井原知一の100miler DAYS #19 | 走る生活(Western States Endurance Run)
文・写真:井原知一 構成:TRAILS
What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。
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トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。
第19回目のテーマは、「走る生活」です。
今回は、2023年7月に走った『Western States Endurance Run (ウエスタン・ステイツ・エンデュランス・ラン)』(以下、WSER ※1) を紹介してくれます。
前回の記事で説明しましたが、トモさんは今年、同じ年に4つのアメリカの100mileレースを完走する『Grand Slam of Ultrarunning』(グラドスラム ※2) にチャレンジしています。
WSERは、その該当レースの1つであり、トモさんにとって67本目となる100mileでもあります。一体どんな走りを見せてくれたのでしょうか。そして100mileの前後で、どんな練習をしていたのでしょうか。
Western States 100:念願だったレース。ついに10年越しの想いが実る。
Western States Endurance Run (WSER) を走る ー 。10年越しの願いを叶える時が、ようやく訪れました。
これまで走ってきた100mile、これから走るであろう100mileのどれもが思い入れ深いレースやチャレンジなることは間違いないですが、そのなかでもWSERは、僕の夢であるBarkley Marathons (※3) と並んで特別な存在です。
WSERは、1977年に始まった世界での最も歴史がある100マイルレースといわれています。1977年は自分が生まれた年でもあるので、何か運命めいたものを勝手に感じています。
10年待ち望んだレースだったので、10mile進んだら「あ〜、あと90mileしか走れない」と感じてしまうくらい、ずっと続いていてほしいと感じていました。辛さは一切ありませんでした。
コースは、繰り返し観たドキュメンタリー『Unbreakable: The Western States 100』の世界そのもの。ここはあのシーンの、ここは……と思いながら走っていました。
今年は、ドキュメンタリーで象徴的に描かれたNo Hands Brigdeにエイドがなかったのが残念ですが、20時間19分59秒は夢心地でした。スタートからしばらく続く残雪エリアが思うように進めなかったので、目標としていたサブ18には及びませんでしたが、充分に力を出し切ることができたと思います。
ウルトラ (※4) を走っていると、程度はいろいろですが、多少の胃腸トラブルはつきものです。ただ、今回はまったくと言い切っていいほど、補給がピタッとハマったのが、今後のレースに向けての収穫になりました。
【走る生活 (その1):レース2週間前】 レースが続くので、いかにフィットネスをキープするか。
グラドスラムのインターバルは、フィットネスをいかにキープしていくかがトレーニングのコンセプトになります。
前回のOld Dominion 100から帰ってきてからは、友人やクライアントと高尾の通称Trident (※5) だいたい30kmで累積標高+1,000m)をエンデュランスペース (ややゆっくりめのペース) で走ったり、大阪に出張してイベントでジョグをしたり、という内容でトレーニングをしていました。
もちろん、季節的にどんどん暑くなっていくタイミングだったので、サウナ練も欠かせません。9月までは、ほぼこのルーティンでトレーニングを回していくことになると思います。
【走る生活 (その2):レース直前】 現地で体を慣らす一方、めちゃくちゃ浮かれていた。
前回の100mileから約3週間後のレースなので、強度はそこまで上げずに、フィットネスを落とさないような調整をしました。
渡米後は、現地滞在でお世話になる “アメリカの父” こと、クニさんのホームトレイル「Cardiac Trail」を走ったり、レース序盤の雪が残っているエリア (今年は残雪が多かった) をチェックしたりして、リラックスしながら時差や気候に体を慣らしていきました。
とにかくレースが待ち遠しくて、浮かれていました。おかげで、残雪のチェックの時にはしゃぎすぎて、うっかり足を滑らせ、ヒヤッとする場面もありました (大事には至らなかったです)。
【走る生活 (その3):レース直後】 短期間にいくつもの100mileを走るので、まずはリカバリー。
今回は補給がピタッとはまったので、「本当に100mileを走ったのか?」というくらいダメージがなく、帰国後すぐにトレーニングを再開することができました。
短期間 (約4カ月間) にいくつものウルトラを走らなければならないので、ダメージが少ないのは何よりものアドバンテージになります。どのような補給だったのかは、またどこかで書くことができたらと思います。
2〜3週間おきに渡米するスケジュールなので、まずはリカバリー。スポーツマッサージや鍼などで身体のメンテナンスをし、リカバリーランで疲労を抜いていきました。
【走る生活 (その4):レース2週間後】 富士山やホームコースの高尾を走る。
基本的にはグランドスラムの期間中にパフォーマンスが上がることはありません。なので、前回のレースからWSERまでのインターバルと同様に、フィットネスをキープすることに集中したトレーニングになります。
メニューとしては、高強度なトレーニングは木曜日のLDA (ANSWER4のランニングクラブ) の練習くらい。
あとは、富士登山競走を走るクライアント (私がコーチングをしている) との1on1で富士山や、ホームコース高尾をエンデュランスペースで走りました。
グランドスラムという、とてつもない挑戦にも関わらず、念願のレース直前に浮かれいる姿は、100mileを心から愛するトモさんらしいエピソードだった。
しかも、100mile連戦中ながらも、「本当に100mileを走ったのか?というくらいダメージがない」と断言するだなんて、クレイジーすぎる。
とどまるところを知らないトモさん。グランドスラムの次の100mileもきっと快走してくれるに違いない。
TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。
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