TODAY’S BEER RUN #16 | ハイバリー (新宿御苑前)

文:利根川真幸 写真・構成:TRAILS
What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?
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連載再開のリクエストの多かった『TODAY’S BEER RUN』の再始動!案内役は、今まで同様、ビア・ジャンキーのゆうき君 (黒川裕規)。
レポートするのは今までの根津に代わり、今回からTRAILS crewのトニーがお届けします。
新たなバディのゆうき君&トニーが一緒に走って向かうのは、東京の新宿区にあるビアパブ『HIGHBURY -THE HOME OF BEER』(ハイバリー ザ・ホーム・オブ・ビア)。
英国伝統のカスクエールを扱う日本では数少ないお店のひとつで、なかでも本格的に製造から管理、提供まで一貫してやってしまうお店は、日本ではこのハイバリーだけという。
また「地球で一番うつくしいヱビスビール」を出す店。ピルスナーの定番「ピルスナーウルケル」を最高の鮮度で提供するためにわざわざ自社で空輸してしまう店など、ハイバリーを語る言葉を並べると、パーフェクトなビールを出すことへの強烈なこだわりが伝わる。
では、再始動一発目の『TODAY’S BEER RUN』をお楽しみください!
スタート地点となる『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS Crewのトニー (左)。
NAVIGATOR / ゆうき君 (黒川裕規)
パタゴニアのフード部門『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。TRAILS編集部crewの根津とは8年来のトレイルラン仲間で、100mileレースをいくつも完走しているタフなトレイルランナーでもある。『TODAY’S BEER RUN』のルール
①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む
GARAGE to ハイバリー
スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。
この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験するべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。
MYOG (Make Your Own Gear) ができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。
オリジナルのバッジが完成! これをキャップに付けて走る。
今回は、自分 (トニー) の一発目の『TODAY’S BEER RUN』。
ハイカーである自分がラン?と思う読者もいるかもしれないが、「クラフトビールのためだったら走れる!」と出発前からアドレナリンが分泌過剰気味。
初夏の心地よさも手伝って、爽快な気持ちでゆうき君とスタートを切った。
心地よい気温のなか、極上のクラフトビールを求めて日本橋の『TRAILS INNOVATION GARAGE』を出発。
今回のルート
『ハイバリー』までは、約8km。ゆうき君にとっては余裕の距離だけど、普段あまり走らない自分にとっては、ランの距離感がまだいまいちつかめていない。
でも過去に4,300kmのPCTをスルーハイキングしたのだから、たった8kmと思えばいい。ハイカーのイージーなマインドで、ゆったりしたペースで走っていく。
日本橋、皇居、赤坂離宮を経て、新宿御苑のゴールへ。距離は約8km。
今回は、日本橋を出発して、皇居、赤坂離宮、新宿御苑と、東京都心の緑をつないでいくルート。
赤坂離宮では、立派な迎賓館の前を通り、見通しのよい緑が広がる公園を、駆け抜けてゆく。
途中、赤坂離宮の迎賓館の前にある若葉東公園を通る。
ゆうき君と一緒に走るリズムもだんだんとつかめてきた。気持ちよくシンクロしながら走っていく。
そう思っているうちに、あっという間に新宿のエリアに入った。新宿御苑のひとつ裏の通りに入ると、目的の『ハイバリー』が目に入ってきた。
※1 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
新宿御苑のほど近くにあるビアパブ『ハイバリー 』。
新宿御苑前の『ハイバリー』に到着。
『ハイバリー』は、東京メトロ丸ノ内線「新宿御苑前駅」から徒歩2分のところにある英国式ビアパブ。
ゆうき君から「やってることが、かなりぶっ飛んでるこだわりがある店だから」という事前の触れ込みに対して、店構えはとてもクラシカルな印象。
イギリスで惚れ込んだパブ「ホワイトホース」を再現したカウンター。
店主はイギリスの名門ソーンブリッジブルワリー (Thornbridge BREWERY) で修行した方。
帰国後に、常陸野ネストビールを経て独立し、新宿御苑前に第1号店の「ハイバリー」をオープン。昨年には2店舗目を横浜にもオープンしたそうだ。
「地球で一番うつくしいヱビスビール」を出すという強烈なこだわり。
『ハイバリー』の店主、安藤耕平さん。イギリスでのビールとの出会いから、英国式のビアパブのオープン。
出迎えてくれたのは、店主の安藤耕平 (あんどう こうへい) さん。
もともとは熱烈なサッカーフリークでイギリスに渡った安藤さん。惚れ込んだものは、とことんまでこだわり、やり抜く人だ。
サッカーでは、アーセン・ベンゲル監督時代のアーセナルに「人生のすべてを捧げる価値がある」と惚れ込み、現地に住み全試合観戦という熱狂ぶり。店内もいたるところにアーセナルのグッズが飾られていて、「ハイバリー」というお店の名前もアーセナルのスタジアムの名前から付けられている。
そのイギリスで自分が本当に好きだと思えるビールに出会ったという。それが英国伝統のカスクコンディションエール (以下、カスクエール※1) だったそうだ。
安藤さん:「自分の店をオープンしたときも、カスクエールを出したかったんですけど、最初はマーケットもなかったし、どこで作るかも含めてなかなか難しくて。その後、ようやくオリジナルで作ったカスクエールを出せるようになったのは、ハイバリーをはじめて3年目くらいでした。それでお店のオープン当初は、ヱビスビールを柱にしようと決めたんです。
日本のビール醸造は世界でも最高レベルですよ。僕は全世界のビールを飲み漁って、世界の各国でビールを作った経験がありますけど、日本は世界に誇る最高の醸造技術があるんです。
その中でも自分はヱビスが好きなので、そのビールを完璧なクオリティで出そうと思ったんです。『地球で一番うつくしいヱビスビール』を出そうと。」
僕もお店に入って最初に、このエビスビールを僕もいただいたのだが、ちょっと大げさにも聞こえるかもしれないけど、「本当に今まで飲んだヱビスビールとまったく別物!」と感じるおいしさ!とても芳醇さがあるのだ。でも、なんでこんなにも他のヱビスビールと違うのだろう?
※1 カスクコンディションエール:英国の伝統的なスタイルのエールビール。今でもアナログな作り方をされるビール。カスク (樽) から、炭酸ガスを使わずに注がれる。カスクの中で二次発酵が行われるのが大きな特徴で、カスク内の熟成を見極めることや、繊細な品質管理が必要とされる。
店のトイレも上下左右、一面がアーセナルのグッズが飾られている。
安藤さん:「大事なのは樽をサーバーにセットする前に、最低24時間、樽を動かさないことなんです。衝撃をいっさい与えず、完璧なコンディションを作るんです。その樽からサーブすることにこだわっています。
期待されるコメントとして、角度を何度にしてとか、何秒経ったらどうとかありますけど、そんなことは僕はどうでもいいと思っていて。1番大切なのは前日からの準備。絶対に一切動かさない、何もしないことなんですよ。お店では『ビールに仕事をさせる』って言ってるんですけど、それでビールを完璧なコンディションにしてあげるんです。」
ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」
走ったあとに飲みやすい一杯をチョイス。
ゆうき君の今日のイチオシはこれ。
『Gunners Brewing / Cask Condition Ale』(ガナーズ・ブリューイング / カスク・コンディション・エール)
ゆうき:「ハイバリーにきたらやっぱりカスクエールを飲まないとね。
香ばしくも甘い麦芽の風味がとても感じられるけど、若干フルーティーさもあって、わずかに柑橘系のニュアンスもあるような。軽やかな飲み口と控えめなアルコール度だから、ハイバリーの食事と一緒に楽しむのにもちょうどよいね。
特にこれからの暑い季節に、初めの軽めの一杯としてもぴったり、何杯でも飲み続けられてしまう。あといわゆるビールの苦みが苦手な人にもおすすめできるビール。」
一般のビールと違うマイルドな炭酸に、体に染み渡る独特な味わいはここでしか飲めない。
僕もこの店自慢のカスクエールをいただいた。よく言われるカスクビールの特徴は「炭酸が弱い、ぬるいビール」。
自分はカスクエールを飲んだのは初めてだったけど、「炭酸が弱いのにごくごく飲める。ビールにこういう飲み方があるんだ!」というのが発見だった。ビールの苦味や香りなど、深い素朴さを感じる味わいだ。
普段は炭酸のシュワっと感で、自分はビールの本当の奥行きを、味わえていなかったのでは?とも思わされた。
安藤さん:「カスクビールが好きな人って、むちゃくちゃ飲むんですよ。4ポイントとか5パイントも飲むんです。もうこれしか飲まない、って感じで。
でも、知らない人は、炭酸が弱くて気が抜けている、という人もいる。そういう人にとっては、返品レベルのものですよね。
カスクビールは麦茶みたいなもので、現代のわかりやすくおいしいビールではない。たとえばIPAとかおいしすぎますよね (笑)。僕はそういうビールよりも、古典的なビールが好きで。
カスクエールは、管理の方法から提供までアナログなビールなんです。提供も炭酸ガスを使わず、ハンドポンプでやっています。
カスクエールを出す店は日本にも何店かあります。でも、うちは日本で唯一、カスクエールを自社で製造して、管理から提供まで一貫してやっている店なんです。『本当のカスクエール』と謳っているのは、そういうところにあります。」
完璧な状態のカスク (樽) から注がれることに、こだわりぬいた品質管理をしている。
あと今回は残念ながら飲めなかったけど、ゆうき君は、ボヘミアン・ピルスナーの超定番「ピルスナーウルケル」もおすすめと言っていた。
樽に詰めたばかりの鮮度で提供するため、わざわざ自社で空輸で仕入れているという、これまた強烈なこだわりがあるものなのだそうだ。
もちろん「ピルスナー・ウルケル」をそんな提供の仕方をしているのは、日本ではハイバリーだけ。
パーフェクトなビールを追求するハイバリー。これは僕の定番の店になりそうだ。次はすべての観点でレベルを上げたという、新しい横浜の店にも行ってみよう。
パーフェクトな品質のカスクエールやヱビスビールが飲める店は他にはなかなかない。ここは行きつけになりそうだ。
走ったあとのクラフトビールは最高!
最高の状態のビールを味わえる『ハイバリー』。お店では、いろんなイベントもやっているので、ぜひチェックしてみてほしい。
さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。
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