TRAILS REPORT

パックラフトのABC #3 パックラフトと川を旅する道具 〜パックラフト・ギアリスト〜

2016.10.21
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山歩きやキャンプからアウトドアに入った僕には、川旅のための道具って、何があるのか、何を選んだらいいのか、なかなかわらなかった。ただなんとなく野田知佑さんの川旅の世界観を思い描いているようなところもあった。

今すぐに川の世界をやってみよう、と思う人でなくても、自分が今まで知らなかったジャンルの道具を見るのって面白い。その世界の中の道理にかなった道具や、モノとしてのユニークな歴史を感じる道具たちを見ているだけでもアガってしまう。今回は僕らのパックラフトのギアリストを詳細に公開したいと思う。パックラフトとそれにまつわる道具の世界をちょっと覗てみてください。


川旅でも使えるハイキング&キャンピング・ギア


「さあ、パックラフトをはじめよう」と言っても、今までパドルスポーツになじみがなかった人にとっては、何を揃えたらいいのかわからないかもしれない。ただパックラフティングのギアリストは、意外にシンプルだ。パックラフトはその名が表すように、PACK(パッキングできる)+RAFT(舟)。いつものハイキングでの宿泊道具に、川の道具を合わせてバックパックに詰め込む。それでリバーツーリング用のパッキングリストはできあがる。

以下は、TRAILS佐井のパックラフティングのギアリスト。パックラフトは軽量さや収納性が優れているとはいえ、それなりにバックパックの中を占有する。UL(ウルトラライト)のハイキングギアをベースにすることで、パックラフトの軽量さを最大限活かしながら、旅に出ることができる。


for PACKRAFTING
[パックラフト] ALPACKA RAFT / ALPACKA クルーザースプレーデッキ, [パドル]  ALPAKCA RAFT / Sawyer, [PFD(ライフジャケット)]  Lotus Designs / Sherman, [ヘルメット] Hiko / Laguna Short, [バックパック] ULA Equipment / Epic, [ドライバッグ] SEAL LINE / ILBE SACK 65L, [ベースレイヤー(上)] patagonia / Merino Daily T-shirts, [防水ウェア(上)] Lotus Designs / Short Sleeve Paddle Jacket, [ベースレイヤー(下)] (Unknown), [ショーツ] patagonia / Baggies shorts, [シューズ] ASTRAL / Brewer
for CAMPING
[シェルター] Rab / Survival Zone Lite Bivi, [スリーピングバッグ] Integral Designs / Primaloft Poncho Liner, [スリーピングマット] THEARM A REST / RidgeRest S, [ストーブ] EXOTAC / polySTRIKER, N.Works / Lite Grill, Purcell Trench / Packers Grill & Travelers Grill, [クッカー] MSR / BlackLite Classic 1.5L, [防寒着(上)] Kokatat / Paddle Wear Lightweight Jacket, [防寒着(下)] ULA Equipment / RAIN KILT

ハイキングの道具+パックラフト。これに加えて必要なのは、川道具の基本3セットであるPFD(Personal Floating Device, ライフジャケット)、パドル、ヘルメット。

ここからはパッキングの基本となるバックパック。そして、川道具の基本ギアのひとつであり、川旅のシンボル的なアイテムであるPFDについて、ハイカーズ・デポ長谷川さん、TRAILS佐井、小川が実際に使っているギアを見ながら、川道具の世界にさらに一歩足を踏み込んでいってみたい。


大きめのバックパックに全部つめこむ


パックラフティングは、ギアの重さは軽量化をはかれても、どうしてもヘルメットやPFDなどかさばるものが多い。そのためスノーハイキングで使うような、スノーシューなどのかさばるギアを詰め込めたり、外付けしやすいバックパックが、パックラフティングにも向いている。

上の写真は、先日の記事で紹介したリバーツーリングの際に、ハイカーズ・デポ長谷川さんと、TRAILS佐井、小川が使用したバックパック。左から、長谷川さんのTRAIL BUM, HAULER(トレイルバム、ホーラー)、佐井のULA Equipment, Epic(ULAエクイップメント、エピック)、小川のHyperlite Mountain Gear, Poter 3400(ハイパーライト・マウンテン・ギア、ポーター3400)。

TRAIL BUMのHAULERは、今年の秋に新しくリリースされたモデルで、パックラフトだけでなく、スノーハイキングやクライミングなどかさばるギアがあるときに使える、巨大なフロントポケットが特徴のモデル。ULA EqipmentのEpicは、大きなドライバッグ(防水バッグ)がバックパックにそのままついているスタイルで、ドライバッグだけ取り外してそのまま舟に積むことができる。Hyperlite Moutain GearのPoter 3400は、キューベンを使った防水性と、外付けの自由度が高くユーティリティに優れたモデル。

防水仕様バックパックでなくても、通常のハイキング用のバックパックを、大型のドライバッグ(40~70L)に詰め込んで、舟にくくりつけるやり方が一般的だ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

パックラフトの船首(バウ)に、タイダウンできるひもで、ドライバックに入れた荷物を固定。ドラバックは、ExpedのFold Drybag Enduro 60


川旅のシンボル的なギア=PFD(ライフジャケット)


パドルを握りながら、PFD(Personal Floating Device, ライフジャケット)を身につけている姿が、いかにも川旅らしいスタイルを感じさせてくれる。だからこそ、自分に合ったものを探したい、とギア熱がついつい上がりやすいアイテムでもある。

ここではその入り口として、3人が使用しているPFDのブランドを、そのブランドにまつわるショートストーリーも混じえながら紹介してみたい。
packraft3_gear_3

– kokatat(コーカタット)
 ”パドリングスポーツ・ギアのトップブランド”
kokatatlogo

ハイカーズ・デポ長谷川さんが使っているのは、コーカタットのPFD。コーカタットは北米カリフォルニアにあるメーカーで、創業40年以上の信頼度の高いブランドだ。コーカタットの製品は、いまだに製品の90%は地元のカリフォルニアで、その多くがハンドメイドで丁寧に作られている。

その信頼性は、アメリカの軍隊や沿岸警備隊へもその製品を提供していることからも裏付けられている。マニアの中では、ミリタリー仕様のドライスーツも特別な人気がある。アルパカラフトのドライスーツもコーカタットへ依頼して作られている。

ちなみにkokatatは、「into the water(水の中へ)」を意味するネイティブアメリカンの言葉であり、この社名からも深くウォーター・アクティビティにコミットしたブランドであることが伝わってくる。

kokatat_coast_guard_suit_completed

アメリカの沿岸警備隊が使用しているコーカタットのドライスーツ Photo:  https://kokatat.com/より


– Lotus Designs(ロータスデザイン)
 ”伝説のPFDブランド”

TRAILS佐井が使用しているのは、いまや伝説のPFDブランドである、ロータスデザインのPFD。パドラーの諸先輩の方々でもこのブランドの愛用者は多いが、今では手に入れることが難しい。ロータスデザインは、かのパタゴニア(patagonia)にその価値を認められ、1999年にパタゴニアへと権利を譲渡した。

2007年にパタゴニアのブランド再編の際に、Lotus Designsの名前はついになくなりPatagonia Paddlingへ統合される。そして翌2008年には、Patagonia Paddling自体のカテゴリーから撤退することになる。この数年の間にパタゴニア名義で売られていたロータスデザインのPFDは、トートバックとしてリメイクされてもいたので、それでご存知の人もいるかもしれない。

phillip-curry

フィリップ・カレー(Philip Curry):ロータスデザインの創業者であり、パタゴニアに同ブランドを売却した後、新たに自らのブランドとしてアストラルを立ち上げる。Photo: https://www.astraldesigns.com/より


– ASTRAL(アストラル)
 ”ロータスデザインの創業者が新たに立ち上げたブランド”

astral-logo

ロータスデザインの創業者のフィリップ・カレー(Philip Curry)が、パタゴニアへロータスデザインを売却した後に立ち上げたブランドが「アストラル」。現代PFDの数々の機能をデザインした、世界的にもPFD(ライフジャケット)の評価が高いブランド。近年ではPFDだけでなく、川(水中)での強いグリップ力とデザイン性を両立したシューズ(Brewerなど)でも有名である。

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川でもハイキングでも使えるアストラルのBrewer。川底での強力なグリップ力、水抜け、速乾性が抜群のシューズ。スケートシューズのようなデザインにも、ブランドのスタイルを感じる。沢登りやフィッシングでの愛用者もいる。


パックラフトのギア選びの9つの視点


1. 体と目的にあった舟を選ぶ
たとえば現代のパックラフトのパイオニアメーカーである、アルパカラフト(ALPACKA RAFT)であれば、スタンダードシリーズとして「アルパカ(S)」「ユーコンヤック(M)」「デナリリャマ(L)」の3つのサイズが販売されている。ちなみに長谷川さん、TRAILSクルーの佐井、小川とも「アルパカ(S)」を使用。またこれ以外にも二人用のパックラフト(Explorer42)など、現在では幅広いラインナップが揃えられている。

2. パドルはパッキングしやすい4ピースがオススメ
パッキングのしやすさを考えると、パドルは細かく分割して持ち運べる4ピースが使いやすい。素材はアルミ性の安価なものから、値段は上がるがカーボンやグラスファイバーなど繊維強化プラスチックの強度が高く軽量なものまでいろいろ。

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サニーエモーション オンラインショップより http://sunnyemotion.shop-pro.jp/

3.PFDは、パドリング用の中で選ぶ
カヤック 用、シーカヤック用、フィッシング用などの用途や浮力などいろいろあるが、パドリング用のものの中から選ぼう。パドリング用の中でも、ホワイトウォーター向け、ツーリング向けでも形状は少し異なる。あとはきちんとフィッティングして自分の体に合ったものを選ぼう。

4. ヘルメットは水抜きがきちんとできるものを
カヤック用のヘルメットを選ぼう。ヘルメットは、登山用であれば上からの落石への強度が高いのに対し、カヤック用(パドリング用)であれば川で横転した際に岩との衝突から守るため、側面部の強度が高くなっている。またカヤック用は水没したときにヘルメット内に水が溜まって強い水圧を受けないよう、水抜きの穴が付いているものが多い。

5. 川でも使えるハイキングギアを活用
暖かい時期であれば、レインウェア(上下)はパドルジャケットの代わりに使える。ただしレインウェアのフードは、必ずたたんで使うことが大事(障害物がひっかかる可能性のあるものはすべてたたむ、しまう)。アンダーウェアも、濡れても冷えにくいウール製品をハイキングと兼用できるし、排水性の高いトレランシューズも川用として代用できる。サンダルは、なるべく裸足で履かず足の保護に注意し、水流・水圧でも脱げない固定力のあるものを選んだ方がよい。

6. 荷物を運ぶためのパッキングギア
舟に荷物を固定するためのロープ(アルパカラフトのパックタッチなど)、荷物を濡れから守るドライバックなどが、舟に荷物を積むために必要な基本ギア。

7. セーフティギア、リペアギアも忘れずに
危険やSOSを知らせるホイッスル、枝など障害物に引っかかったときに使うナイフ。トリップ中の舟の故障をなおすためのリペアキット、救助用のスローロープなどの安全対策も忘れずに。

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8. 気温・水温が低い時期は万全のドライスーツで
最初に始めるときはギアも少なくてすむ暖かい季節がおすすめ。だんだんはまってきたら、寒い季節にも遊べるように、ワンピースになっている完全防水のドライスーツなどが必要になってくる。

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アルパカラフトのドライスーツ、Men’s Stowaway Tough。製造はコーカタット。

9. 専門店スタッフやリバーガイドにアドバイスをもらう
やっぱり一番頼りになるのは、その道のエキスパート。当然のことだけど、専門店スタッフやリバーガイドの方に、直接話をすると、とても実践的で、有益な情報が得られる。

* * *

さあ、準備ができたら、次は旅のイメトレ。前回の記事にも掲載したリバーツーリングのムービーを見ながら、自分なりのスタイルを探してみてほしい。
[MOVIE]

パックラフトは、ギアとしてもかっこいいが、お値段もなかなかかっこいい。ただパックラフトや川の道具は消耗部品が少なく、一度買えば長く使える道具が多い。ハイキングになじみのある人であれば、レインウェアやトレランシューズなど、川道具として兼用できるギアも多い。ひとつの新しい遊びを手に入れる、新しい自分の旅のかたちを手に入れる、と思えば価値のあるお買い物だと思う。だって、全然違う景色や感覚と出会えることができるのだから。

次ページに、増補版として今回の3人のフルのギアリストを追加掲載したので、是非そちらもチェックしてもらえると嬉しい。

【次ページ:パックラフティングのギアリスト詳細

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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