TODAY’S BEER RUN #05 | 和泉ブルワリー (狛江)
文:根津貴央 写真・構成:TRAILS
What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?
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『TODAY’S BEER RUN』の第5回目!
案内役は、毎度おなじみ黒川裕規 (以下、ゆうき) 君だ。
彼は現在、パタゴニアのフード部門である『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当している。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。
ちなみに、TRAILS編集部crewの根津とは7年来のトレイルラン仲間で、100mileレースも走るタフなトレイルランナーでもある。
そんな彼と今回一緒に走って向かうのは、東京の狛江市にある『和泉 (いずみ) ブルワリー』だ。セゾン (※1) といえば和泉ブルワリーといっても過言ではないくらい、ユニークなセゾンを造っているブルワリーだ。
そんなセゾンのために走る今回の『TODAY’S BEER RUN』、お楽しみください!
※1 セゾン (Saison):ベルギーで昔から造られていた瓶内二次発酵タイプのビアスタイル。農家が夏の農作業中にのどを潤すために造られていたといわれている。セゾンとはフランス語で「季節」を意味する言葉。ファームハウス・エール (Farmhouse Ale) における、ベルギースタイルのビール。
起点となる『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS編集部crewの根津。
* 『TODAY’S BEER RUN』のルール:①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む
GARAGE to 和泉ブルワリー
スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。
この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験してもらうべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。
MYOGができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』 (従来は土日オープンだったが、現在は新型コロナウイルス感染防止のためクローズ中) で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。
オリジナルのバッジが完成!
ついに東京も梅雨入りして、雨天がつづく日々。シャワーランもやむなしと思っていたら、梅雨の晴れ間が訪れて、初夏のような陽射しのなかスタートを切った。
蒸し暑さもあり、これはまさに、アルコール度数が低めでフルーティーかつスパイシーな味わいのセゾンビール日和である。
日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からスタートして、狛江にある『和泉ブルワリー』へ。
今回のルート
GARAGEを出発した僕たちは、こんなルートで『和泉ブルワリー』に向かうことにした。
日本橋から狛江まで24km。銀座、渋谷、三軒茶屋を経て、ゴール直前、野川に立ち寄ってリバーランを楽しんだ。
なんと今回は、『TODAY’S BEER RUN』史上、最長距離の24kmとタフなルートだ。
でも、都心を抜けだして多摩エリアまで行けるのは、なんだかトリップ感があっていいじゃないか。ゴール直前には、東京の清流としても知られる野川もある。せっかくだから野川沿いでリバーランをしようと目論んでいた。
野川沿いは、都内とは思えない緑あふれるロケーション。
自然豊かな野川沿いを走っていると、まるで東京を離れ、旅先でランニングしているかのような気がした。
ハーフマラソンよりも長い距離を走り切って、和泉ブルワリーにゴール!
24km。いやあ、やり切ったね! とお互いの健闘をたたえつつ、『和泉ブルワリー』に到着。
狛江市の住宅街のなかにある『和泉ブルワリー』。小田急線「喜多見駅」「狛江駅」から徒歩10分。
和泉ブルワリーは、いたって普通の住宅街のなかにある。大通りの路面店なので一見目立ちそうな気もするが、マンションの1Fだからなのか、なんだかとても街並みに馴染んでいて、悪目立ちしていないのが好印象。
佇まいはビアバーだが、なかに入ると正面奥に並ぶタンクが目に飛び込んできて、いやがおうにもテンションが上がる。
和泉ブルワリーで使用しているタンク。
セゾンの魅力は、イースト (酵母) によって生み出される、独特な味と香り。
オーナーの和泉俊介さん。会社勤めをしながらブルワー (醸造家) として和泉ブルワリーを経営している。和泉ブルワリーのタップルーム & ボトルショップとして、BEER CELLAR TOKYO (ビアセラートウキョウ) を併設。※営業時はマスクをしていますが、今回は取材のために特別に外してもらいました。
「和泉さん、日本橋から24km走ってここまで来ました!」と、ゆうき君。「そりゃもうなに飲んだって美味しいだろうね」と笑いながら答える和泉さん。
実はゆうき君は、自宅が近所で、犬の散歩ついでによくここに立ち寄っている常連でもある。
和泉ブルワリーといえばセゾンが有名なブルワリーだ。そしてその背景には、オーナーの和泉さんの研修先が、セゾンで名高いアメリカはポートランドの『Commons Brewery』 (コモンズ・ブルワリー ※2) だったことが大きく影響している。
コモンズ・ブルワリーはポートランドで人気を博したブルワリーで、ビールのコンペティションでも数々の賞を受賞。近年のセゾンビール人気の火付け役でもある。
和泉さんが研修に行ったのは、2015年。当時 (いまもそうだが)、クラフトビール業界は、IPAやペールエール全盛だった。なぜまた、和泉さんはセゾンに惹かれたのだろうか。
和泉さん:「いや、もともと自分もIPAとペールエールを作りたかったんですよ (笑)。最初にコモンズのビールを飲んだときは、イメージしてたのと違う! やばい! オレ、このビールのつくり方を教わるの?……って正直思ったくらいです」
※2 コモンズ・ブルワリー (The Commons Brewery):2011年に、アメリカはポートランドにて、マイク・ライトさんがガレージで立ち上げたブルワリー。ベルジャンスタイルを得意とし、「Urban Farmhouse Ale」がフラッグシップのビールであった。GATHER AROUND BEERを掲げ、友人や家族、近所の人たちと集まって、飲み物や食事、会話を楽しむという考え方が、根底にある。2017年に閉業。
店内の一角には、コモンズ・ブルワリーのビンが並べられている。
てっきり、初めて口にしたときに虜になってしまったのかと思いきや、真逆だったようだ。そこからなにがどう変わっていったのか。
和泉さん:「コモンズで使用しているイーストがめちゃくちゃユニークで面白かったんです。一緒に働いているうちに、そのイーストが生みだす味と香りが気に入ってしまって、日本でこういうビールはないし、造ってみたいと思うようになっていったんです。
ちなみに、僕のなかではホップは調味料という感覚なんです。ビールに対して味を加えるイメージです。一方、イーストはビールの味を変えるという感覚。足し算ではないんです。イーストが他の原料と化学反応を起こして、新しい味や香りが生まれるイメージなんですよ」
そんな和泉さんは、コモンズ・ブルワリーのブルワーたちから「お前はレシピを知ってるんだから、それで造ったらいい」と言われ、コモンズ直伝のセゾンを手がけるようになったのだ。
タップリスト。セゾンを筆頭に、さまざまなオリジナルビールを提供している。
ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」
和泉ブルワリーといえばこれ。コモンズ・ブルワリーと同じレシピのセゾンをチョイス。
ゆうき君の今日のイチオシはこれ。
『3A FARMHOUSE ALE』(トリプルエー・ファームハウス・エール)
ゆうき:「IPA全盛の時代にセゾンをフラッグシップとしてプッシュしていたのが、コモンズ・ ブルワリーだったんだよね。しかも缶ではなくあえて750mlボトルにシックなラベルでね。それで自分は、2014年にポートランドに行ったときに飲みに行って。
その時、創業メンバーのひとりでブランドマネージャーのジョシュと仲良くなったんだけど、ビールは人と人の間にあるもので、人とのコミュニケーションや料理がメインならビールはサブ的なものだと言っていて、まさにギャザリング・テーブル (テーブルを囲もう) という感じ。ビールのポジションをちゃんと考えて打ち出していて、それがすごく印象的だったんだ。
2014年9月にゆうき君が訪れたコモンズ・ブルワリー。当時はまだ移転前で、小規模な店舗だった。 photo by Yuki Kurokawa
セゾンっていうスタイルに光を当てたブルワリーだよね。もう飲むことができなくなってしまったコモンズと同じレシピのビールを、この狛江で飲めるのは、ほんとすごいし超レア!(※3)
流行とは関係なく美味しいセゾン。料理と合わせやすいし、毎日飲んでも飽きがこないよね。だから僕も犬の散歩がてら、ついつい立ち寄っちゃうんだよ (笑)」
※3 和泉ブルワリーでは現在、ビアバー向けに樽での販売もしているため、狛江以外で飲むことも可能。今後、この『3A FARMHOUSE ALE』を扱う店舗がさらに増え、より多くの場所で気軽に飲めるようになることに期待。
アルコール度数が低く、フルーティーで飲みやすいため、食事にも合わせやすい。
僕も飲んでまず思ったのは、24km走ったあとのビールは、生き返る心地がするというか、汗をかいたあとのカラカラの体のすみずみまでビールがしみわたっていく感じがした。
半分くらい飲んだところで我に返って、あらためて味を確かめる。想像以上にキレがあってスッキリした味わいがした。決して、あっさり、淡白というわけではなく、フルーティーな香りが漂い、ほんのり甘みもあり、そしてイーストならではの優しいスパイシーさも感じる。こんなセゾンは初めてだった。
きっと、このビールがあるからこそ、和泉さんが目指す「GATHER AROUND BEER」(ギャザー・アラウンド・ビア) が生まれるのだろう。
和泉さん:「GATHER AROUND BEERは、もともとコモンズのビジョンだったんです。明確な定義があるわけじゃないんですけど、人がいてビールがあると。その状況、環境、空間が楽しいんだと。僕もそれにすごく共感したんです。
クラフトビールをつくりはじめて思うのは、とにかくいろんな人とすごいスピードで知り合いになるわけですよ。今日だってそうですけど。まさに、クラフトビール = ギャザー・アラウンド・ビアだなと。
とてもシンプルで簡単な言葉ですけど、クラフトビールの世界や、その周辺のことを的確に表しているなと思って気に入ってしまったんです」
コモンズ・ブルワリーのエチケット (ラベル) には、GATHER AROUND BEERと明記されている。
缶ビールやボトルビールをテイクアウトすることも可能だ。
ちなみに、和泉さんがブルワリーを立ち上げる際、コモンズ・ブルワリーのオーナーであるマイクに「ブルワリーの名前を、コモンズ・ブルワリー・ジャパンにしたいんだけど、どう思う?」って聞いたことがあるそうだ。
実現こそしなかったが、聞けば、その背景にはコモンズ・ブルワリーの人やビールはもちろん、そこから広がったブルワーの仲間たちへの感謝や愛があるそうだ。まさしくGATHER AROUND BEERなのだ。
そんな話を聞いて感化された僕は、TRAILS編集部crewとビールを囲むべく、お土産のボトルビール (和泉ブルワリーの『Comeback』というサワーセゾン) を買っていった。
GATHER AROUND BEER!
後日、TRAILS編集部crewとビールを囲んで楽しんだ。
今回も、走ったあとのクラフトビールは最高でした!
いまやセゾンもいろいろあるけど、この和泉ブルワリーこだわりのセゾンを、ぜひ一度味わってほしい。これからの梅雨、そして夏にピッタリのクラフトビールだ。
さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。
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