TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #02 サケの遡上する那珂川をパックラフトで旅する

2017.11.17
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文・構成:TRAILS 写真:PACKRAFT ADDICT

秋も深まる11月。関東でもサケ(鮭)の遡上を見ることができる那珂川(なかがわ)に、1泊2日のパックラフトツーリングにでかけた。表紙の写真は、釣り師が釣り上げたサケを持たせてもらったものだ。間近で見るとサケのたくましさをばしばし感じられる。(Cover Photo: Takashiro Takehito)

川と河原キャンプと焚き火。旅に出るモチベーションはこれだけでも十分にドライブする。これにちょっとクレイジーなメンツが集まれば言うことはない。今回のメンバーは、夏の四万十・黒尊川の川旅をともにしたメンバーを中心にした6人のパックラフターたち。みんな、パックラフトによる川旅の魅力にとりつかれたパックラフト・アディクト(中毒者)たちだ。

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サケを求めて集まったパックラフト・アディクトたち。 左からHabara Kenji, Ogawa Kyoko, Sakurai Fumi, Nakazawa Yuichi, Ogawa Ryuta, Takashiro Takehito Photo: TRAILS


11月の紅葉の色が豊かな那珂川。 Photo: TRAILS

栃木から茨城をまたいで流れる那珂川は、関東でも屈指のリバーツーリングのフィールドである。僕らTRAILSクルーも、メロウな川旅をしたい気分のときは、河原での焚き火と酒を想像してニヤニヤしながら、よく那珂川に向かう。激しい瀬はなく、初心者にもやさしい川でもある。

黒尊川がホワイトウォーターを攻める楽しみのある川であったのに対し、今回の那珂川はリバーツーリングの楽しさを教えてくれる川だ。那珂川は天然鮎が生息する川でもあり、6〜7月は鮎釣りの人で賑わう。そしてサケの遡上が見られるのは10〜11月。やっぱ見たいじゃないか、サケ!ということで、以前にサケの遡上を見たメンバーもいたが、おかわりとばかりに一緒にパックラフトツーリングに出かけた。朝10時に宇都宮駅に集まり、ローカル線の烏山線に揺られ約1時間。終点駅の烏山駅を目指した。

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パックラフト用のパッキングもばっちり。いざリバーツーリングへ!みんなキャンプのための喰いもんや飲み物を詰め込んでバックパックがぱんぱん。 Photo: TRAILS

[MOVIE]


関東でもサケの遡上が見られる那珂川。雄大なサケの旅


いくつかの文献をあたってみると、那珂川は日本でサケの遡上が見られる南限域にあたるようだ(※)。映像で見るアラスカの川のように、かつては那珂川や久慈川を大群のサケが遡上していたと考えられている。
※日本で定常的にサケの遡上が認められる南限は千葉県・九十九里浜にそそぐ栗山川とされている。または利根川と記されている文献もある。

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釣り上げられたサケ。遡上を始めると、サケはエサを食べなくなるので、どんどん痩せていく。 Photo: TRAILS

那珂川のサケの歴史は古く、江戸時代には、水戸藩では、那珂川のサケを幕府に献上していた、という記録も残っている。また明治9年、日本で初めて人工での孵化(ふか)と放流を行なったのも那珂川であった(「広報 常陸大宮」平成27年12月号より)。

僕らが今回パックラフティングした秋の季節、那珂川は、川岸に釣り師たちが、一列に並んでサケを狙っている姿が風物詩となる。みんな許可をもっている釣り師たちだ(、と信じたい・・)。現在、日本では河川での鮭の捕獲は禁止されている(1951年に制定された「水産資源保護法」により)。調査や増殖事業などに限り、農水大臣の認可を受けた漁業組合員の漁のみは認められている。漁は日にち・場所とも、決められたところでしなければならない。

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那珂川の河原を歩く、釣り師の姿。 Photo: TRAILS

冬の川で孵化したサケは、春に海へ下り北方の海を回遊しながら成長し、3年から4年たってから生まれた川にまた帰ってくる。前回サケを見に来たのが、2013年でちょうど4年前(!)。もしかしたら、あの時に産卵したサケが、アラスカ付近の海を巡って、那珂川に戻ってきたものもいるのかもしれない。雄大なサケの旅を想像すると、勝手に再会を期待する気持ちがわきあがってくる。ちなみに母川回帰のメカニズムはあきらかになっていないようだ。どうやら生まれた川のにおいをたよりに、戻ってくる説が有力なのだそうだ。


今年はサケが不漁!?今回のサケとパックラフティングの成果は?


秋晴れのなか、パックラフティング。キャンプ道具を舟に積んで、ゆったりと漕いでいく。 Photo: TRAILS

今回の旅に出る前に、あまり嬉しくないニュースを耳にした。NHKのニュース番組で「今年は全国的にサケが不漁」と報じていたのだ。困った。困ったけれど、まったく遡上していないわけではないようなので、とにかく行ってみるしかない。ちなみに4年前に、今回のメンバーの2人は、同じ秋の季節に那珂川を下っている。そのときは、川を漕ぎながら、川の中で遡上するサケを何尾も見られるほど、たくさんいたらしい。

今回はどうだったかというと、「ちょっとだけ見れた」というとっても微妙な結果・・。パックラフトを漕ぎながら、舟の下をばんばん遡上するサケの姿は期待したが、今年はそうはいかず。ずーっと水面の下をのぞいていて、たまにサケは発見できる程度だった。でも、釣り師が釣り上げたサケを見せてもらったり、ちょっと河原で休んでいるときに、たまたまそこの前でつがいのサケが泳いでいるのを見ることができた。

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釣り上げられたサケ。 Photo: Habara Kenji

サケは少し残念だったけど、秋のパックラフティングは最高だ。河岸の木々が紅葉に染まり、晴天のあたたかい秋の空気のなかを、悠々と川に流されていく感じ。晴れた日に芝生の上で昼寝する感覚のまま、ゆらゆらと流されていくような感じだ。少し前に2つの大きな台風があった影響で、水位が上がり、普段はちょっとトロすぎるかな?と思う那珂川も、この日は流れもしっかりとしていた。みんなほとんどパドルを漕がずに、ただ川に流されているだけの時間が贅沢に過ぎてゆく。

紅葉で色づいた川岸を眺めながら、漕いで行く。とっても贅沢な旅。 Photo: TRAILS


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河原で寝転んでぽかぽか天気のなか休憩。みんなお揃いのアルパカラフトのドライスーツ(ALPACKARAFT / Stowaway)。だって軽いんだもの。 Photo: TRAILS


川から鳥を見たり、空気漏れのアクシデントがあったり


今回のメンバーのうち、鳥が好きなバダ(hikerbirder)さんとナカザワくんは、常にパックラフトの上から鳥を探している。鳥見て漕ぐ人たち。一緒に旅をすると、「あの鳥はなに?」と聞けば、なんでも答えてくれるから面白い。今回はヤマセミという、なかなか見られない鳥を近くで見られて、2人ともだいぶエキサイティングしていた。鳥にはそんなに詳しくない僕らでも、ヤマセミの姿はとっても愛らしいかった。

舟の上から単眼鏡で鳥を追うナカザワくん。ナカザワくん曰く、「舟の上は、鳥を見る特等席」。 Photo: TRAILS


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ヤマセミ。鳥は詳しくない僕でも、とても愛くるしく感じる姿。こんな近い距離で見られるのは、とても珍しいらしい。 Photo: Nakazawa Yuichi

旅にはアクシデントがつきもの。というか、このメンバーには何かアクシデントが起こる気しかしかない。前回の黒尊川でも、パドルをロストしかけたり、パドルの接合部分が故障したりした(いずれもTRAILSクルーだったのが残念)。今回だけは何事もなし、というわけにいかなかった。新しいパックラフトに買い変えたばかりのケンジくんの舟から空気が抜けている。いきなりパンク?と思ったが、どうやらカーゴフライ(舟の中に荷物を入れるために開閉できると構造)のジッパーから空気が漏れているようだ。よくよくジッパーに目を凝らしてみると、小さな砂がはさまって、それでジッパーに閉めたときに隙間ができていたようだ。よかった、故障ではない。丁寧に砂を取り除いて、対処完了。ちょっと不安になる出来事だったが、ことなきをえてのんびりと旅を楽しんだ。

空気抜けのトラブルなのに、なんだかとても楽しそう。水に沈めて、空気漏れの箇所を探している風景。 Photo: TRAILS


秋の河原キャンプ。ほどよく涼しく、月明かりに照らされた夜の宴


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河原キャンプ。 みんなのシェルター。[オレンジ(赤朽葉色)のツエルト] ファイントラック, ツエルトⅡ W / fintrack, ZELT Ⅱ Wide。[水色のタープ] インテグラルデザイン, シルタープ2 / Integral Designs Siltarp 2。[茶色のタープ] ローカスギア, タープX・デュオ・シル / LOCUS GEAR, Tarp X Duo Sil。[ワンポールテント] ローカスギア, カフラ / LOCUS GEAR, Khafra。 Photo: Sakurai Fumi

河原キャンプは、川旅の最高の楽しみのひとつだ。今回は11月になっていたこともあり、0℃〜5℃くらいのある程度の冷え込みを想定して、みんな寒さ対策を万全に備えてきていた。ところが嬉しい誤算で、この日の気温は暖かく、夜でも心地よくぬくぬくした空気が河原に漂っていた。満月が近づいている夜空は、月明かりだけでも、遠くまで見渡せる明るさだった。晴れ晴れした夜だ。

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焚き火を囲んで、河原キャンプ。みんなそれぞれが仕込んできた献立を食す。背景には満月に近づいた月が僕らを照らしてくれた。 Photo: TRAILS

キャンプのスタイルは、みんなそれぞれ。タープ+ビヴィの開放的なスタイル。ツエルトを使い密閉性の高いぬくぬくスタイル。大きめのワンポールテントで、広々したスタイル。みんなのシェルターの真ん中に焚き火をつくり、火を囲む。おのおのに、鍋をつくったり、ラーメンをつくったり、野菜を焼いたり、夜の河原での食事にニヤニヤ。前回の四万十ですっかり二日酔いになったジンを今回も飲み始める。そして同じように今回もジンに溺れる数人のメンバーたち。酔いがまわり、焚き火のゆらめきに気持ちよくなり、そのままテントに潜り込むようにおやすみなさい。

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バダさん(Sakurai Fumiさん)のキャンプセット。舟もクラッシックな型でかっこいい。 Photo: TRAILS


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[左上] ケンジくんのキャンプセット。タープに、寝袋&ビヴィのスタイル。Photo: Habara Kenji [右上] 朝の風景。朝も急がずにゆっくり過ごす。 Photo: TRAILS [左下] 朝食の調理中。Photo: TRAILS [右下]バダさんのパックラフト&キャンプの道具一式。Photo: Sakurai Fumi

サケをあまり見られなかったのはちょっと残念だった。でも、いつもよりも水を増していた那珂川は大河を漂う雰囲気でおおらかで、紅葉の木々と秋の晴天の青空がどこまでも続く川の景色は、この季節にしかない美しさだった。そして、同じ楽しみ方をともにできる仲間たち。パックラフトでの旅はしばらくやめられそうにない。

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【MAP】(クリックすると拡大地図が見られます)那珂川は那須岳山麓を水源とした川で、栃木から茨城をまたいで流れ、さいごは大洗町で太平洋へと流れ込んでいる。堰堤や人工物が少ないことから「関東最後の清流」とも呼ばれる。今回のツーリングは、烏山線の終点駅の烏山駅からスタートし、途中、大瀬やな付近の河原で1泊。ゴールは、「道の駅かつら」という行程。道の駅の近くに「御前山」バス停があり、約1時間ほどで水戸駅まででることができる。

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こんな秋晴れのまったりした川旅は最高なのです。来年こそサケの大群を見られるかと期待をしつつ、今年はこれで漕ぎおさめかしら。また次回!

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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