A Life after Thru-Hiking | 【後編】ハイカーとして信越トレイルをつくる日々
話:鈴木栄治 取材・構成:TRAILS
アメリカのアパラチアン・トレイル(AT)を、夫婦でスルーハイクした鈴木栄治・佳乃さん夫妻。お二人は、ロングトレイルの旅の先にあった、ここちよい “なりゆき” の末に、信越トレイルのトレイルタウンである飯山(いいやま)に移り住むことになった【詳しくは前編のコチラ】。
後編では、現在、信越トレイルのスタッフとして働く、栄治さんのお仕事について詳しく聞いてみた。僕たちが聞いてみたかったのは、アメリカのロングトレイルを歩き、そのカルチャーを肌身を持って体感したハイカーが、どのような思いで信越トレイルをつくる仕事をしているのだろうか、ということだ。
そして今年は、ハイカーズデポとTRAILSが主催する、信越トレイル『Trail Experience Tour』にも、信越トレイル側のオーガナイザーとして栄治さんに携わってもらった。その様子もあわせてお届けしたい。
トレイルの雰囲気、ポリシー、サービス精神……信越トレイルは生きてる感じがする。
ーー 信越トレイルでは、どんな仕事をしているんですか?
栄治:基本的に業務は2つあって、ひとつは、なべくら高原・森の家の仕事。もうひとつは、NPO法人 信越トレイルクラブの仕事です。だから、宿泊や自然体験などの接客から、トレイルの整備まで、いろんな仕事をしています。
一口に「トレイル関連の仕事」といっても、その内容は多岐にわたる。トレイル整備だけでなく、ツアーアレンジや森の家の接客など、仕事内容は幅広い。
ーー トレイル整備以外にも、いろんな仕事をしているんですね。
栄治:森の家には、ツアーバスも来るし、視察も来るし、たくさんの小学校や団体が体験学習に訪れます。自然やトレイルを楽しむ、いろんなお客様に対して仕事をしています。しかもかなり丁寧にやっています。信越トレイルは、そういったことを、ずっとやり続けてきたからこそ、今があるのだと実感しています。
飯山は日本におけるグリーンツーリズムのパイオニアであり、今もグリーンツーリズムの視察といえば真っ先に名前があがる。
ーー 実際に、信越トレイルのふもとに住んで、信越トレイルの中の人間として過ごしてみて、いかがですか。
栄治:トレイルの雰囲気とか、確固たるポリシーとか、サービス精神とか、すべてにおいて、信越トレイルは生きてるなって感じがします。生きているトレイルだっていうことに、今でもびっくりするんです。ただ課題もあるし、そこはよい方向に持っていければと思っています。
仕事は多岐にわたるが、かなめとなるのはトレイル整備の仕事だという。
信越トレイルにもトレイルマジックがある。そんな雰囲気をもっと作っていきたい。
ーー 僕たちとしては、半年間ものロングハイキングの旅をしたハイカーが、信越トレイルのスタッフのなかに入ったことに期待をしてしまいます。ロングディスタンスハイキングのカルチャーを、リアルな肌感覚や体験として知っている人がいる、ということで何かが変わるのではないかと。
栄治:1997年に森の家ができて、信越トレイルを作る動きが生まれて約20年。また新しい信越トレイルが始まるときなのかもしれませんね。
僕も海外のロングトレイルの空気を知っている人として、信越トレイルにもそういう空気を入れられたらなというのはありますね。僕以外にも、アメリカの何千キロという長いトレイルを歩いたハイカーが、信越トレイルに関わりをもとうとしてくれていたりもしますし。そういう人が増えればいいな、と思っています。
ーー 海外からもハイカーは来ますか?
栄治:海外の人は年々増えていますね。海外の方は、トレイルを歩くだけではなく、飯山の里山文化も体験したいというリクエストが強く、お寺を巡ったり、伝統や文化を体験してもらったりしています。海外の人のほうが、登山にとどまらず、トレイルを歩く・楽しむというタイプが多いのかもしれませんね。熊野古道と似たようなトレイルに行きたいという時に、信越トレイルが候補としてあがることが多いそうです。
ーー これからの信越トレイルも、楽しみにしてます。
栄治:ありがとうございます。ちなみに、近々オーストラリアからハイカーが歩きにくるんです。家族四人で。これまでかなりメールでやりとりをしたんです。せっかくだから佳乃さんと一緒にトレイルマジック(ハイカーのために無償で用意した飲料や食べ物など)をしに行こうかな、と思っているんです。信越トレイルにもトレイルマジックがある。そんな雰囲気も作っていけたらいいなと。
* * *
■ 信越トレイル『Trail Experience Tour 2018』
ハイカーズデポとTRAILSは、2013年から毎年、信越トレイルの整備に関わらせてもらっている。4年目の2016年には、整備だけでなく、信越トレイルをハイキングして、トレイルタウンの飯山の町も楽しむ、という信越トレイルのトレイルカルチャーを丸ごと楽しむツアーへと進化した。そして昨年からは、一般募集も開始し、お客さんと一緒に楽しむツアーとなった。そんな今年の信越トレイル『Trail Experience Tour』の一部をご紹介したい。
このツアーは、信越トレイル側のスタッフとして、栄治さんに内容の相談と当日の同行をしてもらった。
DAY1 信越トレイル セクションハイキング 〜 飯山の集落ツアー
雪どけの季節もすぎ、いっせいに緑が芽吹き、繁茂する関田山脈を歩く。
今年のセクションハイキングのコースは、伏野峠~宇津ノ俣峠。信越トレイルらしいブナ林と、山脈の稜線に続く細かいアップダウンで歩きごたえのあるセクションだ。
みんな小さいバックパックで、てくてくデイハイキング。今年の参加者はテンポよく歩く人が多かったので、宇津ノ俣峠からそのままふもとの集落まで歩いていくことにした。信越トレイルのある関田山脈は、かつては長野と新潟を歩いて往来する生活道にもなっていた。そんな雰囲気も楽しみながらの峠歩きだ。
峠を降りると、目の前には美しい飯山の景色が広がっている。このままふもとの集落までハイキングした。
ふもとの集落まで降りてきたら、大きなケヤキの木があるお宮でおやつタイム。もうみんなニヤニヤ。地元・飯山のスイーツの名店「パティスリー・ヒラノ」のケーキをいただく。
地元の名店「パティスリー・ヒラノ」のケーキを楽しむハイカーたち。
この後にみんなで温泉に入り、地元の郷土料理満載の夕食。紫米を用いた笹ずしに、根曲がり竹 、いもなます、信州サーモン、アスパラなど、みんな大満足。トレイルカルチャーがお腹にいっぱい入った。
夜、寝る前に栄治さんのこちらの暮らしについての話を聞いて、翌日のトレイル整備に向けて、みんな就寝。
DAY2 信越トレイル トレイルメンテナンス
さあ、2日目はみんなでトレイル整備に!
意気揚々とトレイル整備を開始!それぞれが整備の道具をもって、トレイルに入っていきます。
豪雪地帯にある信越トレイルでは、雪解けの季節の後に、こうやって毎年、トレイルがつくりなおされる。
今年も昨年からのリピーターもいたり、生前に加藤則芳さんが営んでいたペンション「ドンキーハウス」に訪れたことがある方がいたり、トレイルがどうやって作られているのかを体験したかった方がいたり、いろんな方に参加していただいた。
今年のトレイルづくりのお仕事は枝払い。トレイルの脇にある草や枝を切ったりして、歩く妨げになりそうなものを取り除いていく。放っておくとぐんぐん伸びてしまう、竹や笹や雑木はどんどん切っていく。毎年やっているが、いつもこうやって人の手によってトレイルが維持されていくんだ、ということを実感する。
「信越トレイルでもトレイルマジックがあるみたいな、トレイルの雰囲気をつくっていきたい」と語っていた栄治さん。ハイカーの側、トレイルをつくる側の双方が関わりながら、そのトレイルのカルチャーは醸成されていく。だからこそ、トレイルを歩くだけでなく、ふもとの町も含めて、丸ごと楽しむのがTRAILS的にもおすすめだ。トレイルをつくる人、歩く人、維持してつづける人のそれぞれの視点がまじわりながら、信越トレイルにまた新しいカルチャーが生まれてくることを楽しみにしたい。
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