リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#20 / より長くハイキングするための方法(前編)
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文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス, ナオミ・フデッツ 訳:藤田快己 構成:TRAILS
リズが今回テーマにしたのは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて、いかにして長い距離を歩くか? ということ。
アパラチアン・トレイル(AT)の最速踏破記録(FKT)を持っていたリズだからこそ(※)信頼性と妥当性のある、その実践的な方法を教えてくれました。いずれも、リズの豊富な経験と実績によって裏付けられた方法や考え方ばかりです。
※リズは、2011年に、ATにおける女性のセルフサポーテッドによる最速踏破記録(FKT)を達成した。記録は80日と13時間11分。これは当時、それまでの記録よりも約1週間ほど短いタイムだった。彼女はアメリカ3大トレイル(AT, PCT, CDT)をすべてスルーハイクしたトリプルクラウナーでもあり、アメリカ合衆国内で15,000マイル超のトレイルを歩いている。
まずは自分の歩く距離やスピードをきちんと把握することからはじまり、無駄なく距離を稼ぐための習慣や方法など、さまざまな側面からハウツーを紹介してくれています。より長く歩きたいと思っている人は必見です。
長く歩くためには、それを実現させるための考え方と方法論があります。
より遠くまでハイキングできるようになるために。
アパラチアン・トレイルの最速踏破記録(FKT)を更新したとき、私はまだまだタイムを縮められることが分かっていました。それも、より強くなることも、身体的なトレーニングも必要とせずにです。
そして実際に、いくつか簡単な習慣や癖を変えることで、毎日の距離を伸ばすトリックと手段を編み出すことに成功したのです。
アパラチアン・トレイル(AT)を制覇し、最速踏破記録を更新したあとの私(2011年7月5日)。
デイハイキング、バックパッキング、スルーハイキングのどれをするにしても、より遠くまで歩く強さと忍耐力を持つことは、あなたをこれまで訪れたことがない地へと誘ってくれます。
より遠くまでハイキングできるようになった時、到底たどり着けないだろうと思い込んでいた山々を実際に訪れることができるようになります。そこでこの記事を通じて、私が使っているテクニックを紐解いていきたいと思います。
1日に歩く距離の計算式を理解しましょう。
まず、もしあなたが歩行距離を伸ばしたいのであれば、総距離の計算方法を理解しておく必要があります。
1日の距離 = 速度 × 時間
ここでいう「速度」は、1時間につき何マイル進んだかを指し、「時間」は実際にハイキングをした時間の長さです。
この計算式が意味することは、もしあなたが自分自身のことを「速い」と思っていない(歩くスピードが遅い)としても、より長時間ハイキングすることで、まだまだ1日の距離を伸ばすことができるということです。
今までのデイハイキングで一番長かった距離は、グランドキャニオンRim to Rim to Rimで、50マイル(約80km)を歩いたときです。
もう1つの秘密は、ハイカーにとってこの計算式は、次のようになるということです。
1日の距離 = 時速(マイル毎時) × (総時間 – 休憩や補給などで行動していない時間)
スルーハイキングにおいて、ハイカーが町で補給したり休んだりしている時、1日の歩行距離を稼ぐことはできていません。休憩および補給は、長距離を歩き続けることと、身体と精神を癒すことにおいて、きわめて重要なものです。でも、それらは日々の歩行距離を増やしてはくれません。
ハイキングの目的から、休憩のあり方を考えましょう。
ただ、この休憩時間を賢く使うことが、日々の歩行距離を伸ばすことにつながります。休憩時間には、水を補給したり、ちょっとしたお菓子を食べたり、お手洗いへ行ったり、浄水したり、着替えをしたり、地図を確認したり、ハイカー同士で交流したり、といったさまざまな目的があります。こういったことに使っていた時間を縮める方法が存在するのです。ただし「交流」は例外です。
友人のナオミとのハイキング。共に歩く仲間との時間も大切です。
ハイキングに出かける前に、あなたにとって今回のハイキングが、より長い距離を歩くことが一番のゴールであるかどうか、よく考えましょう。もし、友人との時間を楽しみながらハイキングをすることが主目的であるならば、休憩を取ることはとても重要です。できる限り小休憩を多くとって、ハイキングをしている友人全員が快適で楽しい時間を過ごせるようにするべきでしょう。
でも、もしあなたの目標が、シンプルに可能な限り距離を稼ぐことなのであれば(おそらくソロでのハイキングでしょう)、休憩時間の効率性を高め、「行動していない時間」を最小限に抑える発想に切り替えましょう。
休憩時間を効率的に使うために、私がしていること。
私はハイキング中、いつでも口にできるような場所にお菓子を入れています。加えて、ハイキング中に浄水した水を補給できるように、ハイドレーションホースを使っています。そしてパッキングをする時、私はバックパックのフロントのメッシュポケットに防寒ウェアなどを収納することで、どこにあるのか探す時間を削減しています。
もし、着ている服を脱ぐ必要が出てきた際には、お手洗いなど別の理由で休憩をするタイミングまで待つようにしています。どんな理由であろうと、私は休憩のたびに毎回バックパックをおろし、そして担ぐ時間が必要です。つまり、1回の休憩で複数のタスクをこなしてしまえば、時間を節約できるのです。
私は毎回、次の休憩で済ますことのリストを作ってから、休憩を取ります。何かバックパックから物を取り出す必要がある時には、それがバックパックの中のどこにあるのかを、歩きながら考えています。
歩いている時にも、次の休憩ですることをプランニングしています。
ここまで話してきた効率的な休憩時間の取り方は、「休憩時間はハイキングとは直接関係のないタスクをこなすための時間」という前提に立っています。でも、もし脚を休めるという目的で休憩時間が必要になった場合には、どうでしょうか。
次の章では、ハイカーの能力の良し悪しに関係なくそれを上手に使うことによって、休憩時間を短縮するための身体面の準備方法を説明します。
1日に歩く距離を伸ばすためのテクニック。
ハイキング中のエネルギーと持久力は限られています。そしてそのレベルは、身体面の酷使だけでなく、精神面の酷使によっても引き下げられていくものだと考えています。
これから紹介する、距離を伸ばすための私のテクニックの多くは、持久力がより身体面に費やされるよう精神的なストレスとうまく付き合うことで、歩行距離を伸ばすというものです。
<ギア>
自分のギアについては、機能を熟知し、使いこなせるようにすることが大切です。
自分のギアをうまく扱えるようになるまでは、時間と訓練を要します。自分のギアを熟知し、信じられるようになると、まるで自分の身体の拡張機能のごとく使えるようになります。
ハイキング中に、ボタン、チャック、フラップなどの操作につまずくと、時間を浪費する上、精神的にもエネルギーを使います。ここでギアの扱い方が分かっていると、何が自分にとってベストかも自ずとつかめてきます。
たとえば、私は肌寒いと感じた時に、ウインドシャツで充分な暖かさを得られるか、それともフリースや厚手のジャケットが必要なのか、を分かっています。こういったレイヤリングの微妙な違いや、何が役立つのかを学ぶことで、天候が変化した時の心配は減り、それによって生まれた精神的な余裕が、目標達成に集中させてくれます。
<習慣化>
天候に恵まれなかったパシフィック・ノース・ウエスト・トレイル(PNT)にて。
ハイキングについて学べば学ぶほど、多くのことが習慣化していきます。脳は、何かが引き起こされる特定のものを察知した時、適切に対応できるのです。
たとえば、もし空からの水滴を感じた時、あなたはレインジャケットを用意すればいいことを知っています。雨が降ることによって落ち込んだり、ずぶ濡れになることを不安に思ったりして精神的に疲弊することはありません。
習慣化によって、天候の変化にどう対処すべきかのメカニズムが脳内に構築され、トラブルシューティングができるようになるのです。
<栄養>
持久力を必要とする活動をしている時、栄養は成果を左右するもっとも重要な要素の1つになります。なぜなら、簡単に変えることができるからです。
身体的なトレーニングは、時間がかかる上、継続することが必要です。また、精神的なトレーニングも新たなスキルの学習を必要とし、同様に時間を要します。
一方で、食事を変えることは近くのスーパーに足を運ぶのと同じくらい簡単に行なうことができるのです。(続きは後編にて)
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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