アパラチアン・トレイル (AT) | #02 ギアリスト編 by Daylight(class of 2022)
文:Daylight 写真:Daylight, TRAILS 構成:TRAILS
毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。
そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。
そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。
今回は2022年にアパラチアン・トレイル (AT) を歩いた、トレイルネーム (※1) Daylightによる、第2回のレポート。
スルーハイキングに向けたギアの準備編をお届けする。
Daylight’s ギアリスト for アパラチアン・トレイル
もともと山歩きをしていたので、たいていのギアは持っているし、これまでの経験からさまざまな状況も想像できる。2020年にPCTへ行くつもりで準備していたものもある。だから、ATのために準備したギアはほんの少しである。
基本的に「新しいものは買わずにあるものを使う」というポリシーである。ATは、PCTに比べて標高が低いので、防寒対策はそのままではオーバースペックとなってしまうと考えた。
スリーピングバッグは氷点下に対応するものから、夏山用に使っていたmont-bellのDownhagger650 #5に変更。ダウンジャケットも同様に、mont-bellのSuperior Down Round Neck Jacketにダウングレードした。
シェルターは、雨の多いATのためにバスタブ構造のテントを用意した。また傘も市販品を加工したものを用意した。このあたりのギアの詳細については後述する。
そして、いくつかのギアはMYOG (Make Your Own Gear) の精神で、「自分で作る」もしくは「既製品に手を加える」こととした。
モノを作ることもハイキング同様に好きなことであるし、準備期間を楽しむための作業である。そういうものを使ったり、見せたりすることは楽しいことだ。
歩く:HIKING GEAR
バックパックを自作した。初代は帆布製、これは2代目でX-pacがメインの素材。軽量ながら強度があるため、多くの食料を入れた場合にも対応できると考えた。また、ATでは使用しないが、汎用性も考慮してベアキャニスターを横置きできるサイズとした。
サイドポケットには2Lのペットボトルを入れることができる。ウエストベルトも欲しかったので付けた。これで2021年にみちのく潮風トレイルをスルーハイキングしている。
歩く時の衣類だが、ショーツは普段から日常的に履いているもので、もう30年は同様のものを使っている。ビキニタイプでポリエステル素材だから、汗をかいてもあまり肌にまとわりつくこともなく夏場でも快適である。さすがにTバックは試していない。
Tシャツをアンダーウェアとして使用するのも温度差に対応するのに適当で、朝はフリースや雨具を着て保温するとして、昼間はTシャツで歩くことになるだろうと想定していた。同様にパンツはジップオフパンツで温度差に対応することとした。
ソックスは5本指の綿素材のものをチョイスした。これも普段履きであり、みちのく潮風トレイルを歩いた時も使用した。Tシャツ、ショーツ、ソックスはそれぞれ3つ用意して着用分、シャワー時の着替え分、予備とした。
寒いときに、タイツを履くことはほとんどない。大抵は暑くて脱ぎたくなってしまうのだ。そこで、薄手のフリースマフラーを半分に切って紐で結んだもの (両足の太もも部分をカバーする前掛けのようなアイテム) を考案した。これなら暑くなった時に脱ぐのも簡単である。
レインウェアは防寒着を兼ねているが、パンツは少雨の場合履かないことが多いので、最軽量のものを選んだ。ベンチレーション (換気) 性能にもこだわった。ジャケットは薄手のものは防寒着にならないので、ある程度は厚手であるものが良いと考えている。ピットジップ (脇下のジッパー) のついているレインジャケットは購入当時はUSモデルだけしかなかった。
トレッキングポールは、日本の山ではTグリップタイプをシングルで使っている。2本使いは同時に扱いきれないで曲げたことがあったので自分に向かないと思った。テントも自立式のもので支柱として必要がないので1本で対応した。持っていかないという選択肢もあったが、やはり渡渉のことも考えると必要であると考えた。
ハイドレーションは、水が飲みたいときにバックパックを下ろす必要がないので日本でも愛用している。ペットボトルを胸に付けるのは邪魔そうだし、サイドポケットは手が届かない。ULの観点からは不要だと言われるかもしれないが、僕はいいと思っている。
寝る:SLEEPING GEAR
「BIGAGNES / Copper Spur HV UL1」はバスタブ構造で防水性が高く、メッシュ部分が多いので通気性も高く結露に強そうだ。2人用を利用する人もいるようだが少しでも軽量化する方向で1人用にした。
ULの教科書に従ってバックパックの内側にスリーピングマットをぐるっと回すスタイルにした。枕はスタッフザックに着替えを入れたもので十分だ。歩き疲れてからインフレータブルのマットに空気を入れるのは大変だと思った。何より軽量である。
また、インナーシーツを用意した。長い期間利用するのでスリーピングバッグを清潔に保つために必要だと、何かの記事に書いてあったので試すことにした。
サンダルは宿泊地に着いたときにあると楽である。軽いものを探すときに100円ショップは強い味方だ。スリッパ型にゴムの紐をつけて脱げにくく改造した。5本指ソックスを履いているので普通のビーチサンダルでも良かったのだが。
食べる:COOKING GEAR
日本の登山では食欲がなくなることがよくあった。フリーズドライの御飯が食べられなくなる。味を濃くするなどの工夫もできるが、周りのテント宿泊者にどんな食事を作っているか聞いてみた。
パスタや炊飯という丁寧な食事を作る人がいた。何やら食欲を感じたので、より手間のかからないパスタを試すことにした。アメリカでもパスタなら手に入るので夕食の主力メニューになりそうだった。
事前に試作してみると、広口のフライパンが調理に向いていると判明。パスタが25cmなので半分に折れば直径14cmのフライパンが適当であるという結論に達した。
ストーブは、中国製のBRSの3000Tというものを数年前にAmazonで見つけた、しばらく使ってみたが壊れることもなさそうなので使用することにした。25gしかないので軽量化できる。音が大きいのが気になるが、火力も十分である。ただし、五徳は短くて3方向のみなので安定性が低く、調理中ずっとフライパンの把手を持っている必要がある。
浄水器は日本では使う機会がないので王道のSawyer Squeezeをチョイス。取り込む原水と浄水した水を入れる2つのウォーターキャリーが必要となる。付属のウォーターキャリーは壊れそうなので取り込みやすそうなCNOCのウォーターコンテナを用意した。浄水用は手持ちのPlatypusを使用した。
ATでは食料をフードバッグに入れて木に吊るすことになっている。小石を小さな袋に入れてつながっているロープを枝に掛けて食料を吊るす。熊に食料を食べられることを防ぐのである。
これは人と熊が共存するための手段で、人間の食べ物の味を知った熊が人を襲い、ゆくゆくはそういう熊が駆除されてしまうのである。だから熊のために人間がするエチケットなのだ。この技術は事前に日本で練習しておいた。
エマージェンシー・その他:EMERGENCY GEAR & OTEHRS
薬は日常的に服用するものがあって、3カ月分持っていき、後半、日本から送ってもらうようにしていた。日本からアメリカに物品を送る場合の手続きは面倒なので、事前に調べた手順を伝えて、家族に依頼した。
マメ (blister) 対策としては、毎朝ワセリンを塗ることにした。そして5本指ソックスで通気性と指の間にできるマメを防ぐことができる。それでもできた場合は針で穴をあけてテーピングで固定する。日本で事前に経験しておくと良いだろう。
外用消炎鎮痛剤メンソレータムのラブ (ロート製薬) は言うまでもないが、筋肉痛や腰痛、膝痛によく効くので愛用している。若い人は必要ないだろう。膝痛用にサポーターも用意した。本当は両膝とも痛くなる可能性はあったのだが、両方痛くなったら歩けないし、そこまでしたくないと考えたからだ。
歯ブラシは事前の軽量化遊びで楽しんだもののひとつだ。まず、把手を短くしてみる。いくらでも短くできそうだが、きちんと持っている感覚を保つための限界があるようだ。やりすぎると何かしっくりこなくなる。自分に合った長さにして完了。
そしてブラシ選びも大事なUL要素がある。ヘッドが薄くて短いものが良い。軽量化のために全体をやすりで磨いていくのだが、口に入る部分はザラザラ感が出てしまうので加工はしないほうが良い。
歯磨き粉はペースト状のものより、粉末状のほうが当然軽い。容器が重かったので、飲むヨーグルトの容器に入れ替えた。歯間ブラシは曲がるまで何回も使うことにした。
ペンチ (プライヤー) も軽量化のため、軽そうなものをネットで探してカットした。40%の軽量化に成功した。主に修理用に使う目的だ。
爪切りもULでは定番のVICTORINOXのものだ。これで足の爪が本当に切れるのか疑問だった。これは練習していかないとならないと思った。うまく切るには、爪切りの根元の部分を上に向けて切ることが良いとわかった。爪の下の部分が少し浅くなる感じだ。爪やすりも市販品を半分に割って把手をつけた。
ヘッドランプは充電式のものを選んだ。電池の予備は重いし、補給する手間がかかる。モバイルバッテリーは軽さ、充電時間の速さ、メーカーの信頼性、評判などを参考にした。主にiPhoneの充電に必要だが4〜5日の間に2回充電ができればいいかなと考えて10,000mAhのものを持って行った。
あと、携帯ウォシュレットが欲しかったので、喉スプレーの容器を代用することにした。
今回は、ATをスルーハイキングするにあたってのギアリストを紹介してもらった。次回は、リサプライ (食料やギアの補給) やアクセスのプランニングについてのレポートをお届けする予定だ。
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