TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #24 多摩川クエスト <後編>源流部探訪(水干から御岳)

2019.05.29
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文・写真・構成:TRAILS

多摩川上流部の御岳から羽田の河口までを、「多摩川クエスト」としてパックラフティングで旅したパックラフト・アディクトの一行(詳細は前編)。

アディクトたちは、羽田の河口に着いたときに思った。「ここまで来たら、やっぱり源流部からつないで旅してみたい」と。そして早速、多摩川の水源地のある笠取山(かさとりやま)の水干(みずひ)から旅する計画を実行する。この源流部からの残り68kmのセクションをつなげば、多摩川の全138kmの旅ができあがる。

しかし源流部・上流部(アッパー・セクション)をすべて舟で下るのは難しい。そこでハイキングとパックラフティングを組み合わせて、多摩川源流部を旅する計画を立てた。そう、愚直に自分の足と腕で進む旅だ。

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[多摩川流域地図] 今回は水干から御岳までの、源流部から上流部(Upper section)を旅した。

多摩川の源流部から河口までをパックラフトとハイキングで旅する。この多摩川や奥多摩・奥秩父などの見慣れた景色を、まったくちがう視点から未知のものとして体験する遊びは、NIPPON TRAILなどでも実践しているTRAILSらしい遊びでもある。

今回の旅の首謀者であるTRAILS編集部crewの小川は妻の恭子とともに、まずは源流のある奥秩父の笠取山へと向かった。川のパックラフティングのパートは、中下流域の旅をともにしたバダさんと合流する予定だ。

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多摩川源流の水源林となっている奥秩父山系の山々を、笠取山付近の稜線上から眺める。


Section 1 笠取山 − 丹波山村(29km):多摩川、最初の一滴を求めて源流の水干へ


多摩川は、奥秩父の笠取山(標高1953m)の山頂直下の水干が水源地となり、その後に水干沢、本沢と流れている。その後は、多摩川の本流は一之瀬川、丹波川(たばがわ)となり、奥多摩湖を過ぎると名前が多摩川となる。

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笠取山の山頂付近にある多摩川の石標。

この多摩川の源流部・上流部(アッパー・セクション)をすべてパドリングして下るのは難しい。それならばハイキング&パックラフティングの組み合わせで、旅すればよい。パックラフティングで下るのが難しい箇所や、川の情報が十分にない箇所は、ハイキングで進む。そして川を下れそうなところは、パックラフトに乗り込んで漕いで行くいうやり方だ。

今回の源流部から上流部の旅では、水源地の水干から御岳までの68kmを、5つのセクションに区切った。その5つのセクションを、何度かに分けて、旅をつないでいくことにした。このセクションを区切りながら長いトリップをつないでいく方法は、ロング・ディスタンス・ハイキングのセクション・ハイキングという旅の方法からヒントを得たものだ。

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[多摩川源流部〜上流部の地図] 5つのセクジョンを、パックラフティング&ハイキングで旅する計画を立てた。

笠取山のトレイルヘッドに集まった僕ら。まだ時間帯も早く、空気はぴんとはりつめている。そこには多摩川の源流である一之瀬川が、澄みきった色で流れていた。「ああ、この流れが、羽田の東京湾の河口までつながっていくのか」と、頭では知っていた当たり前の事実に心が動く。多摩川クエストの源流探訪の旅は、この笠取山のハイキングからスタートした。

このセクションは、笠取山を登り水干を目指し、その後、将監峠、丹波天平(たばでんでいろ)を通って、丹波川に合流するルートを歩いていく。

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笠取山の山頂直下の「水神社」に滴る水が多摩川へとなっていく。

しかし源流を示す言葉が「水干」というのは妙な印象をおぼえる。川をさかのぼっていって、やがて水が干からびる所という意味だろうか。それは「始まり」よりも、「おわり」を表しているようなニュアンスだ。

水干の直下から、多摩川は一筋の細い流れをつくりはじめていた。この流れがやがて多摩川となって、山あいを抜け、街に出て、さいごは東京湾へと注ぐのだ。

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「水干」の直下で、多摩川は最初の流れをつくりだしていた。

僕らはなるべく多摩川沿いのルートをとるために、笠取山から将監峠で一泊をして、丹波川へと降りていくトレイルを選んだ。源流域であるこの山域には、やがて一之瀬川や丹波川へと流れ込む小さな沢が無数に流れている。山が川を育んでいる、ということを改めて実感する。

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多摩川支流の丹波川へと降りる前に、将監峠にてテント泊。


Section 2 丹波山村 − お祭(7km):丹波川の急流をパックラフティング


笠取山から将監峠を通り、丹波天平から山を降りていくと、丹波川にぶつかる。ここからお祭までの区間は、ハイキングからパックラフティングに切り替えて、ダウンリバーで旅をつないでいく。このセクションはバダさんと一緒に下った。

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丹波川でのパックラフティング。周りは多摩川の水源林となっている奥秩父の山々に囲まれている。

丹波川は、激しいホワイトウォーターの難所も多い川である。危険も多いこの川は、パックラフティングのガイドを行なっている、サニーエモーションのサポートを伴ないながら下っていった。

この山域にはさまざまな川が流れているが、そのなかで丹波川はまぎれもない多摩川の本流である。このあたりの川は、透き通った水に、源流部らしい荒々しい岩礁も多い。

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谷あいのなかを狭い川幅で丹波川は流れていく。

さすがに山間の斜面を流れている源流部の川だけあって、流れが落ち込むドロップが連続し、狭い流れや複雑な蛇行も多く、川を下るのに四苦八苦する。しかしそれにしても、丹波川は、山のなかを駆け下りるように、水が踊っている。そんな丹波川と一体になったような、自分も多摩川の流れの一部になったような、最高に楽しいダウンリバーだった。

丹波川は、お祭、鴨沢など、雲取山など奥多摩の山に登るハイカーにとって、なじみの登山口を通り過ぎ、やがて奥多摩湖へと注ぐ。この丹波川は、奥多摩湖を過ぎると多摩川へと名前が変わる。

僕らは奥多摩湖の手前のお祭でパックラフトを降り、ここから先の奥多摩湖から奥多摩駅(氷川)までを、再びハイキングでつないでいった。

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轟々と流れるホワイトウォターの丹波川を下っていった。


Section 3, 4 お祭 − 白丸湖(22km):奥多摩湖下流のリバー・リサーチ


パックラフトを降りたお祭からは、奥多摩湖畔を小河内(おごうち)ダムまで歩いていった(Section 3)。奥多摩湖はボート禁止だし、巨大なダム湖を直進性の乏しいパックラフトで漕ぐ気にもならない。

味気ない奥多摩湖畔の道を歩いていくと、小河内ダムにたどり着く。小河内ダムの直下にある惣岳(そうがく)渓谷は川のセクション(Section 4)だが、多摩川上流部のなかでも、川下りの情報が少ないセクションだ。そのため今回は、このセクションは、川のリサーチを行なうことにした。こういったリサーチ自体が、あたらしい自分の遊びを見つけるための、楽しいプロセスでもある。

惣岳渓谷沿いには、リバーリサーチにちょうどよい「奥多摩むかしみち」という道が通っている。この道は、小河内ダムから奥多摩駅までの、かつての生活道を再生した道であるらしい。

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奥多摩湖の小河内ダムと奥多摩駅(氷川)の間にある、多摩川上流部の惣岳渓谷の様子。

惣岳渓谷を道から眺めようとしても、谷が深く、川の様子をつかみきれないところも多い。川の様子が見えるところから観察すると、比較的、流れが緩やかなところも多いが、テクニカルな岩場も散見する、という印象。ところどころ小さなドロップもある。

特に惣岳渓谷の核心部と想定されるあたりは、かなり岩が露出していて、流れの狭い箇所も散見される。ダムの放水状態よっても、水位・水量が大きく変わるだろう。

今回の旅をきっかけに充実した下見ができた。プットイン候補地もいくつか確認できた。自分のスキルを上げて、こういった情報が少ない川もチャンレジしてみたい。

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奥多摩駅まで歩いたあとに、再びパックラフトに乗り込み、静謐な白丸湖の湖面をパックラフトで進んでいく。

奥多摩駅のところで、支流の日原川(にっぱらがわ)と多摩川本流がぶつかる出合がある。ここからもう一度パックラフトに乗り込む。そして奥多摩湖から白丸湖までの間を、パックラフトに乗って下っていく。

奥多摩駅を出るとすぐに氷川キャンプ場の脇をとおる。ビール片手にBBQを楽しんでいる人たちから、冷やかしの視線を受ける。こちらはたいして目もくれずに、流れの先に集中して、悠々と川を下っていくだけである。

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白丸湖をぎりぎりまで漕ぎ進み、上陸した先に鳩ノ巣渓谷がある。

いくつかの瀬を越えると、やがて流れをせき止められた白丸湖の瀞場(とろば)。せわしない源流部を漕いできた後だからか、多摩川の流れを旅してきた満足感からか、いつもは退屈な瀞場にも優雅な時間が流れる。


Section 5 白丸湖 − 御岳(10km):鳩ノ巣渓谷を越え、ホームフィールドの御岳に


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白丸湖の堰を過ぎた後は、難関の鳩ノ巣渓谷。

多摩川上流部の難所として知られる、鳩ノ巣渓谷。僕らが訪れた時は、前の週までの大雨によりかなり増水していたこともあり、パックラフティングは断念し、ハイキングで川岸を歩いていくことにした。このセクションは今後の多摩川クエストの宿題だ。

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増水した鳩ノ巣渓谷。これではダウンリバーは難しいと判断。

鳩ノ巣から最後の10kmほどを歩いて、いつものホームフィールドの御岳にたどり着いた。この日はかなり川が増水していたために、パドラーの姿もまばらだった。そんな急流のなかも、巧みに流れをつかみ、舟をあやつるパドラーもいた。さすが東京のパドラーの聖地だ。

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御岳までたどり着くと、川岸に海まであと約70kmという道標を目にした。

これで、多摩川の源流部から上流部の旅は終わった。今回の旅では、惣岳渓谷や鳩ノ巣渓谷をパックラフトで下ることができなかったのが、悔やまれる。しかし最初からできることが約束された旅など、そんなに面白い旅ではないのかもしれない。その意味で、惣岳渓谷や鳩ノ巣は今後のよい宿題となった。水量・水位の環境がよいときを見つけて、改めてチャレンジすることにしよう。

他にも気になっている多摩川支流もたくさんある。これからも、ホームリバー・ハンティングを繰り返し、多摩川クエストを続けていくだろう。

セクション・パックラフティング、セクション・ハイキングという、ロング・ディスタンス・ハイキングから学んだ旅の方法で、源流から河口までを、自分の足と腕で旅をすることができた。全長138km、所要日数11日間のホームリバーの旅は、これで第一幕の終わりを迎えた。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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