BRAND STORY

#003 OMM / オーエムエム – Product is born in the race.

2014.12.12
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取材・撮影/TRAILS 文/根津貴央

What’s BRAND STORY/優れた製品を開発するメーカーには、それを実現させるだけの「他にはない何か」があるはず。でも普段の僕らは、つい新製品ばかりに注目しがちです。そこでBRAND STORYでは、編集部がリスペクトするあのメーカーの「他にはない何か」を自分たちの目で確認し、紹介したいと思っています。

Why OMM/プロダクトをスタートした後、その販売促進の為にレースを開催するメーカーは少なくない。でも、レースをスタートした後、そこで必要なプロダクトを開発するメーカーはそうそうない。第3回は、イングランドで47年間つづくマウンテンマラソンのレースから生まれたメーカー「OMM」をお届けします。

OMMのプロダクトは、OMMレース、すなわちマウンテンマラソンのために作られている。2014年11月末、このOMMレースが日本初開催されたことは記憶に新しいが、UK(United Kingdom)においては、47年もの歴史と伝統を持っている。OMMを理解する上で、このレースを紐解くことは最も重要なことであり、これなしにOMMを語ることはできない。

いったい、このレースがどんな背景から生まれ、どういったフィロソフィーがあり、そして今日までどんな軌跡を辿ってきたのか。それらを探るべく、OMMのキーパーソンである3名、OMM前レースディレクター ジェン・ロングボトム氏、OMM取締役兼イベントディレクター スチュアート・ハミルトン氏、OMMコースディレクター デイブ・チャップマン氏にインタビューを行なった。

■オリジナルマウンテンマラソンの誕生

まず、有名なアウトドアブランドの名前を、いくつか思い浮かべてほしい。じつは、そこにはある傾向が見てとれる。何か。ブランド名の由来である。有名な山や山域の名称、創業者や動物の名前を用いているケースが、非常に多い。

一方で、OMMはどうか。『オーエムエム』と呼ばれることがほとんどであり、これを正式名称だと思っている人もいるだろう。しかし、正しくは『The Original Mountain Marathon』。明らかに、他のブランドとは異質である。マラソンとついているだけに、競技名にしか見えない。でもそれが事実。本当に競技名なのである。

OMM前レースディレクター ジェン・ロングボトム(以下、ジェン):「そもそもOMMとは、1968年に初開催されたマウンテンマラソンのレースです(当時の大会名は『Karrimor International Mountain Marathon(KIMM)』)。その後、レースに必要なプロダクトもつくり始めるようになりました。KIMMの創始者でありイベントディレクターだった夫(ジェリー・チャン)が1981年に山岳事故で他界したことをきっかけに、私がレースディレクターになり、2013年の大会まで30年以上ずっと担当してきました。昨年から、私の業務を後任のステューに引き継ぎました」。

OMMは、レースから生まれたブランドなのである。

OMM取締役兼イベントディレクター スチュアート・ハミルトン(以下、ステュー):「OMMは、現在のアドベンチャーレースの起源にもなった最も歴史のあるレース。どんなレースかを簡単に言うと、スウェーデン発祥のオリエンテーリングとマウンテンスキルを組み合わせたものです」。

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OMMとは、UK発祥の47年もの歴史を持つマウンテンマラソンのこと。毎年、広大なフィールドで、2日間にわたって開催される。

■クレバーさが活きるレース。走力と体力で劣る親子ペアが優勝

オリエンテーリングとマウンテンスキルを組み合わせる、とは具体的にはどういうことなのだろうか。

ステュー:「オリエンテーリングと圧倒的に違う点は2つあります。ひとつは1泊2日のレースであるため、オーバーナイトキャンプのスキルが問われること。そしてもうひとつは、ルートチョイスという概念。たとえばA地点〜B地点に行くにあたって『これがベストだ!』というルートが明確になってしまうと、みんなそこを選びますよね。それはルートファインディングです。OMMの場合は、コントロールポイント(以下、CP)間の距離をあえて長くとり、かつなるべく分かりやすいところに配置する。その間には、山や沢をはじめさまざまな要素があるわけです。登りが得意で険しい場所を直登する人もいれば、走力に自信があって迂回路を選ぶ人もいる。正解はありません。自分に合わせてルートをチョイスする自由度があるんです」。

とてもユニークなコンセプトである。走力がある人が強いわけでもなく、登りに強い人が有利なわけでもない。つまり、多くの人が対等な立場で楽しむことができるレースなのだ。

ステュー:「去年のレースのあるクラスの優勝ペアは、お父さんとその娘さんの親子でした。足は速くはなかったけど、コース取りの巧みさで他の速い人やタフな人に勝ったんです。まさに、マウンテンマラソンを象徴する出来事だと思います」。

ちなみに、OMMには『ストレート』と『スコア』という2つの種目がある。前者はCPを指定された通りに回り、タイムを競うもの。ルートチョイスに加えて走力と体力が求められる。後者は、制限時間内により多くのCPを通り、獲得点数を競う。CPごとに点数が異なるので、ルートチョイスはもちろん自分たちの力量に合わせた作戦が必要になる。

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OMM取締役兼イベントディレクター スチュアート・ハミルトン。「レースでは、さまざまなスキルが必要になる。でも、経験することでマウンテンスキルを身につけることができるのです」。

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レースは二人一組のペア制。パートナーの力量も考え、どのルートを選択するのがベターなのかを相談しながら決めていく。クレバーさが問われるレースだ。

■誰もがチャレンジできるマウンテンマラソン

ある限られた人向けではなく、広く門戸が開かれたレースだけに、毎年さまざまなバックグラウンドを持つ参加者が一堂に会する。年齢層も幅広く、今年のレースでは16〜74歳までの人が参加した。

誰でもチャレンジできるレース、それが特徴のひとつでもある。とはいえ、それは簡単だからという理由ではない。事実、UKのレースの開催時期は、毎年10月末。あえて天候のすぐれない季節を選んでいる。他の競技では考えられないことである。

OMMコースディレクター デイブ・チャップマン:「1976年にスコットランドで開催されたレースは、ストーム(嵐)がひどくて、あるクラスでは3チームしか完走できなかったんだ。ちょうどその時、BBC(英国放送協会)のクルーが来ていて、選手たちにネガティブな感想を求めた。すると選手たちはこう答えたんだ。『僕たちは、このレースがハードだと分かって出場している。休日のピクニックに来ているわけじゃないんだ』とね。また2008年はウォッシュアウト(大雨で洪水が起こる状態)で、OMM史上初めて1日目終了時点で中止になって。新聞各社はこれを大きく取り上げて、悪いイメージを植え付けようとした。さすがに、もうこのレースも続けられなくなると思ったよ。でも選手たちは『OMMに出るんだったらこういうことも起こりうる。自分たちはそれを了承して参加しているんだ』と言ってくれた。彼らの言葉には、本当に助けられたよ」。

OMMは、ありのままの自然と対峙し、そしてそれがどんなに厳しくとも受け入れて楽しむことに本質がある。まさしくアドベンチャーレースの起源なのだ。

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OMMコースディレクター デイブ・チャップマン。「自分自身と闘うことはもちろん、パートナーとの関係性、厳しい自然、それらのバランスを考えながら乗り越えることに面白さがあるんだ」。

ステュー:「去年のレースでの出来事です。40代の夫婦が出場したのですが、想像以上に難しかったようで1日目でリタイアしてしまって。でも、同年に開催されたアイスランドのレースに再びチャレンジして、見事に2日間走りきったんです。フィニッシュ後、二人は達成感と充実感に溢れ、満面の笑みを浮かべていました。その光景は今でも忘れられません。挑戦して、壁にぶつかって、でもそれを頑張って克服して。これこそがOMMスピリットなんです」。

もちろん、主催者サイドは出場者にあえて危険を与えようとしているわけではない。その逆である。タフな要素を盛り込みつつ、徹底したリスクマネジメントを行なっている。

ステュー:「コース設定も18カ月前から始めてこれでもかというほど何度もチェックしますし、保険やメディカルスタッフ、サポートしてくれる病院の手配、レスキューの用意も万全です。加えて、出場者への教育やギアのチェックも厳しく行なっています。リスクマネジメントを怠ることはありません」。

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10月末のUKは、晴れ間が少なく、雨が多く、気温も低い。つまり、マウンテンマラソンには絶好の季節。出場者は、しっかり準備をしてこの悪天候を楽しんでいる。

■レース運営から芽生えた環境への意識

リスクがあるのは出場者だけではない。屋外でのレースにつきまとうのが、環境への影響である。毎年、2,000人前後が出場するこのレース。どんな対策を講じているのだろうか。

ステュー:「まず、環境保護の観点から、事前にレースによる影響を調べて開催場所によって定員を設けています。コース設定も、自然へのダメージをできる限り少なくするようにCPを配置。また新たな取り組みとしては、4年前からはエコロジスト(生態学者)にも協力してもらい、彼からのOKが出なければ開催できないようにしました。また、アフターケアに関しても、レースが終わってから6カ月後、12カ月後に必ず現地調査を実施。もしシリアスなダメージがあれば、自分たちでリペアし、保護策も考えます。イギリス政府も私たちのポリシーに共感してくれているため、政府と連携して環境保護に取り組んでいます」。

ジェン:「そもそもスコアという種目を設けたのも、環境負荷を減らしたいというのがきっかけです。また、ストレートは5クラス、スコアは3クラスとレベルごとにクラス分けをして、かつそれぞれ異なるルート設定を行なっています。定員も人気のあるクラスでも多くて300人程度に抑えているんです」。

しかも、他の多くのレースが毎年同じ場所で開催しているなか、OMMは1年ごとにレース会場を変えている。それも環境負荷を考えてのこと。たとえ同一箇所で2回目の開催をすることになっても、必ず前回大会から10年以上空けること、というのがルールとして定められているそうだ。それだけ環境に配慮しているのである。

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環境負荷を考えて、レースは定員制。利益のために定員を増やすようなことは絶対にしない。また、多くの人が特定の場所に滞留しないようにコースを工夫している。

■OMMに関わるすべての人で作るレース

ただし、レース会場を毎年変更することは、容易いことではない。

ジェン:「いちばん難しいのは、開催地の交渉だわ。その土地を使用させていただくためには、地主さんや地域との交渉が不可欠です。レースの目的は私たちの利益ではなく、参加者のスキルアップと満足のため。あらゆる面でクオリティの高いものをつくらなければなりません。だから時間と労力は惜しみません。そうやって47年つづけてきたんです。ですから、地域の人にもこの歴史とポリシーをちゃんと伝えて、理解と納得が得られるまでじっくり話し合うようにしています」。

今年のUKにおける開催地は、1987年と同じであった。これは非常に希なことだそうだが、それだけ開催地選びが難航したのだろう。一筋縄ではいかないのである。

ジェン:「たしかに大変なんだけど、逆にステキな出来事もあるのよ。スコットランドで開催した時なんかは、地主さんの提案で2日目の朝に伝統楽器のバグパイプを目覚ましとして演奏してもらったの。長年、さまざまな場所で開催してきて、なかには100%満足とはいかない人もいたけど、ほとんどの人とはレースを通じて親密な関係を築けています。これは本当にかけがえのないことだと思っているわ」。

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OMM前レースディレクター ジェン・ロングボトム。「このレースに参加すると、自分が生きて行く上で本当に必要なものは何なのか、ということに気づくはずよ」。

この『コミュニティ』との良好な関係は、OMMが大事にしていることでもある。それは地域の人に限らず、OMMに携わるすべての人とのコミュニティである。キャンプサイトを一カ所にしている理由のひとつも、そうである。出場者同士の情報交換の場であるだけではなく、OMMのスタッフも必ずサイトに足を運んで多くの人とコミュニケーションをとっているのだ。

また、日本初開催となったOMM JAPAN(2014年11月29日〜30日)も、UKのOMMと日本の代理店が親密な関係を築けたからこそ、実現できたのである。

ステュー:「レースを無闇に世界展開するつもりはありません。自分たちが誇りを持ち、そして信じているOMMに対して、同じ想いを持っている人が日本にいたから開催に至ったのです。同じパッションやスピリットを持った仲間と仕事ができることはとても光栄ですし、本当に楽しい時間です。他国での開催は、そういう仲間との出会いが前提になります」。

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OMM JAPANの開催にあたって、来日したステュー。日本初のマウンテンマラソンはどうだったのか。1日目を終えた出場者たちに、感想を求めた。

■Product is born in the race.

コミュニティを大切にするスタンスは、製品開発においても変わることはない。首尾一貫して、人との関わりを重要視している。揺らぐことはない。

ステュー:「素材や機能はもちろん重要ですが、いちばん大事なのは人です。そのコミュニティに属する同じパッションを持った人。そういう人が集まれば、いいアイデアが生まれ、いいモノを作ることができるのです」。

では、そういう人たちが生み出すOMMのプロダクトには、どんな特徴があるのだろうか。

ステュー:「レースの出場者には、ファスト(速く走れて)、タフ(体力と精神力があって)、クレバー(考える力がある)であることが求められます。OMMの製品はレースのために作られているもの。当然プロダクトには、それらのファクターを支える機能が必要です。ですから出場者の生の声を聞くことにこだわっています」。

たしかに、UKでも日本でも、レース会場では彼らが出場者とコミュニケーションをとる姿が印象的だった。

ステュー:「OMMの関係者は、全員レース会場に足を運びます。そして、ひたすら出場者と話し込んでいます。『Product is born in the race.』 OMMにとってレースこそがすべてなのです。47年もの間、途絶えることなくつづけてきたからこそ、ずっと生の声を聞いてきたからこそ、いい製品が生まれるのです」。

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出場者の生の声を大切にし、それを製品に活かす。そしてまた試してもらう。このグッドサイクルによって、プロダクトが進化していくのである。

■47年間つづくOMMの原動力

ステュー:「私たちには47年の歴史と伝統があります。世の中がどんどん変わっていくなかで、これからもOMMがOMMでありつづけるために欠かせないのは、その歴史と伝統です。過去を捨ててしまったら、もはやそれはOMMではなくなってしまいます。私自身、現在の職務を、30年以上も担ってきた前任のジェンから引き継ぎました。その際、2年間、彼女に付きっきりで業務や考え方、そしてOMMのすべてを学びました。私も、彼女と同じようにいずれは次の世代にバトンタッチしたいと考えています」。

伝統を引き継ぐこと。これは、なにもOMMのスタッフに限ったことではない。レースの出場者にも当てはまることである。

ステュー:「OMMの出場者は、とてもリピーターが多いんです。すでに42回出場している人もいるほど。また、UKのOMMではリピーターのコミュニティをつくっていて、20回完走した人が入れる20年クラブ、30回完走した人が入れる30年クラブが存在します。そろそろ40年クラブもつくる予定です。そこに集まる人にとっては、それがその人自身の伝統になっている。OMMというのは単なるレースではなくて、みんなで作りあげてきたコミュニティなのです」。

これこそが、OMMが47年間も続いてきた最大の理由である。OMMは、運営側や出場者、地域の人、ボランティアといった特定の人のものではなく、みんなのものなのだ。

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ゴール地点で出場者を出迎えるステュー。レースの感想や製品に関する意見を求めるだけではなく、必ず応援し、祝福するのはいつものことだ。

presented by OMM
directed by TRAILS

cast
Dave Chapman
Mike Persons
Kei Kuwabara
Takashi Chiyoda
Hideyuki Komine
Jeff Jensen
..and many OMM competitors!

shot in
Northumberland National Park,UK

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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