TRAILS REPORT

MOUNTAIN CITY LIFE | 高尾 #04 高尾 to 笠取山100mile 〜Thunder In The East〜(実走録・後編)

2018.10.19
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取材・文・写真:根津貴央 構成:TRAILS

<Whtat’s MOUNTAIN CITY LIFE?>
「山と街をシームレスにつなぐ」。アウトドアウェアのコピーにそんな謳い文句がよくあるけど、実際のライフスタイルとして実現するのは、なかなか難しくない? 一般的には、山麓に住んでたまに都会に行く、あるいは都会に住んでたまに山に行く、というのがほとんどだ。でも、山も街も同じくらいの比重で味わうライフスタイルがあってもいいんじゃないか。そこで私たちTRAILSは、全国各地にあるMOUNTAIN LIFEでもCITY LIFEでもない、『MOUTAIN CITY LIFE』を探し、そこに足を運び、住まう人々から話を聞き、その実像に迫るシリーズをスタートさせることにしました。

* * *

前編の『トモが見た高尾 to 笠取山100mile』につづいて、今回は後編『サポートクルーが見た高尾 to 笠取山100mile』。

下手な前置きはいらないと思うので、さっそくどうぞ!

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左から、小林大允(コバくん)、田中裕康(JR田中さん)、尾崎光輝(ジャキさん)、岡本明(明さん)。


序盤から少し遅れはじめる。「なげぇ夜になるぞ!」


トモさんから想定タイムは共有されていたものの、サポートクルーもどのくらいのタイムでトモさんが走れるのかは皆目見当もつかなかった。トモさんの実力は誰よりも理解しているが、台風による影響が読めなかったのだ。さらに、サポートポイントの丸山山頂(水の補給のみ)へのルートは分かりづらく、思った以上に難航した。

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高尾のトモズヘッド(南高尾の登山口)〜笠取山のピストン。片道50マイルの予定だったが、実際は55マイル。トータル約110マイル(約180キロ)、累積標高1万超。

尾崎光輝(以下、尾崎):陣馬山の先の和田峠ですでに少し遅れはじめていて。走り慣れた南高尾で遅れているのは、ちょっとざわついたよね。
小林大允(以下、小林):こりゃ、なげぇ夜になるぞ!と。
尾崎:オレのミッションのひとつは、丸山のトレイルヘッドでいかにJR田中(※)を山頂へと送り出すか。丸山へのルートはほとんど歩かれていないトレイルだし、そこに歩いたことのないJRを行かせることには不安があった。途中まで一緒に行ったけど、道がわからなくて尾根を直登するしかなかった。
田中裕康(以下、JR田中):八重山トレイルレースのコースらしいんだよね。看板は出てるんだけど、道がぜんぜんわからない。

※JR田中(ジェイアールたなか):本名、田中裕康。今年、信越五岳トレイルランニングレースの100マイル部門で総合2位になったトレイルランナー。トモさんとも親しく、2014年から一緒に練習をする間柄。つねに自分の設定したタイム通りにペースを刻むこと(定刻どおり)から、JR田中と呼ばれている。

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今回、トモさんからペーサーをお願いされたJR田中さん。丸山山頂に至るまでのストーリーについては苦笑い。

岡本明(以下、岡本):あとで地図を見たら手前に別の道があって、そっちから入るみたい。
JR田中:ジャキさんと別れて一人になってから、動物の唸り声がしてすげぇビビりました。たぶんクマですよ。丸山の山頂に着いたら、ハセツネ(※)のランナーがひとり通って、その次に来たのがトモさん。到着して10分後くらいでした。
小林:ジャキさんが戻ってきた時に、「ドッキングが成功した!」って、宇宙ステーション並みにえらい盛り上がっていた(笑)。

※日本山岳耐久レース(ハセツネ): 日本を代表する歴史ある山岳レース。奥多摩を走るレースで総距離は71km。ハセツネとは、登山家の長谷川恒男に由来する。今年は10月7日・8日で開催されていた。


トレイルランではなく、サバイバルラン。


サポートポイントでもある柳沢峠では、本人も疲労感があったと言っていたが、それはサポートクルーも感じていた。そして、このコースの過酷さを知ることになる。

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約40マイル地点、柳沢峠の駐車場に歩いて入ってきたトモさん。

小林:これまでトモさんの100マイルを10回くらいサポートしつづけてきたけど、めずらしく楽勝モードじゃないなと。
尾崎:トレイルランニングレースっていうのは、コースが整備されて、誘導があって、エイドもあって、とにかく安全が確保されている。でも今回トモがやっているのはそうじゃない。ある意味、サバイバルというか。サバイバルランだよね。それを柳沢峠で会った時も感じた。でもトモがすごいのは、自分の計画通り、決まった時間しか休まなかったし、時間が来たら「行くわ!」って出て行った。
JR田中:それをやらなかったら時間どおりには帰れなかったと思う。

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サポートクルーはサポートカーで先回りして、トモさんを待ち受ける。トモさんが必要なものをすべて用意して、また送り出す。


信越五岳トレイルランニングレースで2位になったトップランナーも、心が折れる。


往路のゴール地点である笠取山を折り返したトモさんは、山頂直下の笠取小屋でスタンバイしていたペーサーのJR田中さんと合流。そこから復路の二人旅がはじまった。トモさんの言動からタフなコースであることはわかっていたJR田中さんだったが、雨が降りはじめ、霧が出てきたこともあり、想像以上のダメージを受けることになる。

JR田中:大菩薩嶺からの下りがガスでほとんど見えなくてぜんぜん走れない。しかも大菩薩峠を過ぎると今度は、往路でトモさんも経験したクマザサ地獄を味わうことになって。だからトモさんスゲェなと。僕はやめる理由を探してて、松姫峠で次の鶴峠で休ませてくださいと言うか、今ここでやめると言うか、迷っていた。サバイバル過ぎて、心がだいぶ折れていて……。

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復路の松姫峠で、ルートを確認するトモさんとJR田中さん。天気予報はくもりだったが、雨が降り、霧もかかっていた。

尾崎:すごくない? 信越2位の男が、ペーサーで心が折れてDNF(DO NOT FINISH)しようとしてるって。
JR田中:でも松姫峠で冷静になろうと自分に言い聞かせて、ソックスを交換したら、行ける!と思えたのでそのままつづけました。それでちょっと自分の引き出しが増えたかなと。まあ、自分は雨に弱いんだなと。
小林:田中さん、マジで雨によえーって思いましたからね(笑)。

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実は、離脱することすら考えていたJR田中さん。でも、松姫峠で着替えることで復活!


ただ強いだけじゃない。サポートしたい!とみんなに思わせる人望がある。


日曜日の18時にスタートし、二夜を明かして、火曜日の7時過ぎにゴールしたトモさん。そして、それをサポートしつづけたサポートクルー。走る人にとっても、サポートする人にとっても、過酷な37時間超になったのは間違いない。でも、なぜかみんな笑顔で幸せそう。

尾崎:この100マイルって走ったからって富や名声を得られるわけじゃない。そもそもレースじゃないし、知ってる人も仲間内くらい。ある意味、こんな無駄なことをここまで本気にやるってことに心が震えちゃって。レースなら頑張れるけど、この男は何をモチベーションにここまでやるのかと。トモがゴールして涙した時に、オレも涙が止まらなかった。

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今回の100マイルがあまりにもドラマチックな展開だったため、サポートクルーも話が尽きない。

JR田中:復路だけしか走ってない僕もキツかったので、さすがに今回はトモさんやべぇかもと少しだけ思ったけど、まあでもやめないんだろうなって。
小林:柳沢峠で田中さんの後から少し遅れてトモさんが来た時は、ちょっとやばいな、きてるなとは思ったな。でも無事ゴールした。あとで、トモさんの奥さんが「嬉し泣きしてるの初めて見た」って言ってた。

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トモさんが無事に帰って来ることを心待ちにしていた家族。まさかトモさんが泣くとは思っていなかったようだ。

尾崎:世の中にトモくらい走れる人はいるけど、そいつをサポートしようと思って集まる人がどれだけいるかと。強いだけじゃ無理で、支えたい、参加したい、その夢に乗りたいっていう人がいないと成立しないチャレンジなんだよね。人望がないとできないことで、そこがトモのすごいところだと思う。

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笠取小屋から笠取山へと向かうトモさん。高尾発100マイルの第1回は終わったが、これはスタートラインに過ぎない。彼と仲間の新しい遊びは、まだまだつづく。

『高尾 to 笠取山100mile』、これにて完結。

今回、高尾の面々が思いついたこの新しい遊びを、準備編からずっと追いつづけてきたわけですが、いかがだったでしょうか?

高尾発の100マイル(Thunder In The East)は、まだまだ始まったばかりです。いったい、これからどんな展開を見せるのか。今後も、TRAILSは彼らの動向に注目していきたいと思います。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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