TRAILS REPORT

信越トレイル トレイルメンテナンスツアー2023 | ATハイカー (Class of 2022) が参加したトレイル整備

2023.07.05
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アメリカのロングトレイルを歩いていると、かならずと言っていいほど、メンテナンスクルーに出会う。クルーの多くは、過去にそのトレイルを歩いたハイカーだったり、そのトレイルに愛着を持っている地元の人だったりするのだが、みんな楽しそうで、しかもプライドを持って整備に取り組んでいるのが印象的だった。

それを見た僕たちは、ここ日本でも、ハイカーとしてトレイル整備に携わりたいと強く思った。そして2013年に、その機会をつくるためにHiker’s DepotとTRAILSで共同企画、運営することになったのが、このトレイルメンテナンスツアーである。

2021年に延伸を実現し全長110kmのトレイルとなった信越トレイルは、2005年の開通から今年で18年目を迎えた。当初からボランティアベースでの継続的な整備の仕組みを構築し、それをずっと維持してきた日本のロングトレイルのパイオニアだ。ハイカーである僕たちが整備に参加できるのも、信越トレイルの受け入れ体制が整っているからこそである。

昨年と一昨年は、コロナの影響もあり小規模開催だったが、今年から従来の規模に戻し、総勢16名のハイカーが参加した。

しかも今回は、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』(※1) の常連で、2022年にAT (※2) を歩いてきたばかりの、飯塚真吾 a.k.a. Daylightさんが参加。ATでトレイルメンテナンスクルーにも出会ったという飯塚さんに、ATハイカーの視点で信越トレイルのトレイル整備を語ってもらった。

※1 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年にTRAILSとHighland Designsで立ち上げたイベント。2023年4月に7回目を開催。

※2 AT:Appalachian Trail (アパラチアン・トレイル)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。


今回のトレイルメンテナンスツアーでは、信越トレイルのSection4を歩いた。

あなたたちのおかげで歩けています。


2022年にATを歩いた飯塚真吾さん。

ATを歩く前から、TRAILSの信越トレイル整備の記事や、『LONG DISTANCE HIKERS DAY』への参加を通じて、トレイル整備についての理解があった飯塚さん。ただ、実際にATを歩き、メンテナンスクルーを目の当たりにして思うことがあったという。

飯塚:「メンテナンスクルーの存在は知っていましたが、実際会えるかどうかはわかりませんでした。でも、行ってみたら何度も会うことになりました。トレイルクラブのボランティアの人が、木を切っていたり、水を流す溝を作っていたり。いちハイカーとして感謝の気持ちが芽生えて、『あなたたちのおかげで歩けています』と、労いの言葉をかけるようにしていました」


ATにて。トレイルにまたがる倒木をノコギリで切るトレイルメンテナンスクルー。

そしてATでトレイル整備を目の当たりにした飯塚さんは、今回、信越トレイルの『トレイルメンテナンスツアー2023』に参加することになった。

飯塚:「ATに行く前から、トレイルに対して何か恩返し的なことができたらいいなぁと思っていたんです。

ATから帰ってきて、よりトレイル整備への思いや恩返しの気持ちが強くなっていたなかで、TRAILSに声をかけてもらい、二つ返事で参加することに決めました」

信越トレイルと昔の思い出がつながる。


1日目は、参加者全員でハイキング。

この信越トレイル・トレイルメンテナンスツアーの特徴のひとつは、トレイル整備だけが目的ではないこと。整備にくわえて、信越トレイルをデイハイキングし、地元のトレイルタウンに泊まることも含まれている。

すなわち、山と街をつないで旅するロング・ディスタンス・ハイキングのエッセンスを楽しんでもらうことを大事にしているのだ。

ちなみに今回の1日目は、関田峠からスタートし、鍋倉山、久々野峠と、信越トレイルのSection4の一部を歩き、巨木の谷を経て巨木の谷駐車場でゴールするというコースだった。


ハイキング終了後に、みんなで休憩&デザートタイム。

飯塚:「まだ信越トレイルは歩いていなくて今回初めて歩きました。関田峠から新潟側がすぐ上越市であることを知って、えぇそうなのかと! いや実は、僕は30年以上前に上越市に暮らしていたことがあったんですよ。それで、すごく懐かしさが込み上げてきました。

トレイルはブナがとても美しくて、樹林帯の多いATのことも思い出しながら歩いていました。下りてからは、千曲川沿いにある『いいやま湯滝温泉』に行きました。あれ? なんか見たことある風景だな! と思ったら、以前千曲川を川下りして、この温泉にも来たことがあったことを思い出して。そんな昔の記憶と繋がったのも面白かったですね」


宿泊地である「なべくら高原・森の家」にて。信越トレイルクラブ事務局の佐藤有希さんがAT視察の話をしてくれた。

気に入った場所、遊んでいる場所に、何かしてあげたい。


2日目は、みんなで歩きながらトレイルを整備していく。

2日目は、整備の日。この辺りは国内有数の豪雪地帯で、冬には3〜4mの雪が積もる。そして雪解けとともに、倒木が生じたり、トレイルが崩れたり、一部が流されてしまうこともあるため、整備は欠かせない。

信越トレイルは『生物多様性の保全』を理念に掲げ、地元の自然を大切にすることが基本スタンスである。そのため、整備においても重機は使用せず、人力でなるべく現地にある倒木や落ち葉などを利用しているのが特徴だ。


ぬかるんで歩きにくい場所には、人工物を設置するのではなく倒木を利用。

飯塚:「半分はハイキングみたいな感じでしたね。歩きながら枝切ハサミでトレイルにはみ出している枝を切ったり、倒木をノコギリで切ったり。倒れた道標を立てる作業にも携わりました。

ATを歩いた時に実感したのですが、トレイルを歩けるのも、整備している人のおかげです。あるエリアでたまたまトゲトゲの薮が密集しているところを歩かなければいけなくて、整備のありがたさを痛感しました。今回、信越トレイルの整備を手がけて、僕もトレイルに対して少し恩返しができたかな! という満足感がありました」

飯塚さんは、楽しみながら整備に取り組んでいるのが印象的だ。ハイキングと同様に好きだから整備をする、そんな風にも見える。


道標を立てる飯塚さん。

飯塚:「たとえがあってるかどうかわからないけど、学校で言えば教室掃除というか (笑)。自分がお世話になっているところを掃除するみたいなね。気に入った場所、遊んでいる場所に何かしてあげたいというのは自然のことだと思うんです。

そんなトレイルに対して、寄付も含めてお金を使うということ以外にできることはなかなかないので、トレイル整備に関わることができて良かったです」

トレイル整備を通じて、そのトレイルがより好きになる。


自然豊かな信越トレイル。整備をしているからこそ、ハイカーが歩くことができる。

飯塚さんにとっては、今回が初のトレイルメンテナンスツアー。2日間参加してみてどうだったのだろうか。

飯塚:「私も含めて多くの参加者が東京近郊在住の人でした。僕はATから帰って来てトレイル整備がしたくて仕方なかったので整備だけでも参加したと思いますが、そういう人ばかりじゃないですよね。

ですから今回のツアーのようにハイキングとセットというのは、すごくいいなと思いました。ハイキングとトレイル整備を両方体験することで、信越トレイルのことが好きになると思いますね」

飯塚さんは、信越トレイルを歩くことも今回が初めてだった。いずれスルーハイキングもしたいと言っていたので、今回の経験を経て、実際歩いてみた時どんな感想を抱くのかが楽しみだ。

飯塚:「その時は歩きながら、ここらへんの木を切ったなぁとか、この道標を直したんだなぁとか思うでしょうね。そんな感情を抱きながら歩いたら、きっとハイキングがもっと面白くなるんじゃないかなと、今から楽しみです」


今回、トレイルメンテナンスツアーに参加したハイカーと、信越トレイルクラブのスタッフ。

今年のトレイルメンテナンスツアーは、コロナ期に参加できなかったたくさんのハイカーが心待ちにしていた。それだけに、あっという間に参加者が集まり、大所帯での開催となった。

このトレイルメンテナンスツアーは年1回の開催だが、このツアーとは別で、信越トレイルクラブでは随時、整備ボランティアを募集している。興味がある人は、ぜひ信越トレイルのホームページ (https://www.s-trail.net/) をチェックしてみてほしい。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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