C)、サンダル(LUNA Venado)、クッカー(VARGO BOT)、ストーブシステム(TRAIL DESIGNS Caldera Cone System)、ライター(Bic Mini)、カトラリー(MSR Folding Spork)、ファーストエイドキット、洗面セット、トイレセット、カメラ(Olympus OM-D)、カメラ用バッテリーなど 【フレームバッグ / 中央】水筒(Platypus 2L,SAWYER 2L)、ウォーターフィルター(SAWYER)、自転車修理キット、スペアチューブ、ワイヤーロックなど 【ハンドルバーバッグ / 右】ハンモック(ENO SUB7&Hummingbird ツリーストラップ)、シェルター(TRAILBUM CT TARP、ガイライン)、グラウンドシート(SOL Emergency Blanket)、ペグ(Tiペグ、アルミペグのMix 7本)、スリーピングバッグ(Highland Design Downbag UDD 10dカスタム)、スリーピングマット(Thermarest Neo-Air X-Lite W’sR)、インサレーションジャケット(Highland Design Superlight DownJKT 15d Ver)など 【その他 / 中央下】ポケット(REVELATE DESIGNS POCKET)、トップチューブバッグ(REVELATE DESIGNS GASTANK)、アクセサリーバッグ(REVELATE DESIGNS FEEDBAG x2)、GPS(Garmin e-Trex 20x)、ガイドブック&マップ(GDMBRマップ&ガイドブック)、ヘッドランプ(Black Diamond SPOT,PETZL e-LITE)など 【総重量】8,528g(水と食料を除く)

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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