信越トレイル トレイルメンテナンスツアー2022 | オープンしたばかりの延伸区間の整備
2021年に延伸を実現し全長110kmのトレイルとなった信越トレイルは、2005年の開通から今年で17年目を迎えました。当初からボランティアベースでの継続的な整備の仕組みを構築し、それをずっと維持してきた日本のロングトレイルのパイオニアでもあります。
ハイカーである僕たちが整備に参加できるのも、信越トレイルの受け入れ体制が整っているからこそ。
今年は、昨年にひきつづきコロナ対策も踏まえて、定員5名 (スタッフ除く) というミニマムな規模での開催となりました。
トレイル整備はもちろんトレイル沿いのトレイルタウンも楽しんだ、1泊2日のトレイルメンテナンスツアーをレポートします。
自分たちの遊び場を自分たちで守る
アメリカのロングトレイルを歩いていると、かならずと言っていいほど、メンテナンスクルーに出会う。
クルーの多くは、過去にそのトレイルを歩いたハイカーだったり、そのトレイルに愛着を持っている地元の人だったりするのだが、みんな楽しそうかつプライドを持って整備に取り組んでいるのが印象的だった。
それを見た僕たちは、ここ日本でも、ハイカーとしてトレイル整備に携わりたいと強く思った。そして2013年、その機会をつくるためにHiker’s DepotとTRAILSで共同企画、運営することになったのが、このトレイルメンテナンスツアーである。
当初はトレイル整備だけのイベントだったが、2017年からは整備だけではなく宿泊込みでトレイルタウンも楽しむスタイルへと進化した。
昨年にオープンしたばかりの、秋山郷のルートをハイカーが整備
2021年9月、信越トレイルは、天水山から苗場山までの約40kmの区間を延伸し (Section7〜10) 、約110㎞のトレイルとして生まれ変わった。
そして今年は、トレイル開きが6月25日 (土)・26日 (日) に実施され、新しいシーズンがスタートした。これからたくさんのハイカーが歩き始める。特に、昨年オープンしたばかりの延伸ルートは注目度も高い。
そこで今回は、この延伸ルートの整備に携わらせてもらうことになった。具体的には、秋山郷 (※) の結東 (けっとう) というエリアにある「あずき坂」である。
この辺りは国内有数の豪雪地帯で、冬には3〜4mの雪が積もる。そして雪解けとともに、倒木が生じたり、トレイルが崩れたり、一部が流されてしまうこともあるため、整備は欠かせないのだ。
今回の作業内容は、トレイルに覆いかぶさっている木の枝の枝払い (枝切ハサミを使用)、トレイル上にある落葉や枝の回収 (熊手を使用)、トレイルの補修・成形 (つるはし、鍬 [くわ]、剣スコップを使用)。
信越トレイルは『生物多様性の保全』を理念に掲げ、地元の自然を大切にすることが基本スタンスである。そのため、整備においても重機は使用せず、人力でなるべく現地にある倒木や落ち葉などを利用しているのが特徴だ。
あずき坂は通常1時間程度で登れる坂だが、じっくり3時間かけて作業しながら登った。帰りは、自分たちの手で歩きやすくなったトレイルを、それぞれ味わいながら下りていった。
新たなトレイルタウンのひとつ、結東の集落に宿泊
このトレイルメンテナンスツアーの特徴のひとつは、トレイル整備に携わるだけではないことだ。整備にくわえて、地元のトレイルタウンに宿泊してもらうことで、より深くトレイルカルチャーを楽しんでもらうことを大事にしている。
今回は、信越トレイルが通っている、新潟県魚沼郡津南町の見倉 (みくら) から結東 (けっとう) というエリアを堪能してもらうべく、「見倉トンネル 〜 かたくりの宿」間の約5kmをハイキングした。
終点に設定した「かたくりの宿」は、結東の集落内にある宿泊施設である。廃校となった小学校を改築した宿で、源泉かけ流しの温泉と地のものをふんだんに使った料理が人気の宿でもある。
参加したハイカー5名も、トレイル沿いにこんなステキなトレイルタウンがあるとは思ってもみなかったよう。みんな結東ならではの魅力を体感し、結東への愛着がわいたようだった。
信トレスタッフ・鈴木栄治さんが考える「トレイル整備の楽しさ」とは
最後に、今回このトレイルメンテナンスツアーを取り仕切ってくれた、信越トレイルクラブの鈴木栄治さんに伺った話を紹介したい。
栄治さんは、2016年にAT (アパラチアン・トレイル) を夫婦でスルーハイク。帰国後、信越トレイルクラブのスタッフとして働きはじめた。
ATでたまたまトレイル整備のボランティアに参加して、整備の楽しさを知ったそうだ。
「トレイル整備をやったのは、ボランティア精神とかではぜんぜんなくて。それは、トレイルを歩いた人に自然にわきあがってくる欲求だと思います」
奉仕の精神や義務感からではないのが興味深い。
「トレイルを歩いていると、トレイルの運営団体や地域の人、ハイカーなど、たくさんの人からサポートを受けます。そのおかげで歩けているわけですが、受け取るばかりで、逆に与えたい気持ちが芽生えてくるんです。誰かになにかをしてあげることの楽しさに気づいたというか。
ATを歩いて、それを知ったんです。みんな、なにかのためとかではなく、トレイル整備も含めて楽しいからやっているんだなと。以来、僕もトレイル整備を楽しんでやっています。
なので毎年、このトレイルメンテナンスツアーはもちろん、通常の整備の参加者に対しても、整備自体を楽しんでくれているかな? というのをいつも気にかけて迎え入れています」
今年のトレイルメンテナンスツアーは、コロナも考慮してミニマムでの開催となったが、参加したハイカーにとっては、トレイル整備の楽しさを実感できる絶好の機会となっただろう。
このトレイルメンテナンスツアーは、引き続き今後も毎年開催していく予定だが、このツアーとは別で、信越トレイルクラブでは随時整備ボランティアを募集している。興味がある人は、ぜひ信越トレイルのホームページ (https://www.s-trail.net/) をチェックしてみてほしい。
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