TRAILS REPORT

パックラフト・アディクト | #26 東北の川を旅する(閉伊川・小本川)

2019.08.23
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文・構成:TRAILS 写真:TRAILS、Fumi Sakurai、Kenji Habara、Konstantin Gridnevskiy

毎年恒例のアディクトたちのお盆の川旅。今回の旅は、メンバー全員にとって初めてのエリアをパックラフティングしよう!と事前にチャットのやり取りで盛り上がり、東北の川を旅することに決めた。

目指したのは、東北の銘川ともいわれる、岩手の閉伊川(へいがわ)。盛岡の東にある北上高地を源に、三陸の宮古まで流れる川だ。東北の川をいろいろ巡る旅をしたく、さらにもう1本、隣の小本川(おもとがわ)も漕ぐことにした。

できれば最後は三陸海岸にそそぐ河口に出て、海を漕いでみたい!あの宮古の浄土ヶ浜あたりで、シー・パックラフティングもできたらばと、そんなことも企んでいた。

前日入りで、夜に盛岡に集合したアディクトたち。駅前の居酒屋で盛岡冷麺に、カツオやメカブなどの三陸の海の幸に、舌鼓をポンポン鳴らす。川旅の作戦会議もそこそこに、東北の旨いメシですっかり満足してしまった初日の夜。さて初めてのエリアの川旅は順調に進むのだろうか。

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この旅のパックラフト・アディクトたち。左から小川(TRAILS)、ケンジ君、バダさん、Hike Venturesのコンスタンティンとパトリック、ゼニー。


三陸のハイキングトリップで出会った川を再訪。


今年の春、三陸をハイキングトリップしたときのゴールが宮古だった。このときの旅では、ダイナミックな海と崖の景色に、植物や動物を色濃く感じる森の対比がすばらしく、すっかり東北の深い自然に惚れてしまった。

また昔から陸奥の国(むつのくに)と呼ばれるように、遠く奥まった先の土地ではぐくまれてきた、土着の文化や風習があるのを感じた。

そして否応なく意識させられる震災後の人と町の景色は、記憶に強く残っていた。

このハイキングトリップの帰り、宮古から盛岡へ走るJR山田線に揺られていた。缶ビールを飲みながら車窓の景色を眺めていると、電車の線路とずっと並走して流れている川があった。水量もあり、瀬もそこそこありそうだった。これならパックラフトで下れるかもしれない。

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JR山田線と国道106号と並走して流れる閉伊川。

Googleマップで確かめてみると、閉伊川(へいがわ)とあった。この川の名前を、頭の中の「いつか行きたい川候補」に入れておいた。

その後さらに調べてみると、閉伊川はサケやアユが遡上する清流であり、他にもイワナ、ヤマメを目当てに、県外からも多くの釣り師が訪れる川なのだそうだ。

陸奥の国をめぐる川旅の想いは、次第に心のなかで大きくなっていった。そしてタイミングよくアディクトたちとの夏の遠征で、東北の川へ来ることになったのだ。


気持ちよい瀬が連続する閉伊川。最大の難所は三ツ石の瀬。


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夏の太陽に透明な水がまぶしい、透き通った閉伊川の景色。

今回の旅は当初4人の予定だった、ちょうど来日していたHike Venturesのコンスタンティンとパトリックの2人が、急遽僕らの旅にジョインしてくれることになった。

コンスタティンは、TRAILSでもアンバサダーとして、世界中の川をパックラフティングしたレポートを寄稿してくれている仲間だ。海外の仲間と日本の川を漕げるのも嬉しいし、予定外のメンバーが加わったことで旅のグルーブが強まった。

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左がコンスタンティン。彼は今回の来日の旅では、2週間で北海道、岐阜、静岡、岩手、東京と、日本中で遊びまくった。

僕らが選んだ閉伊川のセクションは、JR山田線の腹帯(はらたい)駅よりやや上流にある三ツ石から、茂市(もいち)駅までの約10kmのセクション。

スタートして間もなく、三ツ石の瀬という中流最大の難所といわれる核心部がある。鉄橋の下に大きな岩が連続して現れ、2〜3メートルの落ち込みとなっている。

僕らが漕いだ日は、茂市の観測所での水位が0.02メートルで、渇水の状態。流れの勢いは強くない分、岩がむき出しになっている箇所が多く、複雑な流れになっていた。

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閉伊川の中流最大の難所である三ツ石の瀬。

今回、タンデム艇(二人乗りボート)パックラフトのオリックス (※)を持ってきたバダさんは、広島から来たケンジ君とともに、この狭い急流をそのタンデム艇で挑んだ。瀬の入り口で岩につっかかって一瞬顔色が変わったが、その後は勢いよく流れに乗り、爽快に下っていった。

(※)ALPACKARAFT, Oryx: アルパカラフトのタンデム艇シリーズのなかの、主に静水やフラットウォーター向けのモデル(パックラフト・カヌー)。TRAILS編集部では、タンデム艇の最軽量モデルの ALPACKARAFT, Explorer42を所有。今度、タンデム艇の比較レビューなどを企画してみたい。

この三ツ石の後は大きなドロップはないが、気持ちのよい瀬が続き、飽きさせない。岩を避けるように、テクニカルにうまくパドリングして下っていくドライブ感がある。おおむね川のレベルは、PR2〜PR3(※)くらいのグレードだ。臨場感あるダウンリバーの様子は、ぜひ記事の最後にあるMOVIEも合わせて見てほしい。

(※)PR: パックラフト独自の川のレベルを表すのが、PR(PackRafting)のグレード。
PR2:素直に流れる川で、小さな波がある。岩や木などの障害物や浅い所をさけて通るために、ボートを操縦して川を左に右に移動するテクニックが必要。
PR3:30〜60cm程の連続する波がたち、ボートが水浸しになったりひっくり返されたりする程のホール(水の巻き返し)やエディー(渦)がある。岩や障害物や行きたくないホールを避けるために、バックパドル(後ろに漕ぐ)や上流に向かって漕ぐ技術が必要。ボートに荷物をパッキングする技術があった方がよい。(サニーエモーションHP参照)

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岩が出ている箇所も多いが、この狭くテクニカルな日本らしい流れに、コンスタンティンたちも大満足だった。

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川底まで透けて見える、水の透明度。魚影も濃く、鮎が泳ぐ姿を見ながら川を下っていく。

今回は例年よりも渇水らしいが、それによってかえって岩を避けながらパドリングしていく楽しさが増した感じだ。

小回りが効きづらいタンデム艇の2人はかなり苦労するかと思ったが、むしろテクニカルな流れを四苦八苦しながら漕ぐのが楽しくて仕方ないようだ。初めてタンデム艇に乗ったケンジ君も、「楽しすぎますねコレ!」と大きな声で喜んでいた。

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ゴール地点の茂市の河原でキャンプ。左から[バダさん(白)] マウンテン・ローレル・デザイン, クリケット・タープ / MLD, Cricket Tarp。[小川(緑)] エキノックス, グローブスキマータープ Mサイズ / EQUINOX, Globe Skimmer Ultralite Tarps 8×10。[ケンジ君(茶色)] ローカスギア, タープX・デュオ・シル / LOCUS GEAR, Tarp X Duo Sil。


スカウティングこそ初めて漕ぐ川の醍醐味。


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閉伊川のアッパーセクションから、スカウティングをはじめる。平津戸(ひらつと)あたりの上流の景色。

閉伊川のダウンリバーをした前日、実は僕たちは現地でまる1日を、川のスカウティング(下見)に費やしていた。今回の川旅は3日間の予定だったが、そのうち1日はパックラフトを浮かべずに、ひたすら川の状況も見てまわっていたのだ。

なにせ全員にとって初めての川だし、それに僕らの手元には、昔に発行された『日本の川地図101』の古い情報と、詳細に乏しいブログの情報しかなかったのだ。

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古い川地図とGoogleマップを頼りに、次のスカウティング・ポイントを検討する。

閉伊川と並走する国道106号に沿って、上流部から下流部に向けてクルマを走らせる。川では釣り竿を振っている人や、夏休みを満喫する子どもたちが川遊びをする姿をよく見かける。僕たちも早く川にパックラフトを浮かべて遊びたい!とうずうずしてくる。

何度も川沿いにクルマを停めては、漕げるセクションはないかと、近くまで歩いてゆき、川の状況をつぶさに観察する。水位や流量が十分か。舟をプットインできる岸はあるか。回送用のクルマを駐車しておく場所はあるか。堰堤や発電所など、進路を阻むものはないか。核心部といわれる場所は、どれほど難しそうか。こういった漕げる条件が揃った場所を探していく。

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中流域にさしかかった箱石(はこいし)駅付近。2日間あれば、ここから茂市まで下れるだろう。

朝からスカウティングを繰り返しているうちに、気づけば夕方になってしまっていた。しかしその甲斐あって、ここは楽しそうだ、というセクションを見つけることができた。

「今日は漕げなくて残念」というよりも、むしろ自分たちの足で現地をまわって、みんなで遊びを見つけていく感じが、旅の楽しさをたまらなくブーストしてくれた。

<リバーマップ(川地図)>
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[閉伊川の川地図] 今回のセクションは、JR山田線の腹帯駅より上流の三ツ石付近~茂市駅までの約10km。所要約4時間。当日水位: 茂市0.02m。ゴール地点はリバーパークにいさとがあり、ここでキャンプ。日帰り入浴も可能。中流域にキャンプ適地は少ないが、陸中川井駅より約4km下流にキャンプ適地あり。スタート地点より上流のプットイン可能なポイントも、地図に記載(上記▽印)。またこのエリアの回送などの移動として、陸中川井駅付近にある川井交通のタクシーも利用できる。


東北の川をもう1本!巨大な岸壁の景色のなかを流れる小本川へ。


旅の最終日。朝から小雨。帰りの新幹線の時間もあるし、ちょうどよいショート・セクションを探していた。下見をしていた閉伊川の下流域は、流れが緩くて時間も心配だった。それならばと、東北のいろんな川を漕いでみよう!と、隣の小本川(おもとがわ)を目指すことにした。

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東北の川の2本目は小本川。秘境の列車として有名だった岩泉線(現在は廃線)がとおっていたエリア。

朝早くにキャンプ地を出発し、山間部をクルマで北へ1時間ほど走り、閉伊川と平行して流れる小本川へと向かった。この川も閉伊川と同様、三陸の海にそそぐ川だ。

まずは龍泉洞という洞窟でも有名な岩泉小本の周辺で、漕げそうなセクションを探す。上陸しやすい「道の駅いわいずみ」をゴールにして、適当なプットイン・ポイントを見つけてスタートする。

閉伊川とは違って、大きな美しい岸壁がいくつもある川だ。岸辺の緑も、美しく生い茂っている。

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ミズナラやヤナギなど美しい緑が生い茂る川辺の景色。

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石灰岩の大きな岸壁が、連続して現れる。

閉伊川より流れは穏やかで、川の周りの人工物は少なく自然が多い。おおむねPR2くらいの川だ。ここで川下りをする人は少ないのか、途中、鮎釣りの釣り師に、珍しそうな目で見られながら、声をかけられる。「どこまで行くの?」「この先の道の駅までー。」「気をつけてー。」と、ほがらかなやりとりを交わす。閉伊川もそうだったが、こちらの釣り師たちは、川下りの人にやさしく声をかけてくれる。

パドリングの楽しさなら閉伊川だが、自然の景色を楽しむなら小本川の方が楽しいかもしれない。鳥好きのバダさんは、大好きなヤマセミを見つけて、「ヤマセミ見られたから、いい川認定!」とご満悦だった。

<リバーマップ(川地図)>
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[小本川の川地図] 今回のセクションは、鼠入川(そいりがわ)合流地点のやや下流〜道の駅いわいずみまでの約5km。所要約1時間半。当日水位: 赤鹿0.23m。小さな瀬が続き、爽快にパドリングを楽しめる。もう少し長く漕ぐ場合は、岩泉町の町役場近くにプットインポイントあり(上記▽印)。


おまけに宮古の浄土ヶ浜で、シー・パックラフティング。


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三陸海岸の景勝地・浄土ヶ浜。閉伊川河口から2kmほど北にある。

せっかく宮古にそそぐ閉伊川まで来たのに、中流域だけを漕いで、河口の宮古を見ずして帰るのも、もったいない。ということで、途中をスキップして宮古の名勝・浄土ヶ浜へ!

パックラフトは、直進性が弱く、風や大きな波にも弱いので、基本的に海には不向きだ。そのため潮の流れを受けない、セーフティな場所を選ぶ。そして、浄土ヶ浜の岩を目の前に、シー・パックラティング!

閉伊川に小本川に浄土ヶ浜。アディクトらしくパックラフト三昧の東北の旅となった。今回は限られたセクションしか漕げなかったが、閉伊川支流の刈屋川や、北上川支流の胆沢川などの、支流ハンティングも楽しそうだ。また東北の川に来よう。

[MOVIE] 閉伊川

[MOVIE] 小本川

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パックラフト・アディクト | #05 夏の紀伊半島トリップ 北山川・櫛田川


パックラフト・アディクト | #01 四万十でローカルリバー・ハンティング!

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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