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アフターレポート for LONG DISTANCE HIKERS DAY 2017

2017.02.17
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「さみしい」。これは4,300kmの歩き旅のゴール地点に立ったときに感じたもの。日本人PCTハイカーのパイオニアとして今回お呼びした、日色さん、清水さん、舟田さんが口を揃えてゴールしたときの気持ちをこう語った。

半年間も歩きつづけたゴールの達成感よりも、歩きつづける生活が終わってしまうことのさみしさ。そんな気持ちにさせるロング・ディスタンス・ハイキングってどんな旅なのだろう。

そんな長い歩き旅をしてみたいと思った衝動や、旅の途中のできごとや心情をリアルに感じられるのが、このLONG DISTANCE HIKERS DAYというイベント。最新のトレイルの状況やパーミッション(許可証)などのルール変更などもまじえ、リアルなロング・ディスタンス・ハイカーの話を直接聞くことができる。

イベントに来てくれた多くの人が、ハイカーが歩いた壮観なトレイルの景色や、なまなましい体験談やその旅の熱量に触れることで、自分もまたいつかはトレイルを歩く旅をしてみたい。いや、自分たちだって歩けるのではないか、と思わされてしまう。だって実際に見るロングトレイルを歩いているハイカーは、体をばりばりに鍛えたフィジカル・エリートでなく、ごくふつうのハイカーばかりなのだから。

昨年を上回る来場者数とコンテンツ数で、エネルギーがぎゅっとつまった今年のLONG DISTANCE HIKERS DAY。その内容をアフターレポートとしてお届けしたい。

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リアルなハイカーの記録や記憶であふれる会場



これほどハイカーが集うイベントは、他にはないんじゃないだろうか。
ジョン・ミューア・トレイル(JMT)をひとりで歩きに行った女性、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破するために会社を辞めた若者や大学を休学した青年、アパラチアン・トレイル(AT)をマイペースに歩いた夫婦、定年後にスルーハイキングに挑戦した60代の男性、ロング・ディスタンス・ハイキングに魅せられて毎年のように歩きつづけている人……。

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登壇者はもちろん来場者もバラエティ豊かで、さまざまな経験を持つハイカーがたくさん足を運んでくれていた。ふだん山を歩いたりはしていないけど、ロングトレイルに興味があって来た!というハイカー予備軍もたくさんいた。

そう、このイベントはごく一部の限られた人のためのものではない。どこを歩いたか、どれだけ長い距離を歩いたか、が重要なわけでもない。大事なのは、これまでの経験ではなく、いま現時点の旅に対する想いとその熱量。そのグルーヴ感こそが、このイベントの真骨頂でもあるのだ。



日本人ロング・ディスタンス・ハイカーのパイオニア



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左から清水秀一(class2004)、日色健人(class2003)、舟田靖章(class2009)。この3人が一堂に会する場に立ち会えたことに、ハイカーとしての喜びを感じる。

今回のイベントコンセプトは、『Tapping The Source』。源に触れる、つまりは、ロング・ディスタンス・ハイキング(LDH)の原点に触れてみようという主旨である。

近年、LDHをする人が増え、以前に比べると格段に多くの情報が流通するようになった。それはたしかにいいことなのだが、一方でLDHの本質が見えにくくなっているきらいもある。そこで、もう一回原点に立ち返ってみようということで、今回、日本人ロング・ディスタンス・ハイカーのパイオニアに来ていただいた。

<Pioneer of the PCT Hiker>
まずは、2003年に日本人初のPCTスルーハイカーになった日色健人さんと、その翌年にスルーハイクした清水秀一さん。

当時、日本においてPCTの情報はまったくないといっても過言ではなかった。もちろん先達ハイカーもいない。しかし、偶然にも二人には旅に出る上での共通点があった。それは、好きな作家が植村直己さんであったことだ。

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清水:「『青春を山に賭けて』が印象的でした。臆病な大学生が自分のやりたいこと、目的を達成するために、世界のあちこちで働いたり、スキルを磨いたりするわけですよ。この自分の目指すものに一心に向かってひとつずつステップアップしていくというのは、自然の遊びだけじゃなくて仕事にも役立つというか、そこに非常に影響を受けましたね」

日色:「もともと有名な冒険家というイメージでしたが、著書を読んでみると等身大なんですよね。頼りない大学生が、なにくそ!という言葉を繰り返して自分を奮い立たせて冒険を成し遂げていく。素朴に純朴に怖れや不安を書きつづっていて。PCTに行く前、この本にはとても励まされました」

冒険への憧れ、自分の気持ちに正直に行動することへの渇望、それが原動力になっていたのだ。そして当時の二人にとってLDHはまさに冒険だった。それは意識の面だけではなく、ギアにおいてもそう。ウルトラライトという言葉など耳にすらしない時代だっただけに、日色さんは20kg以上の荷物を担ぎつづけ、清水さんは容量70Lオーバーの大きなバックパックを背負っていた。
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ウルトラライトという言葉も聞くことがない時代。当たり前のように、20kg以上の荷物を詰め込んだ大きいバックパックをかついで4000km以上のトレイルを歩いた両氏。

そんな二人はイベントの最後、これからLDHをしたい人に対してこんな言葉を贈った。その言葉には、お二人の人柄と旅のスタイルがにじんでいる。

清水:「行く目的はさまざまだと思いますが、自分なりに楽しむことが一番だと思います。私は、ザックの中に途中に立ち寄った町で購入した写真集やCDを入れていました。ウルトラライトとは真逆ですが、これが私の楽しみでもあったのです」

日色:「今は本当に情報が多くて行きやすくなりましたが、一方でその取捨選択に困る人もいるでしょう。道具選びも含めて、昔とは別の大変さがあるんじゃないかと。でも大事なのは “行きたい” という自分の気持ちです。それを温めて、強めていけば、かならずトレイルヘッドに立てると思います。スルーハイクしても途中でリタイアしても、行きたいと思って行ったことが、きっとあなたにとってプラスになるはずです」

イベントの前に行った日色さん、清水さんのお二人へのインタビューも、あわせてお楽しみください。当時、PCTについての情報がほとんどない時代に、ロングトレイルにチャレンジしようとした旅のモチベーションの原点を垣間みることができます。(「日本人PCTハイカーのパイオニアたち / 日色氏・清水氏プレインタビュー」

<Pioneer of the Triple Crown>
2009年にPCT、2010年にCDT、2011年にATと、アメリカの三大トレイルを日本人で初めてスルーハイクし、トリプルクラウンの称号を手にしたのが舟田靖章さんである。

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彼自身「最初のPCTは、僕にとって大冒険でした」と語ってはいるが、早い段階でその冒険感は薄れていった。

舟田:「一カ月くらい歩いていると慣れてきて。トレイルで生活を組み立てる感覚になってきたんです。都会で暮らしていると便利なインフラの恩恵にあずかっているわけですが、トレイル上だと背負っている荷物だけでやりくりしないといけない。それが楽しかったんです」

また、彼はウルトラライトを実践していた点においても、日色さん、清水さんとは対照的である。

舟田:「PCTを調べている過程で、ウルトラライト(UL)というキーワードに出会ったんです。レイ・ジャーディンの『Beyond Backpacking』を読んだんですが、そこに自作ギアの例がたくさん載っていて、それを自分でもやりはじめたんです」

ULスタイルでPCTをスルーハイクし、歩き足らずにCDT、ATも踏破した舟田さん。彼の興味深い話は、後日あらためて別記事として掲載するので、お楽しみに。

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NIPPON TRAILの現在進行形の情報も



ロング・ディスタンス・トレイルは、なにも海外だけのものではない。今や日本にも数多くのトレイルが存在している。

今回、日本を代表する2つのトレイル『信越トレイル』と『北根室ランチウェイ』を紹介するにあたり、信越トレイルクラブ事務局の片平享伸さん、北根室ランチウェイ代表の佐伯雅視さんをお招きして話を伺った。

信越トレイルは、2015年度の利用者数が約3万6,700人にものぼり、北陸新幹線の影響もあって海外からのハイカーも爆発的に増えているとのこと。彼らは、山から見える田園風景に日本らしさを感じ、感動するそうである。信越トレイル事務局は自然と合わせて日本文化にも触れてほしいと考え、温泉や地元の食材、飯山名産の和紙に落ち葉をはさんだ葉書づくりを楽しむプログラムなども用意している。
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近年では海外からのハイカーも増えているという信越トレイル

人気が高まりつつある同トレイルにおいて、片平さんは利用者が増えることはもちろんだが、それ以上に “ハイカーコミュニティ” が生まれつつあることが嬉しいと語る。

片平:「2年前のシルバーウィークのことです。ちょうど同じ日に歩きはじめたソロハイカーが4人いまして、毎日同じテント場だったらしいんです。それで一緒にゴールして私にその時の記念写真を送ってくれて。彼らはいまでも交流がつづいているそうです。

また3年前、スルーハイクを計画していたある女性が、足をケガして挑戦できなくなってしまったんです。でもセクションハイクには何度も訪れてくれて、地元の女性ハイカーと仲良くなって。昨年、満を持してスルーハイクしたのですが、仲良くなった地元の人が差し入れに来てくれたらしいんです。こんな風に、ハイカーとハイカー、ハイカーと地元の人がつながるのは、とても素晴らしいことだと思っています」

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一方、北根室ランチウェイは、牧場を歩く北海道らしいトレイルで、参考にしているのはスコットランドのフットパス。佐伯さん自身、実際にスコットランドに歩きにいき、その実体験をもとに道を整備したそうである。

佐伯:「スコットランドに行ったときに驚いたのは、歩く人だけではなく、走る人、バイクの人、自転車の人もいたことなんです。だから私も、来る人には寛容でありたいと思い、あまり制限を設けていないんです」

ATの維持管理システムを参考にして組織化されている信越トレイルと異なり、北根室ランチウェイは、佐伯さんとその友人だけでメンテナンスを行なっている。ただ、個人で継続していくのは非常に大変ゆえ、現在あらたな取り組みとしてクラウドファンディングを実施してるとのこと。みんなでトレイルを維持していく。これこそロングトレイルのあるべき姿かもしれない。興味がある人はぜひ支援してほしい。

北根室ランチウェイ クラウドファンディング
https://www.makuake.com/project/kiraway



ワークショップやトレイル関連のグッズストアも登場



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ハイカーズデポの勝俣隆さんによる『ジョン・ミューア・トレイルの旅のプランを立ててみよう』というワークショップを開催。

憧れを憧れのまま終わらせるのではなく、実現に向けて少しでも前進させるための、新コンテンツ。米国在住経験もあり、JMTに足しげく通っていた勝俣さんが、季節ごとのトレイルの状況および難易度、パーミッション(許可証)の取り方に加えて、空港からトレイルヘッドまでの交通手段、所要時間といったすぐに役立つ情報まで教えてくれた。JMTに行きたい人にとっては、願ってもない絶好の機会となったようだ。

また、今回のイベント限定の『TRAIL STORE』もオープン。ここでは、日本ではなかなか入手できない海外トレイルの地図やガイドブックなどの実用的な書籍、ステッカーやワッペンなどのアクセサリー、Tシャツやトレーナーなどのウェアも販売。ハイカー垂涎のグッズから憧れをかき立てるアイテムまでさまざまな商品が並び、ひっきりなしに来場者が訪れていた。

* * *

このイベントのきっかけとなったのは、ハイカーズデポの長谷川晋さんが書いた『LONG DISTANCE HIKING』だった。
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この本は、日本でも「ハイカーによる、ハイカーの本」を作りたいという想いから生まれたもの。ロングトレイルとは何か?どんなカルチャーがあるのか?歩くために必要なスキルやギアとは?といった内容を、ロング・ディスタンス・ハイカーである長谷川さん本人はもちろん、多くのハイカーの意見をもとにまとめた書籍である。

今回、LONG DISTANCE HIKERS DAYに来た人も、来られなかった人も、ぜひ読んでほしい一冊である。

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ただ、書籍は情報が整理されていてわかりやすいが、情報更新が難しい。それを補うためにイベントが存在しているのだ。日々変化するトレイル、そしてカルチャーをリアルタイムで届けたい。ハイカーのリアルな体験談をダイレクトに伝えたい。だからLDHDは今後もずっとつづけていく、そう主催者(トレイルズ&ハイカーズデポ)は語っていた。このイベントを通じて、日本のハイカーコミュニティがより発展し、広がっていくことを願ってやまない。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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