TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #03 ヤマセミを求めて久慈川を下ろう!

2018.06.08
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文:根津貴央 構成:TRAILS 写真:PACKRAFT ADDICT(Fumi Sakurai, Yuichi Nakazawa, Takehito Takashiro)

今年もまた、川下りには絶好の季節がやってきた。パックラフティングは一年を通じて遊べるアクティビティではあるが、ハイシーズンはこれから。冬場にパックラフトのリペアやチューンアップをしたり、新しいパドルを買ったりと、着々と準備を進めていたパックラフト・アディクト(中毒者)たちの活動も、一気に活発化する。

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SANTAMA RAFTが久慈川に行くのは決まって毎年5月末。それは、6月から鮎釣りが解禁するからだ。久慈川は鮎釣りのメッカでもあるため、釣り師の多い6〜9月に川下りを計画する際は、事前の情報収集が不可欠。

最近知ったのだが、実は西東京にパックラフト・アディクトのサークルというか同好会があるらしい。その名は『SANTAMA RAFT』。

三多摩とは、東京の西部にかつて存在した西多摩郡・南多摩郡・北多摩郡の3つの地域の総称。どうやら、その三多摩エリアに住むパックラフターの集まりのようだ。御岳渓谷(多摩川上流部)をホームリバーとして活動し、ゆる漕ぎがモットー。ただただパックラフティングをメロウに楽しむことを目的としている。

そのSANTAMA RAFTの創設メンバーであるバダさん(詳細は後述)が、ここ4年、毎年5月末に通っている川がある。それが茨城県の久慈川だ(※1)。「この川沿いには、ヤマセミ(※2)がいるんですよ!」と恍惚とした表情で語るバダさん。

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なんと、SANTAMA RAFTにはオリジナルのステッカーやTシャツもある。ご覧のとおり、憧れのヤマセミがトレードマークだ。

そう、まったくもって川好き目線ではなく、鳥好き目線での久慈川評。それもそのはず、毎年開催されているこの久慈川パックラフト・ツーリングは、あくまでヤマセミを見ることが目的であり、その手段としてパックラフティングをするという、一風変わった旅なのである。

そこで今回、筆者の僕は、いち三多摩在住者としてこの川下りに同行させてもらうことにした。パックラフティングは好きだが、生まれてこのかた鳥には疎く、焼き鳥くらいしか興味を示したことがないのだが……。さてさて、いったいどんな川旅になるのやら。

※1 久慈川: 福島と茨城を流れる一級河川。福島の八溝山が源流。隣の那珂川と並び関東を代表する清流のひとつで、那珂川と同じく秋には鮭の遡上を見ることができる。日本有数の鮎の釣場としても有名。
※2 ヤマセミ:ブッポウソウ目カワセミ科の鳥類で、カワセミの仲間。ハトほどの大きさで頭には大きな冠羽(かんう)がある。山地の渓流に生息している。



山旅にたとえるなら、ここは里山ハイキングだ。



5月末、まだ梅雨前だというのに照りつける陽射しは、まるで真夏のよう。JR水郡線『常陸大子(ひたちだいご)駅』を降りた僕たちは、駅前のコンビニでアイスを購入し、それをほおばりながら徒歩10分のところにあるスタート地点を目指した。

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スタート地点はスペースが充分にあるので、パックラフトの準備もしやすい。
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東京方面からのアクセスは、上野駅からJR常磐線(特急)で水戸駅まで1時間18分。水戸駅からJR水郡線で常陸大子駅まで1時間15分。今回は乗り継ぎ時間も短く、2時間40分程度で目的地まで到着。1本遅れると水戸駅でかなりの乗り継ぎ時間を要するため、要注意。スタート地点、ゴール地点ともに最寄駅まで徒歩10分足らずと、交通の便が良い。ちなみに今回のコースの全長は約26km。

ここで今回のメンバー三人を紹介しよう。まずは鳥好きハイカーで SANTAMA RAFTの立ち上げメンバーでもあるバダさん。続いて、そのバダさんの影響で今やすっかり鳥好きになり、観察道具に私財をなげうつナカザワくん。そして、幼い二児のパパであり良きパパを演じながらもパックラフティングの時間捻出には余念がないタケちゃん。SANTAMA RAFTの精鋭トリオである。

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SANTAMA RAFTの面々。左から、タケちゃん、バダさん、ナカザワくん。

出艇してまず思ったのは、里山感。たいてい川を下る時は、そこそこ上流部に行くので線路沿いとはいえ山奥感が漂っているもの。でもここは、川にかかる橋を通り過ぎるクルマも多いし、民家も近い。

しかもJR水郡線沿いということもあり、川面から電車を眺めることもできる。調べたところ車両はキハE130系。黄色と水色、黄色とオレンジ色のカラーリングがレトロで、驚くほど渓谷美にマッチしている。

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人里離れた大自然ではなく、農村地帯を突っ切っていくこの感じが、とても新鮮で心地良かった。山にたとえるならば、北アルプスのような山岳エリアを登ったり歩いたりするというよりは、奥多摩や奥秩父、奥武蔵あたりの里山ハイキング。

急がず、焦らず、頑張らず。SANTAMA RAFTっぽくていいじゃないか。

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バダさんの1泊2日のツーリングギア。詳細は下記にて。



唯一にして最大の難所、『シャモの瀬』あらわる。



川の流れが緩やかで、起伏も少なく、初心者でも楽しめる久慈川ではあるが、ひとつだけ有名な瀬(※3)がある。それが、1日目のハイライトのひとつである『シャモの瀬』だ。

実は、バダさん&ナカザワくんは、久慈川下り(毎回ヤマセミ目当て)はもう4年目ということで、この行程に関しては熟知している。このシャモの瀬の詳細も知っているのだが、川下りに油断は禁物!ということで、瀬の手前でみんなでスカウティング(※4)を行なった。

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スカウティングはもちろん、危険な箇所ではその都度ポーテージ(艇を担ぎ上げて陸路を歩いて障害物を越えること)をした。

すると、去年は存在しなかったカヌー用のゲートが設営されていたり、その影響か、若干コースが変わっていたりした。あらためて、やっぱりスカウティングは大事だな!と思った。進むべきコースをしっかり頭にインプットして、いざトライ。

瀬のグレードでいうと1.5級なので、難しくはない。でも、ゆったりした流れがずーっと続いてきたところにいきなり出てくるため、体感値としては数字以上の激しさを感じることができる。

※3 瀬:川の流れが速く、水深が浅い場所。グレードが1〜6級まであり、数字が大きいほど難易度が高い。
※4 スカウティング:難易度が高いと予想される箇所において、艇を降りて陸上にあがり、危険はないか、どのルートがいいかなどを事前に偵察する行為。ダウンリバーしながら前方の状況(障害物や川の流れなど)を瞬時に判断するのは困難なため、適宜行なわれる。



奥久慈渓谷をのんびり下る。スピードが遅いからこそ、たくさんの野鳥にも出会える。



さて、唯一にして最大の難所である『シャモの瀬』をクリアーしてしまえば、あとは安心。もう何もないといっても過言ではない。なんて言ってしまうと、「鳥がいるじゃないか!」とバダさん&ナカザワくんに怒られそうだが……。

正直、もはやキャンプ地までは消化試合かなと思っていたのだが、驚いたのは久慈川沿いに生息するたくさんの野鳥たち。オシドリ、トビ、カワセミ、ホオジロ、アオゲラ、アオサギ、ヒヨドリ、カワウ、カルガモをはじめ、もう覚えきれないくらい。

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都度都度、バダさんとナカザワくんが教えてくれるのだが、さまざまな鳥を見て、鳴き声を聞き、個体ごとの特徴的な飛び方を眺めているうちに、鳥もいいもんだなという気持ちが芽生えてきた。そして、艇の上で熱心に単眼鏡を覗く二人を見て、次からこのアイテムは必須だな!と思ったのだった。

これが瀬の多い川だったら、野鳥を愛でる余裕はなかっただろう。久慈川ならではのゆったりした流れだからこそ、川以外のいろんなことを感じ、楽しむことができる。メロウな旅じゃないか。これこそが、SANTAMA RAFT流川下りの真骨頂だ。



夕方から焚き火を囲んで宴会スタート。



お昼の12時過ぎという遅いスタートだったにもかかわらず、誰も急ぐ様子もなく、ゆるゆると漕いだ1日目。

流れも緩やかで、野鳥観察タイムあり、ランチ休憩ありと、かなりのんびりペースだったのだが、なんと16時にはキャンプ地に着いてしまった。たった4時間とは思えない充実の1日だった。

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ホワイトウォーター(白い波が立つくらいの激流)ではないツーリングの楽しさは、キャンプにあるといっても過言ではない。河原にタープだけ張って寝るのは、開放感満点でサイコーだ。そして河原には焚き火がつきもの。ナカザワくんの持ってきた焚き火グリル(ノリズグリル)と、筆者持参のスーパーネイチャーストーブ(ソラチタニウムギア)で、各々好きな料理をつくった。

キャンプ地では、さっそく火を熾して宴会スタート。こういうシチュエーションだと、決まって酒宴になってグダグダになりがちなんだけど、SANTAMA RAFTにはそれがない。なぜなら、みんな下戸だからだ(入会条件ではない)。

でも気の合う仲間との宴は、酒がなくたって楽しいのだ。むしろ、酔いにまかせて荒ぶるヤツが出てこないから静かでいい。おかげで川の流れる音や鳥のさえずり、木々の揺らめく音なども、驚くほどはっきり耳に届いてくる。自然と一体化しているかのような気分も味わいながら、気持ちよく夜が更けていった。

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朝はまったり。遅出しても昼過ぎにはゴールできるのがいい。



今回の行程における魅力のひとつ、それは電車からのアクセスが抜群で(スタートもゴールも、駅から歩いて10分足らず)、のんびり旅ができる点だ。

川下りにしろハイキングにしろ、2日目っていうのはたいがい早出になるケースが多い。でも今回は違う。2日目の出発は9時。そして遅出にもかかわらず、13時過ぎにはゴールしてしまう。

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すでに1日目で、唯一にして最大の瀬も終わってしまったので、2日目はひとつも難所がない。つまりスリルはないのだが、その代わりと言ってはなんだが出会いはある。

このエリアは川沿いに複数のキャンプ場があるため、この時期の土日ともなると家族連れでにぎわっている。当然子どもたちがいるわけで、川を下っているSANTAMA RAFTのあやしい面々が視界に入れば、いやがおうにも注目の的になる。そして決まって「おーい!何してんのー!」と声をかけられる。さらに沈下橋の近くでは、橋の上を通るクルマに乗ってる子どもが窓を開けて手を振ってくれたりする。

もちろん、僕たちも言葉を交わしたり、手を振ったりして応える。こんなやりとりも楽しいものだ。川下りならではのエピソードかもしれない。

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JR水郡線の山方宿駅の駅舎。ここで出会った地元の人と交流も楽しみのひとつだったりする。



SANTAMA RAFTのギアリスト



<バダさん>
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for PACKRAFTING
[パックラフト]ALPACKA RAFT / ALPACKA WWスプレーデッキ [パドル]ALPACKA RAFT / Sawyer [PFD]Kokatat / Maximus Centurion [ヘルメット]Hiko / Backaroo [バックパック]Six Moon Designs/ Swift Pack [ドライバッグ]ALPACKA RAFT / Expedition Bow Back, EXPED / Fold Drybag Endura 25L&15L [ベースレイヤー(上)]Teton Bros / Power Wool Lite L/S [防水ウェア(上)]ALPACKA RAFT / Stowaway [ベースレイヤー(下)]Finetrack / フラッドラッシュタイツ [ショーツ]Ibex / Woolies [シューズ]ASTRAL / Brewer
for CAMPING
[シェルター]Hiker’s Depot (Finetrack) / Zelt II Wide [スリーピングバッグ]Skyhigh Mountain Works / Down Quilt 120 [スリーピングマット]NEMO / ORA 20S [ストーブ/クッカー]Gossamer Gear / GVP Ultralight Stove Systempoly, TRANGIA / ミニフライパン [防寒着(上)]Houdini / C9 Loft Jacket [防寒着(下)]Finetrack / ポリゴン2ULパンツ [雨具(上)]mont-bell / ULトレッキングアンブレラ [雨具(下)]ULA Equipment / RAIN KILT
for BIRDWATCHING
[スコープ]KOWA / TSN-501 [双眼鏡]SWAROVSKI / Pocket 8×20 [単眼鏡]SIGHTRON / TACM728-2

<ナカザワくん>
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for PACKRAFTING
[パックラフト]ALPACKA RAFT / ALPACKA クルーザースプレーデッキ [パドル]ALPACKA RAFT / Sawyer [PFD]Kokatat / Ronin [ヘルメット] PROTEC / ace water [スローロープ]NRS / Wedge Throw Bag [バックパック] Gossamer Gear / MARIPOSA PLUS [ドライバッグ]SEAL LINE / Nimbus Dry Sack 20L,40L [ドライスーツ] ALPACKA RAFT / Stowaway Drysuit [シューズ]ASTRAL / Brewer
for CAMPING
[シェルター]INTEGRAL DESIGNS / SIL TARP 2 [スリーピングバッグ]Hiker’s Depot / Top Quilt [スリーピングマット]THEARM A REST / Pro Lite S [Grill]N.Works / Lite Grill [クッカー] trangia / Mini [ボトル] NALGENE / FOLDING CANTENE 1.5L, SAWYER/MINI [防寒着]INTEGRAL DESIGNS / WIND JACKET
for BIRDWATCHING
[スコープ]KOWA / TSN-501 [双眼鏡]Carl Zeiss / Victory Compact 8x20T* [単眼鏡]SV BONY / BK7 8×32

<タケちゃん>
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for PACKRAFTING
[パックラフト]ALPACKA RAFT / ALPACKA クルーザースプレーデッキ [パドル]AquaBound / Shred Carbon 4pc [PFD]Kokatat / Maximus[ヘルメット]Sweet Protection / Strutter [バックパック]Hyperlite Mountain Gear / 3400 Porter [ドライバッグ]Exped / Fold Drybag Enduro 25 & 10, ALPACKA RAFT / Bow Bag [ベースレイヤー(上)] Duckworth / Vapor Tee [防風(水)ウェア(上)]mont-bell / EX Light Wind Parka [ショーツ]Myles Apparel / Everyday Short [シューズ] Teva / Unknown
for CAMPING
[シェルター]Locus Gear / Tarp X Duo Sil [スリーピングバッグ] Hiker’s Depot / Top Quilt [スリーピングマット] THEARM A REST / ProLite XS [ストーブ] Bush buddy / Bush buddy Ultra [クッカー] snow peak / Trek 900 Titanium改 [防寒着(上)] mont-bell / US EX Light Down Anorak [防寒着(下)] patagonia / merino tights

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パックラフト・アディクト第三弾、いかがだっただろうか?

第一弾の黒尊川、第二弾の那珂川とは、また趣向の異なる川旅が、個人的にはかなり満足だった。これまで、少なからず急流をクリアーするスリルや高揚感に惹かれていた部分があったのだけど、久慈川を体験してみて、ゆらり旅もいいものだなと。

しかも、川下りだからと言って川だけにとらわれる必要もないことも知った。SANTAMA RAFTの野鳥観察をメインにすえた川旅は、想像以上に楽しかった。パックラフティングの奥の深さ、自由度の高さを実感した2日間だった。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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