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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#19 / サンディエゴ・トランス・カウンティ・トレイルのスルーハイキング(前編)

2019.04.10
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(English follows after this page.)

文・写真:リズ・トーマス 訳:齊藤瑠夏、神長倉佑 構成:TRAILS

リズの久しぶりのトリップ・レポートです!

今回の舞台は、『SDTCT(サンディエゴ・トランス・カウンティ・トレイル)』という、約150マイル(240キロ) のロング・ディスタンス・トレイル。

SDTCT? どこのどんなトレイル? そう思う人がほとんどでしょう。それもそのはず、2000年代に入ってから誕生したので、まだまだ知られていないのが現状です。

南カリフォルニアのサンディエゴといえば、乾燥地帯。そのエリアを東西に貫くデザート・トレイル(砂漠トレイル)です。

おそらく本邦初公開であろうSDTCTの詳細を、ぜひお楽しみください。今回の前編では、DAY1〜DAY3のトリップ・レポートをお届けします。

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ルートは、東はソルトン湖から西はデル・マーのトーリー・パインズ・ビーチまで。リズと仲間たちは、東端から出発して、6泊7日でスルーハイキングした。


冬季のロング・ディスタンス・ハイキングに最適なSDTCT。


多くのロング・ディスタンス・ハイカーたちは、冬に、より長いバックパッキングをすることを夢見ています。でも、南半球に向かうのは別として、大胆な冒険をする際に、冬の雪のせいで泊りの日数が多くなってしまいがちです。では、その解決策とは?

SDTCTは、総延長246キロ(153マイル)のロング・ディスタンス・トレイルで、ルートを通して砂漠気候であるため、冬季に旅をするのに最高の場所です。私はこのトレイルを昨年スルーハイクしました。振り返ってみると、藪を切り開き、山野を横断しながら探検するのが好きなベテランの人たちに適した、楽しいルートだったと思います。

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SDTCTの看板の前で。

サンディエゴ郡はロング・ディスタンス・ハイキングに適した場所です。マイルドで雨の少ない気候。さらに半分以上の土地が公共の物で、自由にレクリエーションに使うことができます。

SDTCTは西から東に長く延びていて、郡の東端のソルトン湖から、太平洋側のデル・マーまでのルートです。道中に、アメリカ合衆国本土の48州の中で2番目に広い州立公園、アンザ・ボレゴ砂漠州立公園を抜けます。PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)のセクションAも通ります。SDTCTは、砂漠から、低木の茂み、亜高山帯、郊外、そして都市部まで、多様な生態系を体験できます。150マイルのハイクで、これだけたくさんの環境を経験できるのです。

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夕日に照らされながら砂漠を歩く。

でも、SDTCTが現在のようにハイキングできるルートになるまでには、いくつかの障害がありました。土地管理者たちはトレイルを敷こうと10年も取り組んできましたが、2000年まではずっと着手されませんでした。The Sea to Sea Foundation(ソルトン湖から海までの新しい道を建設しようとしている機構)がトレイルの設置に声を上げましたが、それも景気後退の影響で消滅してしまいました。

今では、多くの支持者たちがこのトレイルの保存のために立ち上がっています。支持者たち、それはロング・ディスタンス・ハイカーです。このルートのスピリットを残すために、自費出版で無料の地図を発行したり、グループハイクを計画したりしました。彼らは土地管理者とルーティングや通行権についての話し合いもしました。

これは、ハイカーたちがトレイルを支持し、地域のロング・ディスタンス・トレイルを中心にコミュニティを形成している最も良い例の1つです。

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ソルトン湖

私は、オレゴン州ポートランドから来た友人たちと一緒に、SDTCTのハイキングを1月にスタートしました。彼らは、冬の間にハイキングできることにワクワクしていて、それと同じくらい太陽が出ていることを喜んでいました(この時期のポートランドは1年の中でもとても暗くなることで有名なのです)。

仲間が到着する数日前、私は飲み水を備えておくために、砂漠へとクルマを走らせました。旅中では食べ物を補給する場所はいくつかあるのですが、自然に流れる水はほとんどありません。私は水を入れた水筒を何本か隠し、そこの座標をGPSに保存しました。そして、数日後ふたたび訪れた時にまだこれが残っていて、水筒に穴が空いて水が漏れていないことを祈りました。


DAY1 / ソルトン湖からスタートして広大な砂漠の平原へ。


私たちは、コロラド砂漠に囲まれた大きな塩水湖、ソルトン湖で降ろしてもらいました。ここからのトレイルは砂地に次ぐ砂地です。すぐに、峡谷の壁が私たちを取り囲むように現れます。それはまるでトンネルの中を進んでいるようでした。時折、分かれ道に出くわすのですが、そのほとんどが標識のないものでした。

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SDTCTは、ソルトン湖から始まる。

できることなら、自分たちの向かう方向がわかるような、見晴らしのいい所から道案内をしたかった。でも砂漠地帯のここでは、たとえ峡谷が迷路のようだとしても、手元にある地図を信じて進むしかありません。

私の友人たちが来たのは、ポートランドの冬から逃げるためでしたが、想像以上の日光が彼らを照らしました。太陽の光による熱は体力を奪っていきます。私たちは太陽の傾きに合わせて、峡谷の陰で休まなければなりませんでした。当然のことながら、周囲には私たち以外誰一人いませんでした。

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砂漠から見える夕暮れ。

その日の午後、私が設置しておいた水場につきましたが、そこでグズグズはしていられません。1月は午後5時には日が沈んでしまうのです。これは、夏季に午後9時までハイキングを続ける私たちにとっては厄介です。私たちはあたりが暗くなってからも行動を続け、急な傾斜の峡谷にぶち当たって、暗闇で向かう方向がわからなくなったところで、進むのをやめました。あきらめて、峡谷の壁をよじ登り、広大な星空の下でテントなしでキャンプすることにしました。

天文学者たちの間では、アンザ・ボレゴ砂漠は米国で最高の天体観測場所の1つであると考えられています。近くの町、ボレゴ・スプリングはダーク・スカイ・コミュニティ(※)に認定されています。そこでは、すべての照明器具は地面を照らし、夜空を照らさないようになっているのです。私たちは広大な砂漠の平原にいました。視界を妨げる山もありません。私たちは空に対して、とってもちっぽけでした。

※ダーク・スカイ・コミュニティ:国際ダークスカイ協会が認定している星空保護区のこと。

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アンザ・ボレゴ州立公園での夕暮れ。


DAY2 / 危険な断崖を越えてボレゴ・スプリングの町へ。


1日目は、冬のハイキングでは日照時間が短いことを思い知りました。2日目の朝、私たちは日の出とともに出発することにしました。昨夜に陥ってしまった峡谷の迷路から抜け出すのに充分な時間をとることにしたのです。でもどういうわけか、私たちのたどってきた「トレイル」は消え、結局、私たちは広大な砂漠地帯を横断することになりました。

私たちは断崖までたどり着きました。眼下には荒地で見られるような一連の土柱や砂の尖塔がありました。柔らかい岩が侵食されて、トーテムポールのような柱が形成され、ブライスキャニオンで見られるような岩の形になっていたのです。

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土柱のなかを歩く。

問題は、この断崖から降りなければならないということです。そこから見える岩々はとてもきれいで、私たちが降りる時にその柔らかい岩の側面を壊したくありませんでした。でも最終的に、崖をくだる道をみつけられました。そのトレイルは滑走路のようになっていて、崖下までの通路のようでした。これを見つけられたことは、ちょっと信じられないくらいの驚きでした。

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暑さの中で歩くことは人の胃に悪影響を与えることもある。

午前の残りの時間は、ボレゴ・スプリングへの簡単なトレイルと散策でした。町ではブリトーを買い、物資を補給し、水で水筒を満たしました。その日も気温が高く、日陰の少ない砂漠へ向かうのは億劫でした。それでも、私たちは重い足を引きずって、まとわりつくような暑さの中、その日のハイキングを続けました。

山の中のトレイルはPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)のように素晴らしく、道路も家もない渓谷の景色を眺めました。こういった山では孤独を感じます。しかし、私たちは町で滞在し、登山を始めたのが遅れたため先を急ぎました。日没後も散策を続け、丸石とサボテンの間に全員が寝ころべるくらいの、開けた平らな場所に出るまで歩きました。

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DAY2の夕日。


DAY3 / あたり一面を見渡せる登山ルートを抜け、峡谷のキャンプ場にたどり着く。


この日の朝、砂漠の山々から顔を出した日の出とともに起床し、昨日に引き続き、グレープバイン・ヒルズを通る、素晴らしい道を進むことにしました。メンバーの5人のうち4人はPCTをスルーハイクしています。そのため、その光景を見た時、私たちはPCTを歩き始めた時に早朝の砂漠を通るトレイルにいたことを思い出していました。

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PCT近くの開けた草原。

ここに来て初めて、トレイルの近くにある硫黄臭のする泉から湧き出る自然の水に遭遇しました。他のメンバーは水不足でしたが、私はここでは水を飲みませんでした。なぜなら、ほんの6マイル先の道路の交差する地点に、私が設置しておいた水筒があることを知っていたからです。

私たちは、まだ少ししか花を咲かせていないサボテンの間を抜けて進みました。これまで雨の少ない冬で、前の週に嵐が来ていなければ、変な香りのする泉が出ていることはないだろうと、私は予想していました。友人たちは、彼らの故郷であるポートランドとの気候の違いにただただ驚いていました。

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背の高いサボテンもいくつかあった。

私たちが次の水場に着いたとき、そして道路のそばの木の後ろに隠しておいた水筒を見つけるのに数分かかりました。トレイルの標識になっている小さな小屋の影で昼食を取りました。その午後、SDTCTで私が一番お気に入りのところに差し掛かりました。プラム・キャニオンからノース・ピニョン・マウンテンズを進む登山ルートです。そこでは、私たちよりも高いものは無く、広大な砂漠とその中の素敵なトレイルを見渡せるのです。

私たちは、私が事前に水筒を置いておいた最後の場所、フット・アンド・ウォーカー・パスに来ました。パス(峠)といっても、距離は短く、山の中の少し岩の多いところで、見かけによらず急な、標高差が100フィートに満たない道です。私たちは昼食の時に確保した水がたくさん残っていましたが、私は砂漠で水を捨てるのが惜しかったので、無理してできる限り飲みました。

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PCT近くの開けた草原からの眺め。

私たちは、夜まで歩き、峡谷が道路に沿って垂直に反り立っている所まで来ました。周りはあまりよく見えなかったのですが、その辺りにキャンプに最適な場所があると知っていたのです。歩いていると、私たちのヘッドライト気づいたかのように、急にクルマが速度を落として近づいてきました。私たちは少し怯みました。ハイカーは、面識のない予想外のクルマが、しかも夜に停まっているのを、特に不審に思うのです。「ここで何をしているんだい?」と相手は不思議そうにこちらに声をかけました。

大きくて、使い古されたトラックからドライバーが出てきてすぐ、私たちは彼らが友人とその仲間であることに気づきました。SDTCTのチャンピオン、「ヒッピー・ロング・ストッキングス」と「ザ・ボブキャット」は、私たちの知人で、このトレイルを何度も踏破しています。彼らは私たちに水をくれて(その時の私たちには必要ではありませんでしたが)、キャンプをするのに遅くなりすぎないぎりぎりの時間まで、喜んでこれまでの道中のことを彼らに話しました。

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DAY3はサボテンがたくさんあって比較的なだらかだった。

【次回、後編(DAY4〜DAY7)は、4/12(金)掲載です】

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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