AMBASSADOR'S

井原知一の100miler DAYS #20 | 食べる生活(Wasatch 100)

2024.01.12
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第20回目のテーマは、「食べる生活」です。

今回は、2023年9月にアメリカはユタ州で開催された『Wasatch 100』(以下、ワサッチ ※1) を紹介してくれます。

トモさんは昨年、4つのアメリカの100mileレースを完走する『Grand Slam of Ultrarunning』(以下、グランドスラム ※2) にチャレンジしました。ワサッチは、そのグランドスラム最後のレース。

トモさんにとって68本目の100mileで、どんな走りを見せてくれたのでしょうか。そして、その前後でどんな食生活を送っていたのでしょうか。

※1 Wasatch 100:正式名称は、The Wasatch Front 100 Mile Endurance Run。ユタ州のワサッチ・フロント山脈で、毎年レイバー・デー後の第1金曜日に開催される100mileのウルトラマラソン。標高3,000mを超える場所も複数あり、標高の高いコースを走る。スローガンは “天国と地獄の100マイル”。グランドスラムの最終戦でもある。

※2 Grand Slam of Ultrarunning:アメリカの5つのもっとも名誉がありもっとも古い100mileレースのうち4つを、同じ年に完走すること。該当レースは、Old Dominion 100 (バージニア州)、Western States (カリフォルニア州)、Vermont 100 (バーモント州)、Leadville 100 (コロラド州)、Wasatch 100 (ユタ州)。


ワサッチは、ワサッチ・フロント山脈を走る100mileレース。

Wasatch 100:日本人ランナーが達成していないSub24を目指す

ワサッチは、これまで挑戦した日本人のランナー誰ひとりとしてSub24 (24時間以内での完走) を達成していない。それだけ難しいレースでもあります。

自分はグランドスラムに挑戦中で、6月からスタートしてこれが5本目の100mileでした。短期間ですでに4本の100mileを完走しているので、おそらく自分のまわりの多くの人も、Sub24は難しいのではないかと思っていたでしょう。

自分自身も、グランドスラム達成のためにセーフティーに完走するという選択肢もありました。でも、Sub24を狙うことを選択しました。


スタート地点にて。いよいよグランドスラム最後のレースがはじまる。

ワサッチは標高が高いので、高地順応するために早めに渡米してコースを2回ほど試走し、身体を慣らしました。1週間ほど滞在したこともあり、高地特有の苦しさは感じませんでした。

レースは、途中から自分のタイムテーブルから遅れはじめ「自分には無理なのか?」と疑う瞬間もありました。でも、こういう時に活きるのが経験です。


Sub24で完走し、グランドスラムも達成するも、ゴール後は疲労困憊。

自分は誰よりも100mileを走ってきている。そう信じて、無理せずペースをおさえて後半での挽回を考えて走っていると、脚が動きはじめ、140km地点でようやくグランドスラムとSub24の達成を確信することができました。

ペーサーポイント (伴走者が合流できる地点) からは、自分がコーチングをしているスイス在住のベンジャミンが駆けつけてくれて、自分のウルトラシーンにおいて思い出になる機会となりました。

【食べる生活 (その1):レース2週間前】 リカバリーを意識した食事

ワサッチのちょうど2週間前はグランドスラム第4戦目のレッドビルを走っていて、その後日本に7日間ほど滞在して、ふたたびワサッチが開催されるユタ州のソルトレイクシティへと旅立つというスケジュールでした。

グランドスラム中は、どう上手くリカバリーができるかが課題でした。変な話、レースを走っている最中にも、走りながらリカバリーができないかを考えていたほどです。


蕎麦屋さんで、大好物のカツ丼セット。

レッドビルが終わったあとは、拠点がアメリカだろうと日本だろうと、とにかく前のレースのリカバリーと次のレースに備えるために炭水化物と極力良質なタンパク質を摂るようにしました。

もちろん野菜などもバランスよく取っていました。日本とアメリカを行ったり来たりしていたので、いつものように家族と一緒に食べるバランスの取れた食事ができないので、場面場面でその時のベストエフォートで食事をしていました。


ベルギーからわざわざ日本に取材に来てくれた映像クルーたち。富士山の近くで一緒にほうとうを食べた。

【食べる生活 (その2):レース直前】 体内の便を限りなくゼロにする

ソルトレイクシティにはレースの7日前に入って、レース2日前までは現地のベトナム料理屋さんで大好きな炭水化物や麺をほぼ毎日食べていました。あとは現地のスーパーマーケットで購入したフルーツや野菜も食べていました。


ベトナム料理屋さんで、炭水化物とタンパク質を摂取。

レース直前は、ここ最近のセオリーはレース前に体の中に便がなければないほど良いということ。

体の中に便があることは自然なのですが、レースにおいては便はあまり良い作用をしないと思っています。いろいろ調べてみましたが、便あることで良い! という要素が見つからないのです。

そのため、昔ならレース前にカーボローディングしてパスタパーティーだ! などと言っていましたが、ここ最近はANSWER600 (※3) をレース前日と当日の朝は摂るようにしています。ANSWER600であれば食物繊維が取り除かれているので便が限りなくゼロになります。

※3 answer600:主に糖質、タンパク質、油脂から成る「レース前特化型補給アイテム」。
http://blog-nob.jugem.jp/?eid=2007#gsc.tab=0


これが最近、レース直前の自分のセオリーとなっているanswer600。

【食べる生活 (その3):レース直後】 やりきった自分にピッタリのビールで乾杯

レース直後は、いつもゴール地点に置いてあるドロップバッグに準備しておいた炭水化物を食べるようにしています。

今回は、スーパーマーケットで買った野菜やチキンやお米がトルティーヤにラップされたチキンラップを食べました。あと朝方で寒く、エイドで提供されているココアを濃いめで飲んで温まりました。


サポートクルーのイアンの自宅で、ディナーをご馳走になった。

また今回、レースのサポートをしてくれたイアン (ワサッチのコースのすぐ近くに住んでいる) には、レースの前後でかなりお世話になりました。特にレース後には、僕とペーサーのベンジャミンを、ディナーに招待してくれました。

料理が美味しかったのはもちろん、驚いたのはイアンの家で飲んだクラフトビールの名前。ワサッチ・ブルワリーの『LAST ONE DOWN』。これは、「最後の一発をやりきったぞ」という意味なのですが、まさにグランドスラムの最終章を走りきって達成した僕にピッタリのビールでした。


ペーサーのベンジャミンと、『LAST ONE DOWN』で乾杯!

【食べる生活 (その4):レース1週間後】 祝勝会で寿司&ケーキ

ワサッチのレース後は日本に滞在していたので、妻のバランスの取れた食事を摂っていました。

また、自分が主宰しているTOMO’S PITのメンバーの方々が、「鷲を見る会」 (グランドスラム達成のトロフィーが鷲の形をしているのが由来) を立ち上げてくれて、祝勝会を開いてくれました。


祝勝会で食べたお寿司。

全レースの報告会をさせてもらいながら、お寿司やオードブル、さらには特注のケーキまでいただいて、至福の時間でした。仲間の存在に感謝するとともに、2024年も全力で行くぞ! という決意もできて、2023年を最高の形で締めくくることができました。


左上が、グランドスラム達成記念の鷲のトロフィー。

2023年の6月〜12月の6カ月間で、5本の100mileレースを完走し、見事グランドスラムを達成したトモさん。

最後のレースでも、手綱を緩めることなくSub24というチャレンジングな目標を立てて、しっかり達成するのが、トモさんのすごいところ。

2024年も数多くの100mileを走るようなので、今年の活躍にも期待したい。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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