TODAY’S BEER RUN #07 | キャリカーズ トーキョー (神田)
文:根津貴央 写真・構成:TRAILS
What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?
* * *
彼と今回一緒に走って向かうのは、立ち上げてからまだ2年足らずの、知る人ぞ知る酒屋『キャリカーズ トーキョー』だ。
神田駅東側の路地裏にひっそりと佇むこの酒屋 (酒販店)。一見ディープで敷居が高そうだが、実は自由でポップで誰もが気軽に入れる酒屋なのだ。
そんな今回の『TODAY’S BEER RUN』をお楽しみください。
起点となる『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS編集部crewの根津。
NAVIGATOR / ゆうき君 (黒川裕規)
パタゴニアのフード部門『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。TRAILS編集部crewの根津とは7年来のトレイルラン仲間で、100mileレースをいくつも完走しているタフなトレイルランナーでもある。
『TODAY’S BEER RUN』のルール
①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む
GARAGE to キャリカーズ トーキョー
スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。
この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験するべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。
MYOG (Make Your Own Gear) ができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。
オリジナルのバッジが完成!
立春を迎え、暦の上では春がはじまったものの、外の空気は真冬だ。今すぐ飲むなら熱燗だが、おいしいクラフトビールを飲むためには、走って喉をカラカラにしなくては。
ということで、僕たちはいつも以上のスタートダッシュをかまして、GARAGEをあとにした。
日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からスタートして、神田にある『キャリカーズ トーキョー』へ。
今回のルート
『キャリカーズ トーキョー』までは、直線距離で約1km。さすがに5kmくらいは走りたいと思い、こんなルートを描いてみた。
日本橋から三越前駅、神田駅を通って、まずは神田明神へ。参拝してから、秋葉原駅近くを抜けてゴール。約5kmを走った。
これでちょうど5kmになる。走り足りなければこの辺りをグルグルと回れるし、途中で飲みたくなったら切り上げてお店に向かうこともできる。
自由度の高いルートなので、僕たちも気楽にランを楽しめそうだ。しかも2022年最初のTODAY’S BEER RUNでもあったので、今年も1年無事に走って飲みつづけられることを願って、神田明神にお参りしにいくことにした。
今回の寄り道スポットは、神田明神。
必勝祈願もしたし、今年もいい年になること間違いなし。そう勝手に思い込んだ僕たちは、なぜか祝杯ムードになり (実際はたんに飲みたくなっただけ)、キャリカーズへと向かった。
真冬の寒空の下を走り、ようやくカラダが温まってから『キャリカーズ トーキョー』へ。
いい感じでカラダが温まったところでゴール。見るからに穴場、秘密基地という感じの酒屋だ。
『キャリカーズ トーキョー』は、JRおよび東京メトロの神田駅から徒歩2分。神田駅周辺といえば飲み屋や飲食店が立ち並んでいるが、そこではなくちょっと離れたところにある。
地名でいうと、神田紺屋町 (こんやちょう) 。もともと染物屋 (そめものや) の町として栄えたエリアで、現在はオフィスビルが多い。その一角に、目立たない感じで、しれっと (まさにそんな佇まいなのだ) 店を構えているのが、『キャリカーズ トーキョー』なのだ。
店内に入ると、壁一面にずらっとお酒が並んでいる。クラフトビール、自然派ワイン、日本酒の3本柱。それを三毛猫 (Calico cat) に見立てて、三毛猫の酒屋 → Calico cat liquors → Caliquors (キャリカーズ) となったとのこと。
酒屋での角打ち (かくうち・酒屋での立ち飲み) といえば、店内の一角や、店の前の小スペースで飲むイメージだが、ここはというと、まるで角打ちメインと言わんばかりの店構え。なんだかやけに楽しそうで、入店したとたんにテンションが上がってしまう。
クラフトビール、自然派ワイン、日本酒のミクスチャー。
メタリカのスウェットが似合う店主の白石達磨 (しらいし たつま) さん。10代半ば〜20代はバンドマン (ドラマー) として活動。20代に飲みまくった成果が、この店に凝縮しているという。
いい笑顔である。ちょうど居合わせた、酒好きの若者! といった風情だが、この人こそが、『キャリカーズ トーキョー』店主の白石達磨 (しらいし たつま) さん。
元バンドマンという異色の経歴の持ち主。ライブで全国を巡っていたときに、その都度、地方の飲み屋や酒蔵に足を運んでは、地元のおいしいお酒を飲みまくっていたという。おのずと、飲食店の人や、お酒のつくり手をはじめとした、業界の人とも懇意になっていった。
その流れで、2014年にはその前年に誕生した日本初のクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』の編集長に抜擢。4年ほど務めたのち、飲食店の立ち上げ等を経て、2020年5月30日に『キャリカーズ トーキョー』を立ち上げる。
白石さん:「お酒の魅力を発信するための基地がほしかったんですよね。クラフトビールのボトルショップとかで、ウチよりラインナップが多いところはたくさんあるけど、クラフトビール、自然派ワイン、日本酒の3つが、80点くらいでバランス良くある店は珍しいと思うんですよね」
日本酒のラインナップは、お燗 (かん) にすると美味しくなるものばかりを厳選。
80点だなんて謙遜して言うが、お酒に関する知識、情熱、セレクトへのこだわりは半端じゃない。
白石さん:「クラフトビールは都度入れ替わりますが、酸っぱいのが好きなので野生酵母を使ったものが多くなりがち (笑)。自然派ワインも基本、ブドウの皮についている野生酵母のみで発酵させたもの。日本酒においては、人工の菌ではなく、蔵に自生している菌を用いた山廃 (やまはい)、生酛 (きもと) というつくり方のものが大半です。この共通項があるおかげで、ウチのクラフトビールと自然派ワインと日本酒は、酸の感じや味のニュアンスが似ているんですよね」
自然派ワインも、白石さんが好きなものを豊富に取り揃えている。
そういうことだったのか。だから、クラフトビール目当てて来店した人が、自然派ワインや日本酒にも手をだしてしまうのだ。ワインや日本酒目当ての人もまた然り。もちろん、それが白石さんの狙いでもある。
ここに来ると、意図せず自然と、それぞれのお酒の境界を飛び越えてしまう。この小さなスペースに、そんなボーダーレスな世界が広がっているのだ。
ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」
神奈川県は茅ヶ崎を拠点とする、パシフィック・ブルーイングのクラフトビールをチョイス。
ゆうき君の今日のイチオシはこれ。
『PASSIFIC BREWING / HYDRO PUMP』 (パシフィック・ブルーイング / ハイドロ・パンプ)
ゆうき:「キャリカーズは、パシフィック・ブルーイングのタップをほぼ定番で銘柄を変えながらつないでいるんだよね。今回のHYDRO PUMPは、いわゆるセッションIPA (アルコール度数の低いIPA) なんだけど、濁った外観に柑橘系やグラッシーのガツンとした香り、そしてほどほどにボディもあってバランスの良いセッションIPAに仕上がってる。
ほんと走ったあとに飲むのに最高だね。これを飲みに、次はあえて暑い日に走ってここにきたいな。
あとパシフィック・ブルーイングのコンセプトは、『海を越え山を越え、ビールと旅するブルワリー』なんだけど、TRAILSの読者とかなり相性がよさげなブルワリーだから、この連載でもいつかぜひ取り上げたい。茅ヶ崎だからGARAGEからは距離にして60kmくらい。まあ根津っちの走力次第かな (笑)」
香り高く、飲みやすく、ほどよいボディ感もある、セッションIPA。
僕はIPAは好きで良く飲むものの、アルコール度数や苦味のパンチが強いこともあって、走ったあとにはちょっとヘビーだなと思って避けがちだった。
でも、アルコール度数低めのセッションIPAは、バッチリだった。この寒い季節、あまり味わいが軽すぎても物足りないと思っていただけに、飲みやすさがありながらも、いい塩梅の重みがあって、まだにちょうどいい! という印象だった。
しかも、白石さんの話を聞いていると、今飲んでいるビールだけではなく、このビールを作っているブルワーにも興味がわいてくる。
TRAILS編集部のみんなのためにお土産ビールをゲット! 白石さんおすすめの3本は、左から、ヨロッコビールのAlley in Brussels (アレイ・イン・ブリュッセル)、キャリカーズとリパブリューがコラボしてつくったVIVIUM (ビビウム)、奈良醸造のCOOKIN’ (クッキン)。
白石さん:「クラフトビールに関していうと、基本、仕入れているビールのブルワーさんは、みんな知り合いですね。好きな味、好きなつくり手のものを選んでいます。昔からそうですけど、クラフトビールって、つくり手の顔が見えるのが良かったじゃないですか。自分もお客さんにそれを伝えたい。言ってみれば、好きな友だちを紹介する感じですね」
この白石さんのスタンスが、人を惹きつけてやまないのだろう。友だちを紹介する感じだから、屈託のない笑顔なのだ。友だちを紹介する感じだから、お店に気取らない雰囲気が漂っているのだ。友だちを紹介する感じだから、ついつい他のジャンルのお酒にも興味がわいてきてしまうのだ。
最後にひとつ断りを入れておくと、白石さんは、一見、自由でポップな近所の兄ちゃんみたいだが、かなりの理論派だ。いずれのお酒についても、尋ねたら豊富な知識と経験とエビデンスにもとづく、論理的でわかりやすい解説をたっぷりしてくれる。僕的には、これも大きな魅力だと思っている。
『キャリカーズ トーキョー』は、お酒との出会い、人との出会いが生まれる最高に楽しい酒屋だった。
今回も、走ったあとのクラフトビールは最高でした!
ワイン好きの友だちや、日本酒好きの仲間とも一緒に走って飲みに来られる珍しいお店。
さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。
TAGS: