TRAILS REPORT

第四回 鎌倉ハイカーズ・ミーティング報告

2015.05.01
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取材/文/写真(会場):三田正明

このマニアックなウェブ・マガジンをチェックされている方なら、「山と道」のことは当然ご存知だろう。夏目彰氏と由美子さん夫妻によって2011年に創業した、日本のU.L.コテージ・マニュファクチャアラー(『ガレージメーカー』という言葉は和製英語なので、今後当サイトでは本場アメリカに即して積極的にこの言葉を採用していきたい)の草分けのひとつだ。現在では両手両足を使っても数えきれないほどのコテージ・マニュファクチャアラーが誕生して活況をしめしている日本のシーンのなかで、山と道が頭ひとつもふたつも抜きん出た存在となってきている理由を筆者なりに考えてみると、執拗なまでのフィールドテストを経てデザインされる美しいプロダクトの魅力はもちろんのこと、山と道がスタート地点から一貫してハイキング・カルチャーの敬虔な使徒として、その文化と情報を発信し続けてきたことへの信頼も大きいのではないだろうか。

2015年4月5日、そんな山と道の文化面を代表する主催イベント「鎌倉ハイカーズ・ミーティング」が行われた。2011年の創業直後から年に1回ほどのペースで続けられてきたこのイベントも第四回目を迎え、限定150人の予約はあっという間に定員に達した。今回のミーティングのテーマは「食」。ハイキング・フードをテーマに、ハイカーのための栄養学やオリジナル・エナジーバーやアルコール・ストーブの作り方、ハイキング・フード座談会など、様々な角度でのプレゼンテーションやワークショップが行われ、個人的には日本でのこのカルチャーのひとつの成熟を示す、昨今のハイキング系イベントのなかでも白眉といえる内容だったように思う。

ともあれ、イベントからすでにひと月近くが経過しているというウェブ・メディアにあるまじきレポートの遅さはご容赦願いたい。その代わりといっては何だけど、例によって膨大な情報量を詰め込んだので、時間のあるときに興味のある場所だけでも読んでみてほしい(とくに最後の『べぇさん』こと勝俣隆さんのプレゼンテーションは必読だ)。このカルチャーに興味のある人なら、何かしら得るものが絶対にあるはずだから。

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北鎌倉駅から浄智寺の参道へと入り、お寺の脇を抜けさらに進むと、森の奥へと続くような細い路地に突き当たる。路地をさらに進み、石造りの古い階段を登ると視界がパッと開け、広い庭のある洋風の古民家が現れる。第一回から鎌倉ハイカーズミーティングの会場となっている「たからの庭」だ。かつて陶芸家の釜場だったというこの家は廃屋になっていたところをNPO法人が借り受け、イベントスペースとして活用されているらしい。山林と寺社文化と洋風趣味が一体になったいかにも北鎌倉らしいスペースである。

開場の午前11時になると続々とハイカー・ファッションに身を包んだ参加者が集まってきた。当然ながら山と道のバックパックを背負った人が多く、足下はアルトラのシューズの人気が高い。フェスで見るような素っ頓狂なアウトドア・ファッションは皆無で、みんなお洒落。変な話、こんなところにも僕は日本でのハイキング・カルチャーのある種の成熟を感じるのだった。数年前のこの手のイベントでは、身につけているものひとつひとつは良いものなのに全体としてはちぐはぐな、ブランドという記号を着て歩いているような人が多かったけれど、その日は要所要所はハイカー好みのアイテムを身につけながらも、それを自分なりに着こなしている人が目立った。それはつまり、みんな昨日今日このカルチャーにはまったわけではない、ということだ。挨拶もそこそこに、まずは主催者である山と道の夏目彰氏にお話を伺った。

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山と道の夏目彰さん・由美子さん。

■「ハイキング・カルチャーをみんなで体験できる場所」山と道 夏目彰インタビュー

「そもそも山と道はたとえば寺澤さんのブログ(『ウルトラライトハイキングギア(山と渓谷社)』著者の寺澤英明氏のブログ『山より道具』のこと)だったりハイカーズ・デポの土屋(智哉)さんに影響を受けて始めたものだから、彼らが教えてくれたハイキング・カルチャーを自分たちも伝えていかなくてはいけないという意識があったんです。ハイキング・カルチャーを体感できる場所があって、参加者同士交流できて、そこから何かが生まれたり、僕たちの道具にも近づいてきてくれたら理想じゃないですか。そんな思いで山と道を立ち上げてすぐの2011年からこの鎌倉ハイカーズ・ミーティングを始めました。(イベントを)まず僕らのホームグラウンドである鎌倉でやりたいという気持ちがあって、場所もできればトレイルのそばの自然の中でやりたいと思っていたんです。そうしたらこの「たからの庭」という場所を見つけて、ご紹介いただいて会員になって。会員になると定期的に草取りとか掃除とかしなくてはならないんですけれど、そうでないとここまでは使わせてもらえなかったと思います。」

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ケータリングには地元鎌倉・大町のお店『おいちいち』が出店。焼き玄米や鎌倉野菜を使用したメニューの他、逗子の地ビール『ヨロッコビール』や鎌倉の『ツバメ珈琲焙煎所』によるコーヒーなどが供された。

「一回目はローカスギアやハイカーズ・デポにも参加していただいて、共同開催的な感じで考えていたんですよ。けど、いざ蓋をあけてみると僕が主催って感じになっちゃって。そうであればもっと教育的な発表であったり、より深いコンテンツを学べる場所にできたらいいなと思ったんです。それで二回目からうちの主催イベントって色が強くなってきた。こういう場がないと僕たちもお客さんと直に触れ合えないですしね。『なら普通の展示会やれよ』っていわれるかもしれないけど(笑)。なのにこういうことやっちゃっててんてこ舞いになって、自分たちの展示がおろそかになっています(笑)。でも、今回も座談会をやってくれるHBMのクロちゃんとかOsonさんとかジャッキーさんとかが繋がったのもここだって聞くと嬉しいですね。実際やってみると大変なんで、毎回「もうやめよう」と思いながら続けていますけど(笑)。」

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「山と道としては5年目に突入したんですが、粛々と最初に思い描いていたことを実行に移している感じですね。ほんとなら今ごろ実店舗を出しているつもりだったし、シェルターも出したいと思っていて出せていなかったりはするんですけれど、カルチャーや情報を発信しながらモノをしっかり作ってゆく、それでお客さんの共感を得ていくっていうスタンスは、どうにか形になってきたと思います。」

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新作Backpack Threeの試作品とジェリー鵜飼さん所有/カスタムのUL Frame Pack One。

「それと、何よりも山と道は僕と家内の由美子の会社で、由美子もプライドを持って仕事をやれて、ふたりでちゃんとやれているっていうのが、まずいちばんの成果だと思っています。山と道はそもそも『夫婦で仕事をしたい』って思って始めた部分も大きいですから。立ち上げの時期はキツかったから、これで夫婦が壊れるんじゃないかと心配したこともありますけど(笑)。僕はなにかと飛ばしがちなんだけど、夫婦でやっている以上はゆっくり行く所はゆっくり行かなくちゃなならないし。まあ山歩くのと一緒ですよ。」

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「今年はとりあえずいま準備している新しいザックとかロングパンツを出して、次に作りたいものもたまっているから、それをどれだけ手をつけられるかなっていう感じです。もう去年くらいから明解に作りたい形が見えているものもあるし、ずっと試作を続けているメリノのTシャツも形にしたい。あと、いくつか冬用のウェアも。冬用の服ってアイスクライミングとかバックカントリー向けのウェアが多いから、それをもっとハイキング向けにいいものが作れないかなって思っています。」

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WRITER
三田正明

三田正明

1974年東京都国立市出身。2001年に『Title』(文藝春秋)の連載「To The Boy /少年犯罪被害者の旅」でカメラマン/ライターとしての活動を始める。2001年にザンビアで皆既日食を見て以来南アフリカ・ジンバブエ・タイ・インド・オーストラリア・アルゼンチン・ブラジル・メキシコ・トルコ・ネパール・アメリカ・カナダ・モンゴルなどを放浪。これまでに皆既日食を五度、部分日食を二度、皆既月食を一度見ている。次第に旅の途上で出会った大自然の世界に傾倒し、気がつけばヒマラヤや北米大陸や日本各地のトレイルを歩くように。雑誌『スペクテイター』や『マーマーマガジン』を始めとする多くの雑誌にアウトドアにまつわるドキュメンタリーやトラベローグや連載記事を執筆、TRAILSではメインライターとエディターを務める。
masaakimita.web.fc2.com

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