TRAILS REPORT

そこに山があったからだ。〜Because It’s There 〜♯01;本間良二

2015.06.26
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■ULの「これでいいじゃん」てとこが好き

佐井 本間さん的にULの何がいちばん衝撃でした?

本間 俺がULの感覚でいちばん好きだったのは、「これでいいじゃん」ってとこ。なかのモノを濡らさないってことでいえば、スタッフザックなんてジップロックでもいいわけじゃん?

三田 そうだね。レジ袋だっていいわけで。

本間 いいんだよね。「これでいいじゃん」っていうあの感覚がすげえ好き。

佐井 考えたら本間さんはスタイリングでも「これでいいじゃん」をやってた人ですもんね。

三田 それでさっそくMYOGも始めたわけだよね。あの良二君が最初に作ったブルーシートで作ったウォレットとか、「これぞUL!」って感じで結構衝撃的だったけど(笑)。

三田と佐井が衝撃を受けた「これでいいじゃん」感満載のブルーシート生地のハイカーウォレット。

本間 ブルーシートはここにあったから使っただけなんだけどね。

三田 それも「これでいいじゃん」ってことだよね。

本間 まずはあるもんでいいかなって。

佐井 でもなかなかそこに辿り着かないですよ。しかもブルーシートなのにカッコよくて(笑)。

三田 山登ったりMYOGしたりってので良二君のもの作りにも影響は出た?

本間 うん。出た出た。素材にはそれまでも拘っていたけれど、主に服のテクスチャーとか経年変化とかを意識していたのね。でももっと着心地とか早く乾くかとか、そういうとこになってきた。とはいえウチは山のギアを作ってるわけじゃないから、山で得た経験とか感覚を街着に落として、街でも快適に着てもらうって感じかな。山で着てもらうことも可能だと思うけど、でもそこまでギアとして本気で作っているわけじゃないからね。ギアとして本気で作っている皆さんもいるわけだし、ウチはあえてそこには行かない方がいいかなと。

三田 それでブルーシートのウォレットに始まり、レイウェイのバックパックを奥さんの分まで作ったり(笑)、サコッシュとかポンチョを作ったり、さっきもX-Pacの生地でメッセンジャーバッグとかトートバッグを縫ってるとこ見せてもらったりしたけど、良二君的にそこまでMYOGにビビッと来たのはどのへんがポイントだったの?

本間 MYOGってさ、たとえばファッションの世界でいうとバビロンのピラミッドがあって、いちばんてっぺんはトップメゾンみたいな超高級ブランドがあって、真ん中は一般的なブランドがあって、消費者はそのピラミッドのいちばん下に置かれてるわけじゃん? 頂点から下々に落ちていく構造になっていて、でもMYOGってその最下層からのカウンターだと思うんだよね。それがガレージメーカーになったりだとか……いや違う、コテージ・マニュファクチャラーっていうんだっけ(笑)?…になったりだとかさ。もちろんそんなに大それたカウンターじゃないけれど、それでも静かなカウンターだよね。サーフィンとかスケボーとかスノボとかの業界も山と似た世界だと思うけど、そっちではなかなかないからね。俺がファッションで好きなのは、そのカウンターがあるとこなんだ。ファッションはピラミッドをひっくり返すことがたまにあるんだよ。

佐井 たしかにファッションの世界でいうマンション・ブランドなんか似てるかもしれませんね。

本間 そう。そういうの面白いじゃん?

三田 そっか。よく考えたら良二君もファッションの世界でそれをずっとやってきたわけだもんね。

本間 そうそう。ずーっとそれをやっているんだよ。

三田 今日見せてくれた2-Tacsの事務所も完全に自宅ガレージだったもんね。メッセンジャーバッグとかトートバッグとかは良二君がまさにマニュファクチャー(家内制手工業)で縫ってるわけで。

本間 手作りのものってあれはあれで工場出したら出せない味があるからね。エリック・ゾーって人がいて、80年代にゾー・バッグっていうメッセンジャー・バッグを手作りしてた人なんだけど、太い番手の糸で適当に縫ってるのがいい感じだったんだよね。それをサンフランシスコのロコが持ってるのとか見て「カッコいい~」って。そういうの見てきたから、手作りの部分も残しておきたいなって。

三田 でもさ、なんでそういうのが「カッコいい」って思っちゃうんだろうね。ULのコテージものとかが、なんでマスプロの完成度高いものよりグッときちゃうんだろう?

佐井 俺もそれ知りたい。

本間 なんでだろうね。俺、アメリカのコテージ系ではZ-Packsが結構好きなんだけど、(縫いで)番手の太い糸使って、ここで止まりたかったんだろうけどズレちゃってる感じとか好きなんだよ(笑)。日本の生産背景でいったらそれはB品になっちゃうかもしれないじゃん? でもそれを良しとして出す。で、それを良しとして買う人もいる。そこの何かだよね。

三田 そこの何かだよね。UL好きな人には純粋に山行のスタイルとして好きな人もいるだろうけど、あの道具の魅力にやられている人もいるわけじゃない? 

本間 みんな絶対感じてるでしょ。

三田 あの手作り感がピンと来ない人もいるだろうし、でもそこにこそビンビン来る人もいるし、でもULにどっぷりはまる人ってやっぱあの手作り感にビンビン来るタイプの人ではあると思うんだよね。

良二君手製のレイウェイのバックパック。

佐井 だから最近のってちょっとキレイすぎちゃって魅力を感じないことがあるんですよね。

本間 わかる、わかる。

三田 でもさ、それって手作りならなんでもいいわけじゃないじゃん? 手作りなら木彫りの熊でもいいわけじゃないでしょ?

本間 ステッチ一本間違えてるなってのを見たときに、「あ、遠い彼の地で間違えたやつが飛行機か船に揺られてここに来て、それがいま俺のとこに届いたぜ」みたいなさ、そういうのが良いんだよね。そういう感覚って最近なくない?

三田 ないよね。

本間 だから初期のアイビーだったりだとか、昔のポパイ作ってたような人たちがカタログ通販でLLビーンを買ってた頃とちょっと似てるんじゃないかな? 俺はもちろんその頃のことは知らないけど。

三田 そうかもね。俺たちが中学とか高校くらいのときにグレゴリーとかパタゴニアが日本に入ってきたときもそういうこと感じてたような気もするし。

本間 だからそれの今バージョンだよね。それがいま実際にあるメイド・イン・USAで、それをわざわざ語るまでもなく、ただやってるだけのメイド・イン・USAってとこがなんかグッとこない? そうせざるをえないっていう状況のメイド・イン・USA(笑)。俺も100%アメリカ万歳って人間じゃないけども、そこに国境を越えた共感があるっていうか、初期衝動の一発目が入ってる感じがいいいんだよ。さっきの話で俺のスタイリングがみんなにも真似できたってのと一緒で、ハードル低いっていうか、「俺でも行けんじゃね?」って思うようなモノ作りをしてるとこがさ。

三田 だから土屋さんの連載でもよく出てる言葉だけどさ、やっぱりULはパンクだってことだよね。

本間 パンクだね。MYOGなんて超パンク。

佐井 「これでいいじゃん」ってのは今日のひとつのキーワードですよね。でも、それだけじゃない気もしてて。なんだろ? コテージ系のものなかには愛があるっていうのかな。

三田 そうか、愛か。たしかに愛があるからグッとくるのかもね(笑)。

■「やってる」やつがいちばんカッコいい時代

本間 90年代はさ、とりあえず情報持ってる奴が偉くて、さらに珍しいものを持ってる奴が偉かったじゃん。「スゲエあれ持ってる!」ってさ。それがいまはインターネットが普及して、誰でも情報が入ってくるし買えるようになってさ、ここからの新しい付加価値っていったら、俺は「やってる」ってことしかないんだと思うんだよね。

佐井 なるほど。たしかに「やってる」ですね。

本間 だからULのバックパックとか見たときに思ったのは「こいつやってんな~」って(笑)。

三田 サイトのトップに「いま一ヶ月ばかりどこどこのトレイル歩きにいってるからオーダーは帰ってくるまで待ってくれ」とか書いてあったりしてね(笑)。

本間 それで「クソー! さらにこいつやってる~!」って思うじゃん(笑)。もう「持ってる」とかは全然カッコ良くないもん。

三田 モノを持ってることに意味がなくなっちゃったよね。音楽だってさ、昔は幻の名盤みたいなに持ってるのが偉いってあったじゃん? でも今やYouTubeで何でも聴ける時代になっちゃって、昔だったら1万円 とかしたレコードの音源も誰でも聴けるようになっちゃってさ、誰も持ってないレコードを知ってる、持ってるのがエラいっていう価値観は完全に過去のものになっちゃったよね。とはいえ何かを持ってて偉いってのは幸せな時代だったとも思うけど。それを買うまでにいろいろ情報集めたり、足を使ったり、時間もかかったりしながらああだこうだ妄想してたのもいま思えば豊かな時間だったよね。

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試作中の2層構造のスタッフサック。

本間 手に入れるまでのプロセスがあまりにも短くなっちゃったからね。山も長い方が楽しいってのと一緒で、手に入れるまでのプロセスが長ければ長いほど「やったぜ」って感じになるわけで。でもいまは「欲しい」がすぐに満たされちゃうから、アクションの方が面白いんだよね。山のギアも欲しいと思ったらすぐに手に入れられるけど、手に入れたらすぐにアクションを起こせるじゃん。本質はアクションの方にあるっていうか。

三田 山道具は使ってナンボだからね。

本間 手に入れてそれを眺めて終わりなものじゃないから。

佐井 だからULの道具はさっき本間さんがいってた内包的なものをまだ持ってるってことですかね?

三田 それはULに限らずアウトドア•ギアならどこもあるんじゃない? 素材とか構造にはみんな命かけて開発してるだろうし。

本間 あるある。超ある。でも、ユーザーが感じるものとメーカーが追い求めるものが確実に違う部分が出てくるじゃない。

三田 マスプロはどうしても最大公約数的なとこに行かざるをえないからね。

本間 それをULの人たちは気づいちゃってるっていうかさ。確実に売れそうなプロダクトにはみんな向いてないわけじゃない? それよりも「これでいいじゃん」っていう考え方が出来ているから。

三田 「これでいいじゃん」っていえるには買う方にもリテラシーがいるよね。作る方も買う方もそのリテラシーを持ってるもの同士の関係性っていうか、それが前提にあってさ。

佐井 そのグルーヴ感ですよね。TRAILSもそうありたいなってのは俺はありますよ。

本間 TRAILSはバナー広告がないのが俺は本当に気持ちいい。

佐井 あれはバカだっていわれますけどね(笑)。

本間 いや、超気持ちいい。あれだけで見え方が全然違うもん。めちゃいいと思う。

佐井 正直、立ち上げて一年目は「ここにいるよ」っていうことを定着させられたらいいやっていう感じで、それは一部の人には伝わったんで、今年はもう少し広く認知してもらうことが大事かなって。マニアックにやっていくと排他的になっちゃうこともあると思うんですけれど、絶対にこれは面白いはずだという気持ちもあるんで。

本間 絶対面白いよ。まだみんな気づいてないだけで。あと俺あの最初の妙高でやったイベントの記事とかすごい好きで、あのみんなで右往左往して四苦八苦してながらやってる感じがすごく出てて、本当に良かった。「アパホテルってなんなの~!?」みたいなさ、あのくだりとか超ウケたけど(笑)。「そこまで書くか」って(笑)。いや良かったよ。俺は絶賛だからね、あの記事。

三田 でも、あのイベントは続けなきゃダメだよ。やり続けないと。

佐井 そうだね。ありがたいことに、多方面から「また、やってよー」ってご要望もいただいてるしね(笑) 。

三田 俺も書いてたじゃんあそこで。この一回で終わったら何の意味もないって。あそこが何かの発火点だったんだってしていかないと、あの記事面白かったで終わりじゃん。それを最初にぶち上げたんだから、やって欲しいよ。

佐井 打ち上げ花火で終わっちゃ、カルチャーにはなっていかないからね。カルチャーにしていくために一番大切なことは、続けることだと思っていて。だからこそ、トレイルカルチャーを発信し続ける機能として、行為として、まずはTRAILSというメディアの立ち上げを優先したかったんだよね。あのイベントで、リリース半年遅らせてるからね(笑)。当時は、「メディアはまだ?」っていうご要望を多方面から…(笑)。でも、そろそろイベントに再着手できるなぁと思っているし、いくつか仕込みはじめたこともあったりなので、年末にかけてと、来年ですかね。というわけで、右往左往、四苦八苦しながら続けていきます。

本間 そう、続けることは大事。今日だってこうやって取材にビール持ってきてくれて、そのまま流れでこうして飲むとかさ、普通こんなのないよ(笑)。こないだの鎌倉ハイカーズ・ミーティングのレポートとかも超有益な情報だったし。あれを書けるのは最後はラブだよね。好きだからやってる感じがいいんだよ。好きじゃなきゃやれないからね。

三田 つまるとこULギアと同じだね。やっぱり愛が感じられるからグッとくるんだろうな。歩いてる奴が作ってる感じがね。

厳冬期の八ヶ岳。


■山は超深い

三田 だからさ、山と道がこれだけ日本のコテージ系のなかでも特に大きな存在になってきている理由って、もちろんプロダクトの魅力もあるけどさ、やっぱり夏目(彰)さんがあれだけ執拗に歩き回ってテストしまくっているっていうのがデカイと思うんだよね。

本間 デカい、デカい。

三田 まあ世間一般でいったらまともに働かないで歩き回ってるだけじゃないかっていう見方をする人もいるかもしれないけど(笑)。

本間 いや、そんな見方はナンセンスだよ。それがプロダクトにちゃんと繋がってるからね。

三田 そうそう。それがユーザーにも大なり小なり伝わってるからこその信頼感ってあると思うんだよね。

佐井 あの男はテスト・クレイジーですからね。強迫観念に近いですよ(笑)。

本間 入ってる入ってる。ちょっと狂気感じるもんね(笑)。

佐井 僕、山と道のテスターとかやらせてもらったりするんですけど、テスターのいうこと聞かないですからね。「それは、想定どおりだからいいんだ」みたいな(笑)。たいがいのことは、作り手自身で検証済みだからなかなか反映されない。テスターより、はるかにテストしてる。

本間 人のいうこと聞かないんだ。それテスターの意味ないじゃん(笑)。

佐井 でも強迫観念あるからテスターも頼むんですよ(笑)。でもプロダクトを一個だすことに関しては学ぶとこ多いですね。彼は本当に突き詰めているんで。あと、夏目さんが酔っぱらったときの話で俺すごく憶えてるのが、あの男が最初のバックパック作る前だったんですけど、「佐井さん、俺レジェンドになりたいんだよ」っていったんですよ(笑)。

山と道の夏目彰さんと良二君。赤岳頂上付近にて。

三田 いいそうだな~(笑)。

佐井 で、それ聞いてて由美ちゃん(夏目さんの奥様の由美子さん。)が「やめなさいよ!」って。

一同 (笑)

本間 でも俺は結構そういう話聞いちゃうほうだな。「ん、で?」って(笑)。「もっと来い!」って感じだよね(笑)。

三田 俺も酔っぱらった夏目さんのそういう話聞くの好き(笑)。こないだ俺と良二君と夏目さんの三人で八ヶ岳行って車中泊したときもさ、夜かなり酔っぱらった夏目さんが「僕の話ちゃんと聞いてくれるの三田さんくらいですよ~」って(笑)。

本間 「もっと来い!」だよね(笑)。あんとき最高に楽しかったけど。

三田 だから俺はあの夏目さんのマッドな部分をもっと引き出していきたいなって思ってるんだよね。山と道ってお洒落なイメージあるけどさ、本当はマッドだぞっていう(笑)。でもマッドだからこそああいうプロダクトが作れるんだと思うし。

本間 そうだね。ホタルイカ炙ってるからね(笑)。でもさ、山に登りだして、あと何年生きるのかわからないけど、40年くらいはまたいっこ楽しみが出来たなっていうのは嬉しいよね。だって山って深いじゃん。超深いから。

三田 60になっても70になっても山に登ってる自分でいたいよね。

本間 絶対いたいね。そうじゃなかったら俺、発狂しちゃうかもしんない。山のなかで発狂しても誰も見向きしてくれないけどね(笑)。でもさ、山のなかで超でかい声で叫んだりすると気持ちいいよね。下りのときとかだんだんペースが上がってくる時とか、「うおー!」みたいなさ。あれが超気持ちいい。あんなでかい声で叫ぶことないでしょ、都会で。

三田 ヒマラヤとかで本当にスゴい景色見たときとかも、思わず叫んじゃったりするよね。もう叫ばずにはいられないっていうか。その瞬間って、もう幸せとしかいいようがない。「負けました~」って思うんだけど、負けてバンザイみたいな気分。

本間 「そりゃそうですよね」って感じだよね。負けたことを知れたことに感謝っていうかさ。

三田 そうそう。結局なんで山行きたいかっていったらさ、そんな体験をしたいからなんだよね。

本間 10年後は山に登ってどう考えてるんだろうね?

佐井 今日の夜みたいなことを焚き火して話していたいですけどね。

本間 ね!

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WRITER
三田正明

三田正明

1974年東京都国立市出身。2001年に『Title』(文藝春秋)の連載「To The Boy /少年犯罪被害者の旅」でカメラマン/ライターとしての活動を始める。2001年にザンビアで皆既日食を見て以来南アフリカ・ジンバブエ・タイ・インド・オーストラリア・アルゼンチン・ブラジル・メキシコ・トルコ・ネパール・アメリカ・カナダ・モンゴルなどを放浪。これまでに皆既日食を五度、部分日食を二度、皆既月食を一度見ている。次第に旅の途上で出会った大自然の世界に傾倒し、気がつけばヒマラヤや北米大陸や日本各地のトレイルを歩くように。雑誌『スペクテイター』や『マーマーマガジン』を始めとする多くの雑誌にアウトドアにまつわるドキュメンタリーやトラベローグや連載記事を執筆、TRAILSではメインライターとエディターを務める。
masaakimita.web.fc2.com

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