TRAILS REPORT

TODAY’S BEER RUN #09 | ビアエンジン (高円寺)

2022.05.04
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?

* * *

『TODAY’S BEER RUN』の第9回目! 案内役は、毎度おなじみ、ゆうき君 (黒川裕規)。

彼と一緒に走って向かうのは、東京は高円寺にあるビアパブ『Beer Engine』(ビアエンジン)。

ここはそんじょそこらのクラフトビールのビアパブではない。炭酸ガスの入っていないビール (シュワシュワしない) ばかりを提供する、本場ブリティッシュスタイルにこだわった超マニアックなお店なのだ。

ここにはきっと、僕の知らないビールの世界が広がっているに違いない。

そんな今回の『TODAY’S BEER RUN』をお楽しみください。


起点となる『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS編集部crewの根津。

NAVIGATOR / ゆうき君 (黒川裕規)
パタゴニアのフード部門『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。TRAILS編集部crewの根津とは8年来のトレイルラン仲間で、100mileレースをいくつも完走しているタフなトレイルランナーでもある。

『TODAY’S BEER RUN』のルール
①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む

GARAGE to ビアエンジン

スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。

この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験するべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。

MYOG (Make Your Own Gear) ができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。


オリジナルのバッジが完成!

夏に向けて徐々に気温も上がってきたここ東京。“ビールの季節” がやってきたといっても過言ではない。

ここでいうビールは、炭酸がシュワシュワとして、かつキンキンに冷えているもの、と相場が決まっている。でも、今回の『Beer Engine』(ビアエンジン) のビールは、そうじゃない。炭酸もなければ、大して冷えてもいないという。

いったいどんなビールが待っているのか。ちょっとソワソワしながら走りはじめた。


日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からスタートして、高円寺 (杉並区) にある『Beer Engine』へ。

今回のルート

『Beer Engine』までは、約13km。短すぎず、長すぎず、まさにちょうどいい距離。より美味しくクラフトビールを飲むうえで、このくらいの距離がベストだと僕は思う。特に根拠はなくて、なんとなくだけど。

日本橋から新宿を経て、JR中野駅南口方面にある飲み屋街に立ち寄ってゴール。全長13km。

これまでは公園や川沿いなど、自然豊かで開放感あふれるところに立ち寄ることが多かった。でも今回は、趣向を変えて、中野駅南口にある飲み屋街、レンガ坂を通ることにした。

中野駅南口にある飲み屋街「レンガ坂」には、数多くの飲食店が軒を連ねている。

飲みにしか来たことがないこのレンガ坂を、昼に走るだなんて想像したこともなかった。夜は人であふれかえっているが、昼は閑散としていて、とても新鮮。僕たちは、颯爽と駆け抜けて高円寺へと向かった。

13kmを走って、高円寺駅の東側にひっそりと佇む『Beer Engine』へ。

高円寺あづま通り商店街を入ってすぐのところに、店を構えている『Beer Engine』。オープンしてから今年で7年目。

『Beer Engine』があるのは、高円寺駅の東側、高円寺あづま通り商店街。

地図にも商店街と書かれていたので、さまざまなお店が軒を連ねているのかと思いきや、『Beer Engine』があるあたりはほぼ住宅街。軽快に走っていたこともあって、あやうく見過ごすところだった。

わかる人にしかわからないが、ドアノブに使用されているのは、ビールを注ぐ際に使用するハンドポンプだ。

ずいぶんと上品で、落ち着いた印象の店構えである。老舗の洋風レストラン、といった風情もある。

この重厚感あふれるドアノブは、『Beer Engine』の象徴でもあるハンドポンプというビールサーバーのハンドルを使用したもの。

このディテールへのこだわりからして、このお店が面白くないはずがない。すでに期待感でいっぱいの僕は、ワクワクしながらこのハンドポンプを握り、扉を開けた。

ビールは漢字で書くと麦酒。ホップよりも、モルト (麦芽) を味わって欲しい。

『Beer Engine』の店主、五影壮一郎 (いつかげ そういちろう) さん。

「おつかれさまー!」と笑顔で迎えてくれたのは、『Beer Engine』の店主、五影壮一郎 (いつかげ そういちろう) さん。

もともと大のビール好きで、若かりし頃から飲み歩いていた五影さん。大学入学と同時に大阪から高円寺に出てきて、駅から徒歩5分のアパートに住むも、いつも飲み屋に吸い込まれて、帰るのに4時間くらいかかるのが日常茶飯事だったそうだ。

大学卒業後、紆余曲折を経て、箕面 (みのお) ビールで4年働いたあとに独立。2016年に、炭酸ガスなし&ハンドポンプのビールに特化したビアパブ『Beer Engine』を立ち上げた。

五影さん:「炭酸ガスの入っていないリアルエール (※1) を初めて飲んだときに、衝撃を受けたんです。なんだこれはと。味わいが繊細で、ものすごく美味しかったんです。

でも、飲める店がほとんどない。じゃあ自分でやっちゃおうというのが初期衝動ですね」

※1 リアルエール:イギリスの伝統的な製造方法でつくられたビール。無ろ過・非加熱で、ケグ (ビールの樽) 内部で二次発酵して熟成するビールを用い、かつ抽出時に外部から炭酸ガスを加えず、樽から直接、もしくはハンドポンプと呼ばれる汲み上げ式の井戸のような仕組みの原始的なポンプを用いて注ぐビールのこと。人工的な作業を極力排除していることも大きな特徴。日本では「炭酸ガスなし」「ハンドポンプ」のものをリアルエールと呼ぶこともある。

クラシックなデザインのハンドポンプが5つも並ぶ。これだけの数があるのは、国内ではここくらい。ちなみに、このハンドポンプが『Beer Engine』と呼ばれていることから、これを店名にしたとのこと。

リアルエールの定義にもどづくと、厳密には『Beer Engine』で提供しているのはリアルエールではないと五影さんはいう。ただ、「炭酸ガスなし」「ハンドポンプ (※2)」というリアルエールの重要な構成要素を取り入れているため、かなりリアルエールに近しい味わいが楽しめる。

それにしても、まだまだリアルエール的な炭酸ガスなしのビールが認知されていない日本において、7タップ中5タップが炭酸ガスなしビールというのは、あまりに尖りすぎているし、激レアもいいとこだ。

※2 ハンドポンプ:ガスを用いずに井戸の手押しポンプの要領でビールを汲み出す構造の、アナログなサーバー。

もともと外の日除け (オーニング) にかかっていた看板は、台風で飛ばされてしまい、現在は店内にディスプレイされている。ちなみに、このロゴを手がけたのはアーティストの五木田智央さん。

でも、五影さんは決して奇をてらっているわけではなく、ただこの美味しさを伝えたいだけなのだ。炭酸ガスなしだからこそ味わえるビールの旨みがあるという。

五影さん:「ビールは漢字で麦酒じゃないですか。僕はホップのお酒とは思ってなくて、モルト (麦芽) 感をプッシュしたいんです。

和食で言うならモルトはベースとなる味、出汁みたいなものです。一方ホップは、パンチの効いたスパイスですね。

ですから、昔から素材の味を活かした和食を食べつづけてきた日本人のDNA的には、この炭酸ガスなしのハンドポンプのビールが合うんじゃないかと思ってるんですよね。もちろん好みではありますけど」

店内には、なぜか帝国書院の新詳高等地図が。海外から来た人が、自分の国をチェックするそうだ。

ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」

大阪・箕面ビールのスタウトをチョイス!

ゆうき君の今日のイチオシはこれ。

『箕面ビール / STOUT』 (みのおビール / スタウト)

ゆうき:「箕面のスタウトはクラフトビール好きの間でも評価が高くて、海外のコンペでも金賞をとるような大定番スタウトのひとつ。

通常はガス入りなんだけど、ビアエンジンではもちろんガスなしのリアルエール版。もともと飲み口が滑らかなんだけど、リアルエール版はより一層飲みやすくなって、スルスルと何杯でも飲みつづけられる (笑)。

普段、黒ビールを飲まない人にも、これはぜひおすすめ。あとハンドポンプでビールを注ぐ時に、スパークラーと呼ばれる泡を立てるための器具が付けられるんだけど、それを使ってクリーミーな泡を楽しみながら飲むのも良いね (通常ビアエンジンでは泡なしでサービング)。これまた香りの立ち方や口当たりが変わって面白い。

あと余談だけど、以前、自分は仕事でハンドポンプの修理やメンテナンスをやっていて、ハンドポンプの扱いに苦労してるバーが少なくなかった。でもビアエンジンで使ってる最近のモデルは使い勝手が改善されていて、昔よりハンドポンプを導入しやすくなってるから、こういうお店がもっと増えたら楽しいね!」

右が通常のもの。左がスパークラーと呼ばれる器具を用いて泡をプラスしたもの。本場イギリスにならって、パイントグラスは、USパイント (473ml) ではなく、UKパイント (568ml) を使用。

ゆうき君とは長い付き合いだけど、ハンドポンプの修理を手がけていたとは初耳だった。ハンドポンプの奥深さを知るとともに、炭酸ガスなしのビールはとにかく衝撃的だった。

ガスあり、ガスなしは、いい悪いではなく好き嫌いだと思うが、僕は好きだ。基本的に、僕は食の好き嫌いはいっさいなく、なんでも美味しく食べる。でも、なんだかんだでやっぱり和食が落ち着くよなぁと思うことがときどきある (年齢を重ねてきたからだろうか)。

これと同じ感覚を、今回このガスなしビールを飲んで抱いたのだ。炭酸ガスが入ってないことで、角が取れて飲みやすいというのもあるだろう。あるいは、これまで自覚したことはなかったけど、思った以上にモルトが好きっていうのもあるかもしれない。

タップリストは、各ブルワリーの定番がそろう。7タップ中5タップが、ハンドポンプによる炭酸ガスなしのクラフトビール。

ここ数年のクラフトビールは、ホップ! ホップ!というホップ推しの印象だっただけに、正直、モルトにはあまり目がいっていなかった。そんなことを五影さんに言ったら、すぐさま「モルト! モルト! ですよ (笑)」と返された。

こぢんまりとしているが、シックで居心地のいい店内。

ビールで乾杯! 仲間とビール片手にワイワイやる! それはそれで楽しいけど、ガスなしビールは、どちらかというと、ひとり静かにじっくり味わいたい。

五影さん:「ここはビアギークが最新のビールを求めて来る店じゃないんです。落ち着いてダラダラすすりながら、喋ったり、ひと息ついたりする、年配の人たちの集会所みたいな感じですね。それがイギリスのパブカルチャーでもありますし、理想ですね」

僕また近いうちに、ダラダラしに『Beer Engine』に来ようと思う。

ビール好きの人も、ビールが苦手な人も、ぜひこの炭酸ガスなしのビールを味わってほしい。

今回も、走ったあとのクラフトビールは最高でした!

従来のビールの概念が覆されるような、ビアパブ。お酒は好きだけどビールは苦手、そんな人にこそ来て欲しいし、おすすめしたいお店でした。

さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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