TOKYO ONSEN HIKING #01 | 三頭山・三頭山荘
今日から、TRAILS編集部crewの根津による、新連載がスタート。
『TOKYO ONSEN HIKING』。その名のとおり、東京近郊の山を、ハイキングして、温泉に入る、というシンプルに気持ちいい旅!
TRAILSは、これまでずっと『ロング・ディスタンス・ハイキング』って言ってきたけど、もちろん『デイ・ハイキング』も大好きなんです。
そもそも、TRAILS編集部crewは、みんな会社員あがり。僕(根津)も一時期フリーランスで活動していたけど、山をはじめた頃はベンチャー企業の会社員。もっぱら週末のデイ・ハイキングがメインでした。
そういうバックグラウンドもあって、いまデイ・ハイキングしたいところに行こう! お気に入りのルートを集めよう! となったというわけ。
第1回目の温泉は、東京都内(本州に限る)唯一の村・檜原村(ひのはらむら)にある『三頭山荘(みとうさんそう)』。
三頭山・東峰からの眺め。大岳山、大怒田山、遠くには都心のビル群も目にすることができる。
ルールは3つ。
① TRAILS編集部(日本橋)からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいULギアを持っていく
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン(スーパー銭湯に非ず)
このルールさえ守れば、あとは自由で何でもあり。あーだーこーだ考えすぎず、僕が歩きたいトレイル、入りたい温泉を最優先で、TOKYO ONSEN HIKINGに行ってきます!
古い登山道から、三頭山へと入っていく。
『三頭山荘』と名がつくからには、三頭山に行かないわけにはいかない。そこで、都民の森をスタートしてぐるっとまわって三頭山荘にゴールする、というループコースをすぐに思いついた。
スタート地点の数馬バス停までは、JR武蔵五日市駅からバスで約1時間(3〜11月は都民の森までのバスも運行)。全行程のコースタイムは4時間48分(山と高原地図より)。バスの本数は少ないので、事前に要確認。
さっそくバスの運行状況を調べると、なんと都民の森行きのバスは毎年11月末までで終了。12〜2月は、数馬バス停から1時間(コースタイム)かけて歩かないといけない。マジか……けっこうショックだった。さすがに1時間も舗装路を歩くのはちょっとなぁ……ルート変えようかな……という考えが頭をよぎった。
でも、よくよく地図を見てみると、都民の森までのルートの大半が舗装路ではなく登山道だった。これはまさにローカルトレイルでは !? がぜん興味がわいてきた。むしろバスの運休に感謝だ。
数馬バス停には、待合所、公衆トイレ、公衆電話がある。これからどんな旅がはじまるのか、期待でいっぱいの根津。
数馬バス停から歩きはじめ、すぐに右に見えてきたのが九頭龍神社(くずりゅうじんじゃ)。龍神様を祀っている檜原村最西端の社で、知る人ぞ知る神社らしい。これから山に入ることもあって、とりあえず僕も拝礼しておいた。
朝陽を浴びて神々しさが増す九頭龍神社。近くにある「九頭龍の滝」はパワースポットとして人気で、著名人も訪れるとのこと。
さらに進み、都道を外れて大平(おおだいら)集落へとつづく細い道を入っていく。しばらくして都道をわたると、ここから山道がはじまる。
地面はあまり踏み固められておらず、明らかにあまり人が歩いていないであろう道だった。都道が近くを走っているにもかかわらず、とてもひっそりとしていて、すでに山の奥地にいるかのよう。
僕は秘密のトレイルを新発見した気分になっていた。この日に会った地元の人に話を聞いたところ、都民の森とそこにつづく都道ができる前は、山へ入る道はこの道しかなかったそうだ。
つまりこの道は三頭山へつづく、いにしえの登山道だったのだ。僕の嗅覚はまちがってなかった。
人の気配がしない道。もし都民の森までバスがとおっていたとしたら、歩くことはなかった。
12月ならではの、落ち葉に埋もれたフカフカのトレイル。
都民の森からは、いよいよ三頭山への登りがはじまる。急登じゃないので体力がない人でも大丈夫! と言いたいとこだけど、登りには変わらないのでイヤだと思う人もいるかもしれない。
でも、この季節のこのトレイルは、落ち葉でふっかふかだし、木漏れ日もたくさん浴びられるし、木々の間から遠くの山々を眺められるし、楽しみがいっぱいだ。そんなことに気を取られているうちに、山頂まで着いてしまうはずだ。
ブナの路と呼ばれる道を歩く。東京でまとまったブナ林が見られるのは、ここ三頭山と日原川流域だけらしい。
一気に行ってはもったいないので、僕は日当たりのいい場所で休憩を取り、行動食のトレイルミックスを食べた。
TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM』。素材はすべてオーガニック。
これは、TRAILS INNOVATION GARAGEオリジナルのトレイルミックスで、自分の好きなナッツやドライフルーツを好きな分量だけ入れてつくる『MYOM(Make Your Own Mix)』。軽量化も栄養価も大事だけど、やっぱり美味しいが一番! そう思いつつ、お気に入りのパイナップルのドライフルーツから口に入れた。
冠雪した富士山を眺めながら、ULギアクッキング。
三頭山には、東峰、中央峰、西峰と山頂が3つある。僕は、いちばん開放感のある西峰でランチを取ることにした。
頂上にはベンチもあるけど、より贅沢で特別な時間を味わうために、ハンモックをセット。
ハンモックは、Hummingbird Hammocks(ハミングバードハンモック)のSingle+(シングルプラス)。パラシュート素材を用いているため軽量で丈夫なのが特徴。重量はたった210gなので気軽に持っていける。
ここで、ルール②にある「試してみたいULギア」を使うわけなんだけど、これは編集長の佐井のアイデア。
実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの佐井の私物。そんな彼に「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」と言われたのだ。
そのコレクションの中から、今回僕が選んだのは、レッドブルの空き缶を用いたアルコールストーブ。
実はこれ、アルコールストーブ・ビルダーとして有名な、JSBさん(山川幸雄)が自作したもの。販売品ではないので商品名はないのだが、あえて名前をつけるなら「内向炎回転噴射燃焼素湯舞」とのこと。さっぱりわからない(苦笑)。
まあとにかく、直径3.5cm、高さ3cmという小ささに加え、重量はたったの7.6gと、超ミニマムなアルコールストーブなのだ。
小さいからといってあなどることなかれ。今回、コーヒーとドライフードに使用する約450mlのお湯を沸かしたのだが、ストレスを感じることなくものの数分で沸騰した。
アルコールストーブは、レッドブルの空き缶で作ったもので重量は7.6g、五徳はT’s Stove(ティーズ・ストーブ)のチタンゴトクで重量は20g、クッカーはFREELIGHT(フリーライト)のTitanium 550 cookpotで、重量は80g。
聞こえるのは、山頂をとおりぬける風の音のみ。こんな時には、やっぱり、音がしないアルコールストーブがぴったりだな、しみじみとそう思った。
ハンモックの浮遊感に浸りながら、真っ正面の景色を自分でも驚くほど飽きることなくずーっと眺めつづけた。ほぼ無心だったんじゃないだろうか。僕の視線の先には、冠雪した富士山があった。
築400年の古民家と、受け継がれてきたお宝と、屋上の露天風呂。
夕日を背中で受けながら、気持ちよく下っていく。眼前には、徐々に大平集落が見えはじめる。
笹尾根から槇寄山(まきよせやま)を経由して、三頭山荘へと下りてきた。佇まいが最高だ。
ついに三頭山荘に到着。この佇まいを見ただけでも、なんだかテンションが上がる。
玄関を入ると、受付のそばには『民俗資料館』の看板。三頭山荘のご主人いわく、もともと農家だったこともあって代々使用していた生活道具を保存してあるとのこと。このあたりで盛んだった養蚕やコンニャクづくりの道具類もあるそうだ。おかみさんは、「まあガラクタばっかりなんですけどね」と笑っていたが、僕はとても興味を抱いた。
まさか温泉旅館に、個人所有かつお手製の民俗資料館があるとは思いもしなかった。
さて、お目当ての温泉だ。内湯と外湯が1つずつ。まず風呂場に入ったとたん、内湯の窓一面に里山の紅葉が広がっていたことに驚いた。
内湯。人工温泉だが、北海道長万部二股ラジウム・カルシウム温泉の湯花を使用し、あせも・荒れ性・冷え症・湿疹・しもやけ・肩こりなどに効果的とのこと。
そして露天風呂は、内湯からつづく階段を登った屋上にある。こちらは内湯にも増して景色が良かった。お湯の温度は、40度くらいだろうか。少しぬるめなので、ずっと入っていられそうだった。
ご主人もおかみさんも、物腰がとても柔らかく親切な方。僕は「次は泊まりに来ますね!」と言って、古民家を後にし、数馬のバス停へと向かった。
築400年の母屋。兜造り(かぶとづくり)と呼ばれる構造で、屋根の中は階層化され、養蚕のための通風や採光を考えたつくりになっている。
『TOKYO ONSEN HIKING』。温泉とハイキングをセットで楽しむこと自体は、別段、目新しくはない。
でも、ロング・ディスタンス・ハイキングをやり続けてきた僕が、いまやりたいデイ・ハイキングを体現したつもりだ。
第1回目は、期待以上だった。これまで三頭山には何度も足を運んだことがあったが、過去最高に楽しかった。
この連載は、個人的に「また行きたい」と思えるかどうかがポイントだと思っている。行って終わり、ではなく、それが旅のはじまりになる。そんな連載にしていきたい。
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