TRAILS REPORT

TODAY’S BEER RUN #02 | 麦酒倶楽部 ポパイ (両国)

2020.10.30
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?

* * *

『TODAY’S BEER RUN』の第2回目!

今回の案内役も、もちろんこの人、黒川裕規 (以下、ゆうき) 君だ。

彼は現在、パタゴニアのフード部門である『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当している。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。

TRAILS編集部crewの根津とは6年来のトレイルラン仲間で、100mileレースも走るタフなトレイルランナーでもある。

ゆうき君は、そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。

当時は、クラフトビールは広く知られる存在ではなく、都内でもクラフトビールを飲めるお店はごくわずかだった。その頃、ゆうき君が通っていたのが今回紹介する『麦酒倶楽部 ポパイ』だ。

そんなゆうき君と根津の、クラフトビールのために走る『TODAY’S BEER RUN』をお楽しみください!

※ 『TODAY’S BEER RUN』のルール:①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む

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起点の『TRAILS INNOVATION GARAGE』に、ゆうき君 (右) と根津が集合。


GARAGE to ポパイ


スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。

この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験してもらうべく、まずは『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジを作る。

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MYOGができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』 (従来は土日オープンだったが、現在は新型コロナウイルス感染防止のためクローズ中) で、前回同様オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。

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オリジナルのバッジが完成!

『麦酒倶楽部 ポパイ』の名前を入れた『TODAY’S BEER RUN』オリジナルの缶バッジをつくって、準備は万端。

クラフトビールのビアパブの老舗であるという『麦酒倶楽部 ポパイ』を目指して、さっそくスタート! 今日は、どんなクラフトビールと出会えるんだろう?

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日本橋を颯爽と走りはじめる2人。根津が背負っているバックパックは、HARIYAMA Productions (ハリヤマ・プロダクションズ) の特注モデル (20L)。


今回のルート


GARAGEを出発した僕たちは、こんなルートで『麦酒倶楽部 ポパイ』に向かうことにした。

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日本橋から蔵前経由で両国にあるポパイへ。距離にして約5km。

GARAGEからの距離は最短ルートだと1.9km。かなりのご近所さんだ。こんな近くにクラフトビールが飲めるお店があったなんて。

でも1.9kmだけだと、走り足りずにクラフトビールの美味しさを十分に味わえない! 「もっと走った後のほうがビールがうまい」ということで、隅田川沿いを迂回してまわる、約5kmのリバーランのルートを走ることにした。

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川沿いは開放感があって気持ちいい。走るにもちょうどいい季節になってきた。


5km走って、両国のポパイにゴール!


当初は、このまま真っ直ぐ北に向かって浅草近辺を周遊しようかと思っていた。でも、ポパイのことをディグっていたら、ポパイから東に徒歩15分のところに、『両国麦酒研究所』というポパイ直営のブルワリー (醸造所) があることを知った。しかも、今年8月にできたばかりだという。

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両国麦酒研究所をチラ見。こだわりは「酵母」と「水」とのこと。美味しいビールを追究するため、酵母は市販品を買うのではなく自社で培養、水も純水装置を通している。

それを知ったからには、寄らないわけにはいくまい。ということで、浅草案は引っ込めて、両国麦酒研究所を覗きにいくことにした。

聞けば、ここで作られたオリジナルのビールは、すべてポパイ専用ということ。もう一刻も早く飲みたくなってきた僕とゆうき君は、急にピッチを上げてポパイへと向かった。

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東京都墨田区両国にある『麦酒倶楽部 ポパイ』。JR総武線「両国駅」から徒歩2分。


日本におけるクラフトビールの聖地


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店長の城戸弘隆さん。20代の頃、オルヴァルというベルギービールを飲んだ瞬間に感動したのが、クラフトビールの原体験だという。※現在コロナ対策で常時マスク & フェイスシールドを着用していますが、撮影の際だけ外してもらいました。

「こんにちはー!」と、ゆうき君さんが親しげに店員さんに挨拶。さすがゆうき君、ビール業界の方にも顔が広い。

迎えてくれたのは店長の城戸弘隆 (きど ひろたか) さん。ゆうき君は、クラフトビールが現在のように盛り上がる前から、お客さんとしてこの店に通っており、また前職時代にもお付き合いがあったそうだ。

城戸さんは、ビール好きが高じて2002年にポパイの門をたたいた。そして18年にわたってクラフトビールと向き合いつづけてきた人だ。

しかもこのポパイは、日本のクラフトビール業界のパイオニア的存在なのだそうだ。

当時の日本には、クラフトビールという言葉すらなく、地ビールと呼ばれていた時代。そんな頃からクラフトビールの文化を根付かせようとしてきたのが、このポパイなのだ。

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洋風居酒屋からクラフトビール専門のビアパブになったのは1995年のこと。

そもそもポパイは、1985年に創業者の青木辰男さんが、洋風居酒屋としてオープン。その後、1994年4月の酒税法改正 (※1) によって地ビールを製造するメーカーが増え、翌年の95年、ポパイはクラフトビール専門のビアパブに業態を変えた。

創業者の青木さんが、90年代のアメリカのビアパブをモチーフに、この店の内装なども考えてつくったのだそうだ。お店が醸し出す空気と、その歴史の長さから感じるのは、最近できたクラフトビールのお店とは一線を画す硬派な雰囲気。

それでいて店内は、年齢、性別関係なく、老若男女のお客さんで溢れ、とても親しみやすいお店となっている。近所のおじいちゃん、おばあちゃんも居酒屋感覚で訪れるそうだ。

一番の特徴は、そのタップ (ビールの注ぎ口) の数。トータル100タップで、常時70タップは稼働している。壁一面にタップが並んでいる光景は壮観で、何かのオブジェというか芸術品のようでもある。

※1 酒税法改正:1994年4月に行なわれた酒税法改正で、ビールの製造免許取得に必要な最低製造量が、それまでの2000キロリットルから60キロリットルに引き下げられた。従来は、ビールの製造が事実上大手メーカーにしか認められていなかったが、法改正により小規模な事業者も製造できるようになった。この規制緩和により全国各地に「地ビール」を製造するメーカーが誕生した。

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ポパイのタップ数は、なんと100! 数の多さを活かし、ストロングエール (アルコール度数が高く甘みがあるビール) という珍しいスタイルのビールもある。


ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」


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ビールのオリジンとも言える、リアルエールをチョイス!

ゆうき君のイチオシはこれ。

『Real Ale Gravity Tap / カスクコンディション900イングリッシュペールエール』

ゆうき:「これはリアルエールというイギリスの伝統的な製造方法のビールなんだ。イギリスの地元の人が集まる昔ながらのパブで、近所のおじいちゃんとかが、お茶みたいに気軽に飲んでいるようなビールなの。

普通のビールと違って、樽 (カスク) でイーストが生きていて、樽の中で発酵による風味の熟成が進む、まさに生きたビール。ビールサーバーを使わずに樽から直接、もしくはハンドポンプっていう汲み上げ式の井戸のような仕組みの原始的なポンプを使って注ぐんだ。冷やさずに、常温 (※2) のまま飲むのも面白いところだね。

このビールが飲めるお店は、東京では少なくなってきてしまってるけど、もし扱っているお店を見つけたらぜひ味わってほしいな。

※2 常温:イギリスの地下室くらいの温度のことであり、日本でイメージする常温とは異なり、温度は低め。

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泡がほとんどなく、ぱっと見は麦茶か紅茶のよう。

ぱっと見も味わいも、たとえるなら麦茶みたいな感じなんだけど、実はこれが昔からある伝統的なビールで、イギリスのオリジンとも呼べるビールなんだよね。知らない人からすると、気が抜けてる! こんなのビールじゃない! と文句を言われちゃうんだけど、それがこのビールのスタイルなんだ。

ポパイでは、グラビティ (重力) とも呼ばれる、ビールサーバーとかにつながずに高いところから自重だけで注ぐ方法でビールを提供しているんだよね。グラビティだと炭酸ガスとかパイプを使わないから、無駄な泡や炭酸が抑えられて、雑味もない」

というわけで、聞いただけではいまいちわからないので、城戸さんに実演してもらうことにした。

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樽を傾けて注ぐ、グラビティというスタイル。

なるほど、こういうことか。 果たしてどんな味がするのか、楽しみで仕方がない。さっそく乾杯だ!

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ゆうき君 & 根津で訪れたのだが、現地であと2人が参戦!

なぜか急にメンバーが増えて、4人での乾杯になったことに気づいただろうか?

実は今回も、ランチームの『ゆうき & 根津』に対抗して、「クラフトビールは、走ってもおいしいし、走らなくてもおいしい」というTRAILS編集部crewの『カズ & 小川』も合流。

小川:「クラフトビールを飲みに、歩いて来たよ!」

まあ、走った後でも歩いた後でも、クラフトビールは最高だ! というわけで、4人で飲むことに。

ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」の味はというと……

カズ:「たしかに麦茶っぽい。ビールはすぐにお腹がいっぱいになっちゃうから最初の1杯くらいだったけど、これなら大丈夫だね。しかもさっき、ゆうき君が話してくれた歴史とか聞くと、カルチャーを楽しみながら飲めるよね」

小川:「そのビールならではのストーリーを知って飲むと楽しいよね。あと自分の場合、ぬるくなったビールは嫌いじゃなくて。家飲みしてる時とか、テーブルにずっと置いてあるビールを、ちびちび飲んでたりするんだよね」

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ゆうき君とTRAILS編集部crew。※コロナ対策でテーブルにはパーティションが常設されていますが、特別に許可をもらって撮影時だけ外しています。

ゆうき:「今のいわゆる流行りのスタイルとは違う、トラディショナルなビールを提供しつづけるお店は貴重だよね。TRAILSは、ブームとかに流されずに、本質的なことをきちんと伝えようとするメディアって印象があったから、こういうスタイルのビールを提供する店を紹介するのは面白いと思ったんだ」

そんなゆうき君のはからいに、TRAILS編集部crew一同も大満足。

ゆうき:「ちなみに、カスクコンディションを説明すると、カスクっていうのが主にグラビティで使用するビールの樽のこと。ガスで抽出する一般的なビールの樽はケグ。今回のビールは、このカスクの中で二次発酵させているんだよね。普通のビールは熱処理や濾過などをして発酵を止めているんだけど、これはしていない。そこの発酵の状態 (コンディション) を調整して出しているから、カスクコンディションって言うんだ」

最後に、店長の城戸さんにポパイの今後について聞いてみた。

城戸:「もともと先代の青木が、両国麦酒研究所を立ち上げる時に『両国の名物を作ろうぜ』って言っていて。今は、そこで製造しているビールはポパイでしか出していないですが、ゆくゆくはこの地元・両国の飲食店が普通に扱えるビールを作っていきたいですね。それがひとつの目標ではあります」

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『TODAY’S BEER RUN』に乾杯! 70タップを制覇すべく、これから足しげく通うことになるかも !?

今回も、走ったあとのクラフトビールは最高でした!

でも、その味わい以上に、クラフトビールにまつわるディープな話が、たまらなく興味深くて面白い。そして聞けば聞くほど、クラフトビールが好きになってくる。

これからも、そんな驚きと発見も期待しながら、『TODAY’S BEER RUN』をつづけていくつもりです。

さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。

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根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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