TRAILS REPORT

Enter The Bikepacking ♯1/ ムーンライト・ギアの八ヶ岳パスハンティング

2015.10.09
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取材:TRAILS  構成/文/写真(物撮り):三田正明 写真提供:小峯秀行

“BIKEPACKING!”

バックパッキングやハイキングというカルチャーにコミットしたことがある方なら、まずこの言葉の響きに心ときめくものがあるのではないでしょうか。このいかにもアメリカ生まれの言葉らしい、即物的で、強引で、でもなんとも魅力的な言葉! バイクパッキングは、2000年代半ばに登場した、バイクツーリングの新しいスタイルです。

もちろん日本でもランドナーの昔から、バイクツーリングは自転車を使ったアクティビティの代表格でした。しかし、道路整備が進んだことやコンビニエンス・ストアなどの充実により、一般道を走るバイクツーリングではキャンプ道具の携行にあまり意味がなくなったこと、ロードバイクの軽量・高速化によって航続距離と登坂性能があがったことで日帰りでも遠くまで行けるようになったこと、それにより郊外の峠を攻めるヒルクライムがブームになったことなどが重なり、キャンプ道具を満載した昔ながらの自転車旅をする人は、滅多に見なくなりました。

その状況は海外でもあまり変わらなかったようで、その証拠にキャリアやパニアバッグなどバイクツーリング用の装備はグラム単位の軽量化に凌ぎを削る自転車の世界でなぜか一向に軽量化が進まず、昔ながらのヘビーデューティな道具が幅を利かせていました。

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http://www.bikepacking.comより

その様相が変わってきたのは、2000年代に入ってから。大きかったのは、やはりアラスカに住むエリック・パーソンズが2007年に自宅の地下室で始めたリベレート・デザインの登場でしょう。前述の通り、それまでバイクツーリングのバッグといえばキャリアがなければ装着できない、しかもあまり軽量化を考えていないパニアバッグが一般的でしたが、パーソンズは自転車のフレームやサドルやハンドルバーに直接取り付ける方式の、軽量でしかも大容量のバッグを開発したのです。

さらに、時を同じくしてそれまでの26インチ車よりも格段に巡航性能の上がった29erと呼ばれる29インチホイールのMTBや、超極太タイヤを装着して雪や砂の上などそれまで自転車には不向きな路面の走行を可能にしたファットバイクなどの登場によって、延々と続くジープロードやダートなど、それまでオーバーナイト・バイクツーリングでは一般的でなかったフィールドでの旅の可能性が一気に広がりました。

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http://www.bikepacking.comより

それからはリベレート・デザインにインスパイアされたバイクバッグを作るコテージ・マニュファクチュアラー(ガレージメーカー)が続々と登場、その波はマスプロダクト・メーカーにも広がり、今年2015年には遂に業界最大手のジャイアントまでがバイクパッキング用バイクとバッグをリリースするなど、自転車界の一大潮流となっているのです。

ですがこの話、TRAILSの読者ならば、「どこかで聞いたことある話だな」と思うかもしれません。レイ・ジャーディンというヴィジョナリ―の出現と、彼の作ったレイウェイ・バックパックを元にしたバックパックを作るコテージ・マニュファクチュアラーの大量発生、そしてその波が大手メーカーにまで伝わるプロセスなど、ウルトラライト・ハイキング(以下UL)の成立過程にそっくりだとは思いませんか? さらにいえば、バイクパッキングの方法論自体がUL以降一気に軽量化の進んだキャンピング・ギアの登場によって初めて可能になったことでもあります。そう、バイクパッキングというムーブメントは、まさに自転車版ULといえる存在なのです。

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http://www.bikepacking.comより

こう聞けば、TRAILSの読者なら「やってみたい!」と思われる方も多いはず。ですが、日本でアメリカのようなバイクパッキングをするには、ひとつ問題があります。それは、アメリカのようなフィールドが少ないこと。

前述したように、アメリカのバイクパッキングは29erMTBやファットバイクにより、国立公園や自然保護区などのジープロードやトレイルを行くのが一般的です。アメリカのフィールドは山の麓を行く比較的ゆるやかなトレイルが多いため、自転車で旅をしやすいのです(たとえば、2011年にハイカーズデポの土屋智哉さんが歩いた全長560kmのコロラド・トレイルなどは、バイクパッキングのメッカとしても知られています)。

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上掲の写真はbikepacking.comよりTom & Sarah Swallow夫妻が西海岸オレゴンから東海岸ノースカロライナまでTrance America Trail( TAT)でアメリカ横断バイクパッキングをした記録から転載させていただきました。興味ある方は是非http://www.bikepacking.comをチェックしてみてください!

一方、山岳大国日本ではトレイルは急峻なことが多く、さらに舗装路大国でもあるので、アメリカのように延々と続くジープロードも滅多にありません。数年前から名古屋のサークルズや東京のブルーラグなど、先鋭的なバイク・ショップがバイクパッキングを日本に定着させようと尽力されていますが、現状で日本のバイクパッキングはロードを走ってキャンプ場に泊まる、というスタイルが一般的なようです。

それはそれで、日本ならではのバイクパッキングのひとつの形ではあると思います。こんなに素晴らしい舗装路が全国津々浦々まで張り巡らされている国はそうないのだから、自転車で旅をするにもそれを活かさない手はありません。だけどトレイルが大好きなTRAILSとしては、日本でもトレイルやジープロードを走るバイクパッキングを模索してみたい。これまで培ってきたハイキングの知識と経験があれば、ライダーとは違うやり方でバイクパッキングの日本でのあり方を見つけられるのではないか

そんな時、アウトドアショップのムーンライト・ギアの運営やOMMの日本代理店などを務めているノマディクスの千代田高史さんと小峰秀行さんが、八ヶ岳でロードとダートとトレイルと、さらにハイキングとトレイルランニングを組み合わせた興味深いバイクパッキングを行ったと聞きました。キーワードは「パスハンティング」。

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日本にウルトラライト・ハイキングが紹介されたとき、大抵の人が「面白い方法論だけど、たぶん日本の山では無理だ」と思いました。ですが、その後の多くのハイカーの実験と挑戦の末にそれが単なる思い込みであったことが証明され、現在では日本ならではのULのスタイルが確立されつつあります。いま日本のバイクパッキングも、かつてのULと同じような状況なのではないでしょうか。

ノマディクス/ムーンライト・ギアの千代田高史さんの話を聞きながら、日本のバイクパッキングの未来を考えてみませんか? この新しいカルチャーを作っていくのは、あなたかもしれません。

■What’sパスハンティング〉?

ーーいま、ムーンライト・ギアでもバイクパッキングをプッシュしてますけど、千代田さん的にバイクパッキングのどこに魅力を感じているんですか?

千代田 僕はまずアウトドアの入り口がマウンテバイクだったんですね。大学のとき、マウンテンバイクをローンで買って赤城山とか行ってたのが始まりで。その後ULに夢中になって、バイクパッキングにはそのふたつの要素が入っているからまずピンと来たっていうのがありました。

――日本ならではのバイクパッキングのあり方ってまだ模索中だと思うんですよ。アメリカだったら延々と続くジープ・ロードをグラベル・レーサーで走ったり、コロラド・トレイルみたいなロングトレイルを29erとかファットバイクで走るようなスタイルが一般的だと思うんですけど、日本にはそういうフィールドがほとんどないじゃないですか? そうなると、日本のフィールドにどうバイクパッキングというアクティビティを落とし込んでいけばいいのかっていうことが、まだ全然確立されていない気がして。

千代田 そうですね。バイク・コミュニティではピスト・ブームが下火になって、そこからメッセンジャーやビルダー文化ってものが出て来て、さらにいまはその次の流れを模索しているような状況だと思うんですけど、そこにアメリカでバイクパッキングっていうのが始まって、日本でも2年前くらいから話題になり始めましたよね。でも正直、キャンピングの部分に関しては、山をやってきた僕たちからしたら「もっとこうしたら面白いのに」っていうのがあって。バイクパッキングに関して、僕たちはバイク・コミュニティの人たちに、「ULの方法論を使えばこんなことができるんだよ」っていうことを示せるような気がしたんです。あと、僕のなかではバイクパッキングとファストパッキングって同じなんですよ。他のことやってる気がしなくて。

ノマディクス/ムーンライトギアの千代田高史さん(右)と小峯秀行さん(左)。(株)ロータスでアルトラを担当している高木義宣さん(中)と一緒に行った能登半島一周バイクパッキングにて。

ノマディクス/ムーンライトギアの千代田高史さん(右)と小峯秀行さん(左)。(株)ロータスでアルトラを担当している高木義宣さん(中)と一緒に行った能登半島一周バイクパッキングにて。

ーーたしかに装備はバイクパッキングとファストパッキングってまったく一緒ですよね。

千代田 パンクキットがあるくらいの違いしかない。で、今回の旅のひとつのテーマとして、むかし「パスハンティング」っていう日本独自の自転車文化があったんですよ。その少しあとにMTBが日本に入り始めていわゆる山をサイクリングする行為、通称「山サイ」がバンと盛り上がって、盛り上がりすぎて登山者とトラブルが起きて、今の一部トレイルランナーのマナー問題がどんどん悪化しちゃった場合の悪い未来みたいな感じで 山から閉め出されちゃったカルチャーなんですけど

ーーパスハンティングって、荒れた林道とか山道を通りつつ峠(パス)を越える感じですよね。ダートを走るとこがいまのロードバイクのヒルクライムとは違うとこなのかな?

千代田 それで昔のパスハンティングの本とか読むと、奥多摩の石尾根上がって鴨沢に下りてくるルート(編注:普通に登山道です!)とか書いてあって、「これいまやったら絶対ヤバいでしょ」って思うんですけど(笑)。

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ーーでもその当時だとランドナーとかリジットのMTBとかで行ってた感じですよね?

千代田 そうそう。昔の『自転車パスハンティング』(薛雅春著 アテネ書房1989年  現在絶版)って本をアマゾンで中古で買って読んでみたら、それがケルティのフレームザックがいいと思うの同じ感じで、トラディショナルでカッコ良いんですよ(笑)。だから今回の気分としては、「山走るならMTBじゃなきゃ無理っしょ」っていうのをいったん置いて、昔のパスハンターの気分になって、シクロクロスの自転車でクラシック・ルートに行ってみたいなって。で、その本に八ヶ岳の夏沢峠を越えるルートが紹介されていたんで、茅野駅から松原湖駅まで八ヶ岳を西から東に横断するっていうのをやってみたんです。

【次ページ:八ヶ岳パスハンティング・バイクパッキング・レポート by ムーンラライト・ギア】


WRITER
三田正明

三田正明

1974年東京都国立市出身。2001年に『Title』(文藝春秋)の連載「To The Boy /少年犯罪被害者の旅」でカメラマン/ライターとしての活動を始める。2001年にザンビアで皆既日食を見て以来南アフリカ・ジンバブエ・タイ・インド・オーストラリア・アルゼンチン・ブラジル・メキシコ・トルコ・ネパール・アメリカ・カナダ・モンゴルなどを放浪。これまでに皆既日食を五度、部分日食を二度、皆既月食を一度見ている。次第に旅の途上で出会った大自然の世界に傾倒し、気がつけばヒマラヤや北米大陸や日本各地のトレイルを歩くように。雑誌『スペクテイター』や『マーマーマガジン』を始めとする多くの雑誌にアウトドアにまつわるドキュメンタリーやトラベローグや連載記事を執筆、TRAILSではメインライターとエディターを務める。
masaakimita.web.fc2.com

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