AMBASSADOR'S

井原知一の100miler DAYS #19 | 走る生活(Western States Endurance Run)

2023.10.27
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第19回目のテーマは、「走る生活」です。

今回は、2023年7月に走った『Western States Endurance Run (ウエスタン・ステイツ・エンデュランス・ラン)』(以下、WSER ※1) を紹介してくれます。

前回の記事で説明しましたが、トモさんは今年、同じ年に4つのアメリカの100mileレースを完走する『Grand Slam of Ultrarunning』(グラドスラム ※2) にチャレンジしています。

WSERは、その該当レースの1つであり、トモさんにとって67本目となる100mileでもあります。一体どんな走りを見せてくれたのでしょうか。そして100mileの前後で、どんな練習をしていたのでしょうか。

※1 Western States Endurance Run:1977年よりアメリカ・カリフォルニア州で開催されている「世界でもっとも古くもっとも権威のある100mileレース」。世界中のトレイルランナーが憧れるレースでもある。人気ゆえエントリー数が多くかつ抽選制なので、出走は狭き門。トモさんも10年越しでようやく出走が叶った。

※2 Grand Slam of Ultrarunning:アメリカの5つのもっとも名誉がありもっとも古い100mileレースのうち4つを、同じ年に完走すること。該当レースは、Old Dominion 100 (バージニア州)、Western States (カリフォルニア州)、Vermont 100 (バーモント州)、Leadville 100 (コロラド州)、Wasatch 100 (ユタ州)。


念願だったWSERを笑顔で走る。

Western States 100:念願だったレース。ついに10年越しの想いが実る。

Western States Endurance Run (WSER) を走る ー 。10年越しの願いを叶える時が、ようやく訪れました。

これまで走ってきた100mile、これから走るであろう100mileのどれもが思い入れ深いレースやチャレンジなることは間違いないですが、そのなかでもWSERは、僕の夢であるBarkley Marathons (※3) と並んで特別な存在です。

WSERは、1977年に始まった世界での最も歴史がある100マイルレースといわれています。1977年は自分が生まれた年でもあるので、何か運命めいたものを勝手に感じています。

※3 Barkley Marathons (バークレー・マラソンズ):アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催。以来、36年間で完走したのはたった15人。発案者は、ラズ(ゲイリー・カントレル)。初開催から何度も距離、ルート、標高が変更され、現在は約20mile (32km) のループで構成。これを5周すると完走となる。3周 (60mile) したランナーは「ファンラン」を完走したと言われる。実際のところ、総距離は100mile以上、累積標高は2万m以上、制限時間60時間。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。


WSERのスタート地点にて。ラン仲間のJR田中さんと。

10年待ち望んだレースだったので、10mile進んだら「あ〜、あと90mileしか走れない」と感じてしまうくらい、ずっと続いていてほしいと感じていました。辛さは一切ありませんでした。

コースは、繰り返し観たドキュメンタリー『Unbreakable: The Western States 100』の世界そのもの。ここはあのシーンの、ここは……と思いながら走っていました。


レース中も、とにかく楽しくて仕方がない。ずっと走っていたいくらいだった。

今年は、ドキュメンタリーで象徴的に描かれたNo Hands Brigdeにエイドがなかったのが残念ですが、20時間19分59秒は夢心地でした。スタートからしばらく続く残雪エリアが思うように進めなかったので、目標としていたサブ18には及びませんでしたが、充分に力を出し切ることができたと思います。

ウルトラ (※4) を走っていると、程度はいろいろですが、多少の胃腸トラブルはつきものです。ただ、今回はまったくと言い切っていいほど、補給がピタッとハマったのが、今後のレースに向けての収穫になりました。

※4 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100km、トレイルであれば100mile (160km) を指すことが多い。


今回ペーサー (伴走) をしてくれたブランドン。昨年WSERを走っているランナーで素晴らしいペーサーをしてくれた。

【走る生活 (その1):レース2週間前】 レースが続くので、いかにフィットネスをキープするか。

グラドスラムのインターバルは、フィットネスをいかにキープしていくかがトレーニングのコンセプトになります。


高尾でお馴染みのランニングコース、通称Tridentにて。

前回のOld Dominion 100から帰ってきてからは、友人やクライアントと高尾の通称Trident (※5) だいたい30kmで累積標高+1,000m)をエンデュランスペース (ややゆっくりめのペース) で走ったり、大阪に出張してイベントでジョグをしたり、という内容でトレーニングをしていました。


関西のイベントでは六甲山を走った。

もちろん、季節的にどんどん暑くなっていくタイミングだったので、サウナ練も欠かせません。9月までは、ほぼこのルーティンでトレーニングを回していくことになると思います。

※5 高尾のTrident (トライデント):トモさんがよく走っている高尾のコースで、コースが3本の槍の形に見えることから、トライデントと名づけられた。

【走る生活 (その2):レース直前】 現地で体を慣らす一方、めちゃくちゃ浮かれていた。

前回の100mileから約3週間後のレースなので、強度はそこまで上げずに、フィットネスを落とさないような調整をしました。


自分にとて「アメリカの父」ことクニさん (中央)、そして仲間たち。

渡米後は、現地滞在でお世話になる “アメリカの父” こと、クニさんのホームトレイル「Cardiac Trail」を走ったり、レース序盤の雪が残っているエリア (今年は残雪が多かった) をチェックしたりして、リラックスしながら時差や気候に体を慣らしていきました。


事前に、コースの残雪チェック。

とにかくレースが待ち遠しくて、浮かれていました。おかげで、残雪のチェックの時にはしゃぎすぎて、うっかり足を滑らせ、ヒヤッとする場面もありました (大事には至らなかったです)。

【走る生活 (その3):レース直後】 短期間にいくつもの100mileを走るので、まずはリカバリー。

今回は補給がピタッとはまったので、「本当に100mileを走ったのか?」というくらいダメージがなく、帰国後すぐにトレーニングを再開することができました。


ホームの高尾でリカバリーラン。

短期間 (約4カ月間) にいくつものウルトラを走らなければならないので、ダメージが少ないのは何よりものアドバンテージになります。どのような補給だったのかは、またどこかで書くことができたらと思います。

2〜3週間おきに渡米するスケジュールなので、まずはリカバリー。スポーツマッサージや鍼などで身体のメンテナンスをし、リカバリーランで疲労を抜いていきました。

【走る生活 (その4):レース2週間後】 富士山やホームコースの高尾を走る。

基本的にはグランドスラムの期間中にパフォーマンスが上がることはありません。なので、前回のレースからWSERまでのインターバルと同様に、フィットネスをキープすることに集中したトレーニングになります。


ランニングクラブの仲間たちとの練習。

メニューとしては、高強度なトレーニングは木曜日のLDA (ANSWER4のランニングクラブ) の練習くらい。

あとは、富士登山競走を走るクライアント (私がコーチングをしている) との1on1で富士山や、ホームコース高尾をエンデュランスペースで走りました。


富士山からの眺め。

グランドスラムという、とてつもない挑戦にも関わらず、念願のレース直前に浮かれいる姿は、100mileを心から愛するトモさんらしいエピソードだった。

しかも、100mile連戦中ながらも、「本当に100mileを走ったのか?というくらいダメージがない」と断言するだなんて、クレイジーすぎる。

とどまるところを知らないトモさん。グランドスラムの次の100mileもきっと快走してくれるに違いない。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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