TODAY’S BEER RUN #11 | 里武士・馬車道 (馬車道)
文:根津貴央 写真・構成:TRAILS
What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?
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『TODAY’S BEER RUN』の第11回目! 案内役は、毎度おなじみ、ゆうき君 (黒川裕規)。
彼と一緒に走って向かうのは、横浜の馬車道にあるブリューパブ『里武士・馬車道』 (りぶし・ばしゃみち)。
2014年1月に、長野県の野沢温泉にオープンした『里武士』の新たなお店である。実は、僕とゆうき君は『里武士』に縁があって、2014年に野沢温泉で開催されたトレイルランニングの大会に出場した際、オープンしたばかりのこのブリューパブにたまたま立ち寄っていたのだ。
以来、野沢温泉方面に行く機会がなく訪れることは叶わなかったが、2022年4月に『里武士』の新店舗が馬車道にオープンしたと聞き、これは行かないわけにはいかないと思ったのだ。
野沢温泉で最高に美味しかったビールが、走って行ける場所にやってきた。では、今回の『TODAY’S BEER RUN』をお楽しみください。
起点となる『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS編集部crewの根津。
NAVIGATOR / ゆうき君 (黒川裕規)
パタゴニアのフード部門『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。TRAILS編集部crewの根津とは8年来のトレイルラン仲間で、100mileレースをいくつも完走しているタフなトレイルランナーでもある。『TODAY’S BEER RUN』のルール
①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む
GARAGE to 里武士・馬車道
スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。
この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験するべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。
MYOG (Make Your Own Gear) ができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。
オリジナルのバッジが完成! これをキャップに付けて走る。
思い出の『里武士』が、走って行ける場所にできた! と喜んではいたものの、よくよく考えてみたら、GARAGEから『里武士・馬車道』までの距離は最短ルートで33km。しかも季節は夏。
こまめな水分補給が欠かせない! という思いと、クラフトビールを美味しく飲むためにも飲み物を控えめにしておきたい! という思いが交錯するなか、僕たち二人はスタートを切った。
日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』を出発。ロングランなので急がず焦らずスロースタート。
今回のルート
『里武士・馬車道』までの33kmの道のりには、ブルワリーやビアパブがたくさんある。10kmごとにエイドステーション的な感じで、1杯ひっかけながら走るのも楽しいだろうなぁ。
スタートして早々に、そんな不謹慎なことを妄想しながら僕たちは走った (最後まで誘惑には負けなかった)。
あまりの暑さに、控えめにしようと思っていた水もガブガブ飲んだ。それでもノドが渇くくらいだから、今日はいくら水分を摂っても美味しくクラフトビールが飲めるに違いない。
ゴール直前、大規模改修工事により現在休館中の横浜赤レンガ倉庫に寄ってみた。
これまでイベント開催でしか訪れたことがなかったが、こうやって景観を眺めながら走るだけでも、すごく楽しい。『里武士・馬車道』へのBEER RUN立ち寄りスポットとしてぜひおすすめしたい。
横浜市歴史的建造物にお店を構える『里武士・馬車道』
到着してまず驚かされるのは、その出で立ちである。なんと、『里武士・馬車道』の建物は、横浜市歴史的建造物に認定されている旧生糸検査所なのだ。
建設されたのは大正15年 (1926年)、つまり100年近い歴史を持つ建造物。こんなところで美味しいクラフトビールが飲めるだなんて、想像するだけでテンションが上がる。
この馬車道のエリアにはさまざまな歴史的建造物があるが、その多くは手を加えて復元されている。しかし、この『里武士・馬車道』の外観は、復元ではなく、いまだに原型をとどめている貴重な建物であるそうだ。
内装はというと、里武士らしいシンプルでモダンなデザイン。明るく開放的で、南向きの窓から降り注ぐ陽光が気持ちいい。このあたりは、緑も多く、街並みも美しいので、窓から外を眺めながらクラフトビールを飲むにも、うってつけだ。
ベルギー好きの夫婦が情熱を注ぐ、バレルエイジドビール。
出迎えてくれたのは、『里武士・馬車道』を運営するAnglo Japanese Brewing Company合同会社 (AJB Co.) 代表のリヴシー・トーマス & 絵美子さん。
二人は、2012年にイギリスから長野県の野沢温泉に移住し、2014年に『里武士』を立ち上げた。イギリス時代、トーマスさんは彫刻家のかたわら、ブルワリーで働いたり自家醸造をしたりしていた。一方、絵美子さんは証券会社で働いていた。
そんな二人の共通点は、イギリスのビールはもちろん、ベルギービールが好きだったこと。大のベルギー好きということもあり、立ち上げ当初から樽で熟成させるバレルエイジ (※1) のビール醸造をスタートさせた。
ここ最近、トレンドのひとつとしてバレルエイジドビールを目にするようになったが、リヴシーさんたちは先駆けて手がけていたのだ。
ビールのスタイルに縛られることなくビール造りをしているが、ことバレルエイジに関しては圧倒的な情熱を持つ。
絵美子さん:「バレルって、手間と時間はかかりますけど、その土地の空気を吸収しながらビールが変化していくので、本当にそこでしか作れない、その土地に根ざした特徴が感じられるビールができるんです。
ベルギーに足を運んではそういうビールを飲んでいたので、私たちも最初からやると決めていました。2017年に野沢温泉の元保育園に工場を増設したのですが、そこにはバレルが100個くらいあって、フーダー (※2) も日本で初めて導入した5000Lのものが2基あります。
そこで1年、2年、3年と熟成しているビールがあって、この夏の後半くらいにやっとリリースできるので、すごく楽しみです」
フーダーとバレルを使い分けながら、より独創的でオリジナルなビールを作っているのが印象的だ。
絵美子さん:「私たちは、2基あるフーダーを基本的にカラにしないスタイル (Solera) をとっています。1基がサワーで、1基がセゾンなんですが、いずれも5000Lから2500Lを取り出したら、また2500L新しいビールを入れるというのを繰り返します。1年もの2年もの3年ものと違うビンテージをブレンドしていくんです。こうして熟成期間が異なるものをブレンドした、ベルギーでいうグーズ (※3) というスタイルに近いスタイルのビールを作っています。
バレルに関しては、たとえばフーダーから出したビールをフルーツと一緒にバレルに入れたりします。サワーチェリーやラズベリーやパッションフルーツなど、フルーツは十数種類あります。それらを漬け込んで、6〜12カ月熟成させて製品にします。
バレルは、バーボン樽を使用する際は、イチローズモルト (※4) さんの樽と決めていますが、ワイン樽は、知り合いのアメリカのワイナリーの樽だったり、長野のワイナリーの樽だったり、いろいろですね」
ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」
ゆうき君の今日のイチオシはこれ。
『AJB Co. / Ichibo Senri』 (アングロ・ジャパニーズ・ブルーイング・カンパニー / 一望千里)
ゆうき:「AJBが大得意とするウイスキー樽で熟成させたインペリアルスタウトのKing Kong Knee Dropと、ベルギーの老舗アウトベールセルのランビック (※5) をブレンドした、スペシャルな一杯です。
サクランボのような香りとオレンジのような酸味、あとはベリーのような甘みもあって、フィニッシュはわりとドライで苦みもある奥行きのあるフレーバー。アルコール度9.5%を感じさせることなく、今日みたいな暑い夏でもスルスルと飲めちゃう。
日本とベルギーの伝統や文化が融合したからこそできた、ユニークなダークサワーエール。ぜひ馬車道に来たときには、このAJBのサワースタイルへのこだわりが詰まった唯一無二のビールを飲んでみてほしい!
サワーエールは僕も大好きだが、33km走ったあとの、アルコール度数9.5%、しかもパイント (パイントを選んだのは自分の意思だが) だなんて、これはもう一杯飲んだらご就寝、だろうと思っていた。
それが、不思議と酔いがまわらない。喉ごし爽やかでゴクゴク飲めてしまう。ある意味ヤバいのだが、とにかく美味いのだ。
この複雑な酸味と味わいは、サワーエール好きにとってはクセになること間違いなしだろう。
絵美子さん:「トムが造るビールって、昔からそうなんですけど、『すごく味が優しい』って言われるんです。
ラインナップには、もちろんホッピーで尖ったビールもあれば、アルコール度数が高いビールもあります。それでもそう言われるのです。
きっとそれは、イギリス人の特徴のせいでもあると思うんです。そもそもイギリス人って、パブに行ってパイント1杯だけ飲んで帰ることってあり得なくて。基本パブに行ったら、パイント4、5杯飲むのが当たり前なんですよ。
だから、レシピも仕込みも含めて、1杯飲んだらかならずもう1杯飲みたいと思わせる味にすることを、すごく考えているんです。それが私たちの特徴のひとつでもあると思います」
ビールの美味しさの秘訣は、原料だったり、造り手の技術や情熱だったり、設備だったりと、要素はさまざまだ。でもこの「味が優しい」という話を聞いて、造り手の生まれ育った環境や気質も、ビールの味に大きく影響していることを知った。ビールに人柄が出る、と言ったらいいだろうか。
ここのクラフトビールを通じて、味わいだけではなく、造り手の人柄を感じてみるのも、『里武士・馬車道』の楽しみ方かもしれない。
今回も、走ったあとのクラフトビールは最高でした!
7月末には蒸留酒の製造免許も取得予定で、それ以降は、15タップ中、10をクラフトビール、5をカクテルにする予定とのこと。そんな新たな挑戦も楽しみなブリューパブでした。
さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。
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