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井原知一の100miler DAYS #21 | 家族との生活(The Leadville Trail 100 Run)

2024.04.26
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第21回目のテーマは、「家族との生活」です。

今回は、アメリカのコロラド州で開催される100マイルレース、『The Leadville Trail 100 Run』(リードヴィル・トレイル100ラン ※1) を紹介してくれます。

このレースは、トレイルランニングを始めた頃から夢見ていた『Grand Slam of Ultrarunning』(グラドスラム ※2) の達成をかけたレースでした。

69本目となる100マイルで、記念すべきグランドスラムは達成できたのか。またグランドスラム達成へ向けた連戦のなか、自分の夢と、家族へかける負担との葛藤もあったというトモさんは、どのようなに家族との生活を送っていたのでしょうか?

※1 リードヴィル・トレイル100ラン:別名ザ・レース・アクロス・ザ・スカイ、LT100。このレースは、コロラド州リードヴィル近郊の険しいトレイルと未舗装路を走るウルトラマラソンで、ロッキー山脈の中心部を走ります。1983年に初めて開催されたこのレースは、標高2,800~3,850m、累積4,800mを上り下りします。例年、30時間の制限時間内に完走できるのは、スタートした選手の半数に満たないです。またリードヴィルは、ウルトラランニングのグランドスラム (Old Dominion 100、Vermont 100、Western States 100、Leadville、Wasatch Front 100) の一部であり、ロッキーマウンテン・スラム (Hardrock 100、Bighorn 100、Leadville 100、Bear 100、Wasatch 100) の一部でもあります。。

※2 Grand Slam of Ultrarunning:アメリカの5つのもっとも名誉がありもっとも古い100mileレースのうち4つを、同じ年に完走すること。該当レースは、Old Dominion 100 (バージニア州)、Western States (カリフォルニア州)、Vermont 100 (バーモント州)、Leadville 100 (コロラド州)、Wasatch 100 (ユタ州)。


『リードヴィル・トレイル100ラン』の会場にて。

The Leadville Trail 100 Run:グランドスラムをかけたレース。


グランドスラムをかけて、リードヴィル・トレイル100ランに臨む。

トレイルランニングを始めた頃から、漠然と思い描いていた夢に挑戦する機会が、2023年に巡ってきたのです。それはグランドスラムを走ること。アメリカの100マイルレースのなかで歴史のある5レースのうち、4レースを同じ年のうちに完走すると得られるタイトルです。リードヴィルはそのうちの1つのレースでした。


高地で開催されるレースのため、高地順応が課題のレース。

リードヴィルを走るまでに既に3レースを、2ヶ月半で走り終えていました。身体にはたしかに疲労が残っていました。矛盾しているかもしれないけど100マイルを連続して走ってきたからなのか、この短期間で100マイルの耐性に慣れてきたのか、身体が強くなっているような感じもありました。

第4戦の開催地リードヴィルという村は、標高3,120mあたりにあります。富士山でいうと「太郎坊」くらいから走り始めるイメージです。

標高が高いため、10日前に現地入りして高地順応できることを期待していました。しかし慣れない高地でのレースに苦しめられ、前半に潰れてしまう有様。でも、距離の長いウルトラに浮き沈みはつきものです。進み続けていると状況は変わります。


前半で大きく崩れ、その後にプランを変えて完走を目指す展開となった。

後半はどうにか持ち直して、何とかサブ24 (23時間31分18秒) でフィニッシュ。目標としていたサブ20には及びませんでしたが、目標を切り替えて苦労して達成した100マイルの味は格別でした。そして、かつてからの夢であったグランドスラムを達成することができたのでした。

【家族との生活 (その1):レース3週間前】娘のクライミング大会に合わせて家族で大阪へ。


レースの渡米前は、ゆっくりと家族で過ごす。

第3戦が終わった後、第4戦のリードヴィルまで約3週間の時間がありました。その間は、家族と過ごせる時間を大事にしました。

レースとレースのあいだに帰国した際、さくらのクライミング大会も大阪の岸和田で開催され、家族3人で大阪へプチ旅行を兼ねてさくらの応援をしました。


さくらの大会に合わせて、家族で大阪旅行を楽しむ。

【家族との生活 (その2):レース直前】自分のグランドスラムの夢と、家族への負担との葛藤。


グランドスラム挑戦の期間、家族へかけている負担との板挟みにもなった。

レース直前のタイミングは、さくらが夏休みで仙台のおばあちゃん家に行く予定になっていたので、一緒に過ごす時間をつくることができませんでした。

レース直前は家族と過ごす時間もなく、自分はグランドスラムという夢を追いかけながらも、改めて家族には迷惑もかけてしまっているんだ、と少し複雑な気持ちにもなりました。

それでもやっぱり父親として、人生は自分の好きなことに対して突き進む大事さを見せたい、という想いもありました。


短い日本滞在の後、グランドスラムのレースへ向けて再び渡米し、現地入りする。

【家族との生活 (その3):レース直後】リードビルの後に帰国するも、10日後に再び渡米する。

リードヴィルから帰国してから、次のワサッチ100 (※3) への出発まで、9日間しか日本には滞在できませんでした。

短い日数でも、家族との日々たわいのない会話や、朝食や夕食で一緒に過ごす時間を大事にしました。


リードビルの後は、帰国10日後に再びグランドスラムの最終戦ワサッチへ向け渡米。

合間の週末では、さくらのクライミング・レッスンに一緒に行ったり、愛犬オレオと一緒に散歩したり過ごしました。

※3 ワサッチ100: Wasatch 100。正式名称は、The Wasatch Front 100 Mile Endurance Run。ユタ州のワサッチ・フロント山脈で、毎年レイバー・デー後の第1金曜日に開催される100mileのウルトラマラソン。標高3,000mを超える場所も複数あり、標高の高いコースを走る。スローガンは “天国と地獄の100マイル”。グランドスラムの最終戦でもある。

【家族との生活 (その4):レース2週間後】念願のグランドスラム達成を家族でわかち合う。


さくらはどこでもクライミングの練習。

リードヴィルも終え、ワサッチも終え、10年間思い続けていたグランドスラム達成という夢が叶いました。

3ヶ月半のあいだにアメリカと日本を5往復もしました。レース数日前から現地入りすることも多く、結果アメリカから帰国しても日本に滞在する日数が1〜3週間というスケジュールでした。

家族には迷惑をかけてしまったけど、念願のグランドスラムを達成した暁にもらえるワシのトロフィーを家族も喜んでくれて、胸にあったモヤモヤがスッと降りたような気持ちになりました。


さくらのクライミングには、いつも刺激をもらっている。

帰国してからはさくらと一緒にボーリングに行ったり、オレオと一緒にトレイルを走ったり、クライミングスクールに一緒に行ったり、グランドスラム前と同じ日常に戻りました。

自分にも夢があったように、今もまた別の夢があるように、大好きなトレイルランニングがあるように、さくらにも大好きなクライミングを頑張って欲しいし、夢があるなら追いかけて欲しいです。


念願のグランドスラム達成となった『The Leadville Trail 100 Run』

トモさん69本目の100mile『The Leadville Trail 100 Run』は、念願だったグランドスラム達成のレースとなった。

ただレース自体は、高地順応が万全でなく、前半で大きく身体を崩す難しい展開に。そこで当初のサブ20というプランをサブ24に変更し、完走まで持ち込むところは、さすがトモさんという、100マイラーとしての経験値を感じた。

グランドスラムを追いかける夢は、短い期間に何度も渡米する、家族へ負担を強いる生活でもあった。しかし自分が夢へ突き進む姿勢が、娘自身の夢へ向かう姿勢の刺激にもなっているところに、トモさんらしい素敵な家族関係が表れていた。また次のレポートも楽しみに待ちたい。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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WRITER
井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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