リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#07 / 恋人と一緒にハイキングを楽しむ方法
多くのアウトドア愛好家にとって、夏は恋人または旦那さんや奥さんをハイキングに連れ出すうってつけのシーズンです。でも、私の知っている経験豊富なスルーハイカーの多くからは、一緒に行ってうまくいったという話を聞きません。ハイカーにとってはよくある話のようで、あるガイドブックではホイットニー山(アメリカ本土最高峰)のトレイルを「離婚メーカー」とも紹介しています。今回の記事では、実際に私が都会育ちのボーイフレンドをアウトドアに連れ出した際の話と、ハイキングを一緒に楽しむコツを紹介します。
2012年、私はボーイフレンドのブライアン(自称オタクで、ハイキングの経験は大学時代にアウトドアクラブで夜通し歩いたことが一度ある程度)を、約500mile(約800km)のコロラド・トレイルに連れて行きました。初心者と一緒にロングハイキングをすることは、自分のハイキング・スタイルに妥協を要することを理解していましたが、私は本当に彼とハイキングをしたかったし、どんな予定の変更があろうとも一緒に行く価値があると思っていました。コロラド・トレイルに入る前に、私たちは二人のスキルレベルの相違がある中でどうやって一緒にハイクすべきか戦略的に計画しました。事前に「コミュニケーション」「トレーニング」「プランニング」をしっかり行なうことで、私たちは多くのハイキングカップルに起こりうる意見の相違やそれによる関係悪化を回避することができました。結果、今ではこのコロラド・トレイルの旅は、私たち二人が過ごした時間の中でもハイライトの一つ(少なくとも私にとっては)であり、二人の関係をより強いものにしてくれました。
この経験の裏には、実は苦い経験があります。私がまだハイキングを始めて間もない頃、当時の私より経験豊富なボーイフレンドと何度か一緒にハイキングに行きました。あれは本当に、いや本当にひどい経験でした。そのトラウマもあり、今回のこのお話を寄稿をすることにしました。この話を通じて誰もが私と同じような経験をせずに済むことを切に願います。
下記が「旅の前」「旅の計画とトレーニング」「旅の道中」における私のアドバイスです。多くの場合、男性がガールフレンドや妻をアウトドアに連れて行くという固定観念がありますが、最近は多くの女性(私を含む)がボーイフレンドや夫をアウトドアに連れて行きます。
本稿では、「あなた」は「より経験豊かなパートナー」を意味し、「恋人」は「バックパッキングの経験が乏しい人」を意味すると仮定します。また、今回の話はカップルを対象にしていますが、同様のことが経験レベルの異なる家族や友人と行くハイキングでも役に立つことでしょう。以下の内容を通して、あなたは質問やとるべき行動、パートナーと話すべきポイントが頭に浮かぶようになるでしょうから、パートナーまたは同行する予定の全員が共通認識を持つのに役立てていただけたらと思います。
■旅の前1)あなたの恋人は100%のやる気があるか?
このポイントを満たすには、恋人が自発的に旅に行く話を切り出すまで、またはこちらが旅の話をする前に恋人からそれに関する話がある状況になるまで、待つ必要があります。旅ではそれぞれが自分の意志でハイクし、本人が納得している必要があります。ハイクにいく話が恋人からあるということは、彼/彼女に主体性がある証拠で、あなたの提案をただ鵜呑みにしているわけではないということです。その程度までになれば、まずは限られた距離のハイキングに誘うことができるでしょう。その際には、かならず彼/彼女がしっかり自発的な意志でハイキングに行くことに賛同してくれており、行くことに対して強い思いを持っていることも確認できれば、なお良いでしょう。
二人(またはグループ)の旅の計画にあたっては、個人のそれよりさらに時間がかかります。旅の計画においては、やるべきことに応じてさまざまな決めごとがありますが、二人で旅をする際には、その決定にあなたの恋人にも参加してもらう必要があります。特に旅が長いもので、行き先が海外となれば、6カ月~数年の期間を計画に費やすべきでしょう。恋人との関係がまだ新しいのであれば、まずは短い一泊の旅行から始めるのがベストです。あなたと関係の浅い彼/彼女と一緒のロングハイキングは、お互いをまだよく知らないのでさまざまな問題につながりやすいと言えます。トレイル上で関係が崩壊したところで、後戻りや中断をすることは容易ではありません。
3)心の準備をする。
あなたの恋人を教える相手と考えるのではなく、ハイキング・パートナーと考えてください。一緒に旅をする中で、ハイキングの実用的な技術や秘訣、コツを恋人から学ぶこともできるのです。たとえば、ブライアンは私よりテクノロジーの知識が豊富で、GPSマッピング・ツールの使い方を私に教えてくれて、それはさまざまな長距離ルートを旅する中で大きな助けになりました。
4)ハイキングの目的地とルートを、出発のかなり前から一緒に決める。
ヒント:それは決して、1日40mile(約64km)のペースで歩く計画や視界の悪いルート、歩いたことのない森を切り開いて歩くようなルートを計画することではありません。
それは、アメリカのメイン州で最も高いカタディン山(標高約1,600m)やカナダのブリティッシュコロンビアにあるカナダ山(標高約3,300m)に登頂することでも、一日も早く目的地に到着するために毎日多くの距離を稼ぐことでもないはずです。旅の一番の目的は、恋人とカップルとして一緒にいることのはずです。と言っても、ゴールすることそっちのけで道に迷って、路頭に迷ってしまうようではダメですけどね(笑)。
6)旅で必要なリサーチの多くを恋人に任せる。
こうすることで私からすべてを聞かなくても、恋人は自分なりの情報を得ることができます。ボーイフレンドと一緒のコロラド・トレイルのハイキングでは、私は相手に対して小言さえも許さない、すべてを知っている人に思われたくありませんでした。結局、彼が自分でリサーチをしてくれたおかげで、私が完全に見落としていた情報を見つけることもできました。両者がそれぞれ何かをテーブルの上で提供できる(=価値を相手に提供できる)と感じることができると、ハイキングはよりうまく行きます。
ちなみに、私たちがコロラド・トレイルに行く前に、私はブライアンに下記タイトル名の本とウェブサイトを読むことを勧めました。
(洋書)
Mike Clelland’s Ultralight Backpackin’ Tips
Mike and Allen’s Really Cool Backpacking’ Book Yogi’s Planning Guides.
(和書)
LONG DISTANCE HIKING 長谷川 晋
※ウルトラライトハイキングやロングハイキングの素晴らしい話やノウハウが紹介されています。
7)二人で一緒に、ハイキングのドキュメンタリーや映画を見る。
そうすれば、これから行く旅ではどんなことが起こり得るかイメージできます。ハイキングは、いつも快晴だったり、虹が見えたりするような素敵な光景があるわけではありません。痛みを伴うことも、空腹にならざるを得ない状況も考えられるということを行く人全員が共有していることが重要です。私が過去にバックパッカー・マガジンでスルーハイキングに関する映画や本のリスト作成を手伝ったので、もしご興味があればこちらも参考にしてみて下さい。
http://www.backpacker.com/skills/beginner/pre-trip-planning-beginner/the-best-books-movies-about-thru-hiking/
8)毎日どれ位の距離を歩き、何時に歩き始め、何時にその日を終え、どれくらいの頻度および長さの休憩を取るかについて、事前に二人できちんと話しておく。ただし、妥協することに柔軟であること。
もし一方がケガや疲労、また病気等でダウンしてしまった場合、相手は自分のエゴや個人的な目標をいったん棚上げして、チームとして何がベストかということを考えなくてはいけません。ブライアンとの旅の二日目、私たちは標高3,660mほどの地点にいましたが、彼は若干の高山病になっていました。私たちが下した決断は、その日は計画の半分の距離に留め、彼の体調回復にあてるということでした。彼が無事に健康で、またハッピーであることが旅を無事に終えるためには欠かせないということを私は知っていました。その日の半分はテント内で読書をし、食べ物を料理し、十分な水分をとって、回復に努めました。次の日には、私たちはとても清々しい気持ちで心新たにハイキングに出発できました。
旅でどれくらいの時間と費用を使おうとお互いが考えているか理解しましょう。予算に余裕がある状況で旅をスタートするカップルのほうが、限られた予算のカップルより道中でのケンカや揉めごとが少ない傾向にあります。もちろん、予算内でいくことに越したことはありませんが、予算の懸念が、ただでさえ困難な旅をさらに難しくしてしまう可能性もあります。
10)カップルとして、お互いの優先順位を理解しておく。
何が二人にとって最も重要なことか?衣服がドライである状態を保つこと?夜に気持ちよくテントで寝ること?私たちの場合、コロラド・トレイルに発つ前に二人で話をして、ブライアンは雨で濡れて寒くなることは避けたいと言っていました。私は彼に旅の間にもし雨が降ることがあれば、すぐにハイキングを中断し、テントを立てて雨宿りをすることを約束しました。1日目にハイキングを始めて3時間が経った後、雹が降り始めた際、私たちは木の下で雨宿りをしましたし、他の日に雨にあった時はテントを立てて避難しました。ただ、彼に問題がなければ小雨の際は雨宿りをせずにそのまま旅を続けることもありました。
11)恐れていることと懸念を二人で話し合っておく。
あなたの恋人は熊が苦手ですか?それとも蛇?雨の中ハイクするのは大丈夫?寒い夜は平気?岩の上で寝ることは?浅瀬で足まで浸かってしまうことは?雪上でのハイクは?トレイル上で起こり得るこれらのことは、時にストレスになります。しかし、心配事を事前に理解しておけば、トレイル上でチームとして意識して避けること(または、本やビデオや講義で避ける方法を学習しておくこと)ができます。これにより、チームの結束が強くなり、ハイキング中の信頼につながります。また、最悪のシナリオが起きてしまった時にどう対応するつもりなのか、事前に話し合っておくことも実際に起きた際のストレス軽減に役立ちます。
ストレス対処の方法を事前に考えておくこと、そのストレスがハイキング中に生じると認識しておくこと。たとえば、私は空腹になるとイライラしやすくなるので、ブライアンに事前にそのことを伝えておきました。そうすれば、彼は私の機嫌がよくない時には何か食べれば大丈夫だと分かります。一方で、ブライアンは手が冷えてしまうとイライラしやすいので、私たちは彼の手がつねに温度を保てるような仕組みをつくってハイキングに臨みました。
■計画とトレーニング
1)恋人に自分の能力に応じた旅の計画を自分で立てるよう依頼する。
ハイキングに慣れていない恋人は、多くの休憩が必要だったり、毎日または毎時の距離を少なめにする必要があるかもしれません。この依頼をすることには、下記3点の目的があります。一つ目は、恋人は毎日どれくらいの距離を歩きたいか、そしてどこで毎日キャンプをすべきかを決めることができます。二つ目は、計画を自分で立てることで恋人は旅に対してオーナーシップを持つことができます。三つ目は、恋人は計画を立てるためにいろいろ自分で調べることで、トレイルやその地形についてより詳しくなれます。
もちろん、経験豊富な相手が恋人の計画を最終的にはレビューして、その計画が妥当かどうかを確認および修正することも必要です。
私は、デイハイクで歩ける自分の最長距離をまず理解し、その距離の半分〜2/3の距離を一日あたりの距離にしましょう(少なくとも旅の序盤だけでも)、とよく人にアドバイスします。
3)テストキャンプ、またはテストバックパッキングに出かける。
クルマのキャンプサイトに泊まろうが、登山口近くでバックパッキングしようが、テントを立てることや寝袋で実際に寝ること、そして自分のストーブで料理をすることは、ロングハイキングをするのに十分な装備を持っているかどうかの判断に役立ちます。水漏れするテント等の欠陥装備を旅で常時使うはめになることほど、心地の悪いことはありませんし、そのストレスが二人の関係悪化にもつながりかねません。事前にストレスの低い環境(クルマがあったり、レストランが10分も行けばある環境)で問題を見つけ、装備の準備をしておくことは、それが山奥の助けがない場所で見つかるより賢明でしょう。これは恋人との旅に限らず、ロングハイキング初心者にとっては、とても重要かつ役立つアドバイスです。
4)事前準備はお互い役割を決めてやり、それぞれが雑用をこなす。
たとえば、ロングハイキングとなると事前に食料を箱に詰めて送っておくことが必要ですが、この仕事は二人でやるほうが簡単です。一人がダンボールを組み立て、もう一人は伝票に記入し、一人が箱に食料を詰め、もう一人は詰められた箱を計量するのです。
5)必ずしも二人用のギアを準備する必要はない。
もしあなたがバックパックおよびテントを2つずつ持っていたら、恋人にそれらを使わせてあげるかもしれません。しかし、ギアはその本人に合っていることが大事であり、合っていないギアを使ってケガをして、それがハイキングを中断させる可能性もあるので、恋人本人が自分に合うギアを友人から借りる、または購入するのが良いでしょう。
6)安全および応急手当に関する講義を一緒に受けておく。
もしあなたが滑落やケガをした場合、相手が応急手当をするやり方を知っておく必要があります。あなたがもしすでに受講した経験があった場合でも、知識をリフレッシュする意味でも一緒に受講し、きちんと知識が備わっているか確認することは有益だと思います。こういったクラスに参加すると、トレイル上で起こり得る最悪のケースについて議論する機会があるので、二人がどう対応すべきか知ることもできます。
1)重要なギアは二人分。
あなたと恋人それぞれで地図を持ち、恋人もきちんと使い方を知っておくべきです。また、応急処置セットについても同様です。二人分あれば、どちらかがはぐれてしまっても、一方がセットを持っていれば緊急時の備えになります。
2)バックパックの重量は二人で分散する。
もし恋人がバックパックに一杯の荷物を持っているようであれば、食料をあなたのバックパックに移してあげても良いでしょう。なぜなら食料は最も重い荷物のひとつだからです。もちろん、恋人にその日分のスナック類は残してあげるべきですが、仮に緊急時でも人は食料がなくてもしばらく生きていけます(シェルターがないことのほうが生死に影響を及ぼします)。
3)二人の仲を保つための十分な食料と頻繁な栄養補給
低血糖は、トレイル上で恋人とケンカをすること、またはケガにつながる主な理由と言われています。恋人とバックパッキングに出かける際は、2〜3時間おきに栄養補給をし、そのペースを続けてください。決して空腹時に重要な決断をしないように。
4)心地が悪いことは声に出すことを二人の決めごとにし、早急に対処する。
もし水ぶくれや何かの痛みが生じて心地が悪ければ、すぐにお互いに共有してください。歩くのを中断し、すぐに処置することのほうが(処置する必要がないと強がるより)、大事に至ることを避けることができます。
みんなが役に立てるということを認識しましょう。たとえば、一人はテント設営を担当する一方、もう一人は調理担当ができます。できれば、みんなが事前に家やオーバーナイトキャンプで練習をして、やり方を理解しているのが良いですが、それが無理な場合は、実際に旅を重ねて雑用を何度もこなすことでマスターできるので、意識して担当するべきです。
6)旅の前に事前に恋人と話をしたことを意識する。
もしあなたが、雨が降ってきたらハイキングを中断すると恋人と約束をしていたら、決して約束を破ってはいけません。
アウトドアの楽しみ方は人それぞれです。その人なりの喜びや痛み、洞察を、積極的に受け入れましょう。そして、相手がどのようにハイキングを体験しているか敏感になりましょう。たとえそれが自分と異なっていたとしてもです。これが「Hike Your Own Hike but do it Together.(あなたなりのハイキングをしましょう。でも二人で一緒に)」の方法です。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
(英語の原文は次ページに掲載しています)
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