TRAILS REPORT

TODAY’S BEER RUN #13 | スナーク・リキッドワークス (西池袋)

2023.03.17
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

What’s TODAY’S BEER RUN? | 走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。ナビゲーターは、TRAILSの仲間で根っからのクラフトビール好きの、ゆうき君。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。だって走った後のクラフトビールは間違いなく最高でしょ? さて今日の一杯は?

* * *

『TODAY’S BEER RUN』の第13回目! 案内役は、毎度おなじみ、ゆうき君 (黒川裕規)。

彼と一緒に走って向かうのは、東京は豊島区西池袋にあるブルーパブ (※1)『SNARK LIQUIDWORKS』(スナーク・リキッドワークス)。

2019年2月オープンながら、オーナーの藤浦一理 (ふじうら いちり) さんは、アメリカのホームブルーイング賞受賞者であり、代々木にあるクラフトビアバー『Watering Hole』 (ウォータリングホール) の創業者の一人でもある、業界では有名なブルワー (醸造家) だ。

にもかかわらず、池袋の外れにあり、なにかの用事のついでに行ける場所ではないこともあってか、自分の周りのクラフトビール好きも訪れたことがない人ばかり。しかも、ネットで検索しても出てくる情報もごくわずか。

事前情報が少ないがゆえに、ゆうき君と僕は、いつも以上にドキドキワクワクしながら走って向かった。

※1 ブルーパブ:店内の醸造所でビールを醸造し、それを提供するパブのこと。


スタート地点である『TRAILS INNOVATION GARAGE』に集合した、ゆうき君 (右) とTRAILS編集部crewの根津。

NAVIGATOR / ゆうき君 (黒川裕規)
パタゴニアのフード部門『パタゴニア プロビジョンズ』で食品やビールを担当。前職がヤッホーブルーイングということもあり、ビールの知識も豊富。そもそも根っからのビール好きで、10年以上前からクラフトビールを個人的に掘りつづけている。TRAILS編集部crewの根津とは8年来のトレイルラン仲間で、100mileレースをいくつも完走しているタフなトレイルランナーでもある。

 
『TODAY’S BEER RUN』のルール
①日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』からお店まで走って行く ②『TODAY’S BEER RUN』のオリジナル缶バッジを作る ③ゆうき君おすすめのお店で彼イチオシのクラフトビールを飲む

GARAGE to スナーク・リキッドワークス

スタート地点は、東京は日本橋にある『TRAILS INNOVATION GARAGE』。

この場のコンセプトである「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を体験するべく、まずは恒例の『TODAY’S BEER RUN』オリジナル缶バッジづくりから。

MYOG (Make Your Own Gear) ができる『TRAILS INNOVATION GARAGE』で、オリジナルの缶バッジを作るゆうき君。


オリジナルのバッジが完成! これをキャップに付けて走る。

走る準備ですら億劫になりがちな冬が終わり、季節はもう春。暖かい春の日差しを受けて、僕たちは、このビアランで短パンデビューすることにした。

そして春といったら出会いの季節。なにも人だけには限らない。クラフトビールとのステキな出会いもあるはずだ。そんな期待に心踊らせて走り出した。


春の匂いを感じつつ、極上のクラフトビールを求めて日本橋の『TRAILS INNOVATION GARAGE』を出発。

今回のルート

『SNARK LIQUIDWORKS』までは、約9km。春の陽気のせいなのか、街はいつも以上に人であふれているような気がする。

スーツを着た会社員らしき人もいれば、学生らしき人もいて、子連れの家族もいれば、年配のご夫婦もいる。そして、特に都心は外国人観光客がたくさんいた。

僕たちは、そんな人波にのまれることなく、走り抜けていく。クラフトビールで頭がいっぱいなのだ。

神田、水道橋を経て、目白台運動公園に立ち寄ってからゴールへ。全長約9km。

残り約3kmという地点で、ルート沿いにある目白台運動公園に寄り道してみた。

初めて入ったけど、すごく整備が行き届いていて清潔感にあふれていた。なかでもキレイな芝生が印象的。

雲ひとつない晴天のもと、目白台運動公園の芝生エリアを走る。

公園内を走ってぐるっと一周すると、クラフトビール欲はさらに高まった。なんなら今すぐにでも、ここの芝生の上で飲みたいくらい。そんな気持ちをグッと抑えて、極上のクラフトビールを飲むべく目的地へと急ぐ。

『SNARK LIQUIDWORKS』があるのは、約半世紀前に建てられた市場の跡地

2019年2月にリノベーションによって復活した「NishiikeMart」 (ニシイケマート) に、ブルーパブを構える。なんだか隠れ家感があってそそられる。

『SNARK LIQUIDWORKS』がある建物は、もともと「西池袋マート」という個人商店が集まる市場で、地元の台所して親しまれていた場所だった。

半世紀近く前に建てられたその市場は、時代の移り変わりとともにお店が立ち退き、しばらく空き家になっていた。それが2019年2月にリノベーションされて、「NishiikeMart」 (ニシイケマート) として復活。そのタイミングで、『SNARK LIQUIDWORKS』がオープンした。

併設されている醸造所。

ブルーパブなので、エントランスを入ると目の前に大きな醸造所がある。この巨大な醸造設備を見ただけで、クラフトビール欲は最高潮。できたてのフレッシュなビールを飲めること間違いなしだ。

約30年にわたって醸造をつづけてきたブルワーが生み出すクラフトビール。

『SNARK LIQUIDWORKS』オーナー&ブルワーの藤浦一理さん。ブルワーになる前は、コンピュータ関係の仕事に従事していた。天才発明家ニコラ・テスラをリスペクトし、彼の名前を冠したビールも作っている。

出迎えてくれたのは、『SNARK LIQUIDWORKS』のオーナーでありブルワーの藤浦一理 (ふじわら いちり) さん。

藤浦さんは、1998年、アメリカのホームブルーイング (※2) の大会「National Homebrew Competition」で、総合優勝「American Homebrewer of the Year」を、受賞したブルワーである。

ホームブルーイングが盛んなアメリカで (ホームブルワーは100万人超)、日本人が受賞するだなんて驚きでしかない。

藤浦さん:「最初は、チョコレート感のあるポーター (※3) を作ったんです。コンペティションには、スペシャリティ&エクスペリメントというカテゴリーがあるんですけど、そこにエントリーするためのスペシャリティビールを作ろうと思って、チョコレートとの相性がいいココナッツを選びました。それでココナッツポーターをエントリーしたんです」

それが評価されて予選を勝ち抜き、決勝戦でも1位になってスペシャリティ部門のゴールドメダルを受賞したのだ。それだけでもものすごいことだが、さらに驚く話があった。

藤浦さん:「そのあとに、全カテゴリーのゴールドメダルだけ集めてその中から1つを選ぶ、ベストオブショウっていうのをやるんです。全部で24カテゴリーくらいあったと思うんですが、そこで最優秀ビールに選ばれました」

ココナッツポーターというややニッチなスタイルのビールが、全スタイル相手に勝ってしまったのだ。もはや、どれだけ美味しいビールなのか想像すらつかない。

※2 ホームブルーイング:自家醸造のこと。個人が小規模かつ非商業的目的でビールを醸造すること。欧米では合法の国が多いが、日本では非合法。日本では、アルコール度数1%以上の飲料を作るには免許が必要となる。

※3 ポーター:イギリスはロンドン発祥の黒ビールの一種。

カウンターの席で、醸造設備を眺めながらクラフトビールを飲むのもおすすめ。

そんな藤浦さんは、2012年に、クラフトビール専門店「Watering Hole」 (ウォータリングホール) をパートナーとともにオープン。そして、2019年に念願だったブルーパブとして『SNARK LIQUIDWORKS』を立ち上げたのだ。

藤浦さんは独学で醸造を勉強しはじめ、醸造歴は30年近くにもおよぶ。しかも、2004年〜2012年にかけては、知る人ぞ知るビール講座「サタデイ イブニング ビア ライブ」の講師を担当。これは、ビールの聖地とも呼ばれる「麦酒倶楽部ポパイ」 (詳しくは過去記事を参照) で行なわれていた歴史あるトークライブである。

毎月開催され、ビアスタイルの歴史について語る「スタイル編」と、醸造テクノロジーについて語る「醸造編」を交互に行なっていた。その後、「Watering Hole」でも開催していたそうで、実はゆうき君もビールの勉強のために聴講したことがあったとのこと。ゆうき君にとっては、ある意味、ビールの先生との再会! というわけだ。

長年クラフトビールの講座を担当していたこともあり、藤浦さんの知識量は半端じゃない。しかも物腰柔らかな語り口なので、ついつい聞き入ってしまう。

ゆうき君のイチオシの「TODAY’S BEER」

最近タップにつながれたばかりの、藤浦さんこだわりのIPAをチョイス。

ゆうき君の今日のイチオシはこれ。

『Dyer』(ダイヤー)

ゆうき:「今回の1杯は、IPAのDyer。IPAでも外観が若干濁っていてるからヘイジーIPAと呼ばれがちだけど、そのビアスタイルの本質的な意図や成り立ちからスナークではあえて『バーモントスタイルIPA』と呼んでいる。

フルーティな味わいの中にも後からホップの苦味がバランスよく効いた、締まりのある味わいでおいしい!

スナークはこのDyerのようなわりと現代的なスタイルも作りつつ、イタリアンピルスナーやへレス等のラガー系を作るのもの上手なので、ぜひいろいろなスタイルを飲み比べてみてください。あと、いつかまた伝説? のココナッツポーターを作って欲しい (笑)」

見た目はヘイジーだが、見た目だけではわからない味わい深さがある。

自分も、てっきり見た目がヘイジーIPAゆえに、トロピカル&ジューシーさ全開で苦味が少ないのかと思っていた。それが飲み口はジューシーなんだけど、しっかり苦味もあって想像以上に後味がスッキリしていて驚いた。

しつこくなく飽きのこないテイストで、走ったあとにピッタリ。これなら、2杯、3杯飲めそうだ。

店内には、クラフトビール以外のものも多い。これは藤浦さんが新卒で入社したコンピュータメーカーの製品ポスター。店内は、藤浦さんらしいギークな世界であふれている。これがまた興味深いのだ。

藤浦さんに話を聞いていたら、さらっとビッグニュースを教えてくれた。なんとこの4月1日から、店舗が大幅リニューアルするというのだ。

『SNARK LIQUIDWORKS』という社名は残るものの、店舗名としてはこの3月いっぱい限り (現在の雰囲気を味わいたい人は急げ!)。

藤浦さん:「これまで、パブのほうはアルバイトスタッフが担当してくれていましたが、4月からは専属の店長が切り盛りします。

また、隣がギャラリーなんですが、そこを借りてアーティストさんのイベントなども開催します。4月に関しては、毎週ゲストシェフを招いてフードイベントもやる予定ですので、ぜひたくさんの人に来て欲しいですね」

これまでキッチンはあるものの料理を提供していなかった『SNARK LIQUIDWORKS』が、4月からは装いもあらたに、食事も楽しめるブルーパプに生まれ変わるのだ。これは楽しみで仕方がない。

よりお客さんのニーズに合わせていくとも言えるわけだが、ココナッツポーターをはじめ、もともと自分が作りたいビールを作ってきた藤浦さんの、良い意味で尖ったビールは、もしかしたら飲めなくなってしまうのだろうか?

藤浦さん:「そんなことはないですよ。ホッピーなものが中心になるとは思いますが、バラエティ豊かなスタイルを楽しんでもらえるようにしたいです。そして、ビールとして品質の良いもの、できる限り欠陥のないものを提供します」

最後に心強い言葉をいただいた。願わくば、いつか、あのアメリカのホームブルーイングのコンペで優勝をかっさらった、ココナッツポーターが飲みたい!

走って汗をかいたあと、極上のクラフトビールで乾杯! 4月からは藤浦さんは醸造に専念するが、この場所にはいるとのこと。藤浦さんの話はすごく深く、面白く、かつわかりやすいので、ぜひ声をかけていろいろ聞いてみてほしい。

今回も、走ったあとのクラフトビールは最高!

聞けば、藤浦さんは現在一人で醸造すべてを手がけているそうで、355連勤中とのこと (もちろんフルタイムじゃない時もあるそうです)。

仕込みのときだけ「手伝いたい」「インターンシップがしたい」なんて人がいたら歓迎しますよと言っていたので、クラフトビールを学びたい人にとっては願ってもないチャンス。ぜひお店で声をかけてみてほしい。

さて、次はどこのクラフトビールを飲みにいこうかな。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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