TRAILS REPORT

MOUNTAIN CITY LIFE | 高尾 #04 高尾 to 笠取山100mile 〜Thunder In The East〜(実走録・前編)

2018.10.17
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取材・文・写真:根津貴央 構成:TRAILS

<Whtat’s MOUNTAIN CITY LIFE?>
「山と街をシームレスにつなぐ」。アウトドアウェアのコピーにそんな謳い文句がよくあるけど、実際のライフスタイルとして実現するのは、なかなか難しくない? 一般的には、山麓に住んでたまに都会に行く、あるいは都会に住んでたまに山に行く、というのがほとんどだ。でも、山も街も同じくらいの比重で味わうライフスタイルがあってもいいんじゃないか。そこで私たちTRAILSは、全国各地にあるMOUNTAIN LIFEでもCITY LIFEでもない、『MOUTAIN CITY LIFE』を探し、そこに足を運び、住まう人々から話を聞き、その実像に迫るシリーズをスタートさせることにしました。

* * *

前回の連載3回目で予告したとおり、10/7〜9にわたって、トモさん(井原知一)の新たなチャレンジ『高尾 to 笠取山100mile』が行なわれた。トモさん自身にとって、45本目の100マイルだ。

その3週間前、トモさんは44本目の100マイル『信越五岳トレイルランニングレース』を総合7位という好成績で終えたばかり。疲れは完全に抜けきってはいないだろうが、一方で勢いはあると言っていいかもしれない。

このプロジェクトを「F1のよう」と表現したトモさん。そこには、信頼できる仲間と一緒に臨む!という強い想いが込められている。トモさんが主役なのではなく、トモさんはいちドライバーに過ぎないのだ。

そこで今回は、走り手のトモさんの視点と、それを支えるサポートクルーの視点、その両面からこの100マイルの全貌に迫りたいと思う。

まず今回は、前編の『トモが見た高尾 to 笠取山100mile』から。トモさんの生き様をとくとご覧あれ!

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『生涯で100マイルを100本完走』をスローガンに掲げているトモさんこと井原知一。


スタート前日、愛娘と過ごすトモさん。


100マイルを走っているトモさんは、これまで幾度となく見てきた。でも、走る前日の様子は見たことがない。いったい、どんな前日を過ごしているのだろうか。レースに備えてかなりナーバスになっているのか。それとも、普段と変わらぬ日常なのか。愛娘のサクラちゃんとANSWER4のショップ『LIVING DEAD AID』に訪れたトモさんに話を聞いてみた。

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ANSWER4のショップLDA(LIVING DEAD AID)にて。娘のサクラちゃんとの幸せなひととき。

ーー いよいよ明日ですね。
「ちょっとだけ緊張していますね。こないだ南高尾を走った時、かなり倒木があって。足元には小さい木や枝もたくさん落ちていることもあって、普段のコースタイムよりも3割増でした。いつもよりも高く何回も足を上げることになるので、疲労もたまると思います。そこは少し心配ですね」

ーー 期待と不安が入り混じっていた。
「念願だった高尾発の100マイルなんで、ワクワクしてます。今後、このコースを発信した時に、トモさんが30時間で走ったなら自分はこのくらいで行けるだろう、という目安にもなるはず。だから、レースではないとはいえゆるくは行きたくないです。最後は、オールアウトできるくらいに終わりたいですね」

ーー サクラちゃんは何か言ってましたか?
「パパまた走りに行くんだ!と。明日、小学校の友だち2人が家に泊まりに来てハロウィンパーティをやるらしくて。もうそれが楽しみでしようがないみたいです(笑)」

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高尾のトモズヘッド(南高尾の登山口)〜笠取山のピストン。片道50マイルの予定だったが、実際は55マイル。トータル約110マイル(約180キロ)、累積標高1万超。


ハセツネが同日開催。レーススタッフから「このまま行けば大丈夫!」と声援をもらう。


100マイル当日(7日は奥多摩でハセツネも開催されていた)。サポートクルーに見守られながら、家から50メートルほどのところにあるトモズヘッド(登山口)を18時にスタート。初めてのチャレンジということもあってか、トモさんの表情からは少し緊張感がうかがえた。

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10月7日 18時。ついに『高尾 to 笠取山100mile』が幕を開ける。

ーー 序盤から、少しずつ遅れが見えはじめましたね。
「30時間でゴールするつもりでスタートしたんですが、コンサバティブなほうのラップタイムもギリギリな感じで。走っても走ってもなかなか進まなくて、少し焦りましたね」

ーー やはり倒木等の影響があったみたいですね。ただ同日に行なわれていたトレランのレース、ハセツネ(※)のコースと一部重複しているので、そこは整備されていたのでは。
「そうですね。でもハセツネのコースでもある笹尾根は、潰れている人だらけ。吐いている人もいましたね。そこを軽快に走っていたら、ハセツネのスタッフさんが選手だと勘違いして、頑張ってー!このまま行けば大丈夫だから!! と声をかけてくれて。まあそうだろうなと(笑)。ハイタッチもしましたよ」

※日本山岳耐久レース(ハセツネ): 日本を代表する歴史ある山岳レース。奥多摩を走るレースで総距離は71km。ハセツネとは、登山家の長谷川恒男に由来する。

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三頭山の先にある鶴峠にて。サポートクルーが用意したエイドで補給をする。まだまだ元気だ。


走っても走っても終わらない。百戦錬磨のトモさんの心が折れる。


往路の終盤、サポートポイントでもある柳沢峠(約40マイル地点)にたどりついたトモさんは、体力も気力もあるものの、想像以上に疲れているように見えた。

ーー 柳沢峠に着いた時は、どんな状態だったんですか。
「疲労感がありました。事前の設定では40マイル地点だったんですが、GPSを見るとすでに50マイルになっていて。マジかと。僕のいつものレース展開としては、70マイルからがスタートなんですよ。だから50マイルなんて何も始まってない。なのに、このまま笠取山まで行くとおそらく往路で18時間半もかかってしまう。フラットな100マイルだったらとっくにゴールしているタイムですよ。以前、潰れたレースでもトータル32時間くらい。真剣に走って30時間を超えることはなかっただけに、なんでこんなにかかるんだ!と。ある意味、新しい経験でしたね。走っても走っても終わらない100マイルってあるんだなと」

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一夜が明け、8日の朝9時過ぎに柳沢峠に歩いて入ってくるトモさん。

ーー 往路において、どこがいちばんのネックでしたか。
「牛ノ寝通り(松姫峠から大菩薩峠の間にある尾根)のラストに、石丸峠へとつづくこのコース最大の登りがあって。とにかく全然終わらない。しかも、ようやく登りきったと思ったら、熊笹だらけで道がわからない。GPSを頼りに進んでいってようやく道標が見えて。ほんとここで心が折れました」

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12時20分、笠取小屋にたどり着く。めったに見せないこの表情が、まさにこのコースを物語っている。

ーー 実際は55マイル地点だった折り返し地点の笠取山に登頂した時の気持ちは。
「やっぱり嬉しかったですね。泣きそうになりました。この100マイルの計画段階から、ジャキさん(尾崎光輝)と、ここに来たらさらに西にある甲武信ヶ岳にメンチ切ってこようぜ!って話していたんで。いつかそっちも行くからなという気持ちと、あとはここからまた戻らないといけない、ヤバイなっていう気持ちもありました」

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12時53分、笠取山に登頂!トモさんに笑顔が戻った。


人生初 !? 人前での嬉し泣き。


笠取小屋からは、ペーサーであるJR田中さん(※)が合流。トモさんも疲労が蓄積していただけに、復路においてかなり大きな存在になってくれた。JR田中さんのペーシングは和田峠までだが、そこまでいけばホームグラウンド。なんの心配もなくゴールまで突き進めるはずだ。

※JR田中(ジェイアールたなか):本名、田中裕康。今年、信越五岳トレイルランニングレースの100マイル部門で総合2位になったトレイルランナー。トモさんとも親しく、2014年から一緒に練習をする間柄。つねに自分の設定したタイム通りにペースを刻むこと(定刻どおり)から、JR田中と呼ばれている。

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笠取山から水干(みずひ・多摩川の源流)を経て、ふたたび笠取小屋へ。ここでペーサーのJR田中さんが合流。いざ復路へ。

ーー ペーサーがついてからなにか変わりましたか。
「疲れてくる後半なのに、田中さんがいるっていう心強さと、往路で走ったコースを戻るという安心感がありました。だから前半よりもラクでしたね」

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9日の3時50分、松姫峠にて。あまりのタフなコースに、ペーサーのJR田中さんも心が折れたという。

ーー 37時間以上かけてゴールした時、涙を流していました。
「嬉しかったんです。高尾に引っ越してきて、100マイル走りたいって言ったらみんな協力してくれて。下見もして、サポートもしてくれて。こんな仲間ってなかなかいるもんじゃないなと。今回の100マイルは正直つらいなって思うことがいっぱいあったけど、その都度、仲間に助けられた。無理かもという気持ちがありながらも、みんなに頑張れ!って言われるとよしっ!と思ったりして。そういういろいろな気持ちがあるなかで、ゴールをみんなと分かち合えて嬉しかった」

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37時間を経て自宅近くのトモズヘッドに帰還。さまざまな想いが込み上げてきて、思わず顔を覆う。

 [次回の後編は、サポートクルーが見た高尾 to 笠取山100mile。お楽しみに!]

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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