The First Rays of The New Rising Sun / 証言構成〈TRAILS in 妙高2013〉
■お客さんに助けられた
〈TRAILS in 妙高〉の特異なポイントとして、「主催者/協賛者の垣根なく、参加する全員がスタッフである」というスタンスがあった。なので、会場の設営や受付、お客さんの誘導などの雑務は参加メーカーやショップにはそれぞれ仕事が割り当てられた。ともあれ、それぞれ本業を抱える小さなショップやメーカーでもあり、前日準備のため会場入りできたのもや土屋氏を始めTRAILSの佐井夫妻やロータスの福地夫妻、山と道の夏目夫妻など10名程だった。
斉藤徹(パーゴワークス)
「自分はちょくちょくキャンプイベントには出店していたので、『キャンプイベントってこんなもの』っていうイメージはあったんですけど、それがみんなと共有できていなかったですね。聞いてたらどんどん不安な要素が出てきてしまって、みんな雨のこととかぜんぜん頭になかった(笑)。『会場に屋根がない』って聞いたから、直前に大きなタープを借りにいったり。会場作りに関しても、真ん中に輪ができるようにしないと会場の一体感で出ないし。今回いろいろ反省点もあったけどね。ブースがバラバラな場所にあったり。気持ちとしては乗りかかった船なんで、運命共同体として自分ができることは全部やろうと思っていました。」
佐井聡(TRAILS)
「当日は一番全体を知っている自分が常に本部にいる状況を作りたかったんですけど、それを許さない状況がいっぱいあって。事前のミーティングをしっかりできれば良かったんですけれど、時間がなくてスタッフの連携がうまくいかなかった。僕当日ずっと短パン履いてたでしょ? 長ズボンに履き替える暇が無かったんですよ。結果的には会場をずっと走り回っていました。そんな状況なのに自分の車が溝にはまりパンク(笑)。なのにその場にいれなくて、JAFとの対応を人に頼んで本部に走ったりだとか。そんなことばっかりでしたよ。」
千代田高史(ノマディクス)
「『お客さんに助けられたイベント』というのが第一ですね。個々のコンテンツは充実していたし、参加したら面白かったと思うけれど、普通のイベントみたいに誘導がきちんとあったわけじゃないんで。点と点はすごく魅力的だったけど、それを繋ぐ線が皆無に等しいくらい準備ができていなかった。みんな笑顔だったし、個人的にはすごくいいイベントだったとは思いますけど。」
斉藤徹(パーゴワークス)
「二日目が雨だったんで魅力としては半減しちゃったんですけど、あの会場の場所の良さは印象が強いですね。それにみんな遠くからあれめがけて来てたわけじゃないですか。そういう意味であの会場に集まった人の濃さ、コアな感じも印象に残っています。あんな雨の中レースに参加したりだとか、雨で普通は早く帰りたいだろうに最後までたくさん人が残っていたりだとか。まあ、あそこに何の印象もなくただフラッときた人なら、『なんだこれ最低なイベントだぜ』って思ったかもしれないけどね(笑)。」
佐井聡(TRAILS)
「場所に関しては、実はお客さんの反応は良かったんです。お客さんとスタッフとの間の距離が近いのも楽しかったっていう声も多かったですね。あと、『ユルくて良かった』って声も多かった。あれダメ、これダメってあまり言われないって。きっちりしてないかわりに、大概のことはOKしてくれるみたいな(笑)。」
土屋智哉(ハイカーズ・デポ)
「正直、イベントとしては至れり尽くせりなイベントじゃなかったと思います。たとえば食べ物の物販があるわけじゃないし、タイムスケジュールがわかるわけでもない。すごくアナーキーなイベントだったとは思う。普通のイベント運営の視点で見たら、大失敗って言われるかもしれない。でも、『あなたたちがいま興味を持っているシーンてのはこういうものなんですよ。そのシーンを作っているのはあなたたちなんですよ』っていうのは、感じてもらえたんじゃないかな。ウチらはちょっと旗降っているだけで、シーンを支えているのは参加者だから。今回は明らかに準備不足だったし、それをお客さんの優しさでカバーしていただけたイベントだったから、反省は絶対すべきなんだけど。でも『通常のイベントだったらこういうこと当然やるべきだよね』っていうのもわかった上で、それをあえてやらない選択肢だってあると思う。大手の出版社さんだったりとかがやる夏の大型キャンプイベントとは違う、ウチららしい差別化はしていくべきだよね。そうじゃなければ存在意義ないから。」
■シーンを作っているのはあなたなんだ
北野拓也(スカイハイマウンテンワークス)
「関西からすごい遠かったから、『遠い所をわざわざ来てくれて、価値あるんかな?』っていうのが不安で。ただフタを空けるとレース(ミニマリスト・ミニマウンテンレース)もあり、ツッチーのを始めコンテンツがやっぱりコアな人たちが集まってたから、内容が濃かったと思う。だからみんな満足してくれたようにも思うし、お客さんからも行ってよかったという声が多かったんじゃないのかな。あと大きなイベントに比べてやっているウチらとお客さんの距離も近かったし、それも良かったな。キーワードはやっぱりマウンテンが好きな人がウチらのイベントなんだっていうね。商売としてアウトドア業界で働いている人っているじゃない? そういう人と決定的に違うのは、あまり儲かる商売じゃないけど、好きだからやっているんですっていう。TRAILSだって最初は儲からないけどやるわけでしょ? だからやっぱ好きかどうかだよね。そういう人の集まりが〈TRAILS〉なんだと思う。個人的には日本の田舎を見いだして、東京一極集中じゃなく、もっと分散化させたいよね。波乗りのような感覚で仕事前に毎日のように山に入ったりすることが、どれだけ素晴らしいかってことをもっと考えてほしい。今日久しぶりに満員電車乗ってつくづく思った(笑)。」
斉藤徹(パーゴワークス)
「やっぱり日本発信のブランドがこれだけ集まったことはなかなかないと思うんですよ。『もっとガレージメーカーたくさん出したらいいんじゃないの?』って思ってたからオガワン(小川隆行氏)にも声かけたりだとか、ハリプロさん(三浦卓也氏)にも来てもらったりしたんで。そういう人たちがもっと中心になるといいなって思います。今後はもっともっとガレージの人が出て、もっとぶっ飛んだものとか魂の籠ったものをユーザーさんにぶつける場所になって欲しい。すごい初期の伝説と語られるようなロックフェスみたいなノリで見てもらえたらありがたいね。『最初の〈TRAILS〉はみんなガレージでさ、あの頃はブースもお粗末だったけど、でも熱かったよね』みたいな。そんな風に美しい話になってたら嬉しいですね。そうしたら今回来た人も酬われるから(笑)。もちろん、それはこれから先にかかっているんですけど。」
ミニマリスト・ミニマウンテンレースに参加したベアフット・テッド
土屋智哉(ハイカーズ・デポ)
「一時期は言い合いになったこともあったし、一色触発になったこともあった。でも、それがあって『友達のなあなあでやっちゃいけないんだ』ってことがわかったから、今後も続けていく上では良かったんだと思う。みんな仲間であり、ライバルでもあるから。当初はウチとタクちゃんとこでイベントやろうよって話だったけど、それが広がり、揉まれ、転がるなかで、俺はいい形になったと思います。あと、妙高の地元の協力が取れたっていうのが大きかったよね。アパホテルって言っても、働いている人たちは地元の人だから。アパホテルの本社がどうこうってよりも、〈パインバレー〉で働いている地元の人たちが『面白いからやろうよ』と言ってくれて、協力関係ができたことがすごく大きかった。それは自分たちが見つけようとして、ずっと見つけきれなかったものだから。いまのシーンの現状を言えば、広場に花がひとつふたつぽつんと咲いていたのが、やっとそこに花がぽつぽつぽつと咲いてきたくらいだと思う。そこが単なる広場じゃなく、『もしかしてここはお花畑なのかな?』って、ようやく見えてきたというか。問題は続ける事だよね。『オワコン』にならないようにさ。そういう努力を地道に続けていれば、今回参加してくれたお客さんの中から当時者意識がある人が次のアクションを起こしてくれるかもしれないし。自分も含めていまインディペンデントでやっている人間は、当事者として意識してお店を始めた。いまインディペンデントでメーカーをやっている人たちだって、ハイキングをするだけ、モノを買うだけじゃなくて、当事者としてこのシーンに参加したいと思ってブランドを立ち上げたと思うのね。彼らのようにブランドを立ち上げたりお店を始めたりするわけじゃなくても、当事者としてそこに参加していける人をどれだけ増やせるか。それがすごく重要だと思っている。」
夏目彰(山と道)
「〈TRAILS in 妙高〉で、ようやくシーンが新しく再スタートをした印象を受けました。僕らや千代ちゃんや佐井さんは〈ハイカーズパーティ〉で出会って、その時はみんなまだ会社員だったんですけど、『このカルチャーは面白いよね』って言って会社を辞めて。そうやって自分で何かを立ち上げた人たちがちょっとずづつ形になってきて、いまようやくカルチャーやシーンみたいなものが見え始めたところだと思うんです。けど、そこがどう面白くなっていくかは、当事者意識を持ってもっと前のめりでこのシーンに関わろう、楽しんで行こうって人が増えていくかどうかにかかっていると思うんですよ。〈ハイカーズパーティ〉で僕らと千代ちゃんや佐井さんが出会ったように、トレイルズで出会った人たちが仲間になって、一緒にどんどん山に行ったり、何か面白いことをやっていってくれたらいいなって思っています。」
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