The First Rays of The New Rising Sun / 証言構成〈TRAILS in 妙高2013〉
取材/文:三田正明 写真:三田正明/TRAILS
「いずれ東と西は一つになるよ。考えてもみ給え。東と西が遂に一つになったならばどんなに偉大な世界革命が起こるだろう。しかもその口火を切ることが出来るのは結局僕らのような人間なんだぜ」—ジャック・ケルアック『禅ヒッピー』より
君が知っていようがなかろうが、いま日本のアウトドア・カルチャーに何かが起こっている。その「何か」をキャッチしている人はまだごく少数だし、メディアに紹介されることもほとんどない。けれどその「何か」は確実に起こっていて、引き金にはすでに指がかけられた状態にある………つまり、爆発寸前ということだ。
2007年、兵庫県芦屋川にスカイハイ・マウンテンワークスという風変わりなアウトドアショップが生まれた。阪急電鉄芦屋川駅から徒歩1分の場所にありながら六甲山の麓という絶好の立地を生かし、オーナーの北野拓也氏自ら毎日のように六甲山を走り、岩壁を登り、マウンテンバイクで下りながら、関西ならではのアウトドアカルチャーを発信してきた。
そして翌2008年、東京都三鷹市にハイカーズデポがオープンした。日本初のウルトラライト・ハイキング・ギアの専門店として誕生したこの店は、まさに日本のハイキングカルチャーを牽引する存在として、お世辞抜きにアウトドアシーンの地図を少しずつ塗り替えてきたと言っていいだろう。
この2店の誕生以降、それに刺激を受けたり、影響を受けた人々が、山を歩き、山を走り、自分でものを作ったり、情報を発信したり、お店を始めたりした。そして2014年の現在、ドメスティックなガレージメーカーが次々と生まれ、ハイキングやトレイルランニングをコンセプトとした店舗がいくつもオープンし、アンダーグラウンドなトレイルレースに多くのランナーが集い、気がつけば「オルタナティブなアウトドアシーン」のようなものが、ゆるやかに形成されつつある。
そのひとつの表れであるかもしれないキャンプイベントが、去る2013年の10月、新潟県の妙高高原で行われた。奇妙な成り行きからこのウェブマガジンと同じ名前で行われた『TRAILS in 妙高2013』がそれである。
スカイハイ・マウンテンワークスとハイカーズデポという東西ふたつのハードコアなアウトドアショップを中心に、国内のガレージメーカーや新興ブランドが集まり、様々なワークショップやトークショーやアクティビティをまじえて二日間に渡って行われたこのイベントは、始めに断っておくけれど、ゴホン。まったく褒められたイベントではなかった!
手作り感満載だったし、準備期間も足りなかった。設備も充分ではなかったし、二日目はまるまる雨に降られた。けれど、見物人の立場で気楽に言わせてもらえるならば、〈TRAILS in 妙高〉は底抜けに楽しかったし、参加者の心には確実に「何か」を残したイベントだったように思う。そして、このまだよちよち歩きのシーンにとってのひとつのエポックであったし、通過儀礼だったとも。
これからそこに参加した人々の証言を追いながら、何がそこで起こっていたのか、彼らが何を思い、何を葛藤し何を目指しているのかをレポートしたい。
【証言者】
北野拓也(スカイハイ・マウンテンワークス)
兵庫県芦屋川のアウトドアショップ、スカイハイ・マウンテンワークス店主。六甲山をホームグラウンドに関西独自のアウトドアカルチャーを発信している。
土屋智哉(ハイカーズデポ)
東京都三鷹市のアウトドアショップ、ハイカーズデポ店主。日本へのウルトラライト・ハイキングの伝道師的存在として常にシーンを牽引している。
福地孝(ロータス)
アルトラやルナサンダルのディストリビュートを務める(株)ロータス所属。トレーナー兼ナチュラルランニング・コーチとしての顔も持つ。
千代田高史(ノマディクス)
小峯秀行氏と共にウェブショップ、ムーンライトギアを運営する傍ら、マウンテンマラソンメーカーOMMのディストリビュートも務める。ムーンライトギアとしては2013年末に東京都岩本町に実店舗をオープン。
斉藤徹(パーゴワークス)
チェストバッグなどオリジナリティ溢れる製品を多数リリースするパーゴワークスを運営。
夏目彰(山と道)
独創的な物作りで高い評価を得るガレージメーカー・山と道を妻の由美氏と共に運営。
田中健介(サンウエスト)
ホカオネオネやミッションワークショップのディストリビュートを務める(有)サンウエスト所属。
三浦卓也(ハリヤマプロダクションズ)
ハリヤマプロダクションズとして2014年本格始動予定。
小川隆行(OGAWAND)
2013年よりガレージメーカーOGAWANDを始動。
佐井聡(TRAILS)
本ウェブマガジン代表。
■〈ステルスショー〉から〈ONE SKY〉へ
〈TRAILS in 妙高〉のそもそもの始まりは、2013年5月にSHMWのホームグラウンドである六甲山で行われた〈ONE SKY〉というイベントに遡る。ローカスギアや山と道、パーゴワークスといった国内ガレージメーカーや、アルトラやルナサンダルの輸入代理店であるロータス、OMMの輸入代理店の傍らネットショップ・ムーンライトギアを運営するノマディクスが自然発生的に集まり、様々なワークショップや展示会が行われた〈ONE SKY〉は評判となり、参加者や主催側からも「次はぜひオーバーナイトで!」という機運が高まった。
千代田高史(ノマディクス)
「もともと〈ONE SKY〉は、スカイハイ・マウンテンワークスのタクさん(北野拓也氏)がローカスギア(日本のガレージメーカーのパイオニア的存在)のジョーさん(Jotaro Yoshida氏)とやった〈ステルスショー〉というのが始まりなんです。ジョーさんの方から『ローカスギアのシェルターを関西のユーザーさんに直接見せる場が欲しい』ってニーズがあって、スカイハイのウラ山である六甲山で展示会を行うことになったんですね。それで僕らのOMMだとか山と道もそこでイベントをやって行こうという話になり、その中でいろんな人が個別にやるよりも、集まってひとつのイベントとしてやるのが面白いんじゃないかということになったんです。」
北野拓也(スカイハイマウンテンワークス)
「〈ステルスショー〉は2011年だったかな? あの頃、日本のドメスティックでやっているガレージメーカーがちょこちょこ出始めていた時期で、でもインターネットでしか売られていない状況だったんですね。それでローカスギアのジョーさんと知り合ったんですけど、ローカスのシェルターも現場で実際に見ると『うぉ!』ってなるじゃないですか。「それを実際に見せれる機会を作った方がいいんじゃないですか?」って言ったんですよ。「よく行ってるウチのウラ山にいい場所ありますよ」って(笑)。その当時、繋がりが他の東京チームとはなかったんですけど、きっかけはマウンテンバイクだったんですよ。千代ちゃん(千代田高史氏)とか小峯君(小峯秀行氏。ノマディクスを千代田氏と共に運営している)たちも乗っていたんで、『六甲山でマウンテンバイク乗れる面白いとこあるから、仕事がてら遊びに来なよ』って感じで釣って(笑)。」
福地孝(ロータス)
「僕が〈ONE SKY〉に参加してみて一番思ったことは、日本ではULハイキングやトレイルランニングをカウンターカルチャーとして捉えている人が多いということ。『誰もやっていないから楽しい』という部分があるみたいで、そこは新鮮でしたね。僕はアメリカのアウトドア業界で働いていた経験が長いんですけれど、向こうでULとかトレランをやっている人は、自分が主流だと思ってやってますから(笑)。〈ONE SKY〉は『自分たちは最先端のことをやっていますよ』ってことをアピールして、それにアンテナの鋭い人たちが集まっているというノリだった気がします。」
斉藤徹(パーゴワークス)
「僕はタクさんとは、ちょうど一年ほど前に僕が彼のところに遊びにいったことが初めですね。その時に彼の『アウトドアをもっとボーダレスに楽しみたい』という考え方にすごく共感したんです。日本のアウトドア業界の傾向としてすぐにカテゴライズしたがるというか、し過ぎていると思うんですね。山登りひとつ取っても『ULハイカー』とか『中高年ハイカー』って言葉があったりだとか、マウンテンバイクやクライミングも山で遊んでいるのは同じなのに、ぜんぜん違うものにされていたり。カテゴライズをすべて否定するわけじゃないんですけど、そのせいで業界全体がなんだか硬直化している気がして。それをずっと感じていたんで、タクさんの『そんなの関係なく面白い奴集めて遊ぼうぜ!』みたいなノリがすごくいいなって思ったんです。〈ONE SKY〉で感じた事は、やっぱりロケーションの良さ。これはスカイハイというお店の特徴でもあるんですが、お店のすぐ裏が六甲山で、そこに常連さん中心に開催を聞きつけた人が集まるって形の展示会なんて、普通ありえないじゃないですか(笑)。」
北野拓也(スカイハイマウンテンワークス)
「徹さん(斉藤徹氏)も最初は遊びに来て、六甲で走って、マウンテンバイク乗って、遊んで。よっぽど楽しかったんだろうね。徹さんもそれ以来急激にランにはまりだして、いまパーゴワークスでもトレイル向けのパックを作りだした。そういう繋がりがどんどん広がったって感じなのかな。だから〈ONE SKY〉の成功は、『もともとの基盤が仕事関係じゃない』ってことが大きかったですね。それがまず基本にないと、つまんないから。」
この日のために来日したルナサンダル創業者/ウルトラランナーのベアフット・テッド
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