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MY TRIP BOOKS | 20人の旅人が選ぶ「旅欲を強烈に刺激した本」 #02

2019.10.11
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旅への強烈な憧れや欲求とは、どのように生まれてくるのか。自分らしい旅のスタイルとは、どのようにカタチ作られていくのか。

その秘密をのぞいてみたくて、TRAILS編集部がいつも刺激を受けている旅人20人にコンタクトをとり、こんな質問を投げかけてみました。

「大自然の中を旅する欲求を、強烈に刺激した本は何ですか?」

気づけばTRAILS編集部には、最前線でハングリーに遊ぶ人たちが刺激を受けた旅の本が、ずらりと並んでいました。この珠玉のブックリストのなかに、その人の旅の本質をかいま見て、僕たちはまた「旅、行きてぇ」とザワつき始めるのです。

これらの本をきっかけに、「MAKE YOUR OWN TRIP = 自分の旅をつくる」を実践する人が増えてくれたら、僕らとしては最高にうれしいです。

第2回目の今回は、松島倫明さん(WIRED)、赤津大介さん(A&F)、増田純子さん(PCTスルーハイカー)、西脇将美さん(MSR)、ジェフ・キッシュさん(PNTA : Pacific Northwest Trail Association)の5名のMY TRIP BOOKSを紹介します。



松島倫明(WIRED)



以前からトレイルラン仲間として共に走ったりしていた松島さん。彼が『WIRED』の編集長に選ばれた時、いまの日本でこれほど適任の人はいないと感じた。そしてリニューアル一発目の表紙の、『ホール・アース・カタログ』を模し、アルゴリズムを駆使したというアートワークに、未来への具体的な一歩を提示する覚悟と決意を感じた。

その松島さんが選んでくれた本から感じるのは、テクノロジーの進化により社会や環境が変化しているなか、「旅」や「身体」に何が求められ、どのように変わっていくのか、という視点だ。

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『BORN TO RUN』 クリストファー・マクドゥーガル
10年前の世界的ベストセラーをここに挙げるのは、「人は走るために生まれた」という本書のテーゼが、現代の日本においていまだに重要なメッセージとなるからだ。メキシコの先住民族タラウマラの人々は、GPSもハイテクシューズも最新のギアも持たずに、なぜ嬉々として荒野のウルトラトレイルに向かうのか? この問いは、人間の根源的な遊び、愉しみ、歓びをぼくらは見失っていないかという問いを、いつも突きつけてくるのだ。(松島)

『レイヴトラベラー』 清野栄一
90年代のセカンド・サマー・オブ・ラブを記述した本書は、旅をすることで世界がつながっていく「あの感じ」をレイヴの勃興期(つまり商業化され、制度化される前の)に紡ぎ出した、日本の著者による貴重な一冊だと思う。WIREDの令和一発目の記事でも触れたけれど、またサマー・オブ・ラブはやってくる。あの自然の中のレイヴパーティで朝日があがってくる瞬間の刹那を求めて、ぼくらは旅しているのだ。(松島)



赤津大介(A&F)



TRAILSとHiker’s Depotが主催する『HAMMOCKS for Hiker』のイベントにも、よく家族を連れて遊びに来てくれる大介さん。明るく快活なオーラに溢れ、周りにいる誰もがそのポジティブな魅力に引き込まれる。

幼い頃から骨太なアウトドアの世界に生きてきた大介さんは、僕らにとってヒーローのような人ともたくさん会ってきた。ここに挙げてくれた星野道夫さんや大竹英洋さんをはじめ、本物の旅人とはどんな人かを直に肌で感じ、本気で嫉妬して本気で同じ旅に憧れたのだ。そして僕らは、そんな本物に囲まれて生きてきた大介さんに嫉妬する。

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『イニュニック』 星野道夫
言葉に匂いと風をノセられるくせに、写真も根性も経験も、かわいい奥様もお子さんもセンスも、全部持っている。けど、ぱっと見ただのおじさんだった星野さん。生前少しお世話になっていましたが、あなたの本で最初に読んだのがこれでした。そりゃモテるよ、と生意気言わせてください。 あなたのようには生きられていませんが、あなたのように生きていきたいと思っています。(赤津)

『そして、僕は旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』 大竹英洋
著者とは同年代で、刺激された人や本が似ているのに、どうして自分はこんな旅をしていないのか。読みながら、嫉妬して、自分の格好悪さと、中途半端さを噛みしめる結果になりながらも、一気に読み上げた印象深い一冊。自分自身を見つめ直す、よいきっかけになったのと同時に、彼の旅に絶対にくっついていくことを近々の目標としています。よろしくね、大竹さん! 梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞作品。(赤津)




増田純子(PCTスルーハイカー)



純子さんが選んでくれた本を見て、僕らはハッとした。憧れやすいワイルドな旅の世界とは、まったく異なる旅の景色があった。ささいな自然ともじっくり向き合い、そこにある生命のストーリーをじっくり感じるような、純子さんの旅の景色が見えた気がした。

僕らはまだ旅を急いでいて、何かを見落としているのかもしれない。そんなことを気づかされる。純子さんは今年も(たぶんちょうど今の時期)、旦那さんと一緒にアメリカのCDT(コンチネンタル・ディバイド・トレイル)をセクションハイキングしている。きっと急ぐことなく、ゆっくりと歩いている。

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『フィンランド・森の精霊と旅をする』 リトヴァ・コヴァライネン
フィンランドで「もっとも美しい本」賞に輝いた本。写真集としては小さいサイズだがフィンランド人の木に対する考え方や歴史が共に綴られていて興味深い。フルカラーの写真ばかりでないのもお気に入り。森を歩きに出かけたくなる一冊。(増田)

『The Laws Field Guide to the Sierra Nevada』 ジョン・ミューア・ローズ
日本に良くある写真の植物図鑑とは違い、手書きの図鑑で植物に留まらず昆虫、鳥、魚、動物から星座まで一冊で盛り沢山に紹介されている。1つ々良く描かれていて見ているだけで楽しい週末のブランチのお供。ちょっと重いのが難点。でも何時かは持ってのんびり歩きたいと野望を抱かずにはいられない良本。(増田)



西脇将美(MSR)



西脇さんと話していると、この人は本当に旅人なんだな、と感じる。いつでもまだ見ぬ面白いものを探し、自分の知っている世界を超えた「非日常の世界」に出会うことを渇望している。

西脇さんは、今回、自分が若い時にした大きな旅のエピソードを踏まえ、本を選んでくれた。それを読むと、常に自分に対して「行け、越えろ!」という叫びをもって旅に出ていた、若い頃の彼の姿が浮かぶ。だからこそ、軽々といろんなものを越境してしまえる今の西脇さんがいるんだ、と納得してしまう。

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『旅へ 新・放浪記〈1〉』 野田知佑
このままこの会社にいたら人生終わると思い、休暇を取ってネパールへ行った。「帰ったらデスクはなくなるぞ」と言われていた。しかし旅先で『旅へ』を読むにつれて、自分の気持ちが強くなっていった。少しでも自分に自信さえあれば、雑音は気にせず「行け、越えろ」というようなメッセージを感じたからだ。また「自分の生き方が絶対成功すると信じろ」とも感じた。その後、旅でボーダーを越えるときは、いつもこの本を思い出していた。自分で決めろ、と。(西脇)

『星の巡礼』 パウロ・コエーリョ
漠然としていて、何のためにこの巡礼の道があるのかもわからない。読めば理解できるだろうと思って読んでみたが難しい。しかし理解はできないが、歩きたいという気持ちが強く、サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指し歩いた。巡礼のあいだ、そして帰国してから、合わせて3回読んだ。巡礼中は本の主人公になった自分と会話し、帰国後は自分なりの意味が生まれて、反省と喜びが湧いてきた。この本に出会えなかったら約900kmの素敵な旅がなかったと思うと感謝しかない。(西脇)



ジェフ・キッシュ(Pacific Northwest Trail Association)



ジェフが教えてくれた『The Pacific Crest Trail』が編集部に届いたとき、僕らはみんな興奮していた。この本には、1970年代にPCTを旅したハイカーの写真が載っている。そのハイカーの写真には、瞬間的にシビれてしまうような、かっこよさがあった。

1970年代にPCTをスルーハイクしようなんて人なんてごく限られていた。今よりもはるかに情報も少なかったはずだ。未知の要素が多いほど、旅は旅らしさを増す。それが、この本からはストレートに伝わってくるのだ。

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『The Pacific Crest Trail』 ウィリアム・R・グレー
この本は、1970年代に著者がPCTをスルーハイクしたときのことについて書いた本です。世界でも最も大変なロングトレイルのひとつであるPCTを歩きながら、彼が過ごした自由な夏のできごとが書かれている、とても素敵な本です。写真にはノスタルジックな雰囲気がただよい、その文章からは、黎明期におけるアメリカのナショナル・トレイルのしくみや、当時のスルーハイキング・カルチャーの様子をうかがい知ることができます。2012年に僕はPCTを歩きました。この本を読んだことが自分のなかで糧となって、ロング・ディスタンス・ハイキングの冒険をする人生へとつながったのです。(ジェフ)

『The Forest People』 コリン・ターンブル
著者のコリン・ターンブルが、ムブティ族(アフリカのコンゴのピグミー部族の総称)のコミュニティで過ごしたときのことを書いた本です。20世紀中頃の人類学の本ですが、その内容はウィルダネスを冒険する人たちに、ヒントを与えてくれるものになっています。自然のなかで生きるムブティ族は、所有できるものが少ないなか、(支配者・権力者のいない)平等主義の社会をつくって生活をしています。ムブティ族は自分たちが住む大地や森とつながりながら生きる自由を通じて、いつも喜びを見つけ、自由な時間を楽しむ機会を見出し、愉快な娯楽をつくり出しているのです。(ジェフ)



TRAILS INNOVATION GARAGE



今回紹介した本は、すべてTRAILS INNOVATION GARAGEに置いてあります。ここにあるのは、TRAILS編集部が厳選した1000冊のライブラリー。

この連載で登場してもらった人たちには、「大自然の中を旅する欲求を、強烈に刺激したお気に入り本」を5冊選んでもらっていて、ここに掲載しきれなかった本も展示中です。

TRAILS INNOVATION GARAGEでは、そのすべてを見たり読んだりすることができます。「MAKE YOUR OWN TRIP」の欲求を刺激しに、ぜひ遊びに来てください。

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次回「#03」では、新たな旅人5人が登場しますので、お楽しみに。

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トレイルズ

トレイルズ

佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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