TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #23 多摩川クエスト <中編>御岳 to 羽田のフィナーレ

2019.05.24
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS、Fumi Sakurai、Yuichi Nakazawa

多摩川の上流部から、河口の羽田までを、パックラフトで旅してみたい。これを「多摩川クエスト」と名付け、5日間かけてホームリバーを河口まで旅する計画を立てた。

それは自分たちの遊び道具を使って、日常的な場所を、旅のフィールドに変える試みでもある。この見慣れた景色を、まったくちがう視点から未知のものとして体験する遊びは、NIPPON TRAILなどでも実践しているTRAILSらしい遊びでもあるのだ。

御岳を出発し、約30km下流の立川まで到着したパックラフト・アディクトたち(詳しくは前編)。ここからは、立川から河口の羽田までの約40kmを、3日間かけてたどり着く計画だ。

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多摩川に架かる橋をいくつもくぐりながら、河口の羽田を目指す。

しかしこんなバカげた旅の計画にのってくれる仲間がいるなんて、まったく最高だ。TRAILS編集部crewの小川が、いつものアディクトたちを誘ってはじめたこの旅。スタート地点の御岳からは小川とその妻、そしてバダさんの3人で旅してきたが、今回の後半の途中からは同じ多摩地区に住む中沢くんもジョインしてくれた。

立川から先はいよいよ都心に近づき、アーバンな多摩川が始まる。多摩川クエストはどんな旅になっていったのだろうか。

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[多摩川流域地図] 前編は御岳〜立川(Section 1〜2)までの約30km。そして今回は、立川〜羽田(Section 3〜5)の約40kmをパックラフトで下っていく。



Section 3 立川 − 調布(13km):自分たちの住む町の川を旅する



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セクション・パックラフティングで、御岳から河口までの約70kmのロングツーリングを敢行した。

セクション・パックラフティングの2回目。前回の週末にSection1 & 2の御岳から立川までを漕いだ。今回は3連休の週末なので、ここで一気に立川から羽田(約40km)までを目指す計画を立てた。

このセクションを区切りながら長いトリップをつないでいく方法は、ロング・ディスタンス・ハイキングのセクション・ハイキングという旅の方法からヒントを得たやり方だ。

僕(TRAILS小川)と妻、そしてバダさんは、多摩川モノレールの「柴崎体育館」駅で待ち合わせし、立川エリアから先週の多摩川クエストの続きを始める。

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立川周辺の多摩川中流域の景色。

立川の橋の近くにある、堰(せき)の下から再スタートだ。この日のゴールは、僕の住む調布の町。川を下って、自分の家の近くに辿り着く、っていうのはなかなか調子がいいじゃないか。川から「ただいま!」という感じだ。僕は調布に引っ越してきたからまだ3年だが、今のところ川からあがって帰ってきたことはない。

懸念していたのは水位の低さであった。前回の羽村から立川の手前のセクションでは、パックラフトを漕げるような水深のない箇所も多く、「これはバカな旅を始めてしまったのかもしれない」、という思いがみんなの頭のなかによぎっていた。

しかしそんな不安もよそに、今回の立川から先のセクションの方が川の水量は多く、水深もそれなりにある。前回のようにライニングダウン(※)で舟から降りることもほとんどなく、順調に漕ぎ進める。かなり快調なペースだ。思ったよりも、ところどころに瀬もあらわれる。

(※)ライニングダウン・・・浅瀬など舟に乗ったままでは通れない所で、舟を降りてロープで舟を引きながら浅瀬を歩くこと。

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普段の生活で利用する橋の下をくぐっていく。

さらにしばらく川を下っていくと、京王線の聖蹟桜ヶ丘のあたりに近づく。ここはバダさんが前に住んでいたところの近くの河原。鳥好きであるバダさんは、よく鳥を見るために来ていた、という。

多摩地区での生活歴の浅い僕と比べて、バダさんは小さな頃からずっと多摩地区に住んでいる。だからこそ、昔から見慣れた河原からの景色を、今までとは違う角度から眺める楽しさを、より強く感じていたかもしれない。それにしてもリバートリップをしながら、身近にある日常の景色が、非日常の景色に反転する感覚を味わえるのは、とても愉快だ。

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バダさんが住んでいた聖蹟桜ケ丘を通過していく。

今回の旅の計画を知っていた、パックラフト仲間のタケさんが家族を連れて、チャリで府中のあたりまで来てくれた。僕らにとっては、まさにトレイル・エンジェル!

「家の近くだから大したことないよ」というタケさんは、チャリに積んだ荷物から、ラーメンやトマト、りんごなどを次々と取り出して、僕らにふるまってくれた。こんなことをしてもらえるのも、ホームリバーならではの体験だ。

タケさんの子どもたちは、川から流れてきた変な大人たちを、すいぶん警戒しているようだが、出発するときには笑顔で手を振ってくれた。

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多摩川の近くに住む仲間のタケさんが、トレイル・マジックのもてなしをしてくれた。

稲田堤を過ぎ、だいたい目標の時間通りに、わが町調布に到着。立川を出発して5時間くらいの時間であった。この日は、みんなあまりに家が近いので、全員が一度、家に帰ることにした。こんなときも、畳んでバックパックに詰め込めるパックラフトの機動力は最高だ。

さあ、調布まで来れば、羽田の河口まで30km弱だ。だいぶ近づいてきた。



Section 4 調布 − 新丸子(14km):アーバンな景色を川から眺める



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調布付近の多摩川の様子。遠くには奥多摩山系の山並みも見える。

御岳からの旅も4日目。調布を過ぎれば、左岸側は東京23区内、右岸は川崎市のエリア。僕らの川の旅も、メガロポリス東京の中枢に入っていく。

ここまでバダさんと小川夫妻の3人で旅をしてきたが、この日から仲間が一人加わった。同じ多摩地区に住む中沢くんだ。河口のゴールまであと2日と、おいしいところだけいただく魂胆か、とも思ったが、中沢くんは子どもがまだ小さく、忙しい子育てのなかの休みを調整してくれたのだった。

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子育てで忙しい中、かけつけてくれた中沢くん(写真右)。旅をしながら仲間が増えるの楽しいものだ。

この日も、漕ぐための十分な水量があり、快適なパドリング。幸いにして強い風もなく、舟が押し戻されることもない。スタートしてしばらくして、登戸の堰にぶつかるが、もう堰でのポーテージ(※)も慣れたもの。パックラフトを持ち上げて、岸を歩いて堰を迂回して、ふたたび漕ぎだす。

(※)ポーテージ・・・舟を担ぎ上げて、岸などの陸路を歩いて障害物を越えること。浅瀬など舟に乗ったままでは通れない所で、舟を降りてロープで舟を引きながら、川の中の浅瀬を歩くのはライニングダウン。

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登戸の堰。手前に写る魚道は、春になると鮎が遡上していく姿が見られる。

このあたりまで来ると多摩川の川幅もかなり広くなる。中沢くんが、「多摩川って川から見ると、意外と広くて雄大っすね。」と言い、「確かになぁ」とみんなうなずく。

川のまわりは、次第に都会らしい景色に変わってくる。川の向こうに背の高いビルが並んでいるのが見えてきた。二子玉川のエリアだ。都会的な風景を、涼しげに川から眺める僕らは、ちょっと優越感に浸っている顔をしていたかもしれない。

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二子玉川の高層ビル群の脇を漕いで行く。目の前に見えるのは、田園都市線の駅。

二子玉川を過ぎてしばらくすると、だんだんと流れが弱くなってきた。漕がないとほとんど進まない瀞場(とろば)がくると、だいたい大きな堰が近づいてきたサインだ。

地図を確認したら、もうこの日のゴール地点の新丸子の目の前だった。東急東横線の電車が通る橋のたもとで上陸し、河川敷でパックラフトを畳んで片付ける。河川敷のグラウンドでは、少年たちが野球やサッカーをして遊んでいる。

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東急東横線の新丸子、武蔵小杉の近くの川原に上陸。これで4日目の行程が終了。

ここらへんになると、川原でキャンプすると通報されてしまいそうなので、川の近くの「Tamagawa」と名前の付いたビジネスホテルにみんなで泊まることにした。

なんでわざわざ都心の狭いホテルに泊まって、一つの部屋で大人4人でぎゅうぎゅうになるのか、なんて思ったけれども、昔の合宿のようで、こういうことも良い思い出になるものだ。



Section 5 新丸子 − 羽田(15km):パックラフトから見上げる羽田の飛行機



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ついに最後の1日。新丸子から羽田を目指す。

早朝の川岸で、パックラフトを膨らまして準備をする。目の前の鉄橋に、東海道新幹線が何度も往来するのが見える。今日は羽田空港の向かいの岸に上陸する予定だ。きっと川から、間近で離着陸する飛行機を眺められるだろう。

出発してしばらくすると、右岸に川崎のマンション群が目に入ってきた。左岸にはブルーシートの住居群があり、そのコントラストが実に都会らしい。

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京急線と東海道本線の橋がつらなる下を漕いで行く。

赤い京急線が目の前の橋を過ぎ去っていくのが見えた。京急線を見ると、いよいよ羽田も間近になっきたことを実感する。河口までもう残り10kmを切った。

さすがに下流だけあって、水も淀んできたなぁ、と川の水を眺めていた。よくよく見てみると、川底が日光に反射してきらきらと光っていた。淀みだと思っていたそれは、川底が砂へと変わっていたせいだった。「ここは、もう半分、海じゃん!」と喜ぶメンバーがいる。空にカモメが飛んでいるのも、もう海が近い知らせだ。多摩川の上流から舟を漕ぎ、本当に東京湾の海まで来たのだ。

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羽田空港に着陸する飛行機が見えてきた。

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河川の大型工事の重機と、小さなパックラフトとの対照が愉快だ。

まもなく羽田空港が視界に入り、河口付近の大規模な河川工事などを行なっている様子も目に入ってくる。大きな工事の大きな重機は迫力十分で、人力ベースのパックラフトとの差に笑ってしまう。

とうとう多摩川の河口部へ。バカみたいに5日間も労力を費やして到達した河口部は、御岳からずっと漕ぎ続けた先にある、同じ多摩川だった。

5日間の賞賛すべき無駄な労力は、僕らに特別な達成感を与えてくれた。上流部から河口までをパックラフトで下るなんてマジでできるのか?なんて思っていたけれど、羽田空港と東京湾を目の前にゴールできたときは、僕はたぶん少し感動していたと思う。

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羽田空港はもう目と鼻の先!もう、この先は海!

さんざんいろんなところでパックラフトで遊んできたバダさんも、「久しぶりに達成感を味わった気がする。そして、子どもの頃から遊び慣れ親しんできた多摩川に、さまざまな景色があることを知った。」と旅が終わった後にSNSに投稿していた。

僕が3年前に調布に住み始めたときは、多摩川はまだ自分にとって疎遠な存在だった。それがこの旅をきっかけに、うっかりだいぶ惚れ込んでしまったみたいだ。こんな日常の川でも最高の旅ができるじゃないか、と。

そして海の広がる河口にたどり着いてみて、改めて僕の心に浮かんだのは、「多摩川の最初の一滴」を見たいという欲求だった。それは、今回の旅を始めた御岳よりも、もっと上流の山のなかにある。次回は、その多摩川の源流探訪の旅をお届けしたい。

多摩川クエスト MOVIE

多摩川上流部の御岳から、河口の羽田までの、約70km5日間のリバートリップを記録したMOVIE。


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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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