MOUNTAIN CITY LIFE | 高尾 #02 増幅していく “裏山遊びのグルーヴ”
文:根津貴央 取材・構成:TRAILS 写真:TRAILS, 尾崎光輝, 千代田高史, 小林大允, 黒川裕規
<Whtat’s MOUNTAIN CITY LIFE?>
「山と街をシームレスにつなぐ」。アウトドアウェアのコピーにそんな謳い文句がよくあるけど、実際のライフスタイルとして実現するのは、なかなか難しくない? 一般的には、山麓に住んでたまに都会に行く、あるいは都会に住んでたまに山に行く、というのがほとんどだ。でも、山も街も同じくらいの比重で味わうライフスタイルがあってもいいんじゃないか。そこで私たちTRAILSは、全国各地にあるMOUNTAIN LIFEでもCITY LIFEでもない、『MOUTAIN CITY LIFE』を探し、そこに足を運び、住まう人々から話を聞き、その実像に迫るシリーズをスタートさせることにしました。
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連載1回目の記事では、高尾に住み始めたコアな仲間たちから、そのきっかけや高尾ならではの山の魅力、街の魅力を聞いた。知られざる高尾が浮き彫りになり、取材前は半信半疑だった僕たちTRAILS crewも、話を聞くにつれて高尾に惹かれていった。
高尾自体の魅力もさることながら、さらに興味深かったのは、住む人同士の “つながりが醸し出すグルーヴ” だった。意図して作ったコミュニティではなく、いい感じのゆるい連帯感というか。サークルみたいに同じ目的や方向性を持った集団ではなく、たまたまクラスで一緒になった仲間というか。
そこに自然発生的に生まれているグルーヴが、すごく心地よかった。それが高尾の魅力に一役買っている感じがした。そこで今回は、『高尾’s GROOVE』と称して5つのファクターを取り上げ、そのグルーヴなるものを紐解いてみたい。
ANSWER4のショップ『LIVING DEAD AID』は、高尾の人がふらっと立ち寄れる “場” となっている。
高尾’s GROOVE_1 朝5時半から走る『ごじさんず』 by 井原知一
前回、平日の早朝7時前に走っているトモさん(井原知一 / 100マイラー)と出会って衝撃を受けたことに触れた。一見、朝練や朝のトレーニングと思われそうだが、聞けば、ただ単に高尾を走るのが楽しいからやっているというのだ。トモさんが勝手にはじめたこの遊びに、一人また一人と参加する仲間が増えている。
井原:普通の人からしたら週末にしかできないことが、ここなら平日に、しかも毎日出社前にできてしまう。マジか!高尾最高か!と(笑)。
黒川:以前は東京タワーの階段とか、都内の坂を走ってて、それはそれで楽しかったけど、やっぱりそれはトレーニングでしかないんだよね。自分はもともと高尾山でトレイルランニングに目覚めたし、やっぱ高尾の山々を走るのは純粋に楽しいなと。
トモさんの朝ランに自然と参加するようになった、ユウキくん(黒川・中央)と明さん(岡本・右)。この日はキングことトレイルランナーの大瀬さん(元高尾在住)も飛び入り。
トモさんの家から走って1分のところにある通称トモズヘッドをスタートして南高尾へ。これが定番ルート。
実は僕(筆者:根津)も、この “ごじさんず” (朝5時半に走るおじさんたち、ということでトモさん自ら命名)に興味本位で参加したことがある。てっきりトレラン上級者のハードな朝練だとばかり思っていたが、そうではなかった。山を走りながら、身の上話はもちろん、あーでもないこーでもないといろんな話をする。まさに遊んでいる感覚。本当に楽しくて、それ以来ちょくちょく参加するようになった。
高尾’s GROOVE_2 まるで子どものように『南高尾で宝探し』 by 千代田高史
もちろん走るだけではない。ここにいるのは歩く人、マウンテンバイクに乗る人、岩に登る人とさまざま。つい先日は、南高尾で宝探しが行なわれていた。とはいっても、まったくもってイベントとかではない。勝手に宝を置いた人がいて、勝手に探す人がいただけの話。いい意味でやりたい放題だ。
小林:最近すげー面白かったのは、チヨ(千代田)が南高尾に宝物を置いてくるってやつ。なんかバークレイ・マラソン(※)的なノリでさ。
高尾の仲間とともに、地図を見ながら高尾をディグる。見よ、このチヨちゃん(中央)の真剣な表情を。
千代田:一般的に高尾のイメージって里山の延長って感じなんだけど、実は南も北もかなり奥が深くて面白い。みんなもそうだと思うんだけど、自分やローカルの仲間がいてそれぞれのお気に入りルートやトレイルがあって。その魅力をコンパス片手に宝探ししながら味わってよって感じでさ。で、とりあえず高尾のみんなに宝の地図を送りつけてみた。
あと、この宝の地図って、コンビニでネットプリントできるようにしていて。だから知り合いとかが高尾に来るってときに、その予約番号とかを教えておけば出力して遊んでもらえるんじゃないかって。オレなりのおもてなしというか、おらが山自慢のかたちというか……。
本音を言うと、自分は “山を走る” ってことにまとめられてしまう高尾のイメージは本意じゃなくて。OMM(※)を初めてイギリスで体験したあとに自分が開眼したナビゲーションワークの面白さも、この山域なら存分に楽しめるんだよね。だから仲間うちへの挑戦状だったりするわけ。「どーだ知らなかっただろ!このマル秘スポット!」みたいな。みんなに地図読みって面白いなって思ってもらえたらそれでいい。
※バークレイ・マラソン:「世界一過酷な耐久レース」と言われる、アメリカはテネシー州で開催される100マイルレース。コースにマーキングはなく、エイドステーションもない。コース上には複数の本が置かれていて、ランナーは自分のゼッケン番号と同じページを破って持って帰ってくる。詳細が不明で謎の多いレースとしても有名。
※OMM:正しくは『The Original Mountain Marathon』。UK発祥の51年もの歴史を持つマウンテンマラソンのこと。オリエンテーリングとマウンテンスキルを組み合わせたもので、アドベンチャーレースの起源でもある。2014年からは日本でも開催。詳しくは、TRAILSのBRAND STORY『#003 OMM / オーエムエム – Product is born in the race.』を参照。
チヨちゃんお気に入りのスポット。知られていない高尾の魅力をもっとみんなに知ってほしいとのこと。
岡本:この前その宝探しをした時に、息子に「今日、宝探しに行ってきたんだ」って言ったら、「パパたちって、本当に子どもみたいだね」って言われて。それがまさに僕たちを言い表しているなと。楽しんでいるのが伝わっているのかな。
これが宝のマーキング。南高尾の奥深さを感じながらの宝探し。みんな童心に返っていた。
高尾’s GROOVE_3 仲間のために開拓した新ルート『ルイ・バーチカル』 by 尾崎光輝
ただただ、高尾の仲間と高尾を楽しんでいる。みんな好きだからやっているだけ。そのピュアなスタンスが見ていて気持ちいい。こないだなんて、仲間の入籍を祝うために新ルートまで開拓したらしい。
上田:今年の5月に、カメラ3台に追われながら高尾山に登ったんです。入籍祝いってことで。しかも、1キロで300メートルも標高を上げるところに登らされて(苦笑)。
高尾山の山頂ではしゃぐルイくんと、そんな彼を撮影する奥さん。
小林:ローカルの仲間が入籍したぞ!写真撮りにいこーぜって。
尾崎:ただのプライベート。
舘下:門出を祝うためのね。
尾崎:高尾山の北斜面に尾根があって。「ルイ、ここだったら誰にも会わずに一気にバーンってあがれっから!」って、このバリエーションルートを提案して。うちらはルイ・バーチカルって呼んでるんだけど。で、撮影班として同行したものの、いちばん走力のないオレはまったくついて行けないという。
『ルイ・バーチカル』を完登!息ひとつ乱していないルイくんと、疲れ気味のジャキさん。
高尾’s GROOVE_4 みんなの溜まり場『コバの部屋』 by 高尾の仲間たち
にわかに高尾に人が集まり、盛り上がってきた感があるが、元をたどると実はちょっとしたきっかけがあった。当時、西八王子に住んでいたコバくん(小林大允)の家が溜まり場になっていたのだ。ただその頃は、高尾というフィールド以上に、仲間との交流のほうに重きが置かれていた印象がある。
千代田:ニシハチ(西八王子)に住んでてラッキーだったのは、同じマンションにコバがいてそこにいろんな人が集まってきていたこと。ある時コバんちに行ったら、なぜか上田瑠偉がいて。さらにタッチー(舘下)やニンニン(服部)も引っ越してきて。
ニシハチ時代のコバくんちでのひとコマ。とにかくいろんな人が出入りしていた。
尾崎:いまはみんな高尾(最寄駅が高尾山口か高尾)だけど、当時はバラバラで、高尾で遊びはじめたのが2015年。この年が肝で、オレもすでにハセツネ(※)を完走していたから次のステップを探していて。それでチヨが信越(※)を走るぜ、って。オレもハセツネのあとは信越だよな、って。
※日本山岳耐久レース(ハセツネ): 日本を代表する歴史ある山岳レース。東京の山岳地帯を走るレースで総距離は71km。ハセツネとは、登山家の長谷川恒男に由来する。
※信越五岳トレイルランニングレース:プロトレイルランナーの石川弘樹氏がプロデュースするレース。今年で10周年を迎える。110キロと100マイル(2017年に新設)の2種目がある。
2015年は、トレランレースに向けて夜な夜な陣馬方面に走りに出かけていた。初期メンバーは、チヨちゃん、ジャキさん、コバくん、明さん。
小林:料理好きのオレとジャキが、キッチン小林とか割烹尾崎とか言って、みんなに振る舞ったり。
舘下:ほんと溜まり場だったよねー。メシ食って、そのままリビングに寝袋で寝て、朝帰る、みたいな(笑)。
尾崎:オレはだいたい夜に行って、ずっとゲームやって。で、朝になるとカギもかけずに帰る。
高尾’s GROOVE_5 高尾の仲間が集う『LIVING DEAD AID』 by 小林大允
昨年、チヨちゃんが高尾山麓への引っ越しを決め(実際に引っ越すのは今年9月)、今年5月にはひと足先にコバくんが西八王子から高尾へ転居。さらに6月にはANSWER4のショップ『LIVING DEAD AID』がオープンし、ユウキくん(黒川)とトモさんも立て続けに引っ越してきた。今年に入ってから、さらにグルーヴが増してきたように思う。
岡本:コミュニティが育ってきてるなと思っていて。自分は2010年から住んでいるけど、その時に比べるとこういうメンツで集まれる場所や機会がかなり増えたから、すごい楽しいよね。特にいまは、コバがここに住みはじめて、さらに店もオープンして。このお店がひとつのコミュニティの発信の場になっているよね。
感情豊かで情熱がほとばしるジャキさんは、もはやひとりですらグルーヴを生み出してしまうほど!?
尾崎:まあ、ニシハチの『コバの部屋』から、高尾の『コバのお店』に変わっただけなんだけど(笑)。
TRAILS crewも、『LIVING DEAD AID』にはすでに2回訪れている。なんだか高尾がより身近になった気がした。
小林:いちいち予定を合わせなくても、ふらっと立ち寄れるようになったよね。それとやっぱり山に徒歩数分で行けるっていうのは大きい。仕事の合間に走りにいったりできるし。行く頻度も増えて、チヨちゃん新道(※)とか、ワンニャン・バーチカル(※)とか新しいルートも開拓したしね。ここで、もっといろんな遊びが展開できるんじゃないかな。
※チヨちゃん新道:チヨちゃんの新居から南高尾に延びる尾根道。
※ワンニャン・バーチカル:犬猫用の墓地が起点の急登ルート。
これがワンニャン・バーチカルの急登。みんなさすがに走れないが、高尾とは思えない見晴らしがある。
いい意味で、いい大人が子どものように遊んでいる。そこには打算もなければ、計画もなく、ビジョンもない。ただ純粋に高尾が好きで、高尾を楽しもうとしている。それが、“グルーヴ” を感じた理由なんじゃないだろうか。
次なる遊びは、高尾から奥秩父へと向かう100マイル。トモさんが走り、それをみんなでサポートするのだという。レースでもなければ、どこかに発表するわけでもなく、ただただ面白そうだからやるだけ。
次回『MOUNTAIN CITY LIFE | 高尾 #03』では、その100マイルのお遊びの詳細をお伝えする予定!乞うご期待。
高尾からスタートする100マイル。いったいどんなルートになるのだろうか。
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