The First Rays of The New Rising Sun / 証言構成〈TRAILS in 妙高2013〉
■空中分解の危機
ステルス(ULにおいて痕跡を残さず野営をすることを指す『ステルス・キャンピング』から来た言葉)で、あくまで遊びの延長線上で行われた〈ONE SKY〉から、一泊二日のキャンプイベントである〈TRAILS in 妙高〉へとイベントの質が変わってゆくなかで、関係者の中でも様々な意見の相違があったという。イベントを有料でやるのか、無料でやるのかなどでも、意見はなかなかまとまらなかった(結局入場料は徴収せず各アクティビティの参加費のみになった)。
斉藤徹(パーゴワークス)
「すったもんだはありましたよね。自分も最初は〈ONE SKY〉のイメージがあったんで、場所も妙高になり、一泊二日のキャンプイベントになり、『どうなるのかな』という不安は、すごくありました。そこでジョーさんが『今回は降りる』って言われて。僕も『ジョーさんがやめるならやめようかな』という気持ちも、正直ありました。いちばん危惧したのはイベントが大きくなればなるほど、コンセプトがピュアじゃなくなってきちゃうじゃないですか。そうするとそこに賛同できない人たちも出てくるわけで、それこそ空中分解してしまう。せっかくみんなで『やったろうで!』でスタートしたのに、イベントを無理に進めることで溝が深まっちゃうことが怖かったですね。」
北野拓也(スカイハイマウンテンワークス)
「まあ、いろんな部分で勉強になったよね。もともとステルスでやった〈ONE SKY〉で始まったイベントが、どこを境に規模が大きくなって、どこを境に難しくなるのかっていうさ。やっぱりステルスかオフィシャルかの境だよね。今までだったら『面白そうだからやろうよ!』でできたことが、ステルスの域を越えてくると難しくなってくる。」
千代田高史(ノマディクス)
「僕も当時『これはやめた方がいいんじゃないか』と思っていました。中途半端なものを出すなら仕切り直したほうがいいって。そこで抜けたジョーさんもカッコいいと思ったし。でも、それがもう一回『やろう!』ってなったのは、やっぱり土屋さんのおかげだと思います。土屋さんは自分がお店をやっていること以上に、後輩がどうやって育っていくのかとか、シーンがどう広がって行くのかとか、小さい目線じゃなくて、業界全体を見渡した大きな目線でやっている人なんですね。今このイベントをやらなかったらまた3~4年はずるずると時間が経つんだろうなということをおそらく土屋さんは感じていたはずだし、僕らも感じていた。そこで土屋さんが『いったんその日にちでやるって決めたんだったら、今からできる限りのことをしようよ』って言ってくれて、そこでみんなもう一度鼓舞したという感じです。」
佐井聡(TRAILS)
「当時、ハイカーズデポに朝から晩までいてみんなと電話していた日もありましたね。タクさんの所に福地さんと行って、どういう方向性ならできるのかを話し合ったり。その時点で福地さんとタクさん、吉富さんしか現地を見たことがなかったので、福地さんと妙高まで飛んで写真を撮ってみんなに見せたりもしました。」
斉藤徹(パーゴワークス)
「あの時、『どうするの?』ってのが突きつけられたわけで。それはタクさんが個人で仕切っていた〈ONE SKY〉ではなかったことですよね。でも、このシーンがもう一歩先に行くためには、必要なことだったと思います。イベントとしてお金取ってやるとなると、友達ノリで、来る人にも『楽しんだもの勝ちですよ。覚悟して来て下さいね!』とか、そういうノリではいけないじゃないですか。もう一度みんなでまとまってイベントとして実現するには、佐井さんが動いてくれなかったら成し得なかったことなんで、彼は大変だったと思いますけど。」
■ダッセーもんをやったら未来はない
千代田高史(ノマディクス)
「佐井さんはそのときTRAILSをこれから立ち上げていこうとしている時期で、『メディアとして面白そうだからそこに参加しよう』って感じだったんですけど、土屋さんが『じゃあイベントの名前も〈TRAILS〉にして、佐井さんに花を持たせる感じでやっていけばいいんじゃないですか』って言ってくれて。結局どこかのメーカーやお店が主催者になっちゃったら〈TRAILS〉じゃないってみんなわかっていたんですね。みんなそれぞれメーカーやお店をやっている立場もあるので。なので純粋な主催者という立場に立てる人間が、佐井さんしかいなかった。『だったらもう名前も〈ONE SKY〉じゃなく〈TRAILS〉にしちゃおうよ』ってことで、一発決定でしたね。その頃、佐井さんと『スカイハイとハイカーズデポが一緒にやろうって時に、ダッセーもんをやったら未来はないよね』って話をよくしていました。」
土屋智哉(ハイカーズ・デポ)
「〈TRAILS〉はウチのイベントでもスカイハイのイベントでもなくてみんなのイベントだったから、だからこそ誰か事務局的な役割をする人がいないと駄目だと思っていた。だから良く言えば適任者を選んだ、悪く言えば面倒を押し付けたんだけど、佐井さんがやるのが一番いいと思ったんだよね。メディアの立場の人がそれをやる方が、先々全国各地の個人店だったり、インディペンデントでメーカーをやっている人たちも入ってきやすくなるし。」
佐井聡(TRAILS)
「消去法で考えれば、このイベントに中立的な立場で関われるのが自分しかいなかったんです。ウチは今回集まったみんなを取り上げていくことでメディアを作っていこうとしているから、ちょうど良かったんですね。そしたら福地さんが『それ佐井さんメリットある?』って言ってくれて。『佐井さんにギャラ払わなきゃだめだよ』って。でも『みんなで作っていく』っていうのがイベントの最初のコンセプトだったから、誰かがギャラを貰ったらそういうグルーヴ感が出ないと思ったんですね。それなら『どうせ来年(今年)から自分たちでイベントをやっていくつもりだから、イベント名を〈TRAILS〉にしてくれたら名前も知ってもらえるし、ウチとしてもこれを一発目の仕事として取り組んで行けます』って話をして。」
夏目彰(山と道)
「僕たちは当初からミーティングにもあまり参加できていなくて、9月頭から下旬までジョン・ミューア・トレイル(JMT。アメリカのロングトレイル)をスルーハイクしていたこともあり、そんなことが起きているって全然知らなかったんですね。JMTから下山してメールを見て『何か大変なことになっている!』という(笑)。でも、通過儀礼みたいなものだったんじゃないかな。始めからみんな好きでやっていることでもあるし。シーンの中心人物として土屋さんタクさんという人がいて、彼らやこのカルチャーに憧れて会社をやめて自分で何かを立ち上げている僕とか千代ちゃんとか佐井さんとかがいて、喧々諤々になっても先頭に立っている二人がリーダーとしていてくれたらその形が崩れることはないだろうし、『結局は形になっていくんだろうな』とは思っていましたけど。」
■おまえ山行ってる?
こうして〈ONE SKY〉第二回として構想されたイベントが、遂に〈TRAILS in 妙高〉として開催されることになった。だがこの時点ですでに開催日までは一月半ほど。数百人規模を予定するキャンプイベントを実行するにあたっては、あまりにも時間的・人的余裕が足りていなかった。
また新たな参加者も増えた。トレイルランナーに人気の極厚底のランニングシューズ・ホカオネオネをディストリビュートするサンウエストと、まだ立ち上がったばかりのガレージメーカーであるハリヤマプロダクションズやOGAWANDである。アークテリクスなどもディストリビュートする(2014年3月まで)サンウエストと駆け出しのガレージメーカーが一緒に並ぶことは〈TRAILS in 妙高〉のイベントとしての性格を象徴する出来事だろう。
田中健介(サンウエスト)
「最初はアークテリクスで北野さんに挨拶に行ったんです。その時、いきなり『サンウエストちゃんと遊んでる?』って言われて(笑)。ウチの社員もみんな子供ができたりして時間が取られ、そこそこ遊んではいるんですがハードコアとは言えない。それが北野さんには不満みたいで。『ウエアとしての良さは説明できても、なんでここがこうゆう縫い方されているかって、やっていない人にはわからないでしょ?』と。」
北野拓也(スカイハイ・マウンテンワークス)
「いくら大きなメーカーであってもやっぱり人対人で、『こいつおもろいな』っていう人じゃないと付合えないですよね。だから熱い奴としかやりたくない。『おまえ山行ってる?』っていう、そこかな(笑)。」
佐井聡(TRAILS)
「僕も始めはサンウエストさんはカラーが違うんじゃないかと思っていたんですけど、田中さんにお会いして、『あ、この人は山が本当に好きなんだな』っていうのを感じて、ちょっとイメージが変わりました。」
田中健介(サンウエスト)
「今回は北野さんと福地さん、同時一緒くらいにお誘いいただきました。いままではアークテリクスのブランドイメージと違うところもあり、イベントにはあまり参加してこなかったんですよ。でも今回ホカオネオネというシューズの取り扱いを始めて、これは(アークテリクスのように)かっこいいから買うものではないと。お客さんと時間を共有して、一緒に走らないとその良さがわかってもらえないものなんで、〈TRAILS in 妙高〉に参加を決めました。でも結構ドキドキでしたね。『お客さんと接するのどうしよう』とか(笑)。」
三浦卓也(ハリヤマプロダクションズ)
「最初は佐井さんが声かけてくれました。僕らみたいに細々とやっている人間にも声かけてくれるっていうのはすごく嬉しく思いました。」
小川隆行(OGAWAND)
「最初は千代ちゃんからかな? 『今度〈TRAILS〉っていうイベントをやるよ』っていう話を聞いて、フェイスブックに上がっていた最初の告知ページを覗いたら、ハリヤマプロダクションズの名前が出てたんです。『あ、(まだメーカーを立ち上げたばかりの)そういう人も参加できるのか』と思って、自分から直接佐井さんにメールしました。でもメールはしたんですけど、『ちょっと待てよ』って思って。まだ名前が売れなさ過ぎているから、イベントの格を落としかねないと思って(笑)、ふたたび『やっぱやめます』ってメールしたら佐井さんから電話かかってきて、『いやいや是非参加してください』って言ってもらえて。」
佐井聡(TRAILS)
「大きいとか小さいとか関係なく、本当に面白いものを素直に届けるっていうのが今回のコンセプトだったんですね。だから小川さんや三浦さんにもぜひ参加して欲しかった。でもイベントの告知を一ヶ月前にはしようと話していたんですが、例のすったもんだで(笑)、一週延びて開催三週間前になってしまったんです。本来なら告知サイトをデザイナーさんに依頼して作ってもらうんでしょうけれど、当然そんなことをする時間的余裕もなく(笑)、結局グーグルのフリーで使用できるサービスを使って自分で作りました。イベント応募者ともあの時期何百通というメールのやり取りをしなければならなくて、本当に気が狂いそうになりましたね。最後の一週間は夫婦で事務所に泊まり込んで、パックラフトをひっくり返した上で寝てました(笑)。」
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