TRAILS REPORT

信越トレイル トレイルメンテナンスツアー2022 | オープンしたばかりの延伸区間の整備

2022.07.13
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信越トレイルのトレイルメンテナンスツアーは、「トレイルを歩かせてもらっているハイカーとして、自分たちの遊び場であるトレイルを支え、守りたい」。そんな想いがきっかけで2013年にスタートしたイベントです。

2021年に延伸を実現し全長110kmのトレイルとなった信越トレイルは、2005年の開通から今年で17年目を迎えました。当初からボランティアベースでの継続的な整備の仕組みを構築し、それをずっと維持してきた日本のロングトレイルのパイオニアでもあります。

ハイカーである僕たちが整備に参加できるのも、信越トレイルの受け入れ体制が整っているからこそ。

今年は、昨年にひきつづきコロナ対策も踏まえて、定員5名 (スタッフ除く) というミニマムな規模での開催となりました。

トレイル整備はもちろんトレイル沿いのトレイルタウンも楽しんだ、1泊2日のトレイルメンテナンスツアーをレポートします。


信越トレイルには、ボランティアベースでの継続的な整備の仕組みがある。

自分たちの遊び場を自分たちで守る

アメリカのロングトレイルを歩いていると、かならずと言っていいほど、メンテナンスクルーに出会う。

クルーの多くは、過去にそのトレイルを歩いたハイカーだったり、そのトレイルに愛着を持っている地元の人だったりするのだが、みんな楽しそうかつプライドを持って整備に取り組んでいるのが印象的だった。


アメリカのロングトレイルでの、トレイル整備風景。

それを見た僕たちは、ここ日本でも、ハイカーとしてトレイル整備に携わりたいと強く思った。そして2013年、その機会をつくるためにHiker’s DepotとTRAILSで共同企画、運営することになったのが、このトレイルメンテナンスツアーである。

当初はトレイル整備だけのイベントだったが、2017年からは整備だけではなく宿泊込みでトレイルタウンも楽しむスタイルへと進化した。

昨年にオープンしたばかりの、秋山郷のルートをハイカーが整備

2021年9月、信越トレイルは、天水山から苗場山までの約40kmの区間を延伸し (Section7〜10) 、約110㎞のトレイルとして生まれ変わった。

そして今年は、トレイル開きが6月25日 (土)・26日 (日) に実施され、新しいシーズンがスタートした。これからたくさんのハイカーが歩き始める。特に、昨年オープンしたばかりの延伸ルートは注目度も高い。


延伸ルートである、秋山郷の結東 (けっとう) にある「あずき坂」。美しいブナ林が広がっているエリアだ。

そこで今回は、この延伸ルートの整備に携わらせてもらうことになった。具体的には、秋山郷 (※) の結東 (けっとう) というエリアにある「あずき坂」である。

※ 秋山郷 (あきやまごう):深い峡谷である中津川渓谷沿いに広がる秘境。以下の13集落を総称して秋山郷と呼ばれている。新潟県津南町に属する見玉、穴藤、逆巻、清水川原、結東、見倉、前倉、大赤沢の8集落、長野県栄村に属する小赤沢、屋敷、上野原、和山、切明の5集落。


大きな倒木を移動させるのも、整備作業のひとつ。

この辺りは国内有数の豪雪地帯で、冬には3〜4mの雪が積もる。そして雪解けとともに、倒木が生じたり、トレイルが崩れたり、一部が流されてしまうこともあるため、整備は欠かせないのだ。


今回のトレイル整備で使用した道具たち。

今回の作業内容は、トレイルに覆いかぶさっている木の枝の枝払い (枝切ハサミを使用)、トレイル上にある落葉や枝の回収 (熊手を使用)、トレイルの補修・成形 (つるはし、鍬 [くわ]、剣スコップを使用)。

信越トレイルは『生物多様性の保全』を理念に掲げ、地元の自然を大切にすることが基本スタンスである。そのため、整備においても重機は使用せず、人力でなるべく現地にある倒木や落ち葉などを利用しているのが特徴だ。


つるはしと鍬 (くわ) を使って、斜面が崩れて狭くなったトレイルを広げているところ。

あずき坂は通常1時間程度で登れる坂だが、じっくり3時間かけて作業しながら登った。帰りは、自分たちの手で歩きやすくなったトレイルを、それぞれ味わいながら下りていった。

新たなトレイルタウンのひとつ、結東の集落に宿泊


トレイルメンテナンスツアーの1日目は、延伸ルートの一部 (約5km) をハイキング。

このトレイルメンテナンスツアーの特徴のひとつは、トレイル整備に携わるだけではないことだ。整備にくわえて、地元のトレイルタウンに宿泊してもらうことで、より深くトレイルカルチャーを楽しんでもらうことを大事にしている。


トレイル上にある見倉 (みくら) の集落。

今回は、信越トレイルが通っている、新潟県魚沼郡津南町の見倉 (みくら) から結東 (けっとう) というエリアを堪能してもらうべく、「見倉トンネル 〜 かたくりの宿」間の約5kmをハイキングした。


今回は、結東の集落内にある宿泊施設「かたくりの宿」に泊まった。

終点に設定した「かたくりの宿」は、結東の集落内にある宿泊施設である。廃校となった小学校を改築した宿で、源泉かけ流しの温泉と地のものをふんだんに使った料理が人気の宿でもある。


地のものをふんだんに使った料理に舌鼓を打つハイカーたち。

参加したハイカー5名も、トレイル沿いにこんなステキなトレイルタウンがあるとは思ってもみなかったよう。みんな結東ならではの魅力を体感し、結東への愛着がわいたようだった。

信トレスタッフ・鈴木栄治さんが考える「トレイル整備の楽しさ」とは

最後に、今回このトレイルメンテナンスツアーを取り仕切ってくれた、信越トレイルクラブの鈴木栄治さんに伺った話を紹介したい。

栄治さんは、2016年にAT (アパラチアン・トレイル) を夫婦でスルーハイク。帰国後、信越トレイルクラブのスタッフとして働きはじめた。


2016年にATをスルーハイクした際に参加した、整備ボランティア。

ATでたまたまトレイル整備のボランティアに参加して、整備の楽しさを知ったそうだ。

「トレイル整備をやったのは、ボランティア精神とかではぜんぜんなくて。それは、トレイルを歩いた人に自然にわきあがってくる欲求だと思います」

奉仕の精神や義務感からではないのが興味深い。

「トレイルを歩いていると、トレイルの運営団体や地域の人、ハイカーなど、たくさんの人からサポートを受けます。そのおかげで歩けているわけですが、受け取るばかりで、逆に与えたい気持ちが芽生えてくるんです。誰かになにかをしてあげることの楽しさに気づいたというか。

ATを歩いて、それを知ったんです。みんな、なにかのためとかではなく、トレイル整備も含めて楽しいからやっているんだなと。以来、僕もトレイル整備を楽しんでやっています。

なので毎年、このトレイルメンテナンスツアーはもちろん、通常の整備の参加者に対しても、整備自体を楽しんでくれているかな? というのをいつも気にかけて迎え入れています」


今回、トレイルメンテナンスツアーに参加したハイカーと、信越トレイルクラブのスタッフ。

今年のトレイルメンテナンスツアーは、コロナも考慮してミニマムでの開催となったが、参加したハイカーにとっては、トレイル整備の楽しさを実感できる絶好の機会となっただろう。

このトレイルメンテナンスツアーは、引き続き今後も毎年開催していく予定だが、このツアーとは別で、信越トレイルクラブでは随時整備ボランティアを募集している。興味がある人は、ぜひ信越トレイルのホームページ (https://www.s-trail.net/) をチェックしてみてほしい。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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